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2-1 山と神隠し side A
6 光陰は百代の過客なり
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「そういう前提を踏まえた上で、だ」
ごそごそと、ロビンが自分のリュックを探り、スティックパッケージのチューイングキャンディを取り出した。チューイングキャンディの代表格とも言えるポピュラーなそのお菓子の中でも、一際ポピュラーなぶどう味である。
そのパッケージをぴりぴりと開けると、一粒を武に、もう一粒を弘に渡して、自分の分の一粒を取り出すと、本体自体はさっさとしまってしまう。
「……ええと、これで帰れる?」
「ことはそこまで簡単じゃない」
言いながら、包み紙を開いてロビンは中身を口に放り込む。
弘もなんら躊躇いなく口に入れているので、武もそれにならってキャンディを口に入れた。
慣れ親しんだお菓子らしいぶどうの味に少しホッとする。
その様を見届けたロビンが口を開いた。
「とりあえず、これで一蓮托生。運命共同体」
「つまり?」
「キミが帰れないなら、ボクらも帰れないってこと」
一人よりマシだろ、とロビンが言う。
一方、弘はふんす、と気合を入れて言う。
「まあ、いざとなれば強行軍です! 少なくとも、武くんのことは絶対に帰しますから安心してください」
なんとも言えない視線でそれを見たロビンだが、ため息をついて頭を横に振った。
どんどんこの二人の力関係が透けて見える。
「で、また最初に戻ろうか。タケル、君は自分が両親とはぐれてから、どれぐらい経ったと認識している? ざっくりで構わないよ」
「え……えーと」
そういえば、この情況になってから武は時計とかは確認していない。
だが、体感からして言えば。
「一時間とか、二時間とか、それぐらい?」
「これは幸いですね。この様子から短い方と睨んではいましたが、ここまで体力が残ってるのも道理です」
うんうん、と弘が頷く。
なんというか、その言い方はまるで――
「……なあ、ひろねーちゃん、実際はどれぐらい経ってるの?」
「……」
弘が無言でロビンをちらりと見て、ロビンがさらにそれにちらりと視線を返して頷く。
弘は言いにくそうに、口を開いた。
「さ、三週間……です」
「うそ!?」
せいぜいが一日、二日じゃないかと思っていた。
そもそも、武はこの場所で夜を経験していないのだが、しかし、この状況がそんな常識で測り得ないものとは既に把握している。
ロビンが当然と言わんばかりの表情で口を開く。
「竜宮城での三年が地上の七百年になる浦島太郎を考えれば、ないこともないだろ」
「ええ……そんなんでいいの?」
そりゃ、浦島太郎ぐらいなら武だって把握してるし、そんなこっちゃろうぐらい予想はついた。
でも、そこまで当然として話されるのは別である。
「ケルトのオシアンだって妖精の国での三年が三百年、妖精系の伝承だと一晩、妖精の踊りに合わせて、一晩バイオリン弾いてただけと思ってたのが百年で、聞いた瞬間、塵になったなんてのもあったなあ。『謬て仙家に入りて半日の客と為ると雖も、恐らく旧里に帰れば、纔に七世の孫に逢はん』は、大江の誰だっけ。備中国の狐に誑かされた良藤は十三年が十三日だから、長短が逆転してるけど、まあそれは今回の主題ではない。人の領域とそうじゃない場所で、時の流れが違うのは当たり前という話だからね」
「ロビンの場合、経験者は語るですしね。数分が半日でしたっけ」
弘のその言葉に、ロビンはあっさりと頷いた。
それでも、武として受け入れ難いのは事実である。
「さんしゅうかん……三週間……」
「前後を挟まれた状態なんていう余りに有り得ない状況だったから、これでもこっちに比較的早くお鉢が回って来たんだ。まあこんな胡散臭い輩に普通、簡単には事を回さないよ。実際、キミだって、こんな状況でなければボクらみたいなの、頼らないだろ?」
大概、詐欺師と罵られるのが関の山だからね、とロビンが言う。
納得と同時に悲哀を感じる言葉だった。
「……オレ、今後似たようなことあったらロビンにーちゃんみたいなの頼るし、オススメするわ」
