柚木原麻里奈と野望狐

雪狐

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ぷろろーぐ

柚木原麻里奈異世界にて死す

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「げふっ……ぅ、あ……痛、い」

胸が焼けるような鈍痛に走り、口の奥からは血が込み上げ呼吸もままならない。

身体からは力が抜けていき、視界も霞んできた。

「ぅ、げほっ……い、やぁ……死に、たく……ない、お母さ……ん」

少女の胸には短剣が突き刺さっており、一目で致命傷であることがわかるほど出血している。

そんな彼女の近くに黒ずくめの男達が数名立っている。

「ったく!殺すなって言ったろうが!」

肩幅が広く見てわかるほどの筋肉質な初老の男が、少女を刺した男を怒鳴りつけた。

「頭領すんません、でもこの女が悪いんですよ」

頭領に怒鳴られ、頬に引っ掻き傷のあるこの男こそ少女を刺した犯人である。

少女を見つけ乱暴しようと組み敷いた時に引っ掻かれ、それに激昂し少女の胸を腰に差した短剣で刺した。

その後、合流した頭領達に少女を発見したことと刺した事を告げ怒鳴られているのだ。

「あらら、頭領。こいつはもう助かりませんよ?」

少女の側に屈み、状態を見た手下の男が頭領に少女が助からないことを告げた。

「チッ、こんだけの器量があれば奴隷として高く売れたのによぉ……こんバカが!テメェは暫くタダ働きだからな!」

頭領は少女を見ながら舌打ちし、刺した男を殴りつけ現棒を言いつけ、少女を始末するよう言って他の