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第16話 ガガスバンダス
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★★★★★★★★★★★★
キンコーンカンコーン
キンコンカンコーン
★★★★★★★★★★★★
使い古されたオノマトペのような校内チャイムが外にまで大きく鳴り響いている。
信二は西園寺佐奈に指定された場所、第二校舎裏に向かっていた。時間帯はちょうど終業式が終わってすぐに放課後となったタイミングである。
信二たちの高校では終業式が終わってすぐに帰れるようなシステムになっていた。こういうところに関しては評価ポイント高め。高校生の気持ちをよくご存知であられる。
おそらく、こうした場所を選んだのは、終業式の関係で体育館裏には人だかりが出来ていると考えてのことだろう。西園寺佐奈の用意周到さがこういうところから滲み出ているような気がする。
信二は薄々だが、佐奈のその特殊性に気がついている。
前回の会話から感じられた異質性。
『私、なにもかも。あなたのことなら、全て知っているですから。。。』
彼女は確かにそう言った。初めて会話をする、しかも告白相手に対して、そう言った。普通の女子高生の告白で聞けるような文章ではない。
(何を知っているというんだろう……)
信二は若干そこに不気味さを感じていた。
しかし、その不気味さも佐奈の可憐で美しい高校生離れした容姿が相殺してしまっている。顔がこの世に向きすぎている……
西園寺佐奈とはそんな女だった。
「あ……」
信二は声を出した。
すでに第二校舎裏には人影があった。
一本の大きなクスノキが植わっている近く。
夏の暑い日差しのなかにあるポツンとした木陰に彼女は佇んでいた。
「ふぅ……」
信二は深呼吸をして彼女のもとに、近づいていった。
彼女の視線はすでに、信二を捉えている……
★★★★★★★★★★★
「信二さん……決意は固まりましたか?」
西園寺佐奈は信二が木陰の中に入ったと同時にそう言った。
まるで何もかも理解しているかのように。
信二の答えがどのようなものか、すでに知っているかのように。
クスノキにとまっていた一匹のクマゼミがジワジワと鳴き始めた。
夏が流れている。
「……君は僕のことをまるで何でもかんでも知っているかのように言うね。今さらだけど、呼び方も先輩じゃないし。これでも僕たち初対面だよね」
信二は出会ってすぐに答えを言う気持ちにはなれなかった。
関係性が確定されてしまってからでは、聞けないこともあるかもしれない。どういうわけか、不思議とそのような衝動に駆られた。いや、実際にそうなのかもしれない。
話し合えることは、その人とどういう関係にあるのかに依存しているような気がするのだ。
「初対面という言葉の意味が実際どのようなものなのかによりますが……。そうですね、あなたから見れば初対面なのでしょうね。それに呼び方なんて所詮、形式ですから。それは本質的な伝えたいことになんら影響を及ぼしません」
「君はとてもわかりにくい話し方をするね。日常会話でそういうのあまり好かれないよ……」
信二はなぜか会話のなかに棘を入れてしまった。もちろん、そうする意図はなかったが、まるでそうさせるために彼女が誘導しているかのような違和感があった。
あくまで違和感ではあるが……
「そうですね。そんなこと理解していますよ。信二さん。でも私にとっては興味のない人から向けられる好意ほど気持ちの悪いものってないんですよ。そんなことなら最初から嫌われてたほうが居心地がいいです。あ、ちなみにこの言葉、受け売りです」
「……知ってる。マンガ結構好きなんだ?」
「はい、マンガから人生における全てのことを学んだと言えるほどに漫画作品にはお世話になっておりますよ。しかしながら、信二さん。鬼●の刃などの有名作品のおかげで世間の漫画に対する根拠の乏しい偏見はかなり改善されてきた世の中ではありますが、まだまだこういうことを表立って言えないのはなぜなんでしょう?仮に言えたとしても、どうしてそれを言う人たちはネタ枠なんでしょう?」
