123 / 266
昔話1 ロビンの話
Arthur O'Bower 14
しおりを挟む
ドアが音を立てて閉まり、足音が遠ざかっていく。
振っていた右手を降ろす。
一度、胸いっぱいに大きく大きく息を吸って、吐き出した。
棚上げしたロビンの言葉を引き下ろして、吟味して、片手でチキンスープの入ったマグを持ったまま、片手で顔を覆った。
――お前は、渇望するその場所には二度と至れない。
――私、貴方のその可能性すべてを今踏み潰したのよ。
エインセルが指定した代償の一つが、脳内でリフレインする。
「……ああ、ああ、なるほど、そうか、そっか、そういうことだったのか」
ああ。ああ、そういうことか。あの言葉は、あの笑みは。
エインセルの意地悪気な笑顔を思い出す。
そうか、そうか。してやられた。
「可能性を、無に……は、はははは、はははははは」
この笑いは何が可笑しいでもなく、自嘲の笑いだ。
可笑しいのは、愚かしいのは、他の誰でも何でもなく、それに気付けなかった僕だ。
わかっていた。本来、届きすらしないと、それはわかっていた。
その道に入ることはできないことは、当然だった。
だって、既に近代化によって、かつて曖昧だったそれらに明確な線は引かれてしまったから。
それでも、僕らのような一部の人間はそうした道を感知することができる。ロビンが向こう側から干渉されてそうなったように。
その道は一つではない。僕の論理においては紗である。
つまりは、この世界における層である。
今ここで感じているものはイヤに右目に詳細に映る一方で、それ以上、事の前後で違いはない。
だって、結局、事の前だって僕はあのヒトを見ることはできなかったのだから。
「ああ……ああ、僕は結局、未練たらたらじゃないか」
そもそもとして、届かなかっただろうことは理屈として理解している。
それだけで、満足できるかどうかは別として。
――それでも、ずっといっしょだからね。
そう言われても、今までは道の気配を感じる事はあっても、その道はあの瞬間、僕に対して閉ざされたに等しいのだ。
自分が得るはずだったものを奪った僕に、あのひととその周囲の世界を欠片とて感じる事を許さないと、エインセルは呪って、結果、彼女が真実の色とまで言って祝福したロビンの目にすら見えなくなった。
それでも、これは僕自身の手持ちのカードで出来得る最善手だった。
それだけは明確に言える。
やれることをやりきったから、過るもしもは手持ちのカードにないものをねだるだけのあまりにも不毛な考えでしかない。
もう一度、大きく息を吸って、吐き出した。
きっと、もう、いつものあの言葉を唱えても、あの懐かしい匂いをほんの少しも僕は感じられない。
◆
そうして、意気消沈したものの、後日、シンシアは宣言通りにロビンがお見送りできるように僕を引き留め続け、そしてそのお見送りのその場で必死に涙を堪えるロビンに、「ぜったいににほんにいくから!」と言われて、一度別れた。
……のだが、中学生になった(想定外に早すぎる)ロビンがまさかの押しかけ弟子(一時的なつもりでなかった)になりに来た(と同時に、左目の事がバレて、ロビンにしこたま怒られてへそを曲げられた)のは、あんまり思い出したくないけど、また別の話なのである。
振っていた右手を降ろす。
一度、胸いっぱいに大きく大きく息を吸って、吐き出した。
棚上げしたロビンの言葉を引き下ろして、吟味して、片手でチキンスープの入ったマグを持ったまま、片手で顔を覆った。
――お前は、渇望するその場所には二度と至れない。
――私、貴方のその可能性すべてを今踏み潰したのよ。
エインセルが指定した代償の一つが、脳内でリフレインする。
「……ああ、ああ、なるほど、そうか、そっか、そういうことだったのか」
ああ。ああ、そういうことか。あの言葉は、あの笑みは。
エインセルの意地悪気な笑顔を思い出す。
そうか、そうか。してやられた。
「可能性を、無に……は、はははは、はははははは」
この笑いは何が可笑しいでもなく、自嘲の笑いだ。
可笑しいのは、愚かしいのは、他の誰でも何でもなく、それに気付けなかった僕だ。
わかっていた。本来、届きすらしないと、それはわかっていた。
その道に入ることはできないことは、当然だった。
だって、既に近代化によって、かつて曖昧だったそれらに明確な線は引かれてしまったから。
それでも、僕らのような一部の人間はそうした道を感知することができる。ロビンが向こう側から干渉されてそうなったように。
その道は一つではない。僕の論理においては紗である。
つまりは、この世界における層である。
今ここで感じているものはイヤに右目に詳細に映る一方で、それ以上、事の前後で違いはない。
だって、結局、事の前だって僕はあのヒトを見ることはできなかったのだから。
「ああ……ああ、僕は結局、未練たらたらじゃないか」
そもそもとして、届かなかっただろうことは理屈として理解している。
それだけで、満足できるかどうかは別として。
――それでも、ずっといっしょだからね。
そう言われても、今までは道の気配を感じる事はあっても、その道はあの瞬間、僕に対して閉ざされたに等しいのだ。
自分が得るはずだったものを奪った僕に、あのひととその周囲の世界を欠片とて感じる事を許さないと、エインセルは呪って、結果、彼女が真実の色とまで言って祝福したロビンの目にすら見えなくなった。
それでも、これは僕自身の手持ちのカードで出来得る最善手だった。
それだけは明確に言える。
やれることをやりきったから、過るもしもは手持ちのカードにないものをねだるだけのあまりにも不毛な考えでしかない。
もう一度、大きく息を吸って、吐き出した。
きっと、もう、いつものあの言葉を唱えても、あの懐かしい匂いをほんの少しも僕は感じられない。
◆
そうして、意気消沈したものの、後日、シンシアは宣言通りにロビンがお見送りできるように僕を引き留め続け、そしてそのお見送りのその場で必死に涙を堪えるロビンに、「ぜったいににほんにいくから!」と言われて、一度別れた。
……のだが、中学生になった(想定外に早すぎる)ロビンがまさかの押しかけ弟子(一時的なつもりでなかった)になりに来た(と同時に、左目の事がバレて、ロビンにしこたま怒られてへそを曲げられた)のは、あんまり思い出したくないけど、また別の話なのである。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
「お前のカメラ、ずっと映ってるよ」〜ホラースポット配信者が気づいた時には、もう遅かった〜
まさき
ホラー
ホラースポット専門のYouTuber・桐島悠は、霊も怪異も一切信じない合理主義者だ。
ある廃病院での配信中、今まで感じたことのない「違和感」を覚えた。しかし撮影は無事終了。その後も普通に配信を続け、あの夜のことなど忘れかけていた頃——深夜、金縛りにあう。
疲れてるだけだ。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
記憶の空白。知らない足跡。動画に毎回映り込む、同じ女の姿。そして——「やっと、見つけた」という声。
カメラが映し続けていたのは、心霊スポットではなかった。もっとずっと、近いところにいるものだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる