穏やかな田舎町。僕は親友に裏切られて幼馴染(彼女)を寝取られた。僕たちは自然豊かな場所で何をそんなに飢えているのだろうか。

ねんごろ

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第10話 ヒグラシの鳴くところ

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 あの殴り合いと話し合いのときを経て。



 雨音の過ぎ去る音と、雷鳴の遠ざかる音を、聴き分けるまでやりあったすえに。



 落ち着いた場所で3人は再び話し合った。青空と真っ青な海の見える、その砂浜で。完璧な青のなかで……。



 久彦は二人のことを理解しようとした。納得はしなかったが、魔が差してしまった二人の経緯を理解しようとした。



 紫はK先生という高校の先生(女性)に、どこの海よりも深く、どこの山よりも高い、果てしのない恋をしていた。そしてそれはふとしたことをきっかけに、K先生と熱い交わりをもってしまったことにより、実現された、恋は成就した、と紫は思っていた。



 しかし、そこからが不幸の始まりだったという。



 K先生は次第にその、学校の教師としての立場を恐ろしいまでに自覚し始め、取返しの付かないことをしてしまったという後悔の念に支配されるようになったのだそうだ。



 そのK先生のことは久彦も、緑もよく知っていた。英語の担当をする先生で、とても愛想がよくて、面倒見のいい先生だった。ロングヘアがとても綺麗で、まさに美の象徴とでも言うかのような存在だった。



 だからこそ、久彦は紫がそのような無謀な恋に落ちていたという事実に驚いたし、同時に紫の昔からの、恋愛体験をあまり話そうとしないその気質を思い出したりしていた。



 K先生は次第に紫を突き放すようになり、そして体を拒むようになった。あのとき、あの瞬間に感じていた快楽は確かなものだったと、紫は何度も訴え、そんなくだらない社会の束縛なんて自分たちには関係がないことだと、必死で説明したのだそうだ。



 しかし、それはついには、K先生の果てしのない紫に対する無関心を招いてしまうことになった。恋のみに偏った、性欲に多分に傾倒した恋の在り方に溺れた、後先顧みない坊や、を見ているような目つきで、紫を見つめるようになったのだ。いや、もうすでに見つめてもらうことすら、そのときはかなわなかったのだそうだ。



 そして……



 ……



 ……



 紫をとてつもない孤独と鬱が襲った。



 それが全てのきっかけだった。久彦たちの本物を壊すきっかけとなった。



 K先生との恋が失墜してから、紫は凄まじい孤独と鬱屈のなかで、何度も何度もマスターベーションをした。そのたびに、凄まじい快楽と、それと同等の孤独と鬱々とした気持ちが溢れ出してきた。それはもう止めることのできない循環のなかに取り込まれてしまっていた。



 やめなくてはと思っていながら、やめられない。アルコールのように。タバコのように。糖質のように。何もその循環の意図を理解できないままに、紫は自傷行為に近いマスターベーションを何度も何度も繰り返した。やればやるほど、性欲が一時的に満たされはするものの、何かがすり減っていくような感覚。大切な何かがごっそりと跡形もなく消え去ってしまうような、そんな感覚。



 



 紫はそのような、このうえないほど堕落した生活を繰り返し続けた。それはとても空しいものだった。切ないものだった。悲しいものだった。耐えられないほどの絶望が紫を襲っていた。



 そして日に日に、残酷性と虚無感を持ち得てしまったような自らの性器のその先に、汚れてしまった自分自身の姿を見出したのだ。



 精神的に汚れてしまった自分自身の姿。



 長くだらんとしたその形態のその先に、ひどく滑稽な自らの存在、生命としての存在を見出したのだ。



 恋に溺れ、恋に狂い、そして恋に失望し、マスターベーションに耽った。ついには己を見失った。



 どこまでも惨めで醜い、ひとりぼっちの存在。



 本質的にどこまでも孤独な存在としての生命。



 ……



 ……



 ……



 その凄まじい絶望の果てに、紫は、あのヒグラシの鳴くところで、緑にどうしても悩みを聞いてもらいたくなった。なぜか、緑。



 緑だった。



 それは緑だったのだ。緑だけだったのだ。



 どうしてなのか、それはもうすでに、紫にはわからなくなっていた。そこに隠されている意味合いなど、目的性など、少しも己の頭で考える力がなくなっていた。



 文字通り、己を失っていたのだ。自己を喪失していたのだ。



 そして……



 ヒグラシの鳴き声を聞いているうちに。クマゼミに隠れつつもその切なさを、紫の心に共鳴させてくるヒグラシの鳴き声を聞いているうちに。



 すべてを緑に打ち明けてしまった。



 ヒグラシの鳴くところで、打ち明けてしまったのだ。



 そうしているうちに、紫の絶望で擦り切れてしまったこころのうちに。とてつもない考えが、その衝動性をもってして表出し始めたのだ。そうなってしまったのだそうだ。それはもう、どうすることもできない、そのままの本能でしかない性の有様だったのだそうだ。そこに少しもひとの存在はなかったのだそうだ。



 動物としての紫がただそこにあったのだそうだ。

 

 紫は無性に人肌が恋しくなってしまった。今すぐにでも、誰でもいいから、あのときのK先生との純粋な交わりを与えてほしかった。



 ほんとうに、誰でもよかったんだ。相手なんて、何も重要じゃなかったんだ。あの本質的には絶望しか与えない、どこまでも無意味なマスターベーションの、その果てしない循環から、誰でもいいから救い出して欲しかったのだ、そうだ……



 そして、緑はそれを受け入れた。



 どうしようもなく、哀れに思えて。



 どうしようもなく、親友のことが可哀そうに思えてきてしまって。



 この切なさを強振させてしまう、どこまでも無常にあふれたヒグラシの鳴くところで……



 緑は紫を、無意識のうちに、受け入れてしまったのだそうだ。



 無意識のうちに……



 ……



 ……



 ……



 全てを聞いた。久彦は緑と紫の言うことを全て聞き取った。それが本当のことだとして聞き取った。あの殴り合いと言葉のぶつけ合いのあとであれば、久彦は何事であっても信じられる気がしていた。



 久彦は緑と紫を信頼しきって何もかもを聞き、その果てしない二人の絶望を自らに落とし込んだ……、が。



 全くもってそれらを理解できなかった。納得なんてこれっぽっちもできなかった。



 しかし、不思議なことに、同情はしていた。



 紫の、限りなく深く落ちてしまった恋の果てに行ったその不毛な行為の、あまりにも不憫な情景が目に浮かんだから。



 緑のどこまでも親友を大事に思うそのこころからの気持ちに酔いしれたから。それがたとえ、自らの性を無駄にしてもう一人の大切な人を傷つけることになったとしても。そこには確かな緑の優しさが含まれているように思えたから。



 自らの傷なんかよりも、ずっと深く痛く、他人の傷が心に染み入ってくるような錯覚。他人の傷が自らの傷となる。そんなとてつもなく悲しみの伴う感覚。それが全てを麻痺させてしまうような感覚。



 それでいて、他人のことを深く知れたようになれる感覚。不可思議な思いやりの感覚……。思いやりという行為の本質に届きそうな感覚……。わかってあげたいという慈しみのような感覚……。



 そしてついに得られる、ぼんやりとした幸せな感覚。



 自己陶酔。



 ……



 ……



 ……



 マスターベーション



 K先生



 性欲



 ヒグラシ




 魔が差した原因を作った材料を並べてみる。そこには、極めて独立した概念があった。しかしながら、その独立性が紫という個人的な存在において、極めて個人的な体験として連鎖を引き起こし、その一連のなかで帰結をもたらした。



 そこには、もちろん共有できる苦しみがあるのかもしれない。しかし、それはあくまできわめてごく一部でしかない。氷山の一角を除く、その他多くの領域には、個人的な体験があり、感情があり、そして個人にも制御できない領域が鎮座している。



 なにも判然とはしない、もう一人の自分。いや、そこにはいくつもの自分がいる。存在している。そして紫はそのぼんやりと漂うような、自分ではない自分に、身を委ねてしまったんだろう。



 どこまでも、脱力的に。無気力的に。それでいて、心のどこかで救いのようなものを求めて……



 ………



 ………



 ………




 久彦たちの3人のイザコザは多少ではあるが、オオゴトに発展してしまったが、なんとか収束を迎えた。



 まるで、初夏の入道雲がもたらすゲリラ豪雨のように。それがわっと盛って、すっと静寂をもたらすかのように。



 雨上がりの澄んだ青空のように。



 何の理屈も根拠も原因もない、何をよすがにしているのかはっきりとしない、すっきりとしたこころが広がっていた。



 理解も、納得も、何も伴わないままでありながら。



 妙に晴れやかな心地が3人を包み込んでいる。



 何がそうさせたのだろう。何が再び3人を結びつけたのだろう。



 そして、そのそれぞれの晴れやかさは、何を共有したものであるのだろう…?



