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しおりを挟むタナトリック様は、どうやらお忍びで一人旅をするのがお好きなようだ。いつもこうして、暇を見つけてはひとり、こっそりと抜け出しているそうだ。
私はそんな自由で奔放なタナトリック様にどんどんと心を奪われていった。
とても眩しく見えた。
今の私をどこかに連れて行ってくれそうな、そんな淡い期待も抱きながら……
そんな思いで、何日も何日も私はタナトリック様と逢瀬を楽しみました。
タナトリック様もまた私と同様に、逢瀬を楽しんでいるようでした。
そして、ついに。
私は……
「あっ……」
タナトリック様から熱い接吻をいただいてしまったのです。とても熱く激しいものでして。
心のなかがじんわりと、タナトリック様の気持ちで温かくなっていくのを感じました。
そして、タナトリック様はこういうのでした。
「グレイシア、愛している」
「はい……。私もタナトリック様を愛しております」
「……私はできれば、グレイシアと結ばれたいと思っている」
「は、はい……」
「君にその覚悟と責任はあるかな」
「はい、あります」
私は迷わずにそう言いました。決して濁りのない、純粋な心の気持ちで。はっきりと、そう伝えました。
「タナトリック様にも一応、聞いておきたいです。私のことをずっとずっと、裏切らないと誓ってくれますか」
私は少しの恐怖心とともに、そんな問いを投げかけました。しかし、不思議と声は震えず、はっきりということができたのです。
以前とは違う。
タナトリック様には、誠実さが、自由さが、何者にも縛られない、自由の風が吹いている。
だから、私は彼を信じることに決めました。
「ああ、君の母上とは違うということを、これから行動で見せていこうと思う。見ていてくれ」
タナトリック様はそういうと、ニコッと眩しい笑顔を私に向けました。
嘘偽りのない、正真正銘の気持ち。
それがどこから、やってくるのか。それは永遠の命題のように、儚く脆い不安定なものであるけれど……
私には信じることしかできないのだ。
彼を。
タナトリック様を……
「行こうか、グレイシア」
「はい……」
私たちは手を取り合い、深い深い森の中へ……
いつもの逢瀬を交わしている場所へ……
歩いていくのでした。
完。
__________
最後まで読んでくださりありがとうございました!
それと初めてのエールをいただきました!
ありがとうございます……!
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