1 / 7
無題.1
しおりを挟む
大学生になった僕は同じ大学で、人生における二人目の彼女ができた。きっかけは同じ講義で近くの席に座ったときのグループワークで、講義とは関係のないことで盛り上がった、そんな不真面目な大学生の何気ない日常だった。
名前は四条真理《しじょうまり》。すこしだけ高貴な雰囲気のする名前の響きで、その期待通りの容姿をしていた。顔もスタイルも、元カノとは比べ物にならない(失礼ではあるが)ほど整っていて、僕なんかにはもったいない人だった。
話しかけてきたのは、彼女のほうからだった。というのも、グループワークのときに僕のノートPCに貼ってある大量のアニメキャラのステッカーについて、彼女が食いついてきたのだ。
サブカルの極みを表現している漫画家が原作のアニメ映画が最近になって上映されていたということもあって、偶然にも映画館で配布されたそのステッカーを、貼ったばかりだった。そしてまたまた偶然にも彼女はそれに食いついたのだ。
なんて、運命なんだろうと思った。
そこから、僕は彼女との会話が止まらなくなった。そして、もう講義どころではなくなってしまい、親の金で大学に行かせてもらっているというのに、彼女と二人抜け出して、その日は事実上の休日となった。
そこからはもう、とんとんと男女の関係が一日の間に進行していった。一緒にまたそのサブカルの極みアニメ映画を見に行き、感想を言い合い、意気投合して、喫茶店に入り、今までのサブカル遍歴を熱く討論し……
そして最後にはラブホテルへと着底した。まさに物語に出てくるかのような、大学生っぷりである。自分でもこんなに物事がうまく運んでしまって大丈夫なのかと思ってしまうくらいに……
でも嬉しかった。今までにこれほど趣味で意気投合したことはなく、初めて大学という場所の魅力を感じた瞬間でもあった。
『大学なんて勉強しに行くところじゃない。人とかかわりに行く場所だ。今までよりもずっとずっと面白い人がたくさんいるぞ』
そんな心境の変化が生じたりもしていた。
……
……
そうして現在にいたる。
僕と真理が関係をもってから、一か月が経とうとしていた。その間に僕は今まで以上に人との交流を求めるようになり、人脈も広がっていた。
だから、真理には感謝しているんだ。真理のおかげで世界が広がったような気がしていた。僕は幸せ者だ。そう強く確信を持つようになった。
しかし、幸せという概念はそう長くは続かなかった。
所詮、それは概念でしかないのだから。
何事もずっと同じ状態が続いていくことなんてあり得ないのだから。
……
……
僕は唐突に、彼女の暗部へと引きずり込まれようとしていたんだ。
……
……
……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「おい、お前、真理と付き合ってるんだってな」
「あ、ああ。そうだけど」
「お前、やめておいたほうがいいぜ。あいつは尻軽女だからな」
「な!?なんでそんなことを言う!」
「まま、そんなカッカするなって。俺はお前のことを思って言ってるんだぜ」
昼過ぎの講義中、僕の隣に一人の男が急に現れた。名前も顔も全くしらない。初対面のやつだった。
しかし、妙に馴れ馴れしい。そしてそのヘラヘラとした顔が妙に気を逆なでする。自分の苦手なタイプの人間だった。
「……急にそんなことを赤の他人に言われてもな。信用って言葉をお前は知ってるのか?」
「それが違うんだなぁ。赤の他人ってわけでもないんだぜ、兄弟」
「あああ?」
いつもより言葉遣いが荒くなっているのが自分でもわかる。駄目だ。これ以上、声を荒げてしまっては講義の妨げになってしまう。早く、ケリをつけなくては。
そう、僕はある種、楽観的に目の前の男のことを見ていたんだ。その話題がまったくもって自分には関係のないことだと思っていたんだ。
いや、そう思いたかったんだ。
「なにせ、俺は真理と昨日寝た男なんだからな」
「……冗談はよせよ。そんなこと言われて素直に信じる彼氏がいると思うか?心当たりがなさすぎる」
「……ほら、これ。見てみろよ」
男はそういって、バキバキに画面の割れたスマホを僕の手元にスライドさせた。
そこには、マッチングアプリの画面が映し出されていた。
