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序章
こんにちは人生
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一日の授業が終わって、別のクラスの友人を待ってぼーっと外を眺める。
外では、部活動に励む男女の姿や部活に入っていない人達が楽しげに談笑しつつ疎らに歩いている姿がよく見えた。
友人は補習があるかもしれないと言っていたので、まだ来ないだろうと参考書を開く。
友人が見たら「また勉強しているの」と嫌そうな顔をするだろうが、私は勉強が好きで、暇さえあれば授業の予習復習や興味のある分野の参考書を読み耽っている。
少しの間そうして参考書を読み耽っていると、教室のドアが勢いよく開いた。どうやら友人が来たらしい。
勢いが良すぎてドアが悲鳴を上げたが、開けた張本人は全く気にした様子はなかったし、毎回こんな調子だから慣れてしまったので、私も大して気にしていなかった。
それに教室に残っているのは私くらいで、クラスメイト達は部活動だったりで授業が終わった瞬間に皆元気よく教室を飛び出していったのだから。
「ねえ、伊吹(いぶき)!また勧めたいゲームがあるの!」
かなり興奮した様子の友人の声。
乙女ゲームや少女漫画などを愛してやまない友人で、いつもゲームや本を私に勧めて貸してくれる良き友人だ。
友人曰く、勉強ばかりしていると頭が固くなる、らしい。自分が好きなものを語り合いたかったというのが本音らしいが。
「今度のはどんな内容なの?」
興奮しすぎな所はいつも通りなので注意せずに、続きを話すように促す。
「今回のはね、『さよなら、タナトス』ってタイトルで、魔王とかそういうのが出てくる系でね!ヒロインが可愛らしいのは当然の事なんだけど、悪役のキャラクターもすっごい美人でね!立ち絵を見た瞬間に惚れたわ。もう本当に素敵なの!それにストーリーも甘々なのにシリアスだったりギャグだったり、とにかく最高なの!」
乙女ゲームの攻略対象のキャラクターではなく、まず初めに女性キャラを話す友人。これも友人の癖だ。
主人公を妬んだり、悪役を蔑んだりせず、良い点を褒めちぎる。
そう言う友人だからこそ、話していてとても心地良いのだけれど。
荒い息のままにヒロインと悪役のキャラクターの良い所を語り倒す友人が押し付けてきたのは、ゲームソフトと何やら分厚い本とノートだった。
いつもならゲームソフトと攻略法を書いたメモだけだったので、不思議に思って問う。
「今回はかなり気合入ってるみたいだけど、この本とノートは一体何?」
私が問うと、友人はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに嬉しそうな表情を浮かべる。
「今まで色んなゲームをプレイしたり本を読み漁ったりしてたけど、今回のは一番心に響いてね、すっごく大好きなの!だから、伊吹にも知って欲しくて、設定資料集と攻略法とキャラクターそれぞれの情報集よ」
攻略法やキャラクターの情報はいつもルーズリーフなどに数行ほどにまとめられて小さく折り畳まれて渡されていたから、ノートになっている事に驚いた。
それもかなり分厚いノート。しかも設定資料集付き。
「私が大好きなキャラクターもそうなんだけど、今回のはどのキャラクターも素敵なのよ!だから是非プレイしてちょうだいね!」
そこでふと意識が途切れた。
友人の声がしていたと思ったら、突然の暗転。
そして友人ではない他の人の声が耳に飛び込む。それも複数人いるらしかった。
どの声も聞き覚えのないもので、誰だろうと思い目を開ける。
開けようとしたが、まぶたがかなり重い。今までに感じたことのないほどの重さで何事かと内心慌てる。
やっとの事でまぶたを持ち上げる。
まず眩しさで目を焼かれるかと思った。そして次に、ゲームや本の物語などでしか見たことがなかった豪華絢爛な部屋が視界に飛び込む。
そして、煌びやかな衣装に身を包んだ人々。そのどれも見たこともない人達だったから、より一層驚いた。
それなのに、その人達は私を見て嬉しそうな表情を浮かべていた。
何故だろうと顎に手を掛けようとして気付いた。
私の手にしては小さすぎる。まるで赤子の様に小さく柔らかな体。
喋ろうとすると、口から出るのはあー、とかうーとかそういうものだけ。赤子ではないか。
全身に感じていた暖かな熱の正体を知ろうと上を見上げる。
そこには、聖母の様に慈愛に満ちた美しい微笑を浮かべる美しすぎる女性の姿。
私の体をより一層きつく抱き締めて、「愛しい子」と言って頬擦りする。
それがくすぐったくて、思わず身をよじるが、抱き上げられている上に赤子の身である為に上手くいかなかった。
仕方なく私は美女に抱かれたままで、部屋を見回す。
