上 下
64 / 266
3-2 肝試しと大掃除 side B

1 もぐむしゃタイム

しおりを挟む
織歌おりかはふわふわとしたゆめうつつのまま、壁に寄りかかってぼうっとただ目の前を見ていた。

織歌おりか

そのゆめうつつの霧のようなふわふわとした非現実感を切りひろの声にそちらを向く。

ひろちゃん」
「……うーん、いつ見ても見ていいものじゃない感があるんですよね」

今、織歌おりかの左腕には、少なくとも織歌おりかの目には赤みをびた黒の、みっちりとスライムのような粘性のある液体で満たされた細長い袋とか、バルーンアートの細長い風船のようなもの――あるいは触手っぽいものがぐるぐるとまとわりついていて、そしてその端をひっぺがしながら口に運ぶの姿があった。

〈こいつ、はらひがしにくい〉

射干玉ぬばたまの、という枕詞まくらことばもかくやという美しく地をう長い黒の髪に浮かび上がるような白い顔。
その小さな口で、触手っぽいそれをぶちりとその見目にそぐわず豪快ごうかいに食い千切ちぎって、もちょもちょと咀嚼そしゃくしながら、は眉根を寄せてうったえる。

「たぶん、無理矢理ひっぺがしたからだと思うんですけど……」
織歌おりか、まだそのあたりは慣れてないんですから、わたしに任せてくれればいいのに」
織歌おりか、腕上げてくれ〉

織歌おりかに言われた通り腕を少し上げると、は引っぺがすことをあきらめたらしく、直接その触手っぽいものにかぶりつき、またぶちりと千切ちぎる。
ちなみに感触としては、触手っぽいのは氷みたく、ぞっとするように冷たい。
逆にの肌は夏場の木陰こかげのせせらぎに足を突っ込んだような、さわやかで清涼な冷たさがある。

「うーん、やっぱり、こう、すごい絵面えづら……」

ぞろりと長い黒髪に白玉の肌、白のひとえに緋色の切りばかま、うっかり千早ちはやと見間違える人も多そうな小忌衣おみごろも、という如何いかにも清浄にして、時代がかった格好のである。
にもかかわらず、本人はまったく無頓着むとんちゃくに、触手っぽいもの――織歌おりかが引き受けたけがれの可視化されたものを豪快ごうかい千切ちぎり、食い千切ちぎり、もちゃもちゃと頬袋ほおぶくろふくらませたハムスターのように口いっぱいに頬張ほおばって咀嚼そしゃくしている。

織歌おりかは見かけははかなげな雰囲気をまとっている可憐なタイプであると自覚はしている。
そして、どうやら自覚している以上にしたたかさとのギャップはすごいらしい……というのは置いといて。

そんな織歌おりかに(便宜上)いているはそもそも人ならざるものであって、織歌おりかたちが師事する紀美きみいわく、分類的には分御霊わけみたま的な何かになるんじゃないかな(困惑)、らしい。
紀美きみの言い分がそんな曖昧あいまい模糊もことした歯切はぎれの悪いものになるのも、それはそれで理由はあるのだが、それもさて置き。

何も気にせず、見た目に反して、やや粗暴そぼうだったりコミカルだったりな挙動を取っていようと、織歌おりかのそばを離れぬこの人ならざるものは、魅力と呼ぶにはあやしすぎるきつける美しさを持っている。

「ん……」
〈すまん、歯が当たったな〉

なので、ひろの言うところのすごい絵面えづらというのは、なんとなく背徳感を感じるような、その内実はともかくとして、美しくてあやしくてはかなげでありながらグロテスクをともなった、一種耽美たんび的な様相をていしているのである。

なお、織歌おりかにとって兄弟子あにでしであるロビンは最初目撃した時に、何をのぼせ上がったのか鼻血を出していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

池の主

ツヨシ
ホラー
その日、池に近づくなと言われた。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...