99 / 266
昔話1 ロビンの話
Good fellows' Robin 9
しおりを挟む
「ロビンはシンシアをどう思ってるの?」
大人を見れば大概逃げるというロビンをシンシアは引っ捕まえて、こうして面倒を見ている。
ロビンはサンドイッチの最後の一口を入れた口をもごもごしながら、シンシアをちらりと見た。
「大丈夫、大丈夫、シンシアに怒られるとしたら僕だから」
「……こんなこと言うヤツより、よっぽど真っ当なことしか言わないと思ってるよ」
とうとう、シンシアが僕を指差してそう言った。
爆破するからには、余所者は余所者らしく、泥を被るべきなのであるからして、僕としては全然構わない。
ロビンは今度は僕の方を見てから、口の中のものを飲み込んだ。
「……シンシアのはキレイで、やさしいの」
シンシアが眉を上げる。
それなら、と続けて問うてみる。
「他の周りの人は?」
「……シンシアやキミぐらいキレイなのはみないの。でも、こわいのとか、かなしいのがいるの」
思い出したのか、少し身を縮こめて、だからイヤなの、とロビンは吐息混じりに言った。
さて、そしたらもう一度泥でも被ろうか。
「ロビン」
シンシアが口を挟む前に、その続きを言い切る。
「キミが今まで見た中で、一番怖かったのは誰?」
「……」
身を縮込めたまま、ロビンは静かに瞬きを繰り返した。
シンシアの視線が気遣わしげにロビンに向き、それから突き刺すような非難を込めて僕に向いて、またロビンに戻る。
ロビンは僕を途方に暮れたように見上げて、口を開いた。
「……キミ、なんでもわかっちゃうの?」
「まさか。僕だって知らない事、わからない事はあるよ。だから、知りたいし、わかろうとして、いつだって必死に頭を回すのさ。だから、時々気付いたら、ゴールに着いてる」
「……」
「でもね、結局それは僕の思考でしかなくて、音や記号という言葉や概念でしかない。それは、それそのものとはかけ離れている。何故なら、そうした言葉や概念というものは、究極的に偽りでしかないから」
そこまで言って、言い過ぎたな、と思う。
いくらなんでも、小学校の低学年が理解できるはずもない。
シンシアの大人気ないことを、という呆れた視線が突き刺さる。
「……難しかったね」
「どういうこと?」
苦笑して言えば、ロビンは真っ直ぐにそう言った。
「無理して理解することでもないよ、ロビン。こいつはこういう小難しい事を平気な顔して言うんだ」
まったくもって正論をシンシアが言うが、しかし、ロビンは首を横に振った。
「がんばって、かんがえるよ。だから、おしえて」
「……そうだなあ」
どう伝えようか。せっかくならついでに真実がわかるようにしようか。
今回についてはどうやったって、治療には、しばしば傷以上の痛みがあるのだし。
「うーん、そうだねえ、例えば、僕はキミの火傷、キミのお母さんがやったんじゃないか、と思った。でもこれは僕の思考・想像であって、ロビンの経験した本当とは全然違うかもしれない」
「……うん、ちがうの。お母さんじゃないの」
シンシアが渋面を作って僕を睨んでいる。
それを横目で見てから、まあそうなると十中八九彼女かと考えながら、ロビンに向かって言う。
「そう。あくまで、僕の頭の中のもので目の前で起きたことでもなければ、経験したことでもない。けれど、言葉でこうして表してしまうことはできる」
「……うそをつけるってこと?」
「そうだねえ、そうでもあるんだけど、例えばリンゴって言ったって、本当にその場にリンゴがあるかどうかはどうでもいいだろ? でも現実としてリンゴは木だったり、実だったり、花だったり、形態こそ変われど、リンゴと呼ばれる実体は確かに存在することはあるけど、リンゴと呼んだ段階でその場にその確実性はない」
今シンシアの眉間に寄ったしわは、どちらかといえば、理解が及ばん、という感情だろう。
ロビンも一生懸命考え込んでいる。
「……えっと、リンゴって言った時に、そこに本当にリンゴがあるわけじゃない?」
「そうだよ。今だってロビンの目の前にはリンゴはないじゃないか。けれど、ロビンはリンゴと口にした。加えて、リンゴって言ったところで、リンゴの何を指してるかは変わるじゃないか、花なのか実なのかとかね。言葉において、それに付随する広範な概念……イメージは常に伴っても、現実的本質……実体を常に伴うとは限らない」
シンシアの眉間のしわが更に深くなったタイミングで、呼び鈴が鳴った。
大人を見れば大概逃げるというロビンをシンシアは引っ捕まえて、こうして面倒を見ている。
ロビンはサンドイッチの最後の一口を入れた口をもごもごしながら、シンシアをちらりと見た。
「大丈夫、大丈夫、シンシアに怒られるとしたら僕だから」
「……こんなこと言うヤツより、よっぽど真っ当なことしか言わないと思ってるよ」
