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2-2 山と神隠し side B
12 思考ほど速きもの
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「えー、だってイクシーオーン、義父を謀殺して尊属殺人したクセに、それを許したゼウスが神の食卓につかせたら、今度は最高神の妻、つまりは女神のトップたるへーラーへの横恋慕とかいう不敬罪《ふけいざい》じゃないですか」
「何があれって、否定できないから困る……」
「しかも、ルーツの違うケイローンを除いて、蛮族の象徴みたいなケンタウロスの祖になってるじゃないですか」
否定できないので、どうしよう、と考えている気配がロビンからだだ漏れしている。
「まあ……うん、間違ってはない、うん」
「で、イクシーオーン本人はぐるぐるぶん回されてるんですっけ、車輪で」
「そう、燃える車輪に括りつけられてぐーるぐる……」
諦めたようにロビンはそう言って、窓の外、遠くを見やる。
「……まあ、いいや。人は死すべきものであり、神は不死なるものにして絶対で、人は常に神を敬わねばならない、というのがギリシャ神話におけるベースのルールなら、これらの話を逆に考えることもできる」
「逆?」
「人は不死になるべきではないのに、不死になったというならば、それは罰を受けるべきだ、という順序の逆。先に不死を賜る話があり、それを良しとしなかったから、後から罪と罰のエピソードが追加された可能性の考慮だよ」
ヒロの力の根幹にも言える事でしょ、とロビンは肩を竦めた。
「ソレがいるから栄えたのではなく、栄えたからソレがいるとされた。管狐や六部殺し伝説とかもそう。火のないところに煙は立たないと外野が勝手に思うのであれば、その外野は望む通りの火を勝手に見つけるんだから」
「…………」
「そうして他者に押しつけられるからこそ、容易に制御が利かなくなる。迷惑極まりない呪いだよ」
で、とロビンはそのままいつもの調子で続ける。
「次は北欧の、トールのヤギだっけ? 巨人の国、ウートガルズをロキと訪問した時の行きがけの話だろ?」
「そ、そうです」
巨人の国ウートガルズを訪問する道中、雷神にして戦神たるトールと、悪名高きトリックスターであるロキは人間の家に一拍する。
その時、トールは自身の戦車を引く二頭のヤギ、タングスニョーストとタングスリスニを食材として提供するが、この時骨はそのまま、その毛皮の上に投げるように言う。
「そうだねえ……人界で神のヤギを人に提供し、人がこれを調理するわけだけど、まあ、あのヤギの特殊性はその毛皮と骨によるからなあ」
「毛皮と骨さえ無事なら元通り……をぶち壊してますし、あの話」
そういう条件だったにもかかわらず、髄が好物だった家主の息子のシャールヴィはこっそりこの骨を傷つけて髄を啜ってしまう。
翌朝、トールによって生き返ったタングスニョーストとタングスリスニだが、シャールヴィが髄を啜った脛には障害が残り、トールは激怒。
平謝りの家主は犯人のシャールヴィとその妹レスクヴァをトールに差し出し、以降二人はトールの召使いとなった。
「シャールヴィに対しては適用される、と考えてもいいんじゃないかな。髄は調理されたものではなく、ヤギ達の神性の一端だし……というとちょっと神食じみてくるな」
まあ、本題ではないけど、とロビンは切り捨てる。
「ただ、レスクヴァはそもそもその後の話にも特に出て来ないから、重要性は低い。だから、レスクヴァという存在は、あくまで神の命に背いた埋め合わせそのものじゃないかな。シャールヴィはその後、ウートガルズで一応その俊足で頑張るし」
お兄ちゃんの罪の埋め合わせとかレスクヴァちゃん可哀想、と弘は思わぬでもない。
が、シャールヴィのそのウートガルズでの頑張りも頑張りで報われないことを弘は知っている。
訪れたトール一行に勝負を吹っかけたウートガルザ・ロキは、魔術を用いてそれぞれが絶対に勝ち得ない存在と勝負させるのだから。
