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昔話1 ロビンの話

How many miles to Babylon? 8

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「ガーデンテーブルよーし、お茶よーし、お茶菓子よーし、ロビンのスタンバイよーし」

というわけで当然の流れとして、シンシアの家の庭のすみに置いたガーデンテーブルとその上に乗ったお茶とお茶菓子、そしてちょっと離れたニワトコelderの木の下のロビンをそれぞれ指差し確認する僕なのだった。
シンシアはバックアップ要員あつかいで、とりあえず例の結界を張ったままのリビングダイニングの窓からのぞいててもらう。
ちなみに、ロビンにはまず手折たおったニワトコelderの枝を握ってもらってからここに連れてきた。ここまで来て、そこは抜かりない。

空は良い具合にオレンジに染まっている。日本で言えば、がれ時。
あつらえ向きとしか言いようがない。

「ロビン、いくつか質問したとしても、キミは正直に、思う通りにはいYESと答えてくれればいいからね」
「うん」

口を真一文字に結んで、真剣な表情でロビンはうなずいた。
最初を思えば、相当心を開いてくれている。それなら、その信頼には答えたいところ。
本気のスイッチを入れるために、いまだ見えぬとげひそんだようなひりひりとする空気を大きく吸った。

「そらみつ、やまとは、あをやぎの、かづらきやまの、のもりのかがみ、ますみかがみの、きよらなる、うきよをのべかがみしてましませば、まがこと、よごと、おしなべて、ただひとことに、ことさきたまへるおんみこそ、おほかみなるべしと、おほぶねのおもひたのみに、かけまくもかしこみて、ここにのりたてまつる」

目を閉じれば、こけのような、山中やまなかの沢のような、懐かしいにおいが空気に混じる。
余分な気負きおいが全て抜けて、自然とくちびるが弧を描いた。

妖精の国まで何マイル?How many miles to Fairy-land?
 一マイルすらありゃしない!It's not any miles!
 五月の初めThe first of May夜明けの野原The fields at break of day
 乙女を洗う露宿すはサンザシIt's a hawthorn, wet with dew to wash fair maid.
 もしも、あなたが望むのならばIf you wish to get there ろうそくの光で往復できる!and to back again by candle-light!

ざあざあと風が木立こだちを揺らす音。ロビンが息を飲む音。
そして、何よりも、空気の圧迫感の度合いが変わったことで成功を確信して、目を開く。

「ご機嫌きげんよう、異邦人にもかかわらず、ふるき夜の嵐のいかめしきにおまとう者」

甘さと青臭さの入り混ざった清涼せいりょうな香りと共に、絶世の美女と言うべき女性が一人、そこに立っていた。
白く軽い布地の貫頭衣かんとういをベースとしていそうな服は柔らかく無数のドレープを作って芝の上に落ちている。
緩やかにカーブを描きながら、吹いていない風になびく髪は燃えるように赤く長く、毛先に行くほどに色素が薄くなっていて金に見えた。
笑みたたえてこちらを見る目は緑のようで、青のようで、赤のようで、つまりは玉虫色だった。

――あれ、これ想定していたよりも、ずっと大変そうな気がする。
そんな思いを飲み込んで、僕はにっこりと笑って見せた。

「ご機嫌きげんうるわしゅう、ふるひさしき御方おかた此方こちらまねきに応じていただき、光栄のきわみです……お名前をおうかがいしても?」

異邦人と向こうが言っているのだ。多少の目こぼしはしてくれるだろう。
そんな打算で、禁忌タブーおかす。地雷原のきわでタップダンスだ。
彼女はころころと可笑おかしそうに笑った。

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