「そんなこと聞かれてもな……」
信二は困った様子でそう答えた。
なにやら、異質な告白シーンへと移り変わっている。
西園寺佐奈は一体全体なにがしたいのだろうか。
「私は常識というものの自由度の低さに原因があると思うのですよ。常識というものは実に偏屈で頑固で意固地なものです。そしてそれはまた裏を返せば、変わらないことこそに意味があるということに繋がっていくのですよ。常識がぐらついてしまっては社会的にも人間という存在的にも、生活が困難になってしまう」
「は、はぁ……」
「常識とはそういうものです。そしてマンガという媒体はその既に形成された常識の檻に入ったまま世間の上で転がされているというわけです」
「……………」
信二はすでに能動的に相槌を打つことをあきらめている。
それほどに理解不能な西園寺佐奈の語り。
TPOをわきまえろ、という言葉に母親でも殺されたのだろうか……
「しかしですね、信二さん。常識というものは概念に結びついているだけの、一種の役割に過ぎないんですよ。そしてそれを知っている人は決して常識に呑まれるようなことはしない。一歩引いた場所から俯瞰して世界を観測している」
西園寺佐奈はその美しい顔にある口だけを動かして、無表情で信二のもとへ近づいてくる。
「信二さん、あなたが気がついているのか知りませんけど……。私は個性を大事にと謳っている、そんな没個性の現代であっても埋もれずにいる、常に世の中に対して懐疑的であるあなたに恋してるんですよ……」
「…………」
そこにはどこか語り得ない凄みがあった。
西園寺佐奈の瞳が信二を捉えて離さない。
「最初はみんな……。ガガスバンダスと同じです」
「は?」
「あれ、信二さんはまだこのマンガ未読なんですか?有名な言葉ですよ、これ」
「…………」
信二は唖然としている。もう告白の返事をしにきたことすらも忘れてしまっている。
信二の瞳と、西園寺佐奈の瞳が合う。
一直線に視線が重なり合う。
「既にあるガガスバンダスという不可思議な言葉に人は必ず出会います。最初はその人にとって、何の意味もない言葉たちです。ただの音と形がそこにあるだけです。そしてそのような右も左も分からない状態で人はその意味を記号接地やらなんやらで必死に理解しようとするんですよ。しかしそれは一人では、たった一人の頭では大変すぎる作業なんです……。私の言いたいことわかりますか?」
「さっぱりだ……」
信二はごくりと唾を飲み込む。呼吸をすることを忘れていた。
それほどまでにどこか、圧力的な一方的な会話を感じてしまう。
西園寺佐奈はそんな女だ。
「つまりこういうことですよ」
西園寺佐奈は右手を上に挙げたかと思うと、勢いよくそれで信二を平手打ちした。
『パシィイイイイイイイイイン』
爽快な音が夏の第二校舎裏の空間に響いた。
幸いなことに、そこには誰もいない。信二と佐奈以外は無人である。
「なっ……。いったぁ……」
信二は情けない声を上げる。
まさかの行動すぎて、非難の声すらあがらない。
信二は完全に、西園寺佐奈の作るこの場の空気感に呑まれていた。
「普通なら二股をしているにも関わらず、告白を承諾したと分かったら、相手の女性は怒って平手打ちをします」
「なっ……。お前どうしてそれを!!!!!」
信二は再び衝撃を受けている。
もう、わけがわからない状況だ。
精神がシラスウナギなら、すでに状況が不可解すぎて失神しているだろう。
「ふふふ……。慌てふためく、信二さんも素敵ですね。もっと虐めたくなっちゃう」
「くっ……」
「まぁ……それは置いておいて。つまりはそういうことですよ。常識とは、こうして二股相手を平手打ちするための理由をくれるんですよ」
「はぁ……はぁ……」
信二の荒い息が辺りに響く。
これは既存概念が揺らぐ経験をしているのかもしれない。
信二は何回も何回も生唾を飲み込んでいる。
喉仏が何度もその形を鮮明に首に映す。
「ガガスバンダスはこうして常識の手を借りて、なんとなく意味づけされていくんですよ。そうして人は常識に飲み込まれていくんです。これこそがガガスバンダスなんだと信じ込んで……」
