怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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3-2 肝試しと大掃除 side B

7 正常とは直ぐである

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「まあ、禍々まがまがしい、つまり曲がったものはけがれであり、異常であるからってことになりますもんねえ……」

かり、とひろあめに歯を立てる音がする。

「と考えると、なおさんは自己修復能力が高……高いのかなあ?」
ひろちゃん、自分が行き着いた結論なんだから、そんなに怪しいなあって目でオジサンを見ないで。自信持って」
「面白いですよね、けがれは直すものであると同時に、はらうものでもあるとするなら」

――何が違うんでしょうか。
そう、織歌おりかが言うと、ルームミラーしにあきれたようなひろと目が合った。

「いや、ほんと、織歌おりかの吸収率なんなんでしょうね……」
「うん、オジサンも今ちょっと、昔の紀美きみくんと話してるのかなってちょっとゾッとしたわ……」

織歌おりかとしてはそんなつもりは一切なかったのだが。

「でも、でも、ひろちゃんも不思議に思いません?」
「んん、まあ、それはそうですけど」
「やっぱり、紀美きみくんに似てるわ~……」

直人なおとはそう言いながら、黄色の信号を前に減速させて止める。

なおさん、織歌おりかのこれは天然です」
「あー……なるほど、織歌おりかちゃん、そもそも紀美きみくんと波長が似てるってことかあ」

そっかあ、と直人なおとは何とも言いがたい表情でつぶやいた。

織歌おりかは予想とかあるんです?」
「うーん、さっきのひろちゃんの、伊邪那岐いざなぎみそぎのお話からすると、けがれってはらったと同時に補填ほてんすべきものであるのかなあ、とは思います」

織歌おりかとしては考えを正直にべてるだけで、なんの他意もない。
それに自分の持ってる能力が能力なので、この分野においては正しいと思われるべき推論を立てておかねば、織歌おりか自身が十全に機能するとも思えないのだ。

「……あー、この二件の生まれのタイミングを考慮して、まがに対するなおを自己修復ととらえるなら、確かにそうなるのかあ」
がれたあかけがれの化身みたいな神様になった一方で、その後生まれた神様は自己修復するための神様だったって事? そんなくほど、ごりごり垢擦あかすりしたんかねえ」
「んんんん、さっきああ言っちゃったけど、はあるべき形への復元っていう意味合いの強い語だから、自己修復とは限らない、のかなあ……」

ひろうなりながら言うと同時に、とうとう、がりん、とあめくだいた音がした。
それを聞きながら、織歌おりか織歌おりかで、なるほど、西の方の方言でに片付けるという意味合いがあるのはそういうことか、と納得する。

織歌おりか補填ほてんである説を取るなら、なおさん、自己修復というだけじゃなくて、いるだけで範囲回復魔法みたいなことになるのかなあ……そうなると、自覚した上でいてほしい感はありますね」
「用心棒のノリが、まさかそんなゲームのヒロインみたいな事になるとは思わなかったんだけど、オジサン」
「……今時ヒロインに限りませんよ、回復役ヒーラーって。某有名ゲームでも最初の方の作品ですでに回復技を覚える職業、男性もアリでしたし」

二つ目のあめを取り出しながら、ひろ容赦ようしゃなく突っ込んだ。
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