とうとう、シンシアが僕を指差してそう言った。
爆破するからには、余所者は余所者らしく、泥を被るべきなのであるからして、僕としては全然構わない。
ロビンは今度は僕の方を見てから、口の中のものを飲み込んだ。
「……シンシアのはキレイで、やさしいの」
シンシアが眉を上げる。
それなら、と続けて問うてみる。
「他の周りの人は?」
「……シンシアやキミぐらいキレイなのはみないの。でも、こわいのとか、かなしいのがいるの」
思い出したのか、少し身を縮こめて、だからイヤなの、とロビンは吐息混じりに言った。
さて、そしたらもう一度泥でも被ろうか。
「ロビン」
シンシアが口を挟む前に、その続きを言い切る。
「キミが今まで見た中で、一番怖かったのは誰?」
「……」
身を縮込めたまま、ロビンは静かに瞬きを繰り返した。
シンシアの視線が気遣わしげにロビンに向き、それから突き刺すような非難を込めて僕に向いて、またロビンに戻る。
ロビンは僕を途方に暮れたように見上げて、口を開いた。
「……キミ、なんでもわかっちゃうの?」
「まさか。僕だって知らない事、わからない事はあるよ。だから、知りたいし、わかろうとして、いつだって必死に頭を回すのさ。だから、時々気付いたら、ゴールに着いてる」
「……」
「でもね、結局それは僕の思考でしかなくて、音や記号という言葉や概念でしかない。それは、それそのものとはかけ離れている。何故なら、そうした言葉や概念というものは、究極的に偽りでしかないから」
そこまで言って、言い過ぎたな、と思う。
いくらなんでも、小学校の低学年が理解できるはずもない。
シンシアの大人気ないことを、という呆れた視線が突き刺さる。
「……難しかったね」
「どういうこと?」
苦笑して言えば、ロビンは真っ直ぐにそう言った。
「無理して理解することでもないよ、ロビン。こいつはこういう小難しい事を平気な顔して言うんだ」
まったくもって正論をシンシアが言うが、しかし、ロビンは首を横に振った。
「がんばって、かんがえるよ。だから、おしえて」
「……そうだなあ」
どう伝えようか。せっかくならついでに真実がわかるようにしようか。
今回についてはどうやったって、治療には、しばしば傷以上の痛みがあるのだし。
「うーん、そうだねえ、例えば、僕はキミの火傷、キミのお母さんがやったんじゃないか、と思った。でもこれは僕の思考・想像であって、ロビンの経験した本当とは全然違うかもしれない」
「……うん、ちがうの。お母さんじゃないの」
シンシアが渋面を作って僕を睨んでいる。
それを横目で見てから、まあそうなると十中八九彼女かと考えながら、ロビンに向かって言う。
「そう。あくまで、僕の頭の中のもので目の前で起きたことでもなければ、経験したことでもない。けれど、言葉でこうして表してしまうことはできる」
「……うそをつけるってこと?」
「そうだねえ、そうでもあるんだけど、例えばリンゴって言ったって、本当にその場にリンゴがあるかどうかはどうでもいいだろ? でも現実としてリンゴは木だったり、実だったり、花だったり、形態こそ変われど、リンゴと呼ばれる実体は確かに存在することはあるけど、リンゴと呼んだ段階でその場にその確実性はない」
今シンシアの眉間に寄ったしわは、どちらかといえば、理解が及ばん、という感情だろう。
ロビンも一生懸命考え込んでいる。
「……えっと、リンゴって言った時に、そこに本当にリンゴがあるわけじゃない?」
「そうだよ。今だってロビンの目の前にはリンゴはないじゃないか。けれど、ロビンはリンゴと口にした。加えて、リンゴって言ったところで、リンゴの何を指してるかは変わるじゃないか、花なのか実なのかとかね。言葉において、それに付随する広範な概念……イメージは常に伴っても、現実的本質……実体を常に伴うとは限らない」
シンシアの眉間のしわが更に深くなったタイミングで、呼び鈴が鳴った。
0
あなたにおすすめの小説
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。
意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。
隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
焔と華 ―信長と帰蝶の恋―
幸
歴史・時代
うつけと呼ばれた男――織田信長。
政略の華とされた女――帰蝶(濃姫)。
冷えた政略結婚から始まったふたりの関係は、やがて本物の愛へと変わっていく。
戦乱の世を駆け抜けた「焔」と「華」の、儚くも燃え上がる恋の物語。
※全編チャットGPTにて生成しています
加筆修正しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる