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昔話1 ロビンの話
Arthur O'Bower 6
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シーラとロビンの様子を目を細めてみていたエインセルが、くるりと衣の裾を翻して、こちらに向き直って微笑む。
「さて、賢しい嵐の匂いのエインセル。これで貴方の願いは叶ったかしら」
「ええ、何一つとて滞りなく、恙無く。貴女の寛大なるご配慮に与り、誠に感謝いたします」
こちらに話しかけるエインセルに合わせて立ち上がり、一礼をする。
エインセルはくつくつと、玉虫色の目で楽しそうに、嬉しそうに、憐れむように笑う。
「ああ、本当に楽しかったわ。ああ、本当に終わりが残念でたまらないわ。それに、本当に悔しいわ。だから、そうねこの二つだけで済ませてあげる」
すっと滑るように寄って来たエインセルがしなだれかかるように抱き着いてきて、そして耳元で甘やかな声で囁く。
受け止めた身体は夢のように、ふわふわと現実味のない柔らかな感触がした。
「まず、一つ。お前は、渇望するその場所には二度と至れない」
それは、既に自覚があったことだった。
三年間、主観ではたった三カ月だけ閉じ込められていた、あの世界。
――あれは人ならざるものの領域で、だから七つで追い出された。放逐された。
それでも惜しんで、あのヒトは僕の傍にいてくれているのだと理解している。
「愛おしい」というのは「いと惜しい」なのだから。
「……それは、最初からでは?」
そう納得しているものをまざまざと突きつけられるのは、心を抉れど、それ以上は何もない。
だから拍子抜けした。
「ふふ、あら、人というのは可能性の塊ではなくて? 私、貴方のその可能性すべてを今踏み潰したのよ」
しかし、エインセルはわざと意地の悪そうな笑顔を浮かべてそう言うと、僕から身を離す。
渇望すれども届かない、むしろ届くべきではないものとしているそれを確定されるぐらいならば、それは確かに寛大な処置と言えるだろう。
「そうね、そして、もう一つ。これは呪いで祝福。もとより人に収まらぬのに人であるお前を研ぎ澄まし、永遠と収まらぬものとする呪いで祝福」
ぴっとエインセルが僕の胸元、心臓の辺りを指差す。
その指がつうっと僕の左目に向かい、そして、そのまま僕の視界の半分はエインセルの手で埋められた。
反射的に退きそうになる身体を、理性を総動員して抑える。
強張った僕を見て、エインセルは呆れたように軽くため息を吐いた。
「……本当に強情で賢しい子。そのまま退けば、お前は代償を支払わずに済むのに」
「はは、それでは貴女をお呼びした甲斐がないというものでしょう。僕は醒めれば消える夢を望んだわけではないと、貴女はご存知のはずです」
眼球に触れるぎりぎりで静止しているエインセルの指先に、瞬きを我慢しながらそう返す。
呪いで祝福って何する気なのかが、怖い。
「さて、賢しい嵐の匂いのエインセル。これで貴方の願いは叶ったかしら」
「ええ、何一つとて滞りなく、恙無く。貴女の寛大なるご配慮に与り、誠に感謝いたします」
こちらに話しかけるエインセルに合わせて立ち上がり、一礼をする。
エインセルはくつくつと、玉虫色の目で楽しそうに、嬉しそうに、憐れむように笑う。
「ああ、本当に楽しかったわ。ああ、本当に終わりが残念でたまらないわ。それに、本当に悔しいわ。だから、そうねこの二つだけで済ませてあげる」
すっと滑るように寄って来たエインセルがしなだれかかるように抱き着いてきて、そして耳元で甘やかな声で囁く。
受け止めた身体は夢のように、ふわふわと現実味のない柔らかな感触がした。
「まず、一つ。お前は、渇望するその場所には二度と至れない」
それは、既に自覚があったことだった。
三年間、主観ではたった三カ月だけ閉じ込められていた、あの世界。
――あれは人ならざるものの領域で、だから七つで追い出された。放逐された。
それでも惜しんで、あのヒトは僕の傍にいてくれているのだと理解している。
「愛おしい」というのは「いと惜しい」なのだから。
「……それは、最初からでは?」
そう納得しているものをまざまざと突きつけられるのは、心を抉れど、それ以上は何もない。
だから拍子抜けした。
「ふふ、あら、人というのは可能性の塊ではなくて? 私、貴方のその可能性すべてを今踏み潰したのよ」
しかし、エインセルはわざと意地の悪そうな笑顔を浮かべてそう言うと、僕から身を離す。
渇望すれども届かない、むしろ届くべきではないものとしているそれを確定されるぐらいならば、それは確かに寛大な処置と言えるだろう。
「そうね、そして、もう一つ。これは呪いで祝福。もとより人に収まらぬのに人であるお前を研ぎ澄まし、永遠と収まらぬものとする呪いで祝福」
ぴっとエインセルが僕の胸元、心臓の辺りを指差す。
その指がつうっと僕の左目に向かい、そして、そのまま僕の視界の半分はエインセルの手で埋められた。
反射的に退きそうになる身体を、理性を総動員して抑える。
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「……本当に強情で賢しい子。そのまま退けば、お前は代償を支払わずに済むのに」
「はは、それでは貴女をお呼びした甲斐がないというものでしょう。僕は醒めれば消える夢を望んだわけではないと、貴女はご存知のはずです」
眼球に触れるぎりぎりで静止しているエインセルの指先に、瞬きを我慢しながらそう返す。
呪いで祝福って何する気なのかが、怖い。
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