怪異から論理の糸を縒る

3-2 肝試しと大掃除 side B

3 不確定を飼う

「……だいぶ減ってきましたし、しゃっきりしてきましたね？」
「ええ、だいぶ頭が回るようになってきました」

織歌おりかのふわふわとした地に足のつかない夢ゆめ現うつつの感覚は収まりつつある。
それもこれも、まだもしゃもしゃと織歌おりかの腕を舐なめるように穢けがれを食べているこの世ならざる胃袋の持ち主であるあきつのおかげ……というよりは、何故かうっかり、あきつを発生させてしまった紀美きみのおかげである。あの時は全員が全員困惑しかなかった。

織歌おりかの様子を確認した弘ひろはウエストポーチからスマホを取り出して、メッセージアプリで迎むかえの要請を出してくれる。

「……まあ、総合的にはちゃんと整合性の取れた人格が発生してるようではなかったので、初心者向けではありましたかねえ」
「あー、どうりでふわふわするだけだと思いました」
〈む、そうであれば、ちゃんと己おれが止めてたぞ〉

何もしないと思われるのは心外だ、とあきつが口を尖とがらせる。
基本、あきつは織歌おりか以外には当たりが強いというか、織歌おりかに対して過保護というか。

「いや、そこはそれで信頼してますって。際きわの見定めという一点についてはそっち側であるあきつの方がロビンより正確ですからね」

本来的にあきつは織歌おりかに付随ふずいする力場の志向性を高効率にしようとした結果生まれた存在である、たぶん、というのは紀美きみの言である。
曰いわく、人に力場が付随ふずいすることは先天的にも、後天的にもあり得ることで、織歌おりかは先天的だと思われるとか。
ただ、その力場の質と強力さが織歌おりかの場合、問題だったのである。
伊達だてに、掃除機だのブラックホールだのと形容されるような不運の特異点なわけではない。

「結果論としては良かった、で済みますけど、ちょっとぐらいは待ってて欲しかったなとは思います」

弘ひろの言葉の九割九分が、姉弟子としての心配であることは織歌おりかもわかっている。
それでも、それがほんの僅わずかな泥水を混入されたワインの如ごとく、純粋な心配でないのは、ひとえにあきつのせいなのだ。

その性質上、あきつは絶対的に織歌おりかの味方ではあるが、根本的価値観が異なる、というか価値観というものがあるのかも良くわからないために、何をしでかすかわからない。
だからこそ、弟子という建前たてまえで五割ばかりは様子を見られているらしい。

「あー、でも、あそこで織歌おりかが強制退場したから、あの軽薄男を避さけられたというのはありますね」
〈己おれとしては、餌場には丁度いいかもしれんとは思うがな、あの男〉

いや、弟子ということが八割ぐらいかもしれない、という程度には、師である紀美きみをはじめ、ロビンも弘ひろも面倒見はとてもいいのだが。