怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話1 ロビンの話

Arthur O'Bower 14

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ドアが音を立てて閉まり、足音が遠ざかっていく。
振っていた右手を降ろす。
一度、胸いっぱいに大きく大きく息を吸って、吐き出した。
棚上げしたロビンの言葉を引き下ろして、吟味して、片手でチキンスープの入ったマグを持ったまま、片手で顔をおおった。

――お前は、渇望かつぼうするその場所には二度といたれない。
――わたくし貴方あなたのその可能性すべてを今つぶしたのよ。

エインセルが指定した代償の一つが、脳内でリフレインする。

「……ああ、ああ、なるほど、そうか、そっか、そういうことだったのか」

ああ。ああ、そういうことか。あの言葉は、あの笑みは。

エインセル妖精の意地悪気な笑顔を思い出す。

そうか、そうか。

「可能性を、無に……は、はははは、はははははは」

この笑いは何が可笑おかしいでもなく、自嘲の笑いだ。
可笑おかしいのは、おろかしいのは、他の誰でも何でもなく、それに気付けなかった僕だ。

わかっていた。本来、届きすらしないと、それはわかっていた。
その道に入ることはできないことは、当然だった。
だって、すでに近代化によって、かつて曖昧あいまいだったそれらに明確な線は引かれてしまったから。

それでも、僕らのような一部の人間はそうした道を感知することができる。ロビンが向こう側から干渉されてそうなったように。
その道は一つではない。僕の論理においてはうすぎぬである。
つまりは、この世界におけるレイヤーである。

今ここで感じているものはイヤに右目に詳細にうつる一方で、それ以上、事の前後で違いはない。
だって、結局、事の前だって僕はあのヒトを見ることはできなかったのだから。

「ああ……ああ、僕は結局、未練みれんたらたらじゃないか」

そもそもとして、届かなかっただろうことは理屈として理解している。
それだけで、満足できるかどうかは別として。

――それでも、ずっといっしょだからね。

そう言われても、今までは道の気配を感じる事はあっても、その道はあの瞬間、僕に対して閉ざされたに等しいのだ。
自分が得るはずだったものを奪った僕に、とその周囲の世界を欠片かけらとて感じる事を許さないと、エインセル妖精は呪って、結果、彼女が真実の色とまで言って祝福したロビンの目にすら見えなくなった。

それでも、これは僕自身の手持ちのカードで出来得る最善手だった。
それだけは明確に言える。
やれることをやりきったから、よぎもしもIfは手持ちのカードにないものをねだるだけのあまりにも不毛な考えでしかない。

もう一度、大きく息を吸って、吐き出した。
きっと、もう、いつものあの言葉をとなえても、あのなつかしい匂いをほんの少しも僕は感じられない。



そうして、意気消沈したものの、後日、シンシアは宣言通りにロビンがお見送りできるように僕を引き留め続け、そしてそのお見送りのその場で必死に涙をこらえるロビンに、「ぜったいににほんにいくから!」と言われて、一度別れた。

……のだが、中学生になった(想定外に早すぎる)ロビンがまさかの押しかけ弟子(一時的なつもりでなかった)になりに来た(と同時に、左目の事がバレて、ロビンにしこたま怒られてへそを曲げられた)のは、あんまり思い出したくないけど、また別の話なのである。
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