西園寺佐奈が信二の赤くなった頬に手を添える。
そこにはとても官能的な指先があった。
細い指。
少し伸びた爪でカリッと頬にあとを残す仕草。
その全てに妖艶な何かがあった……
「恋愛とはそういうものだと無意識のうちに投げやりになって……、要するに同調的に信じ込んでいくのですよ。信二さん……」
西園寺佐奈はそう言って……
信二に熱い口づけを交わした。
とろとろした舌が信二の脳を溶かしていく……
(なん……だ。これは。どういう……状況なんだ……)
しばらく、一方的なキスは続けられた。
今までしたことのない、イケナイ感じの漂うキス。
信二はその新鮮な感覚に身動きが取れないでいた。
「信二さん……。わたし、その信二さんの恋愛への向き合い方、大好きですよ。二股でも三股でも十股でもいくらでもやればいいのです。やっぱり……信二さんは有象無象とは違います。だから好きなんです。愛してるんですよ……」
この日。
放課後の第二校舎裏にて。
信二は西園寺佐奈に返事をするまでもなく……
その女に呑まれる形で……
彼女と付き合うことになった。
「一緒に恋愛をガガスバンダスまで解体して……。スクラップアンドビルドしていきましょうね。信二さん……」
西園寺佐奈、高校一年生。
とんでもない女に好かれてしまった信二は、これからどうしていけばいいのだろうか……
もともと告白にOKを出すつもりでいた信二の、今までの心はそこにはない。
信二のなかにある既存概念が確実に揺さぶられているような、放課後の時間。
…………
…………
…………
「これ私のL●NEのIDです」
「あ、ああ……」
「これから、よろしくお願いしますね、先輩」
「……せんぱ、い?」
「なに今になって違和感かんじてるんですか。あははー」
鳴き止んでいたクマゼミが、また少しづつジワジワと鳴き始めた。
オスが遺伝的で明確な意思をもってメスを求め、鳴き続けている……
『ジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワ……』
信二の夏休みが始まる。
キンコーンカンコーン
キンコンカンコーン
★★★★★★★★★★★★
使い古されたオノマトペのような校内チャイムが外にまで大きく鳴り響いている。
信二は西園寺佐奈に指定された場所、第二校舎裏に向かっていた。時間帯はちょうど終業式が終わってすぐに放課後となったタイミングである。
信二たちの高校では終業式が終わってすぐに帰れるようなシステムになっていた。こういうところに関しては評価ポイント高め。高校生の気持ちをよくご存知であられる。
おそらく、こうした場所を選んだのは、終業式の関係で体育館裏には人だかりが出来ていると考えてのことだろう。西園寺佐奈の用意周到さがこういうところから滲み出ているような気がする。
信二は薄々だが、佐奈のその特殊性に気がついている。
前回の会話から感じられた異質性。
『私、なにもかも。あなたのことなら、全て知っているですから。。。』
彼女は確かにそう言った。初めて会話をする、しかも告白相手に対して、そう言った。普通の女子高生の告白で聞けるような文章ではない。
(何を知っているというんだろう……)
信二は若干そこに不気味さを感じていた。
しかし、その不気味さも佐奈の可憐で美しい高校生離れした容姿が相殺してしまっている。顔がこの世に向きすぎている……
西園寺佐奈とはそんな女だった。
「あ……」
信二は声を出した。
すでに第二校舎裏には人影があった。
一本の大きなクスノキが植わっている近く。
夏の暑い日差しのなかにあるポツンとした木陰に彼女は佇んでいた。
「ふぅ……」
信二は深呼吸をして彼女のもとに、近づいていった。
彼女の視線はすでに、信二を捉えている……
★★★★★★★★★★★
「信二さん……決意は固まりましたか?」
西園寺佐奈は信二が木陰の中に入ったと同時にそう言った。
まるで何もかも理解しているかのように。
信二の答えがどのようなものか、すでに知っているかのように。
クスノキにとまっていた一匹のクマゼミがジワジワと鳴き始めた。
