118 / 241
昔話1 ロビンの話
Arthur O'Bower 9
しおりを挟む
「ああ、でもさ、なんか右目から入って来る情報がやたら細かい気がするんだよね。いや、呪いだし祝福だって言われたから、まあ、そういうことかな」
そう言ってのければ、シンシアがため息をついた。
「……いいのかい」
「何が? 首を突っ込んだのは僕だもの」
そう返せば、シンシアが額に手を当てて、またため息をついた。
シンシアにとっては他人事なのだから、そうも深刻に受け止めずともいいのだと思いながら笑顔を作る。
「それに右目は生きてるわけだし」
「……あんたの事情を、知らないでもないから、軽々しく言うことはできないけどさ、普通は、貧乏くじって言うやつだよ」
反論はできない。確かに、それはそうだろう。
それでも、僕がたとえそれが棺桶だろうと突っ込んだのは。
「……うん、まあ、ロビンに自己投影してたのは認めるよ」
神隠し。実母とのすれ違い。祖母との確執。
内容や順番こそ違えど、それらのキーワードは全て僕にも当てはまるのだ。
駆け落ちして、最終的に自身が仕えていた神に僕を託して死んだ母。
そうして守られたとはいえ、祖母自身が認めなかった父の血を引いているせいか、常に必要最低限の接触しかしなかった祖母。
父は、母が死ぬ前に死んだので、僕は覚えていない。
「だから、事が大きくなる前に対処できた事の方が、僕には大事だよ」
「そうもはっきり言われると困るね。あんたは、そういう自覚を持ってそう動くから、余計に厄介なんだ」
見てるこっちの身にもなっておくれよ。
そうシンシアがぼやいた。
「そう言ってもらえると、ちょっと嬉しいなあ」
「……病み上がりとはいえ、一発入れといた方がいいのかい」
「…………ごめんね、シンシア」
またため息をついたシンシアは、枕元の照明を置いている小物入れの上にマグカップを置いて、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「うわ」
「あたし以外にも、そう言うやつはいるっての……で、呪いであり、祝福で、なんで左目を持ってかれたのさ」
「ああ、うん、それはね、ゲルマンのオーディン」
シンシアに撫でられて、ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で整えつつ答える。
シンシアはいきなりのビッグネームに目を丸くしている。
「は?」
「シンシア、ソロモン・グランディが結婚した曜日は?」
「マザーグース? 水曜日だけどさ」
「じゃあ、不幸だらけの子が生まれる曜日は?」
「それも、水曜日だけど」
「水曜日が冠するものと似た匂い、夜の嵐の匂いって散々言われたんだよね」
はあ? とシンシアはぽっかり口を開けた。
どちらかというと、理解はしたが受け付けたくないという拒否反応と見た。
水曜日。
その直接の語源は北欧やゲルマンにおける主神オーディンの英語系、ウォーデンに由来するという。大抵の英語学習者がスペリングで躓く黙字の「d」はそういうことなのだ。
まあ、火曜日は同じくテュールだし、木曜日はトールだし、金曜日はフリッガとフレイヤの説があるんだっけ。
とはいえ、曜日そのものとしての元は、ローマ神話のメルクリウス、つまりはギリシャ神話の商売の神にして自身も商売上手なヘルメースの曜日である。ヘルメースの権能といえば、余りに多岐に渡り過ぎてるからね。
「極めつけに魂の導き手って言っててね? あれ、本来はヘルメースの死神としての側面のギリシャ語の呼び名で、ヘルメースと習合したメルクリウスが、ゲルマンの方で更にオーディンと習合した時の呼び名じゃん。ほら、オーディンって英雄の魂集めるだろ?」
「……そんな大それたもんと? あんたが? 似てるって?」
「うん、まあ、そういうことになるね。夜の嵐の方は野生の猟団だろうし、完全にそれだね」
英国のみならず、ヨーロッパ全土に伝承のある野生の猟団。
