怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

文字の大きさ
上 下
145 / 266
4-2 うろを満たすは side B

9 砂嵐の表すところ

しおりを挟む
「かくれんぼになぞらえる以上、目をつぶって十数えるのも妥当です。となると、やはり、テレビが異質ですよね、これは……」

何より一連の儀式の段取りの中では、一番の文明の利器の使用である。

「まあ、ただのテレビじゃなくて砂嵐という、今じゃあ絶滅危惧種の画面が必要ですけど」
「……あー、ネットの記録archives見てると、ラジオや鏡で代用した人もいるみたいだね」
「鏡? なかなか面白い発想だなあ」

いつの間にか取り出したスマホを見ながらロビンが補足し、紀美きみが興味深そうに言う。

「ええ……テレビ、ラジオはまだしも、鏡ですか……鏡については、投げますね?」
「おっけー、とりあえず説明してごらん」

こういう時ほど、紀美きみゆるい人で良かったと心底思う。

織歌おりか、テレビの砂嵐って、どういう状況下で発生すると思いますか?」
「えっと、そのチャンネルが放送されてなかったり、アンテナが安定してなかったり?」
「ちなみに、チャンネルの語源は知ってます?」

えっ、と短い声を発したきり、織歌おりかは視線を彷徨さまよわせて、脳内の知識の棚をひっくり返しているようだ。
完全に想定外の質問が来た、というリアクションがなかなか新鮮である、というのは紀美きみやロビンも変わらないようで、まじまじと織歌おりかに視線をそそいでいる。
そうして三者三様に物珍しげに織歌おりかの様子を観察した後、ロビンが口を開いた。

運河canalと同じだし、チャネリングchannelingもそうだよ」
「え、チャネリングはまだなんとなくわかりますけど、運河ってどういうことですか」

混乱した様子の織歌おりかを見て、思わずくすりと笑うと、織歌おりかは不満そうに口をとがらせる。

「意地悪しないでくださいー」
「さっきまでビックリさせられてたこっちとしては、これがフツーだと思うんだけど? ねえ、センセイ」

ロビンがさらりと言った言葉に、紀美きみすら苦笑している。
内心ほっとしながら、ひろは口を開いた。

「チャンネル、チャネリング、そして運河を意味するcanal、これらは語源としては同じであって、その根幹はということになります」
「伝達経路……電波の伝達経路を切り替えるのがチャンネルを変える、ということです?」
「相変わらず、そこははやいですね……じゃあ、そこから考えると砂嵐は?」

織歌おりかは手元のカップの中に視線を落として少し考えると、すぐに顔を上げた。

「伝達経路のこちら側出口を確保はしてるけれど、何も来てない状態……?」
「ふむ、及第点は確実ですかね、先生?」

唐突に話を振られた紀美《きみ》は、驚いたりするわけでもなく、ただ肯定するようににっこりと笑って、ひろの説明の続きを引き取る。

「ほぼほぼ、あってるよ。ただ、少しだけ、視点の転換が必要だ。んじゃない」

こういう時、紀美きみの目には、ほんの少し緑の色が入る。
それが美しいと思う反面、ひろの心の片隅かたすみで何かが畏縮いしゅくする。
そりゃあ、ひろ自身としては生殺与奪せいさつよだつを握られているようなものだし、と自嘲じちょう気味に思ったりもする。

んだよ」
……?」

よくわからない、と言うように織歌おりかは上体までかしぐほど、大きく首をかしげる。
わかる。気持ちはわかる。理屈を知ってるからわかるひろとしても、これはわかりにくい。でも説明もしにくい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ツルバミ奇譚

織部浩子
ホラー
現代より少し昔。 ある屋敷に泊まり込んでいる主人公は、屋敷とその周辺で起きる様々な怪異に遭遇する。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

不動の焔

桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。 「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。 しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。 今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。 過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。 高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。 千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。   本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない ──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

【語るな会の記録】鎖女の話をするな

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会 通称、語るな会 「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。 美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話―― 語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか? 語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか? そして語るな会が開催された目的とは……? 表紙イラスト……シルエットメーカーさま

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

処理中です...