「……。なんだ、これは。マッチングアプリなんて低俗なもの。お前はしてるのか」
「はっ低俗だなんて言いやがって。今の若者でやってるやつは結構いるんだぜ。時代錯誤も甚だしいな」
「……僕とこれに何の関係があるってんだ」
「おいおい、まだとぼけるつもりかよ。よ~く画面を見てみるんだな」
疑う視線を男に向けながら、僕はいやいや、スマホの画面を凝視した。そしてようやく、僕は気が付いたのだ。
いや、気が付いていたのだけど、気づかぬ振りをもうできなくなってしまったんだ。
「はははっ。ざまぁないね。彼女が彼氏いながら、マッチングアプリで他の男とやりまくっていることを知った彼氏さんよぉ。惨めすぎるぜ」
スマホの画面には……
少しの加工はしてあるものの、明らかに真理の顔の造形をした女が笑顔で映っていた。しかもかなり際どい写真だった。本人確認もなされていた。プロフィールには、しっかりと、あのサブカルの極み漫画家の情報まで詳細に書かれている。
これは、もう間違いようがなかった。
僕の二人目の彼女はサブカルを齧らせて、漫画のなかにいるような典型的な遊び人と化していた。
「ほら、スクショ、エアドロで送ったからよぉ。じっくり考えるんだな。マッチングアプリで真理と寝た男、俺以外にもわんさかいるぜ」
「……なんで、彼氏を僕だと特定できた?いろいろと不自然すぎる。あいつが口を割らない限り、それか俺と真理が一緒にいるところを見ない限り、特定はできないはずだ」
「さぁ……なんでだろうなぁ」
「答えろ!!!!!!!!!」
僕は大きな声を出して、机を強く叩き、立ち上がった。もうすでに講義のことなど頭から抜け落ちていた。
「こらぁ、君たち、そういうことは他所でやらんかね」
教授が僕のことを迷惑そうな顔つきで眺めている。
明らかに迷惑をかけてしまっていた。
「す、すみません……」
僕がしおらしくなって、着席すると。
隣にはすでに彼の姿はなかった。
「あいつ、一体なにがしたいんだよ」
スマホを開くと、さっき言っていたスクショがエアドロで送られてきていた。
僕は呆然と、ただその画面を見つめていた。
【To be continued】
名前は四条真理《しじょうまり》。すこしだけ高貴な雰囲気のする名前の響きで、その期待通りの容姿をしていた。顔もスタイルも、元カノとは比べ物にならない(失礼ではあるが)ほど整っていて、僕なんかにはもったいない人だった。
話しかけてきたのは、彼女のほうからだった。というのも、グループワークのときに僕のノートPCに貼ってある大量のアニメキャラのステッカーについて、彼女が食いついてきたのだ。
サブカルの極みを表現している漫画家が原作のアニメ映画が最近になって上映されていたということもあって、偶然にも映画館で配布されたそのステッカーを、貼ったばかりだった。そしてまたまた偶然にも彼女はそれに食いついたのだ。
なんて、運命なんだろうと思った。
そこから、僕は彼女との会話が止まらなくなった。そして、もう講義どころではなくなってしまい、親の金で大学に行かせてもらっているというのに、彼女と二人抜け出して、その日は事実上の休日となった。
そこからはもう、とんとんと男女の関係が一日の間に進行していった。一緒にまたそのサブカルの極みアニメ映画を見に行き、感想を言い合い、意気投合して、喫茶店に入り、今までのサブカル遍歴を熱く討論し……
そして最後にはラブホテルへと着底した。まさに物語に出てくるかのような、大学生っぷりである。自分でもこんなに物事がうまく運んでしまって大丈夫なのかと思ってしまうくらいに……
でも嬉しかった。今までにこれほど趣味で意気投合したことはなく、初めて大学という場所の魅力を感じた瞬間でもあった。
『大学なんて勉強しに行くところじゃない。人とかかわりに行く場所だ。今までよりもずっとずっと面白い人がたくさんいるぞ』
そんな心境の変化が生じたりもしていた。
……
……
そうして現在にいたる。
僕と真理が関係をもってから、一か月が経とうとしていた。その間に僕は今まで以上に人との交流を求めるようになり、人脈も広がっていた。
だから、真理には感謝しているんだ。真理のおかげで世界が広がったような気がしていた。僕は幸せ者だ。そう強く確信を持つようになった。
