怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話1 ロビンの話

Good fellows' Robin 4

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、あんた、ちょっと救急箱と薬持ってきて」
了解Roger

シンシアは即座にさっき連行した時と同じロビンの右腕をつかんで指示を出し、僕はその指示通りに居間まで走って、救急箱とシンシアお手製てせい軟膏なんこうが複数種入った箱を両手にげてとって返す。

戻ってきた時には、何をどうせたのか、それとも無理矢理むりやりに脱がせたのかは分からないが、ロビン少年の痛々しい左肩がき出しになっていた。
それでも、そこには最低限とばかりに分厚いガーゼがテープでめられているような状態だった。
シンシアはとっくに顔をしかめている。

「ロビン、あんた、なんかあったら言いなって、散々さんざん言ってたのに」
「……」
「シンシア、小言こごとは後にしなよ。今、後悔は役に立たないぞ」

そう言って、救急箱と軟膏なんこうおさまった箱を渡す。

「そうだね、あんたに言われるまでもない。ロビン、ガーゼがすよ」

こくり、とロビンがうなずく。
ぺりりと小さな音を立ててガーゼをがした先には、長方形の水膨みずぶくれが出来ていた。

火傷やけど?」
「だね、つぶれてないのは幸いさ。ロビン、痛くはないかい」
「……すこし、だけ」

か細い声に、再びシンシアと顔を見合わせる。

「感覚の鈍麻どんまともなうのは割と深めの火傷やけどだったね」
「そうだね。ロビン、これ、誰にやられた?」

シンシアの言葉に、しかし、ロビンは口をつぐんだ。
梃子てこでも口を開かないだろう様子に、シンシアは困った顔をしながら、手製の軟膏なんこうの中から一つを選んで、その患部に優しくりつける。

「その軟膏、何?」
「ん? ラベンダー」

どうりでかた清々すがすがしい芯のあるさわやかさにほのかに甘さが香るわけである。

「シンシア、僕もなんかしていい?」
「なんかって、良い方にいくなんかだろ? なあ、ロビン、あんたもこれが続くのはイヤだよね?」

こくりとロビンがうなずいたのを見て、僕は一度目を閉じる。
まあ、英国ここでどれだけくかなんて、出たとこ勝負だ。

「あをやぎの、かづらきやまにおはします、まがこと、よごと、おしなべて、ことさきたまへるおほかみを、おほぶねのおもひたのみに、かけまくもかしこみて、ここにのりたてまつる」

ふわりと、緑と水の入り混じったこけのような懐かしいにおいが鼻先をくすぐった。
ああ、いけそうだ、とすぐにわかった。

「さるさはの、いけのをろちがやけこげて、うむな、いたむな、きずつくな」

そう言い終えて目を開ければ、今まで大きく表情を変えることのなかったロビンが、目を見開いてこちらを振り返っている。
その目と僕の目が合うことはなく、だからこそ、やはりと思った。

魔法使いwizardとは聞いてたけど、地味だね」
「それは便宜上べんぎじょうなんだよなあ……」

シンシアのツッコミが地味に痛い。
どっちかというとはふりとかかんなぎの方が近いはずなんだけど、これってなんて言うべきなんだ。シャーマン、シャーマンなのか? でもそれはそれで違う。ここは譲れない。

「あ、ちょっとロビン!」
「……」

ロビンが今度こそ僕を見て、僕のシャツのそでつかんでいた。
空のような、海のような、矢車菊やぐるまぎくのような、青と表すしかない色の目が、僕をぐに見上げていた。
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