夏が流れている。
「……君は僕のことをまるで何でもかんでも知っているかのように言うね。今さらだけど、呼び方も先輩じゃないし。これでも僕たち初対面だよね」
信二は出会ってすぐに答えを言う気持ちにはなれなかった。
関係性が確定されてしまってからでは、聞けないこともあるかもしれない。どういうわけか、不思議とそのような衝動に駆られた。いや、実際にそうなのかもしれない。
話し合えることは、その人とどういう関係にあるのかに依存しているような気がするのだ。
「初対面という言葉の意味が実際どのようなものなのかによりますが……。そうですね、あなたから見れば初対面なのでしょうね。それに呼び方なんて所詮、形式ですから。それは本質的な伝えたいことになんら影響を及ぼしません」
「君はとてもわかりにくい話し方をするね。日常会話でそういうのあまり好かれないよ……」
信二はなぜか会話のなかに棘を入れてしまった。もちろん、そうする意図はなかったが、まるでそうさせるために彼女が誘導しているかのような違和感があった。
あくまで違和感ではあるが……
「そうですね。そんなこと理解していますよ。信二さん。でも私にとっては興味のない人から向けられる好意ほど気持ちの悪いものってないんですよ。そんなことなら最初から嫌われてたほうが居心地がいいです。あ、ちなみにこの言葉、受け売りです」
「……知ってる。マンガ結構好きなんだ?」
「はい、マンガから人生における全てのことを学んだと言えるほどに漫画作品にはお世話になっておりますよ。しかしながら、信二さん。鬼●の刃などの有名作品のおかげで世間の漫画に対する根拠の乏しい偏見はかなり改善されてきた世の中ではありますが、まだまだこういうことを表立って言えないのはなぜなんでしょう?仮に言えたとしても、どうしてそれを言う人たちはネタ枠なんでしょう?」
「そんなこと聞かれてもな……」
信二は困った様子でそう答えた。
なにやら、異質な告白シーンへと移り変わっている。
西園寺佐奈は一体全体なにがしたいのだろうか。
「私は常識というものの自由度の低さに原因があると思うのですよ。常識というものは実に偏屈で頑固で意固地なものです。そしてそれはまた裏を返せば、変わらないことこそに意味があるということに繋がっていくのですよ。常識がぐらついてしまっては社会的にも人間という存在的にも、生活が困難になってしまう」
「は、はぁ……」
「常識とはそういうものです。そしてマンガという媒体はその既に形成された常識の檻に入ったまま世間の上で転がされているというわけです」
「……………」
信二はすでに能動的に相槌を打つことをあきらめている。
それほどに理解不能な西園寺佐奈の語り。
TPOをわきまえろ、という言葉に母親でも殺されたのだろうか……
「しかしですね、信二さん。常識というものは概念に結びついているだけの、一種の役割に過ぎないんですよ。そしてそれを知っている人は決して常識に呑まれるようなことはしない。一歩引いた場所から俯瞰して世界を観測している」
西園寺佐奈はその美しい顔にある口だけを動かして、無表情で信二のもとへ近づいてくる。
「信二さん、あなたが気がついているのか知りませんけど……。私は個性を大事にと謳っている、そんな没個性の現代であっても埋もれずにいる、常に世の中に対して懐疑的であるあなたに恋してるんですよ……」
「…………」
そこにはどこか語り得ない凄みがあった。
西園寺佐奈の瞳が信二を捉えて離さない。
「最初はみんな……。ガガスバンダスと同じです」
「は?」
「あれ、信二さんはまだこのマンガ未読なんですか?有名な言葉ですよ、これ」
「…………」
信二は唖然としている。もう告白の返事をしにきたことすらも忘れてしまっている。
信二の瞳と、西園寺佐奈の瞳が合う。
一直線に視線が重なり合う。
「既にあるガガスバンダスという不可思議な言葉に人は必ず出会います。最初はその人にとって、何の意味もない言葉たちです。ただの音と形がそこにあるだけです。そしてそのような右も左も分からない状態で人はその意味を記号接地やらなんやらで必死に理解しようとするんですよ。しかしそれは一人では、たった一人の頭では大変すぎる作業なんです……。私の言いたいことわかりますか?」