「……シャールヴィのその頑張りもウートガルザ・ロキのチート行為のせいで徒労なんですよねえ」
そう呟けば、ロビンがツッコミ疲れたと言わんばかりの渋面を作って、絞り出すように、言い方、とだけ呟いた。
「何があれって、否定できないから困る……」
「しかも、ルーツの違うケイローンを除いて、蛮族の象徴みたいなケンタウロスの祖になってるじゃないですか」
否定できないので、どうしよう、と考えている気配がロビンからだだ漏れしている。
「まあ……うん、間違ってはない、うん」
「で、イクシーオーン本人はぐるぐるぶん回されてるんですっけ、車輪で」
「そう、燃える車輪に括りつけられてぐーるぐる……」
諦めたようにロビンはそう言って、窓の外、遠くを見やる。
「……まあ、いいや。人は死すべきものであり、神は不死なるものにして絶対で、人は常に神を敬わねばならない、というのがギリシャ神話におけるベースのルールなら、これらの話を逆に考えることもできる」
「逆?」
「人は不死になるべきではないのに、不死になったというならば、それは罰を受けるべきだ、という順序の逆。先に不死を賜る話があり、それを良しとしなかったから、後から罪と罰のエピソードが追加された可能性の考慮だよ」
ヒロの力の根幹にも言える事でしょ、とロビンは肩を竦めた。
「ソレがいるから栄えたのではなく、栄えたからソレがいるとされた。管狐や六部殺し伝説とかもそう。火のないところに煙は立たないと外野が勝手に思うのであれば、その外野は望む通りの火を勝手に見つけるんだから」
「…………」
「そうして他者に押しつけられるからこそ、容易に制御が利かなくなる。迷惑極まりない呪いだよ」
で、とロビンはそのままいつもの調子で続ける。
「次は北欧の、トールのヤギだっけ? 巨人の国、ウートガルズをロキと訪問した時の行きがけの話だろ?」
「そ、そうです」
巨人の国ウートガルズを訪問する道中、雷神にして戦神たるトールと、悪名高きトリックスターであるロキは人間の家に一拍する。
その時、トールは自身の戦車を引く二頭のヤギ、タングスニョーストとタングスリスニを食材として提供するが、この時骨はそのまま、その毛皮の上に投げるように言う。
「そうだねえ……人界で神のヤギを人に提供し、人がこれを調理するわけだけど、まあ、あのヤギの特殊性はその毛皮と骨によるからなあ」
「毛皮と骨さえ無事なら元通り……をぶち壊してますし、あの話」
そういう条件だったにもかかわらず、髄が好物だった家主の息子のシャールヴィはこっそりこの骨を傷つけて髄を啜ってしまう。
翌朝、トールによって生き返ったタングスニョーストとタングスリスニだが、シャールヴィが髄を啜った脛には障害が残り、トールは激怒。
平謝りの家主は犯人のシャールヴィとその妹レスクヴァをトールに差し出し、以降二人はトールの召使いとなった。
「シャールヴィに対しては適用される、と考えてもいいんじゃないかな。髄は調理されたものではなく、ヤギ達の神性の一端だし……というとちょっと神食じみてくるな」
まあ、本題ではないけど、とロビンは切り捨てる。
「ただ、レスクヴァはそもそもその後の話にも特に出て来ないから、重要性は低い。だから、レスクヴァという存在は、あくまで神の命に背いた埋め合わせそのものじゃないかな。シャールヴィはその後、ウートガルズで一応その俊足で頑張るし」
お兄ちゃんの罪の埋め合わせとかレスクヴァちゃん可哀想、と弘は思わぬでもない。
が、シャールヴィのそのウートガルズでの頑張りも頑張りで報われないことを弘は知っている。
訪れたトール一行に勝負を吹っかけたウートガルザ・ロキは、魔術を用いてそれぞれが絶対に勝ち得ない存在と勝負させるのだから。
「……シャールヴィのその頑張りもウートガルザ・ロキのチート行為のせいで徒労なんですよねえ」
そう呟けば、ロビンがツッコミ疲れたと言わんばかりの渋面を作って、絞り出すように、言い方、とだけ呟いた。
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