怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話1 ロビンの話

How many miles to Babylon? 3

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「取り急ぎ、シンシア、キミの知識がほしい」
「はいはい、で、何さ?」

シンシアは半分ぐらい自棄やけで聞く態勢に入る。

「ロビンの目、たぶん、妖精の軟膏なんこうだ」
妖精の軟膏だってFairy Ointment? はあ、まあ、さっきの言い分と理屈は合うだろうけど」
「あと、ロビンのお母さんはたぶんに確保されてる」
「それを先にお言い!」

瞬間しゅんかん湯沸ゆわかし
そんな言葉が脳裏をよぎった。

は約束はたがえないんだろ? ロビンに対して、と言ったなら、確保してるだけだ。ロビンが決断をくだすまでは、本格的な問題にはならないと思う」
「……そうだね、そのあたりは人間の方が簡単にひるがえすからね」

とはいえ、シンシアにきたいことはそんなことではない。

「シンシア、妖精の軟膏なんこう顛末てんまつ、キミも当然知ってるだろう?」
「ああ、うっかり、軟膏なんこうのついた手で目をこすって、善き隣人達good fellowsの本当の姿を見ちまって追い出されたり、帰らされたりするってやつだろ」
「でもさ」

気になる点があるのだ。
他の妖精伝承を考えてみてもちょっと引っかかる。

「その軟膏なんこう、そもそも、妖精が自分の子供のまぶたれって指示したものだろう? じゃあ、らせた?」
「そんなのわかるわけないだろ、語られてないんだし」

さっきからシンシアの眉間のしわが心配だが、そうも言ってられない。
それに、の行動はいわば自身が思う理想像の投影であって、その裏にある論理もまた、結局は自身の直感にしたがうか、えて反しているかのどちらかだ。
だから、というわけはない。

「違うよ。語られてないってことはか、か、のどっちかだよ」

ああ、またシンシアの眉間のしわが深くなった。
ちょっと申し訳ない。

「だから、シンシアの協力が欲しい。論理を組み立てて、それを指向性として押し付けるのは僕ができる。その論理の正当性を補完ほかんするために、キミの持っている暗黙の了解が欲しい」
「……いや、それで何をしようとしてるのかが、わからないんだよ。あんたの頭についてける人間の方が少ないってわからんのかい?」

鼻息を荒くしたシンシアを見返して、ふむ、そうだった、と思う。
僕の悪いクセだとは思うけど、思ってるけど、思うだけで直ってれば苦労は何一つだってない。

「ロビンのこの力。このままじゃ、どっちにしろ、遅かれ早かれ、ロビンはか、ぞ。まあ、これ、同義だけどね」

座ったまま、シンシアと僕の様子をじっと黙ってうかがっていたロビンが、びくりと肩をふるわせた。
シンシアだってわかっていなかったわけではないだろう。顔が引きつっている。
そんな二人の前で、僕はきっぱりと宣言した。

「だから、これを祝福として定義させて、が手出しできないようにする」
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