怪異から論理の糸を縒る

板久咲絢芽

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昔話1 ロビンの話

Good fellows' Robin 2

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善き隣人達good fellowsが、み言葉である妖精fairyけるための一つであることぐらい、流石さすがに知っている。

「ってことは、あの子、妖精fairyと関わりがあるのかい?」

そう問うと、シンシアは思いっきり顔をしかめた。

「あんたねえ、余計よけい洒落しゃれにならんのよ」
「ああ、ごめん。でも確認したくてさ。僕はこっちの文脈は勉強中なんだから、勘弁かんべんしてよ」

言いながら、ふと古代ローマの詩人、プロペルティウスは自身が詩に想いのたけを書きつづった才色兼備の佳人かじんキュンティアCynthiaと同語源だろう名を持つ目の前のシンシアCynthiaのこの言動を見たら、血管がブチ切れるんじゃないかな、それとも解釈違いだと慟哭どうこくして天地にうったえるのだろうか、とふと思った。
思っただけである。

「なんか失礼なこと考えられてる気がするけど、でもまあ、そういうこったね。あの子、気に入られてしまったのよ。あの子の目、見た?」
「いや、あの髪の伸び方じゃ見ようにも見れないよ」

シンシアが肩をすくめ、くわえた煙草たばこを手にして、煙を吐き出す。

「あの子ね、本当は緑の目だったんだよ。でも、二年前、一回、行方不明ゆくえふめいになって……それでも、半日かそこいら。でも、そこから戻ってきた時には、目が青くなってた」
「……それが善き隣人達good fellows仕業しわざだって?」
「他に考えられるかい? 日本にだってカミカクシってのがあるんだろ?」

それを言われると弱い。
何せ、僕自身が神隠かみかくし経験者なのだから。

「それからだよ。あの子がやたらとおびえるようになって、あんな浮浪児ふろうじまがいの薄汚うすぎたない格好になったの。目の色のことがあるから、みんな妖精の取り替え子チェンジリングだっていうけど、あたしにゃそうは見えない」
「僕にもそうは見えなかったよ。まあ、僕の認識能力も、たかが知れてるんだけど」
「けっ、やだやだ、あんたらは最初から背負しょってんだから、後天的なあたしなんかよりずっと見えるし、聞こえるでしょうよ。ましてあんたの理論に乗っかればね」

とはいえ、そんな僕の下宿先なんかをかって出てくれたシンシアだ。
言動が多少あらくとも、面倒見めんどうみの良さはがみきである。
そんな彼女がここまで言うのであれば。

「……ねえ、その子、たまにここに来たりする?」
「というか、見かねてつかまえてる」

そろそろつかまえ時、なんてシンシアはにやりと笑った。
だから、僕も同じように笑って返した。

「じゃあ、僕にもその片棒、かつがせてよ」

そうして、ここに平均せずともいい年こいた大人二人の大人気おとなげない悪巧わるだくみがスタートしたのである。
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