上 下
12 / 18

第11話 夏休み近づく放課後の帰り道

しおりを挟む

 西園寺佐奈に告白されたあと、信二はごく普通に日常生活を送っていた。



 午後からの授業は高校二年生ながら既にカリキュラムに入ってきた大学受験用マーク式問題の本年度の想定問題集を解くというものだった。



 カリキュラムといっても、その多くの授業内容は各担当の先生に委ねられている。



 そして、こうして想定問題集を解かされるようになったのは数学だった。

 

 まだ高校の範囲全てを終えていないにも関わらず、早い段階でそうした問題集を解かされることが、正直に言うと、信二はあまり好きではなかった。



 せめて一回だけというならば、今の自身の学力状況の把握に役立つであろうが、今回で信二が解くのは4回目だった。



 しかもまだ学習していない範囲からの出題が今回は特に多かった。




「ふぅ……、無意味な時間が最近は本当に多くなってきた。それでいて他のことをしていると私の授業に不満なのかとブチギレて、授業がもう崩壊してしまう。。。これだから、うちはいつまで経っても自称進学校なんだろうな。。。」




 信二は数学の問題を解き始めて早々に、小さく嫌味に近いひとりごとを言った。



 隣の女子生徒がクスっと共感の笑いを起こした。



 いや、笑えねーよと、信二は思ったが。



 たった一人の生徒、大して成績も良くない一般的などこにでもいる生徒の言うことで、先生が、そしてこの学校自体が変わっていくことなんて、滅多とない。



 信二はそこまでカリスマ的な存在ではないのだ。




「だれか優秀な人が理事長にでもなってこの学校変えてくんねーかな。いや無理かぁ。そもそもここ、公立だし。。。」




 信二はまたもや、ひとりごとを言う。



 すると今度は隣の男子生徒がそれに反応を示した。




「おい、信二。お前、ドラゴ●桜2読んでるだろ。あれ、おもしれーよな」




 たまにしか話したことのない人が、こうして話しかけてくれるのは嬉しいが、あいにく信二はその漫画を読んだことがなかった。



 しかも、信二はスパイダー●ンは見ても、スパイダー●ン2は見ない人間なのだ。




「ごめんな、自分、2とか3とか見ない派なんだわ」

「あ、そっか。。。ふ、ふ~ん」

「ごめん。ア●アンマンとかもそうなんだ」

「お前それは絶対に人生損してるから、いい加減その続編はつまらんっていう偏見は捨てろ」

「お、おう。。。」




 試験問題中に不覚にも会話が盛り上がってしまいそうな予感。



 そろそろ数学の担当がこちらに気が付きそうだ。




「今度うちこいよ、見せてやんよ」

「お、おう。よろしく」

「じゃっ」




 いや、電話じゃねーんだからよ。最後の会話の切り方独特すぎるだろう、と信二はツッコミたくなったが、ぐっと堪えることにした。



 またちょっとしたことで、あのヒステリック教師が発狂し出してもこまる。



 人生、荒波をたてずにつぅーっと平行線に生きるのが一番楽で安定的な生き方だ。



 二股を実行中の信二が言えたことではないが、そういう生き方もたまには必要だろう。




「あと27分よぉ~。頑張ってねぇ」





(いや、残り時間の読み上げ、刻みすぎだろ!!)



 

 自称進学校にはある意味変わった先生が多い。



 信二はそんななかで、今日も真夏の午後のしじまを教室で静かに過ごしていった。。。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★





 放課後。




 今日は茜と一緒に帰ることになった。




 NTR事件からというもの、頻繁に茜とは帰り道をともにしていた。




 そして、そのなかで1,2回ほど不自然な予定が入って、放課後は一緒に帰れないと伝えられたこともあった。茜も茜で絶賛浮気中だということは、ひしひしと伝わってきていた。



 さすがの信二も、もう二度とNTR現場に遭遇することなんてごめんだ。



 茜の浮気を知っていながら交際を続けている今も、それは辛いことには変わりない。



 好きな人が何人いてもそれは、間違ったことじゃないと思うが、それでいても肉体的な関係がそこに入り込むと、話はそんなに単純なものではなくなってくる。



 自分の好きな女が知らない男と気持ちよくなっていることに興奮することでもない限り、それはかなり難しいことだ。。。




「ねぇ、信二。今日はさ、帰りに私の家に寄ってかない?今日はお母さんたち帰り遅いんだ。たぶん日またぐと思う。」




 茜は今日はそうやって提案をしてきた。



 今日までも何回か(4回ほど)そうやって信二のことを家に誘った。



 あいにく信二の家には早いうちから両親のどちらかが、在宅しているので茜をそういう目的で連れ込むことはなかなか難しいといった現状。



 ということで、今日は茜の家にまたもやお邪魔することになった。




「ああ、いいよ。僕もそろそろ行きたいなって思ってたんだ」

「あはは、信二のエッチ」

「茜から誘っておいて、それはないんじゃない」

「たしかに。。。私って結構エッチなのかも」

「そんなの知ってるよ」

「あ、なんだか冷たかった、さっきの信二の言葉」

「そ、そうかな」




 危ない。



 少しだけ本音に近い感情が混じってしまった。



 ただ、信二は内心で安心しているのだ。



 これまで、茜が信二との放課後の時間を断ったのは数えるほどしかない。



 しかしながら、信二とこうしてお家で過ごす回数は、それよりも遥かに多いのだ。これは最近になっても変わらない。



 今はまだ、かなりの恋愛的ウェイトが信二に偏っていると言える。




「映画とか見ながら、だらだらエッチでもしようね。疲れてきたら、課題とかやってさ」

「そうだな。最近のオススメの映画とかある?」

「ん~。今●監督とかおすすめだよ。配信系にあるやつだったら、パプ●カとかかな。それなら今すぐ見れるけど」

「じゃあ、それにする」




 信二はこうして放課後の帰り道を歩いて、茜の家に向かった。



 真夏のじめっとした空気は、二人の性欲を、高校生の際限のない性欲を、これでもかというほどに高めているようだった。




「ちょっとコンビニ寄ってこっか」

「ゴム?」

「そう。あとお菓子も」

「わかった」




 今日も複雑な世界が、表面上はしっかりと正常に見えて、動いていた。。。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

幼馴染は何故か俺の顔を隠したがる

れおん
恋愛
世間一般に陰キャと呼ばれる主人公、齋藤晴翔こと高校2年生。幼馴染の西城香織とは十数年来の付き合いである。 そんな幼馴染は、昔から俺の顔をやたらと隠したがる。髪の毛は基本伸ばしたままにされ、四六時中一緒に居るせいで、友達もろくに居なかった。 一夫多妻が許されるこの世界で、徐々に晴翔の魅力に気づき始める周囲と、なんとか隠し通そうとする幼馴染の攻防が続いていく。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ
恋愛
 俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。  そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。  渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。  桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。  俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。  ……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。  これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。

処理中です...