しかし、幸せという概念はそう長くは続かなかった。
所詮、それは概念でしかないのだから。
何事もずっと同じ状態が続いていくことなんてあり得ないのだから。
……
……
僕は唐突に、彼女の暗部へと引きずり込まれようとしていたんだ。
……
……
……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「おい、お前、真理と付き合ってるんだってな」
「あ、ああ。そうだけど」
「お前、やめておいたほうがいいぜ。あいつは尻軽女だからな」
「な!?なんでそんなことを言う!」
「まま、そんなカッカするなって。俺はお前のことを思って言ってるんだぜ」
昼過ぎの講義中、僕の隣に一人の男が急に現れた。名前も顔も全くしらない。初対面のやつだった。
しかし、妙に馴れ馴れしい。そしてそのヘラヘラとした顔が妙に気を逆なでする。自分の苦手なタイプの人間だった。
「……急にそんなことを赤の他人に言われてもな。信用って言葉をお前は知ってるのか?」
「それが違うんだなぁ。赤の他人ってわけでもないんだぜ、兄弟」
「あああ?」
いつもより言葉遣いが荒くなっているのが自分でもわかる。駄目だ。これ以上、声を荒げてしまっては講義の妨げになってしまう。早く、ケリをつけなくては。
そう、僕はある種、楽観的に目の前の男のことを見ていたんだ。その話題がまったくもって自分には関係のないことだと思っていたんだ。
いや、そう思いたかったんだ。
「なにせ、俺は真理と昨日寝た男なんだからな」
「……冗談はよせよ。そんなこと言われて素直に信じる彼氏がいると思うか?心当たりがなさすぎる」
「……ほら、これ。見てみろよ」
男はそういって、バキバキに画面の割れたスマホを僕の手元にスライドさせた。
そこには、マッチングアプリの画面が映し出されていた。
「……。なんだ、これは。マッチングアプリなんて低俗なもの。お前はしてるのか」
「はっ低俗だなんて言いやがって。今の若者でやってるやつは結構いるんだぜ。時代錯誤も甚だしいな」
「……僕とこれに何の関係があるってんだ」
「おいおい、まだとぼけるつもりかよ。よ~く画面を見てみるんだな」
疑う視線を男に向けながら、僕はいやいや、スマホの画面を凝視した。そしてようやく、僕は気が付いたのだ。
いや、気が付いていたのだけど、気づかぬ振りをもうできなくなってしまったんだ。
「はははっ。ざまぁないね。彼女が彼氏いながら、マッチングアプリで他の男とやりまくっていることを知った彼氏さんよぉ。惨めすぎるぜ」
スマホの画面には……
少しの加工はしてあるものの、明らかに真理の顔の造形をした女が笑顔で映っていた。しかもかなり際どい写真だった。本人確認もなされていた。プロフィールには、しっかりと、あのサブカルの極み漫画家の情報まで詳細に書かれている。
これは、もう間違いようがなかった。
僕の二人目の彼女はサブカルを齧らせて、漫画のなかにいるような典型的な遊び人と化していた。
「ほら、スクショ、エアドロで送ったからよぉ。じっくり考えるんだな。マッチングアプリで真理と寝た男、俺以外にもわんさかいるぜ」
「……なんで、彼氏を僕だと特定できた?いろいろと不自然すぎる。あいつが口を割らない限り、それか俺と真理が一緒にいるところを見ない限り、特定はできないはずだ」
「さぁ……なんでだろうなぁ」
「答えろ!!!!!!!!!」
僕は大きな声を出して、机を強く叩き、立ち上がった。もうすでに講義のことなど頭から抜け落ちていた。
「こらぁ、君たち、そういうことは他所でやらんかね」
教授が僕のことを迷惑そうな顔つきで眺めている。
明らかに迷惑をかけてしまっていた。
「す、すみません……」
僕がしおらしくなって、着席すると。
隣にはすでに彼の姿はなかった。
「あいつ、一体なにがしたいんだよ」
スマホを開くと、さっき言っていたスクショがエアドロで送られてきていた。
僕は呆然と、ただその画面を見つめていた。
【To be continued】
10
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる