柚木原麻里奈と野望狐

雪狐

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第一章

不死麻里奈の初仕事と汚れる手-下-

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「ギャァアア!!」

野盗の根城全体に男の断末魔が響き渡った。

そして、それを皮切りに根城内に幾つも悲鳴や断末魔が立て続けに響き始めた。

「何が起きてやがる!?」

野盗の頭領は鳴り止まない断末魔に焦りと恐怖を感じている。

頭領はすぐに側近の子分達に武器を持たせ、自分の周りを固く守らせ指示を出す。

「いいか、お前達!この部屋への入り口はそこ一箇所だ!開いた瞬間斬りかかれ!!」

「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」

頭領達の居る部屋への出入りができるのは一箇所のみ、必然的に敵が侵入してくるならここしかないと踏んでの指示である。

「と、頭領……声が止みましたぜ」

先ほどまで聞こえてきていた断末魔がピタリと止み、静寂が野盗達を包んでいる。

(いったい誰だ……外には軽く見積もっても200は子分達が居たはず……全員がヤられたってのはありえねぇはず、だが……この静けさは……)

頭領は襲撃してきたのが誰なのか、外にいる子分達をこの短時間で全員ヤられたのか、などを思考していたその時、扉が揺れた。

「っ!?ヤレ!!」

物音一つなく、すぐ扉前に来ている侵入者に戦慄しながらも頭領はすぐさま子分達に攻撃を命じた。

頭領の命令と同時に子分は動き、刀や槍で木製の扉を突き刺した。

何かに刺さる確かな手応えに、何人かの子分は勝った!と思い頭領に振り向いた突如、妙な浮遊感を得た。

「あ、れ……頭領が近、ぃ……」

数メートルは離れていたはずの頭領の直ぐそばに自分が移動していて、なぜか落ちる感覚がしたと同時に、赤い液体が吹き出し首のない自分の体が見えた。

「な、なにが起きた!?」

子分が扉を突き刺しら何かに刀や槍が刺さる鈍くエグい音がした後、黒い影が子分達のそばに移動した直後、約半数の子分達の首が飛んでいた。

首を落とされた子分達からは真っ赤な鮮血が滝のように吹き出し、まるで霧のように視界を霞ませている。

「ギャァア!?」

鮮血で視界が見えにくい中、断末魔が響き、黒い影が視界に映る度に一人一人子分達の首が無くなっていく。

「なんなんだ!?おい!誰だ!?」

頭領は今までにない恐怖感に恐れ慄き、初めて死を意識した。

「と、頭領!!」

生き残った数名の子分が恐怖で腰が抜けたのから四つん這いになりながら頭領の足元に這いずりよってきた。

子分達は仲間の鮮血で真っ赤に染まり、恐怖でボロボロと泣く者、失禁して泣き叫ぶ者、精神に異常を起こしたかのように笑う者になっている。

「お、俺は死にたくなぃ!死にたくない、ぃ!!」

一人の子分が泣き叫びながら出入り口向かい走り出した、しかし扉から出れたのは首のみだった。

今まで目に止まらぬ素早い速度で動いていた黒い影が急に立ち止まった。

「と、頭領!?あいつは、さっき殺した女じゃ!?」

黒い影の正体を麻里奈と気づいた頭領の直ぐそばに居た子分が目を見開き叫んだ。

「化けてでやがったか!!」

殺したはずの少女が今、自分達の前に立っていて。次々と子分達を殺していく、そのありえない現状に野盗達は阿鼻叫喚となる。

「あなたですよね?」

今まで黙っていた麻里奈が、一人の子分を指差し声を発した。

「ひぃい……な、なに……が」

指を差された子分は小さな悲鳴を上げ、後ろに下がった。

「とっても痛かったんです……怖かった、苦しかった……あなたが、あなたが!!私を殺したぁああ」

麻里奈からは少女から発せられた声とは思えない、獣の咆哮のような叫びが響き、頭領と自分を殺した以外の子分達を一刀で斬り伏せた。

「お、俺は殺ってねぇ!!無関係だ!や、殺るなアイツだけを!!」

頭領は子分を捕まえ、麻里奈の前に突き出した。

「ひぃ!?許してくれ、お、俺が悪かった!!……助け……ひぎぃい!?」

許しを請い、助けてくれと懇願する子分の腕を麻里奈は躊躇なく切り落とし、禍々しい三日月のように笑った。

「ダメです、許してあげません……だって、私も懇願しましたよね?助けてって……なのにアナタハワタシヲコロシタ!!」

真紅の瞳が妖しさを増し、更に紅く光輝き狂気を帯びている。

「嫌だぁ!!死にたくない、死にたくねぇよぉおお!!!」

子分は完全に発狂し、逃げようと駆け出そうと立ち上がったると同時に、麻里奈は子分を斬り伏せた。

「次はアナタの番ですよ」

ワザと致命傷で止め、トドメを刺さず麻里奈はただ黙って見下ろした。

「いてぇ、よ……こえぇ、誰、か……嫌……だ……」

子分の苦しむのを無視し、麻里奈は最後の一人である頭領へと距離を詰め始めた。

「くっ……俺の負けだ……降伏する、助けてくれ」

頭領は手に持った武器を投げ捨て、麻里奈に対し投降すると告げた。

「…………」

無言で近寄ってくる麻里奈に、頭領は両手を上げ降伏するといいながら仕込みの暗器の射程距離を測っている。

(もっとだ……もっと近寄ってこい、今だ!!)

麻里奈と自分の距離が一メートルに近寄った瞬間、頭領は暗器を発動させた。

「っう!?……がはっ……」

壁に仕込まれた槍が麻里奈の腹部に深々と突き刺さり、麻里奈はダラリと前のめりに糸の切れた人形のようになった。

「へへっ……やってやった、さてさっさとズラかるか、あ?」

頭領が麻里奈の横を通り抜けようとしたその時、左手を掴まれた。

「なっ!?テメェ!?生きて、ぐぁあ!?」

掴まれた左手がメキメキと砕かれ、痛みに顔を歪めた直後、自分の手を掴んだのが麻里奈でないことに気づいた。

「まったく、槍が刺さったくらいじゃ死ななのわよ」

九つの尾に黄金の髪と瞳の妖狐紅愛だった。

「バ、バケモンが!!ギャァア!!」

突如、蒼い炎が頭領を包み一瞬にして消炭になって崩れ落ちた。

「こんな、いい女に化け物は酷いじゃない」

紅愛は槍に貫かれた麻里奈を引き抜き、優しく頭を撫でた。

「フフッ、よくできたわ良い子ね。もっと強くなって、私の夢を叶えてちょうだいね」

紅愛は妖しい笑みを浮かべながら、気絶した麻里奈を抱きかかえ野盗の根城を後にした。

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