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昔話1 ロビンの話
Arthur O'Bower 11
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「……だから、その考え方をだね」
さらにシンシアが苦言を呈そうとしたところで、呼び鈴が鳴った。
眉間を揉みほぐしながら、シンシアはいそいそと部屋を出て行く。
心配されてるのはわかるけど、お小言は聞きたくないので、来訪者には感謝である。
シンシアが枕元の小物入れの上に置いて行ったマグカップを、そろりそろりと距離感をはかりつつ、なんとか倒したり零したりせずに手にする。
やっぱり温くなってそう。
そう思いながら中身を見ると、チキンスープにお米が入っている。お米はおそらくシンシアの気遣いだとは思うけど、普通によくあるヌードルで良かったんだけどな。
そう思いながらもそもそと食べる。
シンシアは料理上手だと思ってるし、不味くはないんだけど、うーん、餅は餅屋なら、ジャポニカ米は日本人。いや単純に慣れ親しんでる的な意味で。
しっかり炊いたお米が恋しい。しっかり粒の立った粘り気のあるいいお米が食べたい。帰るか、アリだな、カツ丼食べたい。親子丼もいい、お出汁の味。ソースカツ丼もいいな。
そんな舌と胃袋を起点としたホームシックから、帰る決意をうっすら決めていると、控えめにドアをノックする音がした。
「はい?」
返事をすれば小さくドアが開いて、ひょっこりと麦藁色の頭が心配そうな面持ちで覗いた。
「ロビン!」
「キミ、だいじょうぶ?」
泣きそうな顔のまま、部屋に入ったロビンは、とととと……、とベッドまで転げるように駆けてきた。
それを追って、シーラが困惑を浮かべた顔で入ってくる。
そりゃまあ、気まずかろうと思い、いつもの調子で、にぱっと笑って簡単な挨拶をする。
「あ、昨晩はお見苦しいところを……シンシアやロビンから聞いてるかとは思いますが、キミ・カツラギと言います」
「どうもご丁寧に。シーラ・イングラムです。いえ、こちらこそ、その、ロビンも、私もお世話になりまして、本当にありがとうございました」
そういえば、シンシアにシーラは繊細だからお前と絡ませたくないとはっきり言われたんだった。
確かに、線の細い如何にも繊細という儚さがあるが、昨日のアレで正気に戻ったと考えていいだろう。
彼女の発狂は謂わば、ロビンがどっちつかずだったが故の副産物とも考えられるのだから。
「キミ、はな、だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫。シンシアが言うには、熱もあったらしいけど、それも今は下がってるから」
そう言ったが、ロビンは眉を八の字にして、頻りにそわそわと視線を動かしている。
ちらりとシーラを見てみたが、彼女も首を傾げている。
少なくとも、この感じは左目のことではなさそうだけど。
「ロビン、どうかした?」
ちらりと僕の様子を窺って、明らかにしゅんと意気消沈したロビンは、あのね、と躊躇いながらも口を開いた。
「キミのまわりのキレイなかみさま、みえなくなっちゃった……」
その一言だけで、思考が停止した。
さらにシンシアが苦言を呈そうとしたところで、呼び鈴が鳴った。
眉間を揉みほぐしながら、シンシアはいそいそと部屋を出て行く。
心配されてるのはわかるけど、お小言は聞きたくないので、来訪者には感謝である。
シンシアが枕元の小物入れの上に置いて行ったマグカップを、そろりそろりと距離感をはかりつつ、なんとか倒したり零したりせずに手にする。
やっぱり温くなってそう。
そう思いながら中身を見ると、チキンスープにお米が入っている。お米はおそらくシンシアの気遣いだとは思うけど、普通によくあるヌードルで良かったんだけどな。
そう思いながらもそもそと食べる。
シンシアは料理上手だと思ってるし、不味くはないんだけど、うーん、餅は餅屋なら、ジャポニカ米は日本人。いや単純に慣れ親しんでる的な意味で。
しっかり炊いたお米が恋しい。しっかり粒の立った粘り気のあるいいお米が食べたい。帰るか、アリだな、カツ丼食べたい。親子丼もいい、お出汁の味。ソースカツ丼もいいな。
そんな舌と胃袋を起点としたホームシックから、帰る決意をうっすら決めていると、控えめにドアをノックする音がした。
「はい?」
返事をすれば小さくドアが開いて、ひょっこりと麦藁色の頭が心配そうな面持ちで覗いた。
「ロビン!」
「キミ、だいじょうぶ?」
泣きそうな顔のまま、部屋に入ったロビンは、とととと……、とベッドまで転げるように駆けてきた。
それを追って、シーラが困惑を浮かべた顔で入ってくる。
そりゃまあ、気まずかろうと思い、いつもの調子で、にぱっと笑って簡単な挨拶をする。
「あ、昨晩はお見苦しいところを……シンシアやロビンから聞いてるかとは思いますが、キミ・カツラギと言います」
「どうもご丁寧に。シーラ・イングラムです。いえ、こちらこそ、その、ロビンも、私もお世話になりまして、本当にありがとうございました」
そういえば、シンシアにシーラは繊細だからお前と絡ませたくないとはっきり言われたんだった。
確かに、線の細い如何にも繊細という儚さがあるが、昨日のアレで正気に戻ったと考えていいだろう。
彼女の発狂は謂わば、ロビンがどっちつかずだったが故の副産物とも考えられるのだから。
「キミ、はな、だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫。シンシアが言うには、熱もあったらしいけど、それも今は下がってるから」
そう言ったが、ロビンは眉を八の字にして、頻りにそわそわと視線を動かしている。
ちらりとシーラを見てみたが、彼女も首を傾げている。
少なくとも、この感じは左目のことではなさそうだけど。
「ロビン、どうかした?」
ちらりと僕の様子を窺って、明らかにしゅんと意気消沈したロビンは、あのね、と躊躇いながらも口を開いた。
「キミのまわりのキレイなかみさま、みえなくなっちゃった……」
その一言だけで、思考が停止した。
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