怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

文字の大きさ
上 下
61 / 266
3-1 肝試しと大掃除 side A

12 media ‹名› 中性・複数・主格または対格 あるいは

しおりを挟む
「ふむ、藤代ふじしろさん」
「は、はい?」

恭弥きょうやぐらいしか例をわかっていないことに気づいたひろに声をかけられて、悠輔ゆうすけはなんか文句でも言われるのかとちょっと思う。

「先程、津曲つまがりさんから聞きましたが、法学部だそうで」
「あ、はい……といってもそんな、弁護士とかそういうしっかりした職に就く気は……」
「いえ、そういうツッコミどころを探してるわけではなく」

そんなん目指してるのに何してんだ、という糾弾きゅうだんをするつもりではない、とひろは端的に言って続ける。

「法を学んだからこそ得られた視座しざ、ありますよね。手っ取り早く言えば、現実での行為において、法をおかすかいなかのラインがより細かく見えるようになったのでは?」
「それは……うん、そう、ですね」
「そういうことです。そうした認識が力場に志向性を与えてしまう。それが一時的なこともあれば、恒久的なこともある……と、わたし達の先生は言っておりまして」
「あ、一般論じゃないんだ……」

思わず、といった様子でつぶやいたのは、都子みやこだった。
ひろも少し困ったような表情で笑う。

「そうなんですよ。先生が唱えている説でして……師事している以上、わたし達はそれに従う側なわけで……まあ、どの説であっても、常に一貫した再現性があるわけではないせいで定説が確立できないんで、だからこそのオカルトではあるんですけど」

はは、とかわいた笑い声がその口から漏れる。
言い方からして、この考え方自体も少数派な考えのようだ。
ひろは気を取り直すように小さくせきばらいをする。

「まあ、それはそれです。その認識がその場でどれほど意識されて、かつ重みをつけられているか、そもそも、その認識がどれだけの人間の意識上で一般化しているか、というあたりが志向性の決定をになう……とは先生の言です。その上で言わせていただきますと、今回独断専行に走ったお二人には命しくば、今後は自分から首を突っ込まないことが身のためです」

絶対零度から春一番程度にゆるめられた視線がへたりこんでいる恭弥きょうやと、うずくまった態勢のままの深雪みゆきに向けられる。

「り、理由は?」

深雪みゆきの言葉に、ひろは首を横に振って口を開いた。

「……先程の話の通り、今回、逆にわたし達がこの場にいた事でかかった補正があることはいなめません。そして、だからこそ、お二人に変に自覚を持ってもらっても困るんです。下手すれば日常生活に支障をきたしますよ」
「……逆に言えばさ」

そう口を開いたのは恭弥きょうやである。

「さっきの俺と唐国からくにちゃんとの会話で、唐国からくにちゃんが反応したことがそれにつながるってことだよな?」

一気にひろが苦虫をつぶした表情を見せる。
というかさっきまで説教の余韻よいんで情けない姿を見せていたというのに、なんという呼びかけ方を、そういえばこいつは怖いもの知らずだったんだった、と悠輔ゆうすけはちょっと頭をかかえたくなる。
都子みやこあきれた視線を送っている。

「確か、俺たちの学部・学科の話をした時だよな、唐国からくにちゃんが反応したの」

それを聞いて悠輔ゆうすけはちょっと意外に思いつつ、考えてみる。
悠輔ゆうすけは法学部で、都子みやこは英文科、恭弥きょうや深雪みゆきはメディア学部の学科違いである。

「……どっかに頭打って都合つごうよく記憶喪失にでもなってくれませんかね」

そのどっかの候補を握りしめてひろがそうつぶやいたので、悠輔ゆうすけはそれ以上深入りするのをあきらめることを決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ツルバミ奇譚

織部浩子
ホラー
現代より少し昔。 ある屋敷に泊まり込んでいる主人公は、屋敷とその周辺で起きる様々な怪異に遭遇する。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

不動の焔

桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。 「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。 しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。 今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。 過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。 高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。 千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。   本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない ──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。

【語るな会の記録】鎖女の話をするな

鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会 通称、語るな会 「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。 美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話―― 語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか? 語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか? そして語るな会が開催された目的とは……? 表紙イラスト……シルエットメーカーさま

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

処理中です...