 ……

 

 ……



 ……




 そこには体験したものにしかわかりえない、非言語的な在り方が示されているように思える。



 3人の青春のなかにしか訪れない感覚であるよう思う。殴り合いを経て心の声をぶつけ合った3人にしかわからない感覚なのだと思う。





 どこまでも3人的な世界が広がっているように思う。



 信じなければならない世界が広がっているように思う。



 3人ともがお互いに大切に依存しあわなくてはならない、そんな世界。



 信頼だけがたよりの……



 そんな3人だけの形をした青春。



 幻のように儚く美しい友情の世界。




 ……



 ……



 ……



 目の前に完璧な青が広がっている。海と空と、そして青春と……



 3つ合わせての完璧な青。





「ねぇ、見て。これ完璧な青空じゃない。雲一つないよ」

「そうだね。完璧すぎる。これは。本当に、どこまでも限りなく美しい広大な海だ」

「ほんとに。まったくそのとおりだよ、緑、紫……。いまこの瞬間が紛れもない青春だよ!」




 ………



 ………



 ………



 せーのっ




『『『PERFECT BLUE』』』




 青春が全てを在ったままにしながら、それをどうでもいいことへと変質させて、なにもかもを一掃していった。この穏やかな自然で。どこまでも豊かな情景にあふれた田舎町で。



 この3人の住む田舎町で。



 ……



 ……



 ……




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





 夕暮れどき。クマゼミが存在を消して、ひぐらしの鳴き声だけがほとんど心のなかに満たされるとき。



 緑と紫と久彦の3人はあの神社の境内に来ていた。鬱蒼とした木々が鳥居を囲み、ずっとずっと奥まで石段を伸ばして、その暗闇をどこよりも深く、そして早く、あたりに溶かし込んでいるところ。




 ヒグラシの鳴くところ




『カナカナカナカナカナカナ……』




 3人は横に並んで、いつもはすることのない拝礼を丁寧に行っていた。それはこれからの関係について純粋にお祈りをするためでもあったし、一度振り出しに戻ったからには、今後の3人の安寧を神頼みしたくなるというのが、人間の奇妙な他力本願な本能というところだろう。



 久彦は一歩だけ前に踏み出して、緑と紫はその左右に少し離れた位置で立つ。そしてそれぞれが、それぞれで用意したご縁がある5円玉を1枚だけ放り込んだ。ここで大金を貢ごうとしないところを見る限り、彼らはまだまだ学生らしくあったし、神頼みに一定の距離感を持ち合わせているようにも見えた。




 二礼二拍手一礼に則った規則正しい順序で3人は、それぞれに何かを祈った……



 祈っている……



 深く、深く……



 精神の奥底から……



 それぞれに大切なことを胸に思い描きながら……



 青春を……



 久彦にとっての青春の在り方を……



 




 緑と紫が、久彦の知らないところで目をお互いにピタリと合わせた。久彦が長く祈っている間に、お互いがその祈りを切り上げて、視線を交わらせた。



 緑がウインクをする。



 そして口をパクパクさせて、何かを言っている。



 紫に向かって。



 声にはならないけれども、確かにはっきりと伝わる簡潔さで意志を伝えようとしている。



『あ、り、が、と』



 緑は一回息をついて、もう一度こえにならない言葉を紡ぐ。



『こ、れ、で、も、と、ど、お、り、ね』



 緑が紫をみて、意志が伝わったか、確認のウインクをする。



 紫はそれを見て、微笑んだ。



 軽く、とても、軽く。



 しかし、そこには底知れぬ感情が含まれているように見える。



 誰にも形容し得ないような闇深く奥深い、紫の感情が……



 厳かにそして巧妙に隠されている……



 そしてそれは緑も同様であった……



 ……



 ……



 ……



 緑の口がぼそぼそと声にならない言葉を紡いだ。




『純粋な双方向の愛なんて幻想だよ』




 緑と紫の小指と小指が優しくそっと、結ばれた。




「ん?なにか言ったか?緑」




 そして、静かにそれは離された。そっと、何事もなかったかのように。ごくごく自然な流れで……。



 久彦が振り返って不思議そうな顔を緑に向ける。



 緑は笑顔でそれに答える。




「別になんともないよ。久彦は気にしなくていいよ」

「そっか」



 久彦はそういって、再び長い祈りのときへ、存在を溶かしていく。



 ……



 ……



 ……



『カナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナ……』



 ……



 ……



 ……




「あっ。でも久彦。これだけは言っておきたいかも」

「ん?なんだ?」




 久彦は祈りながら、振り向かずに、聞き返す。



 後ろでは再び、小指と小指が結ばれている。




「これだけは本物だよ」

「ん……?なにが本物だって?」




 緑と紫がお互いに息を合わせて小指を振り切って、同時に久彦の隣に飛び移る。



 そして、ひぐらしの鳴き声に負けないくらいの大きさで……



 久彦の祈る姿を、二人して笑顔で覗き込みながら……




「「青春ッッッッッッッッッ…!!!!!!!」」

 

 ……



 ……



 ……



『カナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナ』



 ……



 ……



 ……




【The End】
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