上 下
148 / 266
4-2 うろを満たすは side B

12 吹き放つという所作

しおりを挟む
「じゃあ、その後、どう見る?」
「……ええっと、先にコップの塩水をかけてから、口のをかけるんですよね。ええと、浄化と同時に、上書うわがき、みたいな、感じです?」

確信がないせいか、ふわふわと抽象的な答えが織歌おりかの口から出た。
予想通り、紀美きみがにこにことしながら、ひろの方に視線を向けてくる。

織歌おりか織歌おりかの言いたい流れとしては、塩水本体の持っている浄化の効能と、この時点で実行者がその一部を口にふくんでいる事によって付与されうるという帰属性で、まず浄化を中心に行って、実行者が口に含んだ塩水でぬいぐるみの帰属をに変えるイメージで合ってます?」
「ええっと、そう、ですね、そうです」
「で、そこで勝ちの宣言をおこなって、全てを実行者の支配下に戻すってイメージですかね」
「……そう、なりますね」

そこまで余り考えていなかったらしい織歌おりかは、シシトウの辛いのを食べた時みたいな表情で言う。
確認だけなのだが、こういう時にずばずば切り込むせいか、相手を委縮いしゅくさせがちなのは悪い癖である、とひろは自覚はしている。

「まあ、単なる確認なんで。わたしとしてはすでに口にふくむことによって塩水が実行者側に帰属する時点で、単純にコップの水をかけるだけで浄化と上書きは同時実行される、と考えます」
「そうなると、口の中の塩水はどう考えるの、ひろ?」

紀美きみ面白おもしろそうに目を細める。
緑のチラつく目が少しわくわくしてる気配をしっかりと伝えて来る。
これだからこの師匠は、とひろは思うし、隣のロビンもいつものことながらあきれている。

「そもそもとして、手順ではぬいぐるみにかけるとしか言われてませんが、本来的に口の中の塩水はことを想定されている、と考えています。そうすればさらにを加えることにもなりますし。なので、こう、吐き出すだけじゃ駄目なんだと思います」
「吹きかける……?」

織歌おりかが首をかしげ、ひろの想定を分かっている紀美きみはによによとしている。
ロビンはどうやらわからない側のようだが、じっと説明を待っている、といったところか。

「息を吹きかけること自体が、多くまじないにおいて一種のはらいとして機能します。火傷やけど怪我けが、病気といったことに関してのまじないにおける手順の一部としてよく見られますが、宿った悪しきものを吹き飛ばすための動作ですね。気吹戸いぶきど気吹戸主いぶきどぬしいう神、根国ねのくに底之国そこのくに気吹いぶきはなてむ、と言った方が織歌おりかはピンときますか?」

織歌おりかがほわあ、と感心してるのか驚嘆してるのかよくわからない声を上げる。

「……そっか、塩水からの連携だから大祓詞おおはらえのことば沿うなら説得力が増すんだね」

ぼそり、とロビンがそう言った。

大祓詞おおはらえのことば気吹戸主いぶきどぬしの前段は海に飲まれるということだから、そうなるね。で、ひろの想定としては、息と共に塩水を吹きかけることでぬいぐるみの霊をはらう、ということか」
「そうです。先生としても納得はできる内容でしょう?」

にこにこと機嫌きげん良さげにひろの言葉を受け取った紀美きみはうん、と一つうなずいた。
まあ、この人の場合、悲しそうな事はあっても、怒る方向で機嫌きげんが悪いということは早々ないのだけど。

「一応筋は通ったね。こじつけと言われればそこまでになっちゃうけど、でも正解自体がなくて筋が通ってる以上、落としどころだ」

紀美きみからほぼ満点という意味のお墨付きが出たので、ひろはテーブルの下でぐっと見えないようにこぶしにぎった。
ちらりと隣のロビンが見てきた気はするけど気にしない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さぁ、怪談を始めよう。

創作屋 鬼聴
ホラー
ショートショートの怪談徒然草です。 ちょっとした怪異からガチまで広く。 たまに実体験や心霊スポットでの 怪異体験なども含みます。 いつも私が書くのは恋愛怪異奇譚ですが、 これはガチ怪談です。

まさかwebで ミステリー大賞に リベンジする日が来るなんて!

のーまじん
ホラー
1917 色々と考える2023年の秋 私はもう一度、トミノの地獄の謎に迫ることに !この物語にはフィクションの雑誌のとミステリー作家が登場します。

白蛇の化女【完全版】

香竹薬孝
ホラー
 舞台は大正~昭和初期の山村。  名家の長男に生まれた勝太郎は、家の者達からまるでいないもののように扱われる姉、刀子の存在を不思議に思いつつも友人達と共に穏やかな幼少期を過ごしていた。  しかし、とある出来事をきっかけに姉の姿を憑りつかれたように追うようになり、遂に忌まわしい一線を越えてしまいそうになる。以来姉を恐怖するようになった勝太郎は、やがて目に見えぬおぞましい妄執の怪物に責め苛まれることに――  というようなつもりで書いた話です。 (モチーフ : 宮城県・化女沼伝説) ※カクヨム様にて掲載させて頂いたものと同じ内容です   

10秒でゾクッとするホラーショート・ショート

奏音 美都
ホラー
10秒でサクッと読めるホラーのショート・ショートです。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

みえる彼らと浄化係

橘しづき
ホラー
 井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。  そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。  驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。 そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?

処理中です...