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1-2 逆さまの幽霊 side B
1 帰宅
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ロビン・イングラムは、自身をリアリストであると自負している。
正確には、この目に映るものを信じていると言うべきだろうか。
しかし、同時に、彼自身にとっての目に見える世界は、彼以外の誰にとってもリアル足りえないことを知っていた。
それ程に、ロビンの目には見えるものが多すぎて、聞こえるものですら多すぎるのだ。
◆
「ただいま戻りましたー」
「……ただいま」
織歌とロビンが潜ったのは何の変哲もない、テラスハウス形式の建物の玄関口だった。
看板とか、そういった商売っ気のあるものは微塵も置いていない。
「おかえりなさい。どうでした?」
「なんとかなりました! 私、がんばりましたよー、弘ちゃん!」
〈そうだ、己の織歌が頑張ったんだぞ!〉
織歌は褒めろと言わんばかりに、迎えに出てきた弘に飛びつき、その織歌に常に憑き纏う形になっている、ぞろりとした黒髪の美少女あきつがそれを煽る。
確かに、やたらと人懐っこい織歌にしては、随分凛々しくしていた方ではある、とロビンも思う。
弘はそんな織歌をあしらいながら、ロビンの方に視線を向けた。
「ロビンは大丈夫です?」
「ああ、うん、残滓にまでなり下がってたから、オリカで正解。ヒロが言ってたら逆に刺激してて、ちょっとダメだったかもしれない」
〈うまかったぞ、アレ〉
ことここにおいて、何を隠す必要もない。
そのため、ロビンは正直な見立てを口にして、余計な情報を付け足すあきつに、最早クセとなって久しいため息をつく。
「……それでも、気分がいいものじゃないけどね」
「まあ、そうですよね。ロビンの目なら、なおさら」
弘は、ともすれば中性的な少年にも見える黒髪のウルフショートを揺らして苦笑しながら、ドヤ顔をしている織歌の頭をぽすぽすと労うように優しく叩いている。
「そしたらお茶、淹れましょうか。ロビン、報告ついでに先生も呼んでもらっていいです?」
「わかった」
じゃれ合う妹弟子二人(+α)に、ひらりと了解の意味で手を振って、ロビンは三階の洋間の一つに向かった。
「おかえり、ロビン」
入り口の左側の壁に置いてあるソファベッドに寝転んだまま、それでも既に半身を起こしていた師匠、紀美が中性的な容貌に柔和な笑みを浮かべていた。
「ただいま、センセイ」
「で、どうだった? キミは何を見た? ロビン」
日本人にしては色素の薄い、榛色の目とキャラメル色の髪の紀美は、ともすれば愉快がっている様にも聞こえる柔らかな声でそう言う。
善き隣人達に祝福されてしまった目によって、嘘発見器の真似事すらできるロビンをしても、この紀美の情動の真偽を見分けることは至難の業である。
だから、諦めて、ロビンは自身の見た内容からわかる事実を口にする。
「センセイの予想通り、最初のウワサと今回のウワサは違ったよ」
それを聞いて、紀美は少し満足げに、緩みを持たせて束ねた己の髪の先を弄んだ。
正確には、この目に映るものを信じていると言うべきだろうか。
しかし、同時に、彼自身にとっての目に見える世界は、彼以外の誰にとってもリアル足りえないことを知っていた。
それ程に、ロビンの目には見えるものが多すぎて、聞こえるものですら多すぎるのだ。
◆
「ただいま戻りましたー」
「……ただいま」
織歌とロビンが潜ったのは何の変哲もない、テラスハウス形式の建物の玄関口だった。
看板とか、そういった商売っ気のあるものは微塵も置いていない。
「おかえりなさい。どうでした?」
「なんとかなりました! 私、がんばりましたよー、弘ちゃん!」
〈そうだ、己の織歌が頑張ったんだぞ!〉
織歌は褒めろと言わんばかりに、迎えに出てきた弘に飛びつき、その織歌に常に憑き纏う形になっている、ぞろりとした黒髪の美少女あきつがそれを煽る。
確かに、やたらと人懐っこい織歌にしては、随分凛々しくしていた方ではある、とロビンも思う。
弘はそんな織歌をあしらいながら、ロビンの方に視線を向けた。
「ロビンは大丈夫です?」
「ああ、うん、残滓にまでなり下がってたから、オリカで正解。ヒロが言ってたら逆に刺激してて、ちょっとダメだったかもしれない」
〈うまかったぞ、アレ〉
ことここにおいて、何を隠す必要もない。
そのため、ロビンは正直な見立てを口にして、余計な情報を付け足すあきつに、最早クセとなって久しいため息をつく。
「……それでも、気分がいいものじゃないけどね」
「まあ、そうですよね。ロビンの目なら、なおさら」
弘は、ともすれば中性的な少年にも見える黒髪のウルフショートを揺らして苦笑しながら、ドヤ顔をしている織歌の頭をぽすぽすと労うように優しく叩いている。
「そしたらお茶、淹れましょうか。ロビン、報告ついでに先生も呼んでもらっていいです?」
「わかった」
じゃれ合う妹弟子二人(+α)に、ひらりと了解の意味で手を振って、ロビンは三階の洋間の一つに向かった。
「おかえり、ロビン」
入り口の左側の壁に置いてあるソファベッドに寝転んだまま、それでも既に半身を起こしていた師匠、紀美が中性的な容貌に柔和な笑みを浮かべていた。
「ただいま、センセイ」
「で、どうだった? キミは何を見た? ロビン」
日本人にしては色素の薄い、榛色の目とキャラメル色の髪の紀美は、ともすれば愉快がっている様にも聞こえる柔らかな声でそう言う。
善き隣人達に祝福されてしまった目によって、嘘発見器の真似事すらできるロビンをしても、この紀美の情動の真偽を見分けることは至難の業である。
だから、諦めて、ロビンは自身の見た内容からわかる事実を口にする。
「センセイの予想通り、最初のウワサと今回のウワサは違ったよ」
それを聞いて、紀美は少し満足げに、緩みを持たせて束ねた己の髪の先を弄んだ。
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