そんなふうな状態なのだから、当然その首魁も多岐に渡るのだけど、内比較的古くから語られている首魁の一つがオーディンである。
そう言ってのければ、シンシアがため息をついた。
「……いいのかい」
「何が? 首を突っ込んだのは僕だもの」
そう返せば、シンシアが額に手を当てて、またため息をついた。
シンシアにとっては他人事なのだから、そうも深刻に受け止めずともいいのだと思いながら笑顔を作る。
「それに右目は生きてるわけだし」
「……あんたの事情を、知らないでもないから、軽々しく言うことはできないけどさ、普通は、貧乏くじって言うやつだよ」
反論はできない。確かに、それはそうだろう。
それでも、僕がたとえそれが棺桶だろうと突っ込んだのは。
「……うん、まあ、ロビンに自己投影してたのは認めるよ」
神隠し。実母とのすれ違い。祖母との確執。
内容や順番こそ違えど、それらのキーワードは全て僕にも当てはまるのだ。
駆け落ちして、最終的に自身が仕えていた神に僕を託して死んだ母。
そうして守られたとはいえ、祖母自身が認めなかった父の血を引いているせいか、常に必要最低限の接触しかしなかった祖母。
父は、母が死ぬ前に死んだので、僕は覚えていない。
「だから、事が大きくなる前に対処できた事の方が、僕には大事だよ」
「そうもはっきり言われると困るね。あんたは、そういう自覚を持ってそう動くから、余計に厄介なんだ」
見てるこっちの身にもなっておくれよ。
そうシンシアがぼやいた。
「そう言ってもらえると、ちょっと嬉しいなあ」
「……病み上がりとはいえ、一発入れといた方がいいのかい」
「…………ごめんね、シンシア」
またため息をついたシンシアは、枕元の照明を置いている小物入れの上にマグカップを置いて、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「うわ」
「あたし以外にも、そう言うやつはいるっての……で、呪いであり、祝福で、なんで左目を持ってかれたのさ」
「ああ、うん、それはね、ゲルマンのオーディン」
シンシアに撫でられて、ぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で整えつつ答える。
シンシアはいきなりのビッグネームに目を丸くしている。
「は?」
「シンシア、ソロモン・グランディが結婚した曜日は?」
「マザーグース? 水曜日だけどさ」
「じゃあ、不幸だらけの子が生まれる曜日は?」
「それも、水曜日だけど」
「水曜日が冠するものと似た匂い、夜の嵐の匂いって散々言われたんだよね」
はあ? とシンシアはぽっかり口を開けた。
どちらかというと、理解はしたが受け付けたくないという拒否反応と見た。
水曜日。
その直接の語源は北欧やゲルマンにおける主神オーディンの英語系、ウォーデンに由来するという。大抵の英語学習者がスペリングで躓く黙字の「d」はそういうことなのだ。
まあ、火曜日は同じくテュールだし、木曜日はトールだし、金曜日はフリッガとフレイヤの説があるんだっけ。
とはいえ、曜日そのものとしての元は、ローマ神話のメルクリウス、つまりはギリシャ神話の商売の神にして自身も商売上手なヘルメースの曜日である。ヘルメースの権能といえば、余りに多岐に渡り過ぎてるからね。
「極めつけに魂の導き手って言っててね? あれ、本来はヘルメースの死神としての側面のギリシャ語の呼び名で、ヘルメースと習合したメルクリウスが、ゲルマンの方で更にオーディンと習合した時の呼び名じゃん。ほら、オーディンって英雄の魂集めるだろ?」
「……そんな大それたもんと? あんたが? 似てるって?」
「うん、まあ、そういうことになるね。夜の嵐の方は野生の猟団だろうし、完全にそれだね」
英国のみならず、ヨーロッパ全土に伝承のある野生の猟団。
そんなふうな状態なのだから、当然その首魁も多岐に渡るのだけど、内比較的古くから語られている首魁の一つがオーディンである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる