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昔話2 弘の話

ποτνια θηρων 13

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「はい? いや、確かに理屈上そうですけど」

母屋おもやの座敷で、うまくいったむねを知らせるやいなや、いつきさんにおがみ倒され、そして告げられた内容に、僕は大いに困惑していた。

いわく、僕の理論が正しいとするなら、ひろ唐国からくにの家の中にいるより、僕やロビンといた方が安定するのではないか、と。
つまるところは、ひろの安全性を考慮して、弟子にしてくれないかという打診である。

ひろちゃんの意見も聞かないと……あの子、根は気が強い方ですよね?」
「む、それはそうだが……たぶん本人もいなとは言わん、と思う」

あ、これは下手にツウカアに見せかけて、すれ違いが起こるパターンでは。所謂いわゆるディスコミュニケーション。

「ちゃんと、いつきさんから話してあげてください。まあ、年頃の娘のあつかい方に手をこまねいている、というのもわからなくはないですけど」
「……まあ、なんだ。それだけというわけでもない」

少し言いにくそうにしながら、いつきさんは続ける。

「聞いたかもしれんが、少なくとも、あの子は中学を変えた方がいい。だが、それをあの子は簡単には良しとせん」
「確かに、僕の弟子とするなら転校は必須ですから、納得に足る理由ではあるでしょうねえ」

とはいえ、現在僕はロビンと二人の男所帯である。
そこに女の子が入るとなると、ちょっと、こう、僕は別に大丈夫だし、ロビンも紳士的に振る舞う子だし、こちらとしてはたぶん大丈夫だと言えるのだけど、倫理的には非常にヤバい寄りである。
あせって語彙ごいが蒸発するぐらいには。

「ただ、うち、ロビンと二人ですけど。まあ、片付ければ丸々一部屋確保はできるんで、最低限のプライバシーはなんとか……」
「そこは……いろいろと考慮して血涙を呑むことにした」

涙を呑むのレベル超えて血涙になってる。
同時に、おそらく、僕を呼んだ時点でうまくいったらこうしようと考えていたのだと思い至る。

「はあ……まあ、わかりますが、僕からの条件はちゃんとひろちゃんと話すこと、ひろちゃんの意思を確認することです」
「ぐ……りつがいれば、まだマシだったのだが」

そこで長男の名前が出てくるか。
どうやら兄妹仲は良いらしい。

「そのりつくんは?」
「ちょっとまあ、いざこざがあってな。本音としてはんでやりたかったが、建前上として離れた寺に謹慎中だ」
「……ひろちゃんの首の?」

そう言うと、いつきさんの顔が普通の柿と間違えて、渋柿を食べたみたいな顔になる。

「……いつでも頼れと言った派閥はばつの連中に、頼んだ私が馬鹿だった。少し考えれば、思い至ったはずなのだが」
めはしませんよ。出来る限り取れる手段を取ったのでしょう。保守的なアナタが最終的に僕に声をかけるぐらい。近い方の手段から選ぶのは普通ですよ……しかし建前とはいえ、謹慎までいきましたか」

そう言うといつきさんは少し目をそらした。

「まあ、ご老体の腕の骨をぽっきりやったからな」
「……あー、それで警察沙汰にせずに、痛み分けという形に」

互いに丸く収めるのに必死だったんだろうなあ、という気はする。
そりゃ、根は気が強くて、たぶん負けん気も強いだろうひろが少しやさぐれるのもわからなくはないし、ひろのそういう性格に影響を与えたのだろうことを考えると、たぶんりつくんもなかなかにしたたかな性格だろう。

「まあ、本人が良いと言うなら、というのも、僕のところは針のむしろみたいなもんですから。いつきさんだって、本音はそんなとこに飛び込ませたくはないでしょ」
「……だが、葛城かつらぎ殿、貴方あなただろう。いや、紀美きみ殿、と言った方が良いか?」

いつきさんが、姓ではなく名で呼び直した意味をむ。
家、血筋ではなく、僕個人がだと、いつきさんは言っている。

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