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2-1 山と神隠し side A
13 もう山へは行かない
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「……いやなあ、アイツはもう単純に、頭の作りがおかしいだけやさかい」
「へ?」
「そも、本人が周囲に言われてはじめて自分が変なこと言うとるって気付く時点で、アイツの頭はネジが数本抜け落ちてるんやて」
難しい顔をして蓬はそう言い放った。
「ロビンくんも弘ちゃんも、そうするしか手がなかった言うても、アイツのせいで規格外やさかい、弟子にするんはアイツの当然の責任やし。今回も最初はアイツが出張ろうとして、責任を取れるんかってロビンくんと弘ちゃんがお説教食らわしはったし……頼んだのうちやさかい、そこはちょっと申し訳なくはあるけんども」
「えええ……」
「アイツ、自分のことには無頓着やし、着眼点とか収集力とか、それを元に組み立てるのがすごいだけで、家系のこと考えればその能力も、まあ妥当の範囲やし、それ以外は言うほどすごかないんよね、アイツ、うん」
蓬は武が期待で膨らませた風船に、容赦なく言葉の針を刺して、割っていく。
いや、太さを考えるとこれは釘を打ち込まれてるかもしれない。
「というか、いきなり過程すっ飛ばして起点と終点だけで語りだす上に、本人が思っとる起点が他人には山の麓やのうて中腹やから、あかん。武くんも、あんな男になったら絶対にあかんよ?」
なんだか私怨がだいぶ混じってそうなその言葉の勢いに、武は頷かざるを得なかった。
「何がムカつくて、何につけても、まずはわかって当たり前やろって涼しい顔しとるとこが……いや、これ以上は言わんとこ。流石に、これ以上愚痴ったらあかんわ」
鬼気迫ると言うべきにまで至った表情を、蓬はふっと緩めた。
「まあ、何にせよ、ロビンくんも弘ちゃんも無事やし、二人とも武くんが無事に帰れたことに、ほっとしとったよ。特に、あんなに誘惑されて、怖かったんに、よう振り向かんで歩ききったねって、弘ちゃんからの伝言や」
「え……?」
何故、弘がそれを知ってるんだろう。
そう思って武はきょときょとと目を瞬かせる。
その様子を見た蓬はすぐに口を開く。
「ああ、弘ちゃんね、さっき言うた通り、まあ、あの子もアイツに規格外にはされてまったんやけど、まあわかりやすく言うなら、使い魔とか式神とかそういうタイプやさかいね、武くんを先に行かせた後の事はそれで知っとるんよ」
「もしかして、あの犬?」
武の脳裏に、あの背後の気配との間に割り込み、駐車場まで走り抜けた時に背中を押すように鳴いた犬の気配がよみがえる。
蓬がそれを聞いて頷いた。
「なんや、気付いとるんやん」
「ってことは、もしかして、オレ、霊感ってやつが」
ちょっとわくわくしながら武が言うと、蓬はけらけらと笑いながら手を振って否定した。
「ないない。そうなっとったら、今頃はたぶん武くん、追加検査受けとるはずやわ。人並みに霊感があれば、場所に影響されてそないなることはおかしかないよ。憧れる年頃なんはわかるけどな」
心底面白そうにそう言った蓬は武の肩に手をおいて、にっこりと笑う。
「せやから、こういうんはうちらに任せといて、しっかり地に足付けて安心しいね」
それが武にとってのこの一連の出来事を締めくくろうとする一言であるということに、武はすぐに気づいたけれど、その一言を跳ね除けるだけの材料を何一つ持っていなかった。
それから、蓬はなんかあったらここに連絡しろ、とメモ用紙を渡すと、病室を出て、ドアの脇で待機していた両親とまた何か会話をしているようだった。
武は病室の窓の外を眺める。
例の山の最寄りのこの病院からは当然、件の山が見える。
「……」
少なくとも、武は、あの山にはもう二度と行かないことを心の中で誓った。
「へ?」
「そも、本人が周囲に言われてはじめて自分が変なこと言うとるって気付く時点で、アイツの頭はネジが数本抜け落ちてるんやて」
難しい顔をして蓬はそう言い放った。
「ロビンくんも弘ちゃんも、そうするしか手がなかった言うても、アイツのせいで規格外やさかい、弟子にするんはアイツの当然の責任やし。今回も最初はアイツが出張ろうとして、責任を取れるんかってロビンくんと弘ちゃんがお説教食らわしはったし……頼んだのうちやさかい、そこはちょっと申し訳なくはあるけんども」
「えええ……」
「アイツ、自分のことには無頓着やし、着眼点とか収集力とか、それを元に組み立てるのがすごいだけで、家系のこと考えればその能力も、まあ妥当の範囲やし、それ以外は言うほどすごかないんよね、アイツ、うん」
蓬は武が期待で膨らませた風船に、容赦なく言葉の針を刺して、割っていく。
いや、太さを考えるとこれは釘を打ち込まれてるかもしれない。
「というか、いきなり過程すっ飛ばして起点と終点だけで語りだす上に、本人が思っとる起点が他人には山の麓やのうて中腹やから、あかん。武くんも、あんな男になったら絶対にあかんよ?」
なんだか私怨がだいぶ混じってそうなその言葉の勢いに、武は頷かざるを得なかった。
「何がムカつくて、何につけても、まずはわかって当たり前やろって涼しい顔しとるとこが……いや、これ以上は言わんとこ。流石に、これ以上愚痴ったらあかんわ」
鬼気迫ると言うべきにまで至った表情を、蓬はふっと緩めた。
「まあ、何にせよ、ロビンくんも弘ちゃんも無事やし、二人とも武くんが無事に帰れたことに、ほっとしとったよ。特に、あんなに誘惑されて、怖かったんに、よう振り向かんで歩ききったねって、弘ちゃんからの伝言や」
「え……?」
何故、弘がそれを知ってるんだろう。
そう思って武はきょときょとと目を瞬かせる。
その様子を見た蓬はすぐに口を開く。
「ああ、弘ちゃんね、さっき言うた通り、まあ、あの子もアイツに規格外にはされてまったんやけど、まあわかりやすく言うなら、使い魔とか式神とかそういうタイプやさかいね、武くんを先に行かせた後の事はそれで知っとるんよ」
「もしかして、あの犬?」
武の脳裏に、あの背後の気配との間に割り込み、駐車場まで走り抜けた時に背中を押すように鳴いた犬の気配がよみがえる。
蓬がそれを聞いて頷いた。
「なんや、気付いとるんやん」
「ってことは、もしかして、オレ、霊感ってやつが」
ちょっとわくわくしながら武が言うと、蓬はけらけらと笑いながら手を振って否定した。
「ないない。そうなっとったら、今頃はたぶん武くん、追加検査受けとるはずやわ。人並みに霊感があれば、場所に影響されてそないなることはおかしかないよ。憧れる年頃なんはわかるけどな」
心底面白そうにそう言った蓬は武の肩に手をおいて、にっこりと笑う。
「せやから、こういうんはうちらに任せといて、しっかり地に足付けて安心しいね」
それが武にとってのこの一連の出来事を締めくくろうとする一言であるということに、武はすぐに気づいたけれど、その一言を跳ね除けるだけの材料を何一つ持っていなかった。
それから、蓬はなんかあったらここに連絡しろ、とメモ用紙を渡すと、病室を出て、ドアの脇で待機していた両親とまた何か会話をしているようだった。
武は病室の窓の外を眺める。
例の山の最寄りのこの病院からは当然、件の山が見える。
「……」
少なくとも、武は、あの山にはもう二度と行かないことを心の中で誓った。
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