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4-2 うろを満たすは side B
10 おにのすまうは
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「何もない、つまり空が来る……何に置き換えればわかりやすいですかね」
弘が呟くと、ロビンが自分のカップの中身をぐい、と飲み干して空にすると、テーブルの中央に置いた。
「オリカ、これは?」
「……空のカップ、ですよね?」
「ヒロ」
よく意図がわからないながら、なんとなく求められたところはわかるので、弘はまだたっぷりと玄米茶の入った自分のカップをロビンのカップの横に置いた。
「オリカ、こっちは?」
「え、玄米茶……?」
「そう。一般的には飲み物の入ったカップはその中身で呼ばれる」
――チャンネルも同じ。
そうロビンは付け加えて、そこで弘も意図を把握した。
「確かに、そうですね。局名で呼ばれることもありますが、チャンネルを変える時、その伝達経路から得られる情報、つまり番組を期待しますから」
「……そうなると、砂嵐は何ものでもない空……ということになります?」
ここまで来ると、弘としては先程依頼人に説明した事の繰り返しになるようなものだ。
「そ、ロビンのカップは今何も入ってないから、紅茶を入れてもいいし、水を入れてもいいし、麦茶を入れてもいい。なんなら墨汁を入れたっていい」
紀美のたとえに、ロビンがきゅっと眉根にしわを寄せた。
弘も墨汁はないわ、と思う。
「電波なんて目に見えない。それなら、そんなものの空には、何が入ったっておかしくはない。まして、テレビの電源がついているということは伝達経路が何かを受けようとしているのだから」
「んー、真空の作用、とたとえてもいいのかもしれませんね」
織歌が混乱してる様子もないので、弘はたとえを重ねる。
あー、と納得したようにロビンが言う。
「確かに、真空はアリ」
「真空の定義は、気圧の低い気体で満たされた空間。ですが、気圧が低いということは、その気体の密度は低い、間がスカスカということです。だから、真空とそれより気圧の高い空間が交わった時、密度の高い側から密度の低い方へなだれ込む……まあ、気象学の初歩の初歩、気圧の高い方から低い方に風が吹いたり、中心気圧が低い台風ほどヤバいのと同じです」
ほうほう、と織歌があまりに頷きながら聞くものだから、実際としてはそんなに大した事を言ってるつもりはないので、ごく一般的な例を付け足す。
そこまで感心されるほどの事ではないので、なんとなく面映い。
「なるほど、砂嵐はつまり枠としては空を受信してる状態だから、本来受信すべきでない入り込んだ何かが受信されててもおかしくない、ということですね」
そして、程なくして織歌が弾き出したのは、ほぼ満点の回答だった。
「そう、ひとりかくれんぼの場合は砂嵐で、目に見えないものを招いて、ぬいぐるみに誘導すると考えられる」
自身のカップの縁を指で擦りつつ、紀美がスイッチの入った顔つきで呟いた。
「最初に自身が鬼であるのも、誘導する何かにとって実行者を同類である、と定義するとも考えられるね」
「そんなハロウィンの仮装の原義みたいな……」
ロビンが半分諦めの乗った声で紀美にツッコむ。
「案外、ぬいぐるみが胎児の類似であるのは、一番弱くて空に近い人型であるとすれば、間違いでもないのかもしれないねえ……」
うんうん、と一人納得するモードに入った紀美を横目に、弘は話を戻すことを決めた。
弘が呟くと、ロビンが自分のカップの中身をぐい、と飲み干して空にすると、テーブルの中央に置いた。
「オリカ、これは?」
「……空のカップ、ですよね?」
「ヒロ」
よく意図がわからないながら、なんとなく求められたところはわかるので、弘はまだたっぷりと玄米茶の入った自分のカップをロビンのカップの横に置いた。
「オリカ、こっちは?」
「え、玄米茶……?」
「そう。一般的には飲み物の入ったカップはその中身で呼ばれる」
――チャンネルも同じ。
そうロビンは付け加えて、そこで弘も意図を把握した。
「確かに、そうですね。局名で呼ばれることもありますが、チャンネルを変える時、その伝達経路から得られる情報、つまり番組を期待しますから」
「……そうなると、砂嵐は何ものでもない空……ということになります?」
ここまで来ると、弘としては先程依頼人に説明した事の繰り返しになるようなものだ。
「そ、ロビンのカップは今何も入ってないから、紅茶を入れてもいいし、水を入れてもいいし、麦茶を入れてもいい。なんなら墨汁を入れたっていい」
紀美のたとえに、ロビンがきゅっと眉根にしわを寄せた。
弘も墨汁はないわ、と思う。
「電波なんて目に見えない。それなら、そんなものの空には、何が入ったっておかしくはない。まして、テレビの電源がついているということは伝達経路が何かを受けようとしているのだから」
「んー、真空の作用、とたとえてもいいのかもしれませんね」
織歌が混乱してる様子もないので、弘はたとえを重ねる。
あー、と納得したようにロビンが言う。
「確かに、真空はアリ」
「真空の定義は、気圧の低い気体で満たされた空間。ですが、気圧が低いということは、その気体の密度は低い、間がスカスカということです。だから、真空とそれより気圧の高い空間が交わった時、密度の高い側から密度の低い方へなだれ込む……まあ、気象学の初歩の初歩、気圧の高い方から低い方に風が吹いたり、中心気圧が低い台風ほどヤバいのと同じです」
ほうほう、と織歌があまりに頷きながら聞くものだから、実際としてはそんなに大した事を言ってるつもりはないので、ごく一般的な例を付け足す。
そこまで感心されるほどの事ではないので、なんとなく面映い。
「なるほど、砂嵐はつまり枠としては空を受信してる状態だから、本来受信すべきでない入り込んだ何かが受信されててもおかしくない、ということですね」
そして、程なくして織歌が弾き出したのは、ほぼ満点の回答だった。
「そう、ひとりかくれんぼの場合は砂嵐で、目に見えないものを招いて、ぬいぐるみに誘導すると考えられる」
自身のカップの縁を指で擦りつつ、紀美がスイッチの入った顔つきで呟いた。
「最初に自身が鬼であるのも、誘導する何かにとって実行者を同類である、と定義するとも考えられるね」
「そんなハロウィンの仮装の原義みたいな……」
ロビンが半分諦めの乗った声で紀美にツッコむ。
「案外、ぬいぐるみが胎児の類似であるのは、一番弱くて空に近い人型であるとすれば、間違いでもないのかもしれないねえ……」
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