怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話1 ロビンの話

Arthur O'Bower 1

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こかげのアーサーArthur O'Bowerかせちぎりhas broken his band,
 むかってくればHe comes roaring地がうなり、 up the land.
 スコットランドの王さまがKing of Scots withぜんぶの力を使っても all his power
 少しも向きを変えやしないのがCannot turnこかげのアーサーArthur O'Bower

英国に古くからあるわらべ唄nursery rhymeにおけるなぞなぞriddleの一つ。
Little Nancy EtticoatそくOld Mother Twitched had but one eyeと比《くら》べれば知名度は劣《おと》るけれど。

このなぞなぞriddleの答え。
ここで言う「こかげのアーサーArthur O'Bower」は、「嵐の風wind of storm」を擬人化したものだ。
そして、おそらく、ここに「アーサーArthur」の名が使われる必然性は、ヨーロッパ全域に伝わる嵐をともなう怪異、人ならざる猟団Wild Huntに由来すると思われる。



「おやまあ、妖精に名前をたずねるとは。いいえ、その度胸とにおいに免じましょう。そうね、エインセルとお呼びになって」
かしこまりました、エインセル殿」
「そして、わたくし貴方あなたをなんと呼べばいいのかしら」

人間相手には胡散臭うさんくさい、胡散臭うさんくさいと言われ続ける笑顔を浮かべたまま、口を開く。
生憎あいにくと、ここで禁忌タブーおかすほどの豪胆ごうたんさを僕は持ち合わせないし、そこまで無知でもない。危ない橋を渡る自覚はあるけどね。



古くは『オデュッセイア』のポリュペーモスのくだりでも見られる、別の意味合いを持った偽名による名乗り。
それは『オデュッセイア』のように、「誰でもなかったウーティス」り、今回のように「自分自身エインセル」だったりする。
それを聞いて、彼女が少しばかり眉を上げ、うっすらと笑みを深める。
わからなければそれでよし。わかってて乗ってくれるなら、それはそれでよし。

「……そう。それで? 嵐のにおいの人界のエインセル、わざわざわたくしを呼び立てたからには何かがあるのでしょう?」
「はい。此方こちらにいる者について、少しばかり意見をまじえたく」

ニワトコelderの下のロビンに視線を向ければ、ロビンが息を飲むのがわかった。
エインセルには見えないように、軽くウインクをしてみせる。もうやるしかないと自身の退路をつためでもある。

「ふふ、うふふふふ。やはり、手慣れているのね。こうしてわたくしを呼んでみせたのだもの。そうね、貴方あなた、対価には十分だわ」
「残念にしてまことに申し訳ございませんが、僕はとうにあおぐ方を決めておりますので。貴女あなたには、おわかりでしょう?」

そう言えば、ころころと鈴を転がすようにエインセルが笑う。
よくまあ、随分ずいぶんと笑ってみせる。
あわよくばロビンを連れて行けないか、あるいは僕を連れて行きたいのか。
こちらの警戒を読まれていそうな気はする。

「あら、残念。それでもコマドリの胸を染めた血の主をあおぐよりは好ましいのだけど。そうね、でも、久方ひさかたぶりにこうしてお呼ばれしたのだもの、ここで終わりにしては勿体もったいないわ」
「でしょう? ですから、一時ばかり、貴女あなたのお時間を頂けますか?」

すうっと笑みの形のまま、エインセルは目をわずかに開いた。
玉虫の色。色そのものとして作り得ず、光によってのみ存在する構造色。
その笑いが本当に人間の笑いなのかはわからない。
こちらのことわりに乗るつもりがあるのかすらもわからない。
つまるところ、向こうについて、何も読めない。

「そうね、夜の嵐のエインセル、かまわなくてよ。いいえ、貴方あなたならば、喜んで!」

交渉のテーブルにつかせる段階は突破。
じっとりと背中を冷や汗が伝った。
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