84 / 266
閑話1 コックリさん(事後処理)
7 不審者が言うことにゃ5
しおりを挟む
「コックリさんにどういう漢字を当てるかは知ってる?」
「それは知らない」
「キツネ、イヌ――犭に俳句の句の狗――、タヌキ。それで狐狗狸さん」
なるほど、それらの霊を呼び出しているという前提なのか、と晴人はその当て字に納得する。
「キミはキツネ、イヌ、タヌキのそれぞれにどういった印象を持ってる?」
「え……キツネもタヌキも、昔話で人を化かす動物でしょ。イヌは、なんというか、そんなあんまり幽霊とかってイメージないなあ」
「んー、まあ一般的にはそうか、そうなるか。犭の狗は天狗の狗、羊頭狗肉の狗なんだけど、日本でこの字を用いることは少ないし、犬自体については人と共にある動物って印象が強いしね」
ちなみにこれは比較的ワールドワイドね、と付け加えるようにおにーさんは呟く。
「花咲か爺さんの犬、桃太郎の犬、猿神退治の犬。どれをとっても犬はそのお話上の善側であって、同時にその善は生ける善き人の側である。メソアメリカ系の昔話だとイヌ科のコヨーテが、文化英雄兼トリックスター、つまりは人に文明的な何かを齎すものとして描かれたりする。ヨーロッパには人の代わりに生贄にされた犬の話がある一方、犬の怪異の話もある。とはいえ、日本においては忠犬ハチ公のように、その忠実さにフォーカスが当たることが多い。これは儒教の影響が関係してそうかな……まあ、だから、日本人であるキミがコックリさんにおける犬に対して違和感を覚えるのは正しい」
立て板に水というより、ウォータースライダーなのではないだろうか。
頭の中でおにーさんの言葉が射出された勢いのまま、ぐるぐる、ぐるぐる、遠心力に任せて回る感覚を覚えながら晴人はとりあえず、おにーさんの最後の言葉だけ頭の中に留めた。
「で、キミはキツネとタヌキにはそんなに違和感はない?」
「……うん、人を化かす動物だから、そういうのもあるのかなあ、とは思う」
ふむふむ、とおにーさんはどこかご機嫌で晴人の言葉を聞いている。
「そうか、そうか、うんうん。まあ、今の一般的感覚からするとそうなるよね」
「……おにーさん、その今のっての、単なるジェネレーションギャップのことじゃないよね?」
なんかの含みが乗っているのはわかっても、なんのつもりなのかはよくわからない。
けど、このおにーさんは人間びっくり箱みたいなものだと思い始めていたから、もう何が飛び出してきても変な驚き方はしない自信があった。
「それは知らない」
「キツネ、イヌ――犭に俳句の句の狗――、タヌキ。それで狐狗狸さん」
なるほど、それらの霊を呼び出しているという前提なのか、と晴人はその当て字に納得する。
「キミはキツネ、イヌ、タヌキのそれぞれにどういった印象を持ってる?」
「え……キツネもタヌキも、昔話で人を化かす動物でしょ。イヌは、なんというか、そんなあんまり幽霊とかってイメージないなあ」
「んー、まあ一般的にはそうか、そうなるか。犭の狗は天狗の狗、羊頭狗肉の狗なんだけど、日本でこの字を用いることは少ないし、犬自体については人と共にある動物って印象が強いしね」
ちなみにこれは比較的ワールドワイドね、と付け加えるようにおにーさんは呟く。
「花咲か爺さんの犬、桃太郎の犬、猿神退治の犬。どれをとっても犬はそのお話上の善側であって、同時にその善は生ける善き人の側である。メソアメリカ系の昔話だとイヌ科のコヨーテが、文化英雄兼トリックスター、つまりは人に文明的な何かを齎すものとして描かれたりする。ヨーロッパには人の代わりに生贄にされた犬の話がある一方、犬の怪異の話もある。とはいえ、日本においては忠犬ハチ公のように、その忠実さにフォーカスが当たることが多い。これは儒教の影響が関係してそうかな……まあ、だから、日本人であるキミがコックリさんにおける犬に対して違和感を覚えるのは正しい」
立て板に水というより、ウォータースライダーなのではないだろうか。
頭の中でおにーさんの言葉が射出された勢いのまま、ぐるぐる、ぐるぐる、遠心力に任せて回る感覚を覚えながら晴人はとりあえず、おにーさんの最後の言葉だけ頭の中に留めた。
「で、キミはキツネとタヌキにはそんなに違和感はない?」
「……うん、人を化かす動物だから、そういうのもあるのかなあ、とは思う」
ふむふむ、とおにーさんはどこかご機嫌で晴人の言葉を聞いている。
「そうか、そうか、うんうん。まあ、今の一般的感覚からするとそうなるよね」
「……おにーさん、その今のっての、単なるジェネレーションギャップのことじゃないよね?」
なんかの含みが乗っているのはわかっても、なんのつもりなのかはよくわからない。
けど、このおにーさんは人間びっくり箱みたいなものだと思い始めていたから、もう何が飛び出してきても変な驚き方はしない自信があった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説



不動の焔
桜坂詠恋
ホラー
山中で発見された、内臓を食い破られた三体の遺体。 それが全ての始まりだった。
「警視庁刑事局捜査課特殊事件対策室」主任、高瀬が捜査に乗り出す中、東京の街にも伝説の鬼が現れ、その爪が、高瀬を執拗に追っていた女新聞記者・水野遠子へも向けられる。
しかし、それらは世界の破滅への序章に過ぎなかった。
今ある世界を打ち壊し、正義の名の下、新世界を作り上げようとする謎の男。
過去に過ちを犯し、死をもってそれを償う事も叶わず、赦しを請いながら生き続ける、闇の魂を持つ刑事・高瀬。
高瀬に命を救われ、彼を救いたいと願う光の魂を持つ高校生、大神千里。
千里は、男の企みを阻止する事が出来るのか。高瀬を、現世を救うことが出来るのか。
本当の敵は誰の心にもあり、そして、誰にも見えない
──手を伸ばせ。今度はオレが、その手を掴むから。
【語るな会の記録】鎖女の話をするな
鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
語ってはいけない怪談を語る会
通称、語るな会
「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。
美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話――
語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか?
語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか?
そして語るな会が開催された目的とは……?
表紙イラスト……シルエットメーカーさま
二人称・短編ホラー小説集 『あなた』
シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』
そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・
※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。
様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。
小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる