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第1話 NTR
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安達信二、高校二年生は放課後の夕暮れのなかを一人で歩いていた。
すでに家に帰って制服は着替えてしまった。本当は今日のために、君のために買ってきた服だったんだけどな。
しかし……
どうもおかしい。
絶対におかしい。
何かが明らかにおかしいと、信二はそう感じている。
「どうして、よりにもよって、今日なんだ」
信二は人込みのなかを歩きながら、呟く。すれ違う人が信二のことを訝しげに睨む。
独り言を言った、ただそれだけなのに。。。
「あいつ、今日のこと覚えてないのかな。普通はこういう日のことって女性の方が気にするもんだろ……」
そうだ。今日は信二の彼女との一周年記念日なのだ。
石井茜は、どういう理由かわからないが、とにかく今日は一緒に帰れないとメッセージを入れてきた。
毎日、毎日。ほとんど毎日の時間を信二は茜と過ごしてきた。
そのとき茜は確かに笑って幸せそうな笑顔を信二に見せていて……
「でも、もしかすると、サプライズとかって……。はは、ならないか」
信二は落胆している。大いに気持ちを落ち込ませている。
誰しもそんなときはあるが、せめて日にちを考えてあげてほしい。
なにせ、今日は一周年記念なのだから。
たった一度しかない、二人の一年付き合ってきたという、証としての記念日なのだから。。。
「ふぅ……今日は。なんかめっちゃ声に出して歌いたい気分だな。カラオケにでも行くか」
信二はそういって、顔を上げて歩き始めた。
視界には東京の人込みが映る。
みんながみんな、それぞれの小さな毎日の目的に向かって歩を進めている。
そのなかで、そんなたくさんある目的のなかで、信二のそれはどれだけ不幸なんだろうか。何番目に不幸なんだろうか。。。
「ふぅ……。人生ってクソだ」
そんな、とりとめもないことが、頭に浮かびそして消えていく毎日。私たちはそうやって生きていくしかないみたいなんだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
駅の改札を出て、なぜかドブ臭い駅構内を抜けると、そこには飲み屋がたくさん連なる繁華街がある。ゴミ、ゴミ、ゴミが散乱している。汚い。臭い。
ここはそんな街だ。
そして、そういう立地のカラオケに行ってストレスを発散して、そしてまたすぐにゴミのような街に降り立ち、人間は心が荒んでいく。ストレスが生産され消費されまた生産され……。その繰り返し。
この街は……こうして回っている。
カラオケが綺麗な景色のなかにポツンと、大自然のなかにポツンとあれば、どれほど気持ちがいいだろうか。いや……何を言ってるんだ。そんな場所じゃ、カラオケボックスなんていらないくせに。自然のなかで大口あけて歌ってろ、クソが!
「あ~。ネガティブワードがとまんねぇ。ふぅ……」
信二はひたすらに、カラオケボックスへと足を運んでいる。
「あ、ここ。今度入ってみよー」
レビュー評価が☆1000を超えているような有名なラーメン店がたくさん溢れている。そんな街中を今日も今日とて信二は歩いていく。
そんな、とき。
ありえない、というか信じたくない光景が目に入ってきたんだ。
「あれ……茜?」
どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。
脳内が混乱する。どうしてそうなった。どうしてこうなった。
「茜と……あの隣のでっかいイケメンっぽい人は誰だ」
知らない人だった。茜には兄弟なんていない。一人っ子だ。
男友達なんてのも茜には少なかった。たくさんいたとしても、そもそもこんな夜中に二人で歩いていることは普通じゃない。
しかもこの街を歩いているということが……だ。
「えっ……そっちは。そっちはホテル街……。うそ、だろ」
驚くほどに事はスムーズに進んでいく。
「えっ……どうしてっ。あの後ろ姿は、あの服は、あの横顔は……。あの髪は……」
気が付けば、信二の足は二人を追いかけていた。
「間違いなく、茜だ!!!!」
そして、何の慈悲もなく、二人はラブホテルへと入っていった。
そして信二も無言でそのホテルのなかへ。
「ちょっと、お客さん。勝手にズンズン入っていってもらっては困ります」
「あ、ああ……。ごめん、いくらだ?」
「えっとお客さん、一人でご利用で?」
「……ああ、そうだ」
「えっと……」
「いくらだ?」
「……………」
カウンターで対応してくれた、いい感じの男性は困っていたが、最終的に信二は部屋の鍵を受け取り、すぐにその場所に向かった。
(頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む……何かの間違いであってくれ)
この期に及んでまだ、希望を捨てきれない信二。
早歩きで二人の向かっていった方へと進む。進む。とにかく進んだ。
そしてその角を曲がって二人が視界に入った。
茜だった。間違いなく茜だった。
二人とも何にも周りのことなんて見えてなかった。
信二が同じ廊下に立っているっていうのに。
彼氏がラブホテルにいるというのに。
どうして気が付かないんだ!!!
「茜……」
「んっ……」
部屋の前に立って、二人はそんな会話を交わした。
『ガチャッ』
鍵があく。
二人は駆け込むように入っていく。
そして、部屋のドアが勢いよく閉まる。
信二は茜たちの部屋の前に立つ。閉まったのとほぼ同時だった。
そして……
すぐさま、それは聞こえてきた。
「んんんんんんんん……ああああっあああああっ。修平っ……」
「茜、あかねあかねっんんんんんっ……」
目の前のドアがガタガタ、ドンドン……
激しく振動している。
「しゅう……へい……。もう、わたふぃ……無理、だめ。我慢できない……」
信二は、その茜の言葉を聞いて、もう堪えられなくなった。
怒りではなく、失望だろうか。
すぐさま、こみ上げてきた感情はそんな、自分を傷つけるものだった。
『ガチャ……』
信二は二人が入っていった部屋とは、かなり距離の離れた部屋へと入っていった。
『ギシッ……』
軋むベッドの音。
まさか、初めてのラブホテルで一人で、ベッドを軋ませることになるとは、思いもよらかった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
信二は吠えた。泣いたというよりも、吠えた。
信二のなかで、何かが崩れ去った。
一周年記念日。それは信二にとって一生忘れられない日になった。。。
【続く】
すでに家に帰って制服は着替えてしまった。本当は今日のために、君のために買ってきた服だったんだけどな。
しかし……
どうもおかしい。
絶対におかしい。
何かが明らかにおかしいと、信二はそう感じている。
「どうして、よりにもよって、今日なんだ」
信二は人込みのなかを歩きながら、呟く。すれ違う人が信二のことを訝しげに睨む。
独り言を言った、ただそれだけなのに。。。
「あいつ、今日のこと覚えてないのかな。普通はこういう日のことって女性の方が気にするもんだろ……」
そうだ。今日は信二の彼女との一周年記念日なのだ。
石井茜は、どういう理由かわからないが、とにかく今日は一緒に帰れないとメッセージを入れてきた。
毎日、毎日。ほとんど毎日の時間を信二は茜と過ごしてきた。
そのとき茜は確かに笑って幸せそうな笑顔を信二に見せていて……
「でも、もしかすると、サプライズとかって……。はは、ならないか」
信二は落胆している。大いに気持ちを落ち込ませている。
誰しもそんなときはあるが、せめて日にちを考えてあげてほしい。
なにせ、今日は一周年記念なのだから。
たった一度しかない、二人の一年付き合ってきたという、証としての記念日なのだから。。。
「ふぅ……今日は。なんかめっちゃ声に出して歌いたい気分だな。カラオケにでも行くか」
信二はそういって、顔を上げて歩き始めた。
視界には東京の人込みが映る。
みんながみんな、それぞれの小さな毎日の目的に向かって歩を進めている。
そのなかで、そんなたくさんある目的のなかで、信二のそれはどれだけ不幸なんだろうか。何番目に不幸なんだろうか。。。
「ふぅ……。人生ってクソだ」
そんな、とりとめもないことが、頭に浮かびそして消えていく毎日。私たちはそうやって生きていくしかないみたいなんだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
駅の改札を出て、なぜかドブ臭い駅構内を抜けると、そこには飲み屋がたくさん連なる繁華街がある。ゴミ、ゴミ、ゴミが散乱している。汚い。臭い。
ここはそんな街だ。
そして、そういう立地のカラオケに行ってストレスを発散して、そしてまたすぐにゴミのような街に降り立ち、人間は心が荒んでいく。ストレスが生産され消費されまた生産され……。その繰り返し。
この街は……こうして回っている。
カラオケが綺麗な景色のなかにポツンと、大自然のなかにポツンとあれば、どれほど気持ちがいいだろうか。いや……何を言ってるんだ。そんな場所じゃ、カラオケボックスなんていらないくせに。自然のなかで大口あけて歌ってろ、クソが!
「あ~。ネガティブワードがとまんねぇ。ふぅ……」
信二はひたすらに、カラオケボックスへと足を運んでいる。
「あ、ここ。今度入ってみよー」
レビュー評価が☆1000を超えているような有名なラーメン店がたくさん溢れている。そんな街中を今日も今日とて信二は歩いていく。
そんな、とき。
ありえない、というか信じたくない光景が目に入ってきたんだ。
「あれ……茜?」
どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。どういうことだ。
脳内が混乱する。どうしてそうなった。どうしてこうなった。
「茜と……あの隣のでっかいイケメンっぽい人は誰だ」
知らない人だった。茜には兄弟なんていない。一人っ子だ。
男友達なんてのも茜には少なかった。たくさんいたとしても、そもそもこんな夜中に二人で歩いていることは普通じゃない。
しかもこの街を歩いているということが……だ。
「えっ……そっちは。そっちはホテル街……。うそ、だろ」
驚くほどに事はスムーズに進んでいく。
「えっ……どうしてっ。あの後ろ姿は、あの服は、あの横顔は……。あの髪は……」
気が付けば、信二の足は二人を追いかけていた。
「間違いなく、茜だ!!!!」
そして、何の慈悲もなく、二人はラブホテルへと入っていった。
そして信二も無言でそのホテルのなかへ。
「ちょっと、お客さん。勝手にズンズン入っていってもらっては困ります」
「あ、ああ……。ごめん、いくらだ?」
「えっとお客さん、一人でご利用で?」
「……ああ、そうだ」
「えっと……」
「いくらだ?」
「……………」
カウンターで対応してくれた、いい感じの男性は困っていたが、最終的に信二は部屋の鍵を受け取り、すぐにその場所に向かった。
(頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む……何かの間違いであってくれ)
この期に及んでまだ、希望を捨てきれない信二。
早歩きで二人の向かっていった方へと進む。進む。とにかく進んだ。
そしてその角を曲がって二人が視界に入った。
茜だった。間違いなく茜だった。
二人とも何にも周りのことなんて見えてなかった。
信二が同じ廊下に立っているっていうのに。
彼氏がラブホテルにいるというのに。
どうして気が付かないんだ!!!
「茜……」
「んっ……」
部屋の前に立って、二人はそんな会話を交わした。
『ガチャッ』
鍵があく。
二人は駆け込むように入っていく。
そして、部屋のドアが勢いよく閉まる。
信二は茜たちの部屋の前に立つ。閉まったのとほぼ同時だった。
そして……
すぐさま、それは聞こえてきた。
「んんんんんんんん……ああああっあああああっ。修平っ……」
「茜、あかねあかねっんんんんんっ……」
目の前のドアがガタガタ、ドンドン……
激しく振動している。
「しゅう……へい……。もう、わたふぃ……無理、だめ。我慢できない……」
信二は、その茜の言葉を聞いて、もう堪えられなくなった。
怒りではなく、失望だろうか。
すぐさま、こみ上げてきた感情はそんな、自分を傷つけるものだった。
『ガチャ……』
信二は二人が入っていった部屋とは、かなり距離の離れた部屋へと入っていった。
『ギシッ……』
軋むベッドの音。
まさか、初めてのラブホテルで一人で、ベッドを軋ませることになるとは、思いもよらかった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
信二は吠えた。泣いたというよりも、吠えた。
信二のなかで、何かが崩れ去った。
一周年記念日。それは信二にとって一生忘れられない日になった。。。
【続く】
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