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第5話 3日目 〜昼休み〜

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 俺は昼休みの教室の喧騒を逃れて、一人で屋上へとやってきている。

 俺は昨日の夜にあった出来事のせいで一睡もできずに朝を迎えた。

 おかげで目の下には目で見てわかるくらいのクマができている。

 睡眠不足になったのは久しぶりのことだった……


「はぁ……」

 俺は午前中の間、一度も浜辺さんのほうを向くことができなかった……

 それは仕方のないことだろ??

 だって、自分が昔に書いていた小説を……


 クラスメイトの!!


 しかも隣の席の!!


 それにそれに清楚系美少女の!!


 浜辺麻衣さんが持っていたのだ……


 もちろん俺が書いたということを彼女は知っていた。


 最初の方はどうして麻衣さんが俺の書いた小説を持っていたんだろうと、恐怖の感情を強く抱いていた。

 しかし時間が経つにつれて、段々と恐怖よりも羞恥心の方が勝っていった。

 だって……

 俺が書いていたWeb小説は……


「エロ小説なんて書かなきゃよかった……」


 ゴリゴリにえっちぃやつだった。

 もう、それは男の欲望を全て体現させたかのような過激なエロ小説だった。

 それをよりにもよって隣の席の女の子に知られてしまったのだ。

 控えめに言って最悪……

 いや、控えめに言わなくて最悪だろこれ!!!


 しかも、この小説には苦い苦い思い出があった。

 この小説が原因で俺は中学3年生以降の小説の執筆をやめた。

 もう二度と執筆することはないと思えるほどに、その小説が原因で俺は深く傷つくことになった……


「久しぶりに嫌な記憶まで思い出してしまったな……」


 四月初旬の柔らかく少し肌寒い風が俺の頬を撫でていく。


 俺は登校途中にコンビニで買ってきた菓子パンを食べながら、一人で黄昏ていた。


 すると……


「こんなところにいたのね。ほんとうに、もう……。探したんだから」


 後ろから浜辺さんが息を少しだけ切らしながらやってきた。

 どうやら昼休み中はずっと俺のことを探しまわっていたみたいだ。


「…………」


 俺はとてもじゃないけど、浜辺さんの方に振り返ることができない。

 恥ずかしすぎる!!

 それにまた……あのときみたいに……

 中学3年生のときみたいに……

 俺は……

 きっと……


「私ね、奏多君の書いてた小説好きだったんだ……」

 しかし、浜辺さんの口から紡がれた言葉は意外なものだった。

「えっ……それってどういう……」

 俺はあまりにも驚いてしまったので、さっきまでの羞恥心や恐れなどは微塵も感じないようになってしまった。

「そのままの意味よ。私はかつて君の小説が大好きだったの」


「で、でも……俺の書いている小説はその、ほとんどがエロ小説……だから」


「ふふふ、おかしなことを言うのね、奏多君は……。君の書いたエロ小説で私がこんなにも変態さんになってしまったんじゃない……」


「ぐふぅぅぅぅっ!!!!」


 俺は唐突の爆弾発言に思わず吹き出してしまう。


 そうか、そういうことだったのか……。


 彼女がエロすぎる原因は俺が昔書いていたエロ小説だったのか。


 なるほどなるほど、道理でね。納得したよ、うんうん。


 「ってなるかあああああああああああああ!!!!」


 俺は今までの憂鬱な気持ちを全て吹き飛ばしてしまうくらいの勢いで思いっきり叫ぶことになった。


「今の私があるのは奏多君のエロ小説あってこそなんだよ~」

 さらに浜辺さんは俺に追い打ちをかけてくる。


 や、やめてくれ!!

 俺の書いていたエロ小説で他人の性癖を歪めてしまったということを、本人から直接言われてしまう、この破壊力!!

 半端ないんだからね!!

 本当に体の奥底から羞恥心が沸き上がってくる……


 これ、羞恥心で死ぬレベル。割と本気で。


「でも、どうしてなんだろうね。奏多君、あるとき急に小説の更新をやめちゃったよね? あれってどうしてなの? 何か理由があるの?」


「そ、それは……」

 
 俺はそういってしばらくのあいだ固まってしまう。

 言えるわけがない。

 昨日、浜辺さんが貸してくれた小説が原因で書くことをやめたって。

 俺の黒歴史を知る人は俺と、あの子だけでいいんだ……

 これ以上は知られたくない。

「まあ、いいんだけどね。無理に言おうとしなくても。ごめんね、ちょっと立ち入った質問しちゃって」


「あ、ああ……」


「私は絶対に奏多君のことを気持ち悪いとか、思ったりしないから安心してね?」

 彼女は妖艶な笑みを浮かべて俺の過去を肯定してくれた。

 俺の書いていたエロ小説を認めてくれた……


「あ、ありがとう。浜辺さん……」


 俺はその彼女からの言葉が心に染みていくのが分かった。

 だって……中学3年生のときの、あの子みたいには言わなかったから

 気持ち悪いって嫌悪の感情を僕に向けなかったから……

 僕はこのとき初めて彼女の人間らしい優しさに触れた気がした。


 しかし、それもつかの間……


「でもそっか~。奏多君がエロ小説書いてたのを知ってるのってこの学校では私だけなんだ~」

「………」

 浜辺さんは何が言いたいんだろうか。

 俺は生唾を飲み込んで彼女が続ける言葉を待った。


「だったら、私がみんなにバラしちゃうこともできるんだよね~、ふふふ」


「そ、それは!! 絶対にやめて!! 絶対に!!」


「う~ん、どうしようかな~」


「お願いだから!! なんでも言うこと聞くから!!」


「なんでも言うこと聞いてくれるんだ~」


「うん!! なんでも言うこと聞くから!! 絶対にバラすことだけはやめて!!」


「それじゃあ……」


 彼女はその清楚な顔をさらにいやらしく歪めながら、次の言葉を紡ぎだした。


「私とエッチしてよ」


「はい????」


「それと、あともう一つ。奏多君、またエロ小説書いてよ」


「はあああああああああああ!!」


 俺はどうやら彼女にうまく言いくるめられたようだった……。

 
 こうして俺と浜辺さんのエッチすぎる日々が始まるのだった。
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