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3-1 肝試しと大掃除 side A
7 vacuum
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◆
風が吹き止むと同時に、脇の部屋に飛び込んだ弘がひょっこりと姿を現す。
「はー、気持ち悪かった……お二人は大丈夫です?」
「あ、はい」
「う、うん、大丈夫、です」
――気持ち悪かったって、それだけで済むんだ。
最初、弘は織歌にマイペースすぎると言っていたが、弘も比較的マイペースなんだな、と悠輔は感じ始めていた。
同時に、あの不安感に納得する。
ド天然マイペースの織歌と、高性能マイペースだろう弘に大丈夫と言われたところで、説得力が感じられなかっただけの話だ。
「織歌、このまま四階に行ってもらっていいですか? こっちで保護できたのは一人なので、おそらくもう一人は四階に」
「わかりました。お二方もお願いします」
とはいえ、こうしてテキパキと指示をされると、この二人が専門家であることに説得感が生まれる。
「あの……」
「ああ、四階にいるのは勾田深雪さんの方です。津曲恭弥さんは保護してるので、これからお説教兼抜かした腰を直してきますんで」
そう言って、身を翻した弘はとっとと向こうの端の方に行ってしまった。
一方、織歌は既に、さっき来た階段の上りの方に向かっている。
「賢木さん、唐国さんは」
「弘ちゃんなら、大丈夫ですよ。三階はもう弘ちゃんだけで大丈夫なぐらいに安全ですし」
軽く振り返ってそう言いながら、織歌は階段を上る足は止めない。
このまま置いて行かれるというのは、あまりにも怖いので、悠輔と都子は一度顔を見合わせてからその後ろに続く。
「……あの、賢木さん」
「はい、なんでしょう」
沈黙を破ったのは都子だった。
「さっき何か言ってたのって」
「ああ、あれですか。先生が作ってくださった私達用の呪文みたいなものです」
私達、という言葉が悠輔には少しばかり引っかかった。
さっき一瞬だけ見えた黒い髪の人影を指すのか、弘を指すのか。
ただ、都子もあの人影を見たのかはわからないし、下手に言って怖がらせるのも気が引ける。
そう、所詮、悠輔はヘタレの意気地なしなのである。自分で思ってて悲しいけど。
「弘ちゃんは最終兵器なんて言いましたけど、どちらかというと私、掃除機なので」
「掃除機」
思わずといった様子で都子が繰り返す。
悠輔としては、掃除機に霊的現象といえば、ゴーストをバスターする古い映画とか緑の弟のマンションのゲームが脳裏をチラつく。
新しい映画の方だと掃除機要素がなくなったみたいな事を聞いた気もする。
そうしている内に、三人の足は四階の廊下を踏んだ。
気のせいか、少し空気が冷たく、どろりと重くなったように感じる。
イメージはそう、小学生の時に作ったりもしたスライムである。
「ああ、そうでした」
織歌がそう声をあげた。
完全に言い忘れていたという体である。
「私がいますので、なんにも心配しないでくださいね?」
振り返ってにっこりと笑いながらそう言う織歌に、ああ、特に何もなしで終わるわけじゃないんだな、と悠輔は思った。
風が吹き止むと同時に、脇の部屋に飛び込んだ弘がひょっこりと姿を現す。
「はー、気持ち悪かった……お二人は大丈夫です?」
「あ、はい」
「う、うん、大丈夫、です」
――気持ち悪かったって、それだけで済むんだ。
最初、弘は織歌にマイペースすぎると言っていたが、弘も比較的マイペースなんだな、と悠輔は感じ始めていた。
同時に、あの不安感に納得する。
ド天然マイペースの織歌と、高性能マイペースだろう弘に大丈夫と言われたところで、説得力が感じられなかっただけの話だ。
「織歌、このまま四階に行ってもらっていいですか? こっちで保護できたのは一人なので、おそらくもう一人は四階に」
「わかりました。お二方もお願いします」
とはいえ、こうしてテキパキと指示をされると、この二人が専門家であることに説得感が生まれる。
「あの……」
「ああ、四階にいるのは勾田深雪さんの方です。津曲恭弥さんは保護してるので、これからお説教兼抜かした腰を直してきますんで」
そう言って、身を翻した弘はとっとと向こうの端の方に行ってしまった。
一方、織歌は既に、さっき来た階段の上りの方に向かっている。
「賢木さん、唐国さんは」
「弘ちゃんなら、大丈夫ですよ。三階はもう弘ちゃんだけで大丈夫なぐらいに安全ですし」
軽く振り返ってそう言いながら、織歌は階段を上る足は止めない。
このまま置いて行かれるというのは、あまりにも怖いので、悠輔と都子は一度顔を見合わせてからその後ろに続く。
「……あの、賢木さん」
「はい、なんでしょう」
沈黙を破ったのは都子だった。
「さっき何か言ってたのって」
「ああ、あれですか。先生が作ってくださった私達用の呪文みたいなものです」
私達、という言葉が悠輔には少しばかり引っかかった。
さっき一瞬だけ見えた黒い髪の人影を指すのか、弘を指すのか。
ただ、都子もあの人影を見たのかはわからないし、下手に言って怖がらせるのも気が引ける。
そう、所詮、悠輔はヘタレの意気地なしなのである。自分で思ってて悲しいけど。
「弘ちゃんは最終兵器なんて言いましたけど、どちらかというと私、掃除機なので」
「掃除機」
思わずといった様子で都子が繰り返す。
悠輔としては、掃除機に霊的現象といえば、ゴーストをバスターする古い映画とか緑の弟のマンションのゲームが脳裏をチラつく。
新しい映画の方だと掃除機要素がなくなったみたいな事を聞いた気もする。
そうしている内に、三人の足は四階の廊下を踏んだ。
気のせいか、少し空気が冷たく、どろりと重くなったように感じる。
イメージはそう、小学生の時に作ったりもしたスライムである。
「ああ、そうでした」
織歌がそう声をあげた。
完全に言い忘れていたという体である。
「私がいますので、なんにも心配しないでくださいね?」
振り返ってにっこりと笑いながらそう言う織歌に、ああ、特に何もなしで終わるわけじゃないんだな、と悠輔は思った。
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