「さっぱりだ……」
信二はごくりと唾を飲み込む。呼吸をすることを忘れていた。
それほどまでにどこか、圧力的な一方的な会話を感じてしまう。
西園寺佐奈はそんな女だ。
「つまりこういうことですよ」
西園寺佐奈は右手を上に挙げたかと思うと、勢いよくそれで信二を平手打ちした。
『パシィイイイイイイイイイン』
爽快な音が夏の第二校舎裏の空間に響いた。
幸いなことに、そこには誰もいない。信二と佐奈以外は無人である。
「なっ……。いったぁ……」
信二は情けない声を上げる。
まさかの行動すぎて、非難の声すらあがらない。
信二は完全に、西園寺佐奈の作るこの場の空気感に呑まれていた。
「普通なら二股をしているにも関わらず、告白を承諾したと分かったら、相手の女性は怒って平手打ちをします」
「なっ……。お前どうしてそれを!!!!!」
信二は再び衝撃を受けている。
もう、わけがわからない状況だ。
精神がシラスウナギなら、すでに状況が不可解すぎて失神しているだろう。
「ふふふ……。慌てふためく、信二さんも素敵ですね。もっと虐めたくなっちゃう」
「くっ……」
「まぁ……それは置いておいて。つまりはそういうことですよ。常識とは、こうして二股相手を平手打ちするための理由をくれるんですよ」
「はぁ……はぁ……」
信二の荒い息が辺りに響く。
これは既存概念が揺らぐ経験をしているのかもしれない。
信二は何回も何回も生唾を飲み込んでいる。
喉仏が何度もその形を鮮明に首に映す。
「ガガスバンダスはこうして常識の手を借りて、なんとなく意味づけされていくんですよ。そうして人は常識に飲み込まれていくんです。これこそがガガスバンダスなんだと信じ込んで……」
西園寺佐奈が信二の赤くなった頬に手を添える。
そこにはとても官能的な指先があった。
細い指。
少し伸びた爪でカリッと頬にあとを残す仕草。
その全てに妖艶な何かがあった……
「恋愛とはそういうものだと無意識のうちに投げやりになって……、要するに同調的に信じ込んでいくのですよ。信二さん……」
西園寺佐奈はそう言って……
信二に熱い口づけを交わした。
とろとろした舌が信二の脳を溶かしていく……
(なん……だ。これは。どういう……状況なんだ……)
しばらく、一方的なキスは続けられた。
今までしたことのない、イケナイ感じの漂うキス。
信二はその新鮮な感覚に身動きが取れないでいた。
「信二さん……。わたし、その信二さんの恋愛への向き合い方、大好きですよ。二股でも三股でも十股でもいくらでもやればいいのです。やっぱり……信二さんは有象無象とは違います。だから好きなんです。愛してるんですよ……」
この日。
放課後の第二校舎裏にて。
信二は西園寺佐奈に返事をするまでもなく……
その女に呑まれる形で……
彼女と付き合うことになった。
「一緒に恋愛をガガスバンダスまで解体して……。スクラップアンドビルドしていきましょうね。信二さん……」
西園寺佐奈、高校一年生。
とんでもない女に好かれてしまった信二は、これからどうしていけばいいのだろうか……
もともと告白にOKを出すつもりでいた信二の、今までの心はそこにはない。
信二のなかにある既存概念が確実に揺さぶられているような、放課後の時間。
…………
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「これ私のL●NEのIDです」
「あ、ああ……」
「これから、よろしくお願いしますね、先輩」
「……せんぱ、い?」
「なに今になって違和感かんじてるんですか。あははー」
鳴き止んでいたクマゼミが、また少しづつジワジワと鳴き始めた。
オスが遺伝的で明確な意思をもってメスを求め、鳴き続けている……
『ジワジワジワジワジワジワジワジワジワジワ……』
信二の夏休みが始まる。
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