なんということでしょう。友人が私に勧めていたゲームの景色と全く一致したのだった。
外では、部活動に励む男女の姿や部活に入っていない人達が楽しげに談笑しつつ疎らに歩いている姿がよく見えた。
友人は補習があるかもしれないと言っていたので、まだ来ないだろうと参考書を開く。
友人が見たら「また勉強しているの」と嫌そうな顔をするだろうが、私は勉強が好きで、暇さえあれば授業の予習復習や興味のある分野の参考書を読み耽っている。
少しの間そうして参考書を読み耽っていると、教室のドアが勢いよく開いた。どうやら友人が来たらしい。
勢いが良すぎてドアが悲鳴を上げたが、開けた張本人は全く気にした様子はなかったし、毎回こんな調子だから慣れてしまったので、私も大して気にしていなかった。
それに教室に残っているのは私くらいで、クラスメイト達は部活動だったりで授業が終わった瞬間に皆元気よく教室を飛び出していったのだから。
「ねえ、伊吹(いぶき)!また勧めたいゲームがあるの!」
かなり興奮した様子の友人の声。
乙女ゲームや少女漫画などを愛してやまない友人で、いつもゲームや本を私に勧めて貸してくれる良き友人だ。
友人曰く、勉強ばかりしていると頭が固くなる、らしい。自分が好きなものを語り合いたかったというのが本音らしいが。
「今度のはどんな内容なの?」
興奮しすぎな所はいつも通りなので注意せずに、続きを話すように促す。
「今回のはね、『さよなら、タナトス』ってタイトルで、魔王とかそういうのが出てくる系でね!ヒロインが可愛らしいのは当然の事なんだけど、悪役のキャラクターもすっごい美人でね!立ち絵を見た瞬間に惚れたわ。もう本当に素敵なの!それにストーリーも甘々なのにシリアスだったりギャグだったり、とにかく最高なの!」
乙女ゲームの攻略対象のキャラクターではなく、まず初めに女性キャラを話す友人。これも友人の癖だ。
主人公を妬んだり、悪役を蔑んだりせず、良い点を褒めちぎる。
そう言う友人だからこそ、話していてとても心地良いのだけれど。
荒い息のままにヒロインと悪役のキャラクターの良い所を語り倒す友人が押し付けてきたのは、ゲームソフトと何やら分厚い本とノートだった。
いつもならゲームソフトと攻略法を書いたメモだけだったので、不思議に思って問う。
「今回はかなり気合入ってるみたいだけど、この本とノートは一体何?」
私が問うと、友人はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに嬉しそうな表情を浮かべる。
「今まで色んなゲームをプレイしたり本を読み漁ったりしてたけど、今回のは一番心に響いてね、すっごく大好きなの!だから、伊吹にも知って欲しくて、設定資料集と攻略法とキャラクターそれぞれの情報集よ」
攻略法やキャラクターの情報はいつもルーズリーフなどに数行ほどにまとめられて小さく折り畳まれて渡されていたから、ノートになっている事に驚いた。
それもかなり分厚いノート。しかも設定資料集付き。
「私が大好きなキャラクターもそうなんだけど、今回のはどのキャラクターも素敵なのよ!だから是非プレイしてちょうだいね!」
そこでふと意識が途切れた。
友人の声がしていたと思ったら、突然の暗転。
そして友人ではない他の人の声が耳に飛び込む。それも複数人いるらしかった。
どの声も聞き覚えのないもので、誰だろうと思い目を開ける。
開けようとしたが、まぶたがかなり重い。今までに感じたことのないほどの重さで何事かと内心慌てる。
やっとの事でまぶたを持ち上げる。
まず眩しさで目を焼かれるかと思った。そして次に、ゲームや本の物語などでしか見たことがなかった豪華絢爛な部屋が視界に飛び込む。
そして、煌びやかな衣装に身を包んだ人々。そのどれも見たこともない人達だったから、より一層驚いた。
それなのに、その人達は私を見て嬉しそうな表情を浮かべていた。
何故だろうと顎に手を掛けようとして気付いた。
私の手にしては小さすぎる。まるで赤子の様に小さく柔らかな体。
喋ろうとすると、口から出るのはあー、とかうーとかそういうものだけ。赤子ではないか。
全身に感じていた暖かな熱の正体を知ろうと上を見上げる。
そこには、聖母の様に慈愛に満ちた美しい微笑を浮かべる美しすぎる女性の姿。
私の体をより一層きつく抱き締めて、「愛しい子」と言って頬擦りする。
それがくすぐったくて、思わず身をよじるが、抱き上げられている上に赤子の身である為に上手くいかなかった。
仕方なく私は美女に抱かれたままで、部屋を見回す。
なんということでしょう。友人が私に勧めていたゲームの景色と全く一致したのだった。
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