「……おや、それはどうも」
同情と敬意と感謝が入り混じった末の敬称を、ロビンは片眉を上げて受け入れた。
ごそごそと、ロビンが自分のリュックを探り、スティックパッケージのチューイングキャンディを取り出した。チューイングキャンディの代表格とも言えるポピュラーなそのお菓子の中でも、一際ポピュラーなぶどう味である。
そのパッケージをぴりぴりと開けると、一粒を武に、もう一粒を弘に渡して、自分の分の一粒を取り出すと、本体自体はさっさとしまってしまう。
「……ええと、これで帰れる?」
「ことはそこまで簡単じゃない」
言いながら、包み紙を開いてロビンは中身を口に放り込む。
弘もなんら躊躇いなく口に入れているので、武もそれにならってキャンディを口に入れた。
慣れ親しんだお菓子らしいぶどうの味に少しホッとする。
その様を見届けたロビンが口を開いた。
「とりあえず、これで一蓮托生。運命共同体」
「つまり?」
「キミが帰れないなら、ボクらも帰れないってこと」
一人よりマシだろ、とロビンが言う。
一方、弘はふんす、と気合を入れて言う。
「まあ、いざとなれば強行軍です! 少なくとも、武くんのことは絶対に帰しますから安心してください」
なんとも言えない視線でそれを見たロビンだが、ため息をついて頭を横に振った。
どんどんこの二人の力関係が透けて見える。
「で、また最初に戻ろうか。タケル、君は自分が両親とはぐれてから、どれぐらい経ったと認識している? ざっくりで構わないよ」
「え……えーと」
そういえば、この情況になってから武は時計とかは確認していない。
だが、体感からして言えば。
「一時間とか、二時間とか、それぐらい?」
「これは幸いですね。この様子から短い方と睨んではいましたが、ここまで体力が残ってるのも道理です」
うんうん、と弘が頷く。
なんというか、その言い方はまるで――
「……なあ、ひろねーちゃん、実際はどれぐらい経ってるの?」
「……」
弘が無言でロビンをちらりと見て、ロビンがさらにそれにちらりと視線を返して頷く。
弘は言いにくそうに、口を開いた。
「さ、三週間……です」
「うそ!?」
せいぜいが一日、二日じゃないかと思っていた。
そもそも、武はこの場所で夜を経験していないのだが、しかし、この状況がそんな常識で測り得ないものとは既に把握している。
ロビンが当然と言わんばかりの表情で口を開く。
「竜宮城での三年が地上の七百年になる浦島太郎を考えれば、ないこともないだろ」
「ええ……そんなんでいいの?」
そりゃ、浦島太郎ぐらいなら武だって把握してるし、そんなこっちゃろうぐらい予想はついた。
でも、そこまで当然として話されるのは別である。
「ケルトのオシアンだって妖精の国での三年が三百年、妖精系の伝承だと一晩、妖精の踊りに合わせて、一晩バイオリン弾いてただけと思ってたのが百年で、聞いた瞬間、塵になったなんてのもあったなあ。『謬て仙家に入りて半日の客と為ると雖も、恐らく旧里に帰れば、纔に七世の孫に逢はん』は、大江の誰だっけ。備中国の狐に誑かされた良藤は十三年が十三日だから、長短が逆転してるけど、まあそれは今回の主題ではない。人の領域とそうじゃない場所で、時の流れが違うのは当たり前という話だからね」
「ロビンの場合、経験者は語るですしね。数分が半日でしたっけ」
弘のその言葉に、ロビンはあっさりと頷いた。
それでも、武として受け入れ難いのは事実である。
「さんしゅうかん……三週間……」
「前後を挟まれた状態なんていう余りに有り得ない状況だったから、これでもこっちに比較的早くお鉢が回って来たんだ。まあこんな胡散臭い輩に普通、簡単には事を回さないよ。実際、キミだって、こんな状況でなければボクらみたいなの、頼らないだろ?」
大概、詐欺師と罵られるのが関の山だからね、とロビンが言う。
納得と同時に悲哀を感じる言葉だった。
「……オレ、今後似たようなことあったらロビンにーちゃんみたいなの頼るし、オススメするわ」
「……おや、それはどうも」
同情と敬意と感謝が入り混じった末の敬称を、ロビンは片眉を上げて受け入れた。
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