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4-2 うろを満たすは side B
11 終了における作法について
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「で、織歌、ひとりかくれんぼのここまでの流れの意味合いは分かりましたね?」
「はい」
「じゃあ、その後は?」
そう問えば、織歌はぐっと拳を握って口を開く。
「まず、かくれんぼに擬えるので、鬼ではないものを見つけて、鬼役を移行させるのは妥当です。鬼役を移行する際の宣言は自身が鬼になる時と同じ、自他の切り分け。刃物で突き刺すのは、この時点のぬいぐるみは、ただ呪術的に実行者への感染性を持つ独立した人形でしかないからで、心霊現象を発生させるトリガー、つまり、自身に感染する呪物とするための呪いのトリガーとして刺傷を用いている、と考えられます」
「……文句の付けようがやっぱりないですね」
自信ありげに拳を握っただけの事はある。
カップを手元に戻して、玄米茶を一口啜る。
「織歌の言う通り、擬え元がかくれんぼなので、鬼を移行させた後に隠れるのも妥当です。では、塩水を口に含む意味は?」
「少なくとも、一つは確実に声を出さないため、だとは思います。物音だけではその人が隠れているかは判別できませんが、宣言にも声を使っている以上、ぬいぐるみは実行者の声を知っています」
「気付かれないように沈黙する。妥当な範囲だろうね。でも、ヒロはそれだけじゃないと思ってるんでしょ」
織歌の考えを評価したロビンが弘にそう聞いた。
「まあ、そうですね。主に終了手順からの考えですが……とりあえず、そもそもとして塩水である意味はわかりますね?」
「塩と水の浄化作用を期待しているんですよね。最終的に燃える方法で処分するように言われてるので、火による浄化も……浄化作用のオンパレードって感じですね」
織歌の言う通り、これでもか、とぬいぐるみを浄化する手順だ。
そんなんするなら、やらなきゃいいのに、と常々弘は思う。
「塩水による浄化は、まずコップの水、それから実行者が口に含んだ水の順番でかけるよう指定があります。物量作戦で弱ったところにトドメっていうイメージはありますね」
ロビンがなんとも言えない視線でこちらを見ているのがわかる。
「さっきのカップの例と同じく、コップはただの入れ物です。意味があるのは塩水だけ。しかし、実行者が口に含んだ塩水はこれと比較すると、口に含む、実行者の口である、口から出してかける、この三点に意味があって然るべきとなります」
「差異の検討は差別化の検証、ひいては理由の考察の糸口だからね、うんうん」
紀美がご満悦といった様子でにこにこと頷いてから、で、と口を開く。
「まず、織歌、キミはさっきの内容以外でなら、実行者が口に含む理由をどう考える?」
「……そうですね、実行者が口に含むのは、コップ一杯の塩水の一部、です。感染性という考えから言えば、コップ一杯の塩水すべてが実行者に帰属するとみなす、と考えられるのではないでしょうか」
「弘は?」
「概ね同意ですが、実行者個人よりも、鬼でない側に帰属すると考えます。異界と人界における人界側という認識です」
難しく言わなければ、織歌と弘自身の考え方の違いは、より大局で見てみた、というところだろうか。
織歌は個人に、弘自身は個人に紐づくカテゴリに塩水が帰属すると考えているので。
「とりあえず、二人とも塩水が実行者のものであるためと示すために口に含むと考えられる、ということだね。確かに、それなら実行者の口であるべきだ」
「他にも考えようと思えば、鬼と会話した口を浄化というのも考えられるけど、口に含んだ塩水をかけることと、その後の勝ちの宣言があるから妥当とは言えないよね」
頷く紀美の向かいで、ロビンがあえて、あり得ない可能性に触れる。
まあ、紀美が気紛れで確認しそうな点を先に潰してくれたと思えば、ありがたい。
「はい」
「じゃあ、その後は?」
そう問えば、織歌はぐっと拳を握って口を開く。
「まず、かくれんぼに擬えるので、鬼ではないものを見つけて、鬼役を移行させるのは妥当です。鬼役を移行する際の宣言は自身が鬼になる時と同じ、自他の切り分け。刃物で突き刺すのは、この時点のぬいぐるみは、ただ呪術的に実行者への感染性を持つ独立した人形でしかないからで、心霊現象を発生させるトリガー、つまり、自身に感染する呪物とするための呪いのトリガーとして刺傷を用いている、と考えられます」
「……文句の付けようがやっぱりないですね」
自信ありげに拳を握っただけの事はある。
カップを手元に戻して、玄米茶を一口啜る。
「織歌の言う通り、擬え元がかくれんぼなので、鬼を移行させた後に隠れるのも妥当です。では、塩水を口に含む意味は?」
「少なくとも、一つは確実に声を出さないため、だとは思います。物音だけではその人が隠れているかは判別できませんが、宣言にも声を使っている以上、ぬいぐるみは実行者の声を知っています」
「気付かれないように沈黙する。妥当な範囲だろうね。でも、ヒロはそれだけじゃないと思ってるんでしょ」
織歌の考えを評価したロビンが弘にそう聞いた。
「まあ、そうですね。主に終了手順からの考えですが……とりあえず、そもそもとして塩水である意味はわかりますね?」
「塩と水の浄化作用を期待しているんですよね。最終的に燃える方法で処分するように言われてるので、火による浄化も……浄化作用のオンパレードって感じですね」
織歌の言う通り、これでもか、とぬいぐるみを浄化する手順だ。
そんなんするなら、やらなきゃいいのに、と常々弘は思う。
「塩水による浄化は、まずコップの水、それから実行者が口に含んだ水の順番でかけるよう指定があります。物量作戦で弱ったところにトドメっていうイメージはありますね」
ロビンがなんとも言えない視線でこちらを見ているのがわかる。
「さっきのカップの例と同じく、コップはただの入れ物です。意味があるのは塩水だけ。しかし、実行者が口に含んだ塩水はこれと比較すると、口に含む、実行者の口である、口から出してかける、この三点に意味があって然るべきとなります」
「差異の検討は差別化の検証、ひいては理由の考察の糸口だからね、うんうん」
紀美がご満悦といった様子でにこにこと頷いてから、で、と口を開く。
「まず、織歌、キミはさっきの内容以外でなら、実行者が口に含む理由をどう考える?」
「……そうですね、実行者が口に含むのは、コップ一杯の塩水の一部、です。感染性という考えから言えば、コップ一杯の塩水すべてが実行者に帰属するとみなす、と考えられるのではないでしょうか」
「弘は?」
「概ね同意ですが、実行者個人よりも、鬼でない側に帰属すると考えます。異界と人界における人界側という認識です」
難しく言わなければ、織歌と弘自身の考え方の違いは、より大局で見てみた、というところだろうか。
織歌は個人に、弘自身は個人に紐づくカテゴリに塩水が帰属すると考えているので。
「とりあえず、二人とも塩水が実行者のものであるためと示すために口に含むと考えられる、ということだね。確かに、それなら実行者の口であるべきだ」
「他にも考えようと思えば、鬼と会話した口を浄化というのも考えられるけど、口に含んだ塩水をかけることと、その後の勝ちの宣言があるから妥当とは言えないよね」
頷く紀美の向かいで、ロビンがあえて、あり得ない可能性に触れる。
まあ、紀美が気紛れで確認しそうな点を先に潰してくれたと思えば、ありがたい。
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