上 下
16 / 18

第15話 心内エクスタピー

しおりを挟む
悪夢から覚めた信二は、茜のぬくもりを感じながら二度寝をかましていたが、最後の登校日のために登校しなけらばならなかった。

 

 そうだ。明日からは夏休みだ。

 

 信二にとって高校生2回目の夏休み。しかも初めての絶賛二股中での夏休み。



 信二の胸は期待に胸が膨らむ一方で、それとなく不安な気持ちも漂っている。

 

 予定が被ったりして怪しまれたりしないだろうか、とか。



 こんなに長い期間あるんだから、予定が被ることなんてそうそうないし、被ったとしてもそこまで怪しまれないよね、とか。



 まぁ、浮気男にとってはあるあるのことを信二も体験しているといったところだろうか。



 当事者の信二はそんな感じで少しの焦燥感と優越感とでもいうのだろうか。そのような浮ついた様子で夏休み前日の学校へと、茜と一緒に登校していった。

 

 朝帰りならぬ、彼女の家から彼女と一緒に高校に登校する男子高校生なんて、全国津津浦々の男子高校生の怨念で呪い殺されてしまいそうだが……



 呪い殺されるのは、まだまだ信二には早いだろう……





★★★★★★★★★★★★




 信二は茜の胸の感触を、特に二の腕あたりで丹念に味わいながら、登校を終えて……



 2限目の世界史の授業を受けていた。




「え~。であるからして……。歴史は繰り返すということが一番の歴史から学べる教訓であるからして……。わたしたちは世界平和を謳うことを前提にしながらですねぇ、来るべき世の乱れに準備しなくてはならないわけですよ。学校における教育、こと受験勉強なんてものは右から左へ流してうまく世渡りしてもらってですねぇ

。君たちにはこういう既存概念を揺らがすようなレベルでの教育をしてあげたいものなんですよぇ~」




 世界史の先生は、授業中かならず一回はこのような受験戦争批判を挟む。正直もう聞き飽きた下りなのだが、言っていることとしては共感しかないので、特に反論はない。



 ただ、話に幅のない授業は、たいして既存概念など揺さぶられるものではないのでそろそろ退屈にはなってきている。



 それがクラスメイト全体の所感だ。



 もちろん、信二もそのうちの一人だ。




「え~。そこでですね。私は思うんですよ。果たして先生の役割とはどのいったものなのかと。このような時代に生きる我々、先生としてのあるべき姿とは何なのか」




 先生の授業はある種、自問自答に近いところがある。それを永遠と聞かさせる生徒の身にもなって欲しい。校長先生のありがたいお話は、校長先生だけでいいのだ。




「私どもとしても、今の教育にかなりの不満を持っているのです。点取り競争というゲーム性のなかに埋もれてしまっていい代物ではないんですよ、学問というものは! なかにはこう言う人もいます……『今の子たちはそんな熱血教師、望んでいないんだよぉ。見てみろよ、今のクイズ番組のムーブメントをよぉ。あれが日本人の総意なんだよ。儲からないことはやらないテレビ局のことだ。あれやるとがっぽり視聴率稼げるからやってんだろ。だから、そういうことだよ。学問の本質がクイズ番組とか受験勉強にあるって思ってるやつらが増えてきてるから、クイズ番組なんてもんが巷に蔓延ってるんだよぉおおおおおおお!!!!』。私は心底そのような人たちを軽蔑しています……」




 やばい。世界史の先生、いつにも増して熱血してらっしゃる。前衛に控えている学生に、これでもかというほど、唾の飛沫を飛ばしている。



 今の時代にはありえない反エチケット主義だ。こんなのやってまだ、この先生が生き残れてるこの自称進学校は前時代的なのかもしれない。




「先生ともあろうものが、そんな憶測でものを語って良いはずがありません!!!」




 あ……、そのクイズ番組批判してる人。学校の先生だったんだ。





「柏木ぃ!!!!!あとで職員室でズタボロにしてやるからなぁああああ!!!!」




 ああ、実名出しちゃったよ。しかもこれ、倫理・政治・経済のサブカル好きのおじいちゃん先生だよ。●袋のピンクの映画館に入り浸ってるとか噂のザ・昭和世代の先生だよ。駄目だよ、その年で血圧上がるような議論交わしちゃ……




「なに諦めんてんだよぉおおおおお!!!現実直視できる頭あるんだったら、世の中変えるために何か行動でもしたらいいじゃないですかああああ!?大学では哲学とかいう御硬い学問、専攻してたんでしょぉおおお!?だったらさぁ森鴎外の諦念?諦観?だっけ。その言葉見習って、自分の信念だけには嘘つくようなことすんなよ!!!諦めた数だけ大人になるっていう言葉の典型的な例だよ!あんたはぁああああああああああああああああああ!!!!」




 世界史先生ヒートアップ



 俺らの心はクールダウン



 今日も今日とてブルースカイ



 鳥は既に消え去って



 残るはブラックギャラクシー



 談論好きのおじさんは



 思いの丈を吐きつける



 こうして乱れる人間模様



 そこには決して踏み入るな



 承認欲求解消は



 大事な人といることで



 すぐに解決あらハッピー



 飲んでくれるな安ホッピー



 家にまっすぐ帰りなよ



 世知辛いよね世の中は



 今日も今日とて……




「俺たち先生が、子どもたちに何を残してあげられるか考えようよ!!!!!!!柏木ぃいいいい!!!!!!!!」




 思いの丈を叫ぶのです




 …………



 …………





(ふぅ……なんかこの人見てると。いろいろと考えさせられるな……)





 信二はそんなことを思いながら、机の引き出しの奥にしまった手紙を取り出した。




 それは言わずもがな、とでも言うべきだろうか。。。



 昨日の昼休みの体育館の裏での出来事。



 西園寺佐奈からの告白について返答を求める手紙だった。




(僕は覚えてたから、今日中に返事をしに行こうと思ってたんだけど。今日で学校最後ってことに彼女も気がついたのかな。手紙をまた書いてくれるなんて。ちょっと悪いことしたかな。僕が優柔不断なところもあったからな。男だったらすぐにあの場で伝えるべきだったよな)




 信二はその文面を読み返す。




★★★★★★★★★★★★




 終業式が終わって放課後になったら、第二校舎裏で待ってます。返事を聞かせてほしいです。




★★★★★★★★★★★★





(僕の考えはもう決まってる。今朝はあんな悪夢も見たけど、僕は僕の道を進むって決めたんだ。どんなことがあっても、自分が納得するまでこの恋を続ける。これが僕の今の、恋愛に対する考え方だ……)




 果たして信二はどのような選択をするのか。決断を下すのか。




 世界史の先生のせいで、少々落ち着かない心持ちの信二ではあるが……





(僕はもう前に進むしかないんだ)





 どこまでも青い空が、青春を青く染め上げる夏休みの前日。



  

 信二にとって、初めての、慌ただしい夏休みが始まることは……



 

 間違いないようだ。





「さて、どうするかな」





 信二の静かな声がかき消されるような2限目の時分。




 ツイッ●ーのような役割を果たしている、この特殊な教室という空間のなか。




 高校2年生という青春がただただ、一方的に流れていった……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

幼馴染は何故か俺の顔を隠したがる

れおん
恋愛
世間一般に陰キャと呼ばれる主人公、齋藤晴翔こと高校2年生。幼馴染の西城香織とは十数年来の付き合いである。 そんな幼馴染は、昔から俺の顔をやたらと隠したがる。髪の毛は基本伸ばしたままにされ、四六時中一緒に居るせいで、友達もろくに居なかった。 一夫多妻が許されるこの世界で、徐々に晴翔の魅力に気づき始める周囲と、なんとか隠し通そうとする幼馴染の攻防が続いていく。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ
恋愛
 俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。  そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。  渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。  桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。  俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。  ……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。  これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。

処理中です...