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4-2 うろを満たすは side B
12 吹き放つという所作
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「じゃあ、その後、どう見る?」
「……ええっと、先にコップの塩水をかけてから、口のをかけるんですよね。ええと、浄化と同時に、上書き、みたいな、感じです?」
確信がないせいか、ふわふわと抽象的な答えが織歌の口から出た。
予想通り、紀美がにこにことしながら、弘の方に視線を向けてくる。
「織歌、織歌の言いたい流れとしては、塩水本体の持っている浄化の効能と、この時点で実行者がその一部を口に含んでいる事によって付与されうる実行者側という帰属性で、まず浄化を中心に行って、実行者が口に含んだ塩水でぬいぐるみの帰属を実行者側に変えるイメージで合ってます?」
「ええっと、そう、ですね、そうです」
「で、そこで勝ちの宣言を行って、全てを実行者の支配下に戻すってイメージですかね」
「……そう、なりますね」
そこまで余り考えていなかったらしい織歌は、シシトウの辛いのを食べた時みたいな表情で言う。
確認だけなのだが、こういう時にずばずば切り込むせいか、相手を委縮させがちなのは悪い癖である、と弘は自覚はしている。
「まあ、単なる確認なんで。わたしとしては既に口に含むことによって塩水が実行者側に帰属する時点で、単純にコップの水をかけるだけで浄化と上書きは同時実行される、と考えます」
「そうなると、口の中の塩水はどう考えるの、弘?」
紀美が面白そうに目を細める。
緑のチラつく目が少しわくわくしてる気配をしっかりと伝えて来る。
これだからこの師匠は、と弘は思うし、隣のロビンもいつものことながら呆れている。
「そもそもとして、手順ではぬいぐるみにかけるとしか言われてませんが、本来的に口の中の塩水は吹きかけることを想定されている、と考えています。そうすればさらに浄化に繋がる要素を加えることにもなりますし。なので、こう、吐き出すだけじゃ駄目なんだと思います」
「吹きかける……?」
織歌が首を傾げ、弘の想定を分かっている紀美はによによとしている。
ロビンはどうやらわからない側のようだが、じっと説明を待っている、といったところか。
「息を吹きかけること自体が、多く呪いにおいて一種の祓いとして機能します。火傷、怪我、病気といったことに関しての呪いにおける手順の一部としてよく見られますが、宿った悪しきものを吹き飛ばすための動作ですね。気吹戸に坐す気吹戸主と云神、根国底之国に気吹放てむ、と言った方が織歌はピンときますか?」
織歌がほわあ、と感心してるのか驚嘆してるのかよくわからない声を上げる。
「……そっか、塩水からの連携だから大祓詞に沿うなら説得力が増すんだね」
ぼそり、とロビンがそう言った。
「大祓詞の気吹戸主の前段は海に飲まれるということだから、そうなるね。で、弘の想定としては、息と共に塩水を吹きかけることでぬいぐるみの霊を祓う、ということか」
「そうです。先生としても納得はできる内容でしょう?」
にこにこと機嫌良さげに弘の言葉を受け取った紀美はうん、と一つ頷いた。
まあ、この人の場合、悲しそうな事はあっても、怒る方向で機嫌が悪いということは早々ないのだけど。
「一応筋は通ったね。こじつけと言われればそこまでになっちゃうけど、でも正解自体がなくて筋が通ってる以上、肯定も否定もできない落としどころだ」
紀美からほぼ満点という意味のお墨付きが出たので、弘はテーブルの下でぐっと見えないように拳を握った。
ちらりと隣のロビンが見てきた気はするけど気にしない。
「……ええっと、先にコップの塩水をかけてから、口のをかけるんですよね。ええと、浄化と同時に、上書き、みたいな、感じです?」
確信がないせいか、ふわふわと抽象的な答えが織歌の口から出た。
予想通り、紀美がにこにことしながら、弘の方に視線を向けてくる。
「織歌、織歌の言いたい流れとしては、塩水本体の持っている浄化の効能と、この時点で実行者がその一部を口に含んでいる事によって付与されうる実行者側という帰属性で、まず浄化を中心に行って、実行者が口に含んだ塩水でぬいぐるみの帰属を実行者側に変えるイメージで合ってます?」
「ええっと、そう、ですね、そうです」
「で、そこで勝ちの宣言を行って、全てを実行者の支配下に戻すってイメージですかね」
「……そう、なりますね」
そこまで余り考えていなかったらしい織歌は、シシトウの辛いのを食べた時みたいな表情で言う。
確認だけなのだが、こういう時にずばずば切り込むせいか、相手を委縮させがちなのは悪い癖である、と弘は自覚はしている。
「まあ、単なる確認なんで。わたしとしては既に口に含むことによって塩水が実行者側に帰属する時点で、単純にコップの水をかけるだけで浄化と上書きは同時実行される、と考えます」
「そうなると、口の中の塩水はどう考えるの、弘?」
紀美が面白そうに目を細める。
緑のチラつく目が少しわくわくしてる気配をしっかりと伝えて来る。
これだからこの師匠は、と弘は思うし、隣のロビンもいつものことながら呆れている。
「そもそもとして、手順ではぬいぐるみにかけるとしか言われてませんが、本来的に口の中の塩水は吹きかけることを想定されている、と考えています。そうすればさらに浄化に繋がる要素を加えることにもなりますし。なので、こう、吐き出すだけじゃ駄目なんだと思います」
「吹きかける……?」
織歌が首を傾げ、弘の想定を分かっている紀美はによによとしている。
ロビンはどうやらわからない側のようだが、じっと説明を待っている、といったところか。
「息を吹きかけること自体が、多く呪いにおいて一種の祓いとして機能します。火傷、怪我、病気といったことに関しての呪いにおける手順の一部としてよく見られますが、宿った悪しきものを吹き飛ばすための動作ですね。気吹戸に坐す気吹戸主と云神、根国底之国に気吹放てむ、と言った方が織歌はピンときますか?」
織歌がほわあ、と感心してるのか驚嘆してるのかよくわからない声を上げる。
「……そっか、塩水からの連携だから大祓詞に沿うなら説得力が増すんだね」
ぼそり、とロビンがそう言った。
「大祓詞の気吹戸主の前段は海に飲まれるということだから、そうなるね。で、弘の想定としては、息と共に塩水を吹きかけることでぬいぐるみの霊を祓う、ということか」
「そうです。先生としても納得はできる内容でしょう?」
にこにこと機嫌良さげに弘の言葉を受け取った紀美はうん、と一つ頷いた。
まあ、この人の場合、悲しそうな事はあっても、怒る方向で機嫌が悪いということは早々ないのだけど。
「一応筋は通ったね。こじつけと言われればそこまでになっちゃうけど、でも正解自体がなくて筋が通ってる以上、肯定も否定もできない落としどころだ」
紀美からほぼ満点という意味のお墨付きが出たので、弘はテーブルの下でぐっと見えないように拳を握った。
ちらりと隣のロビンが見てきた気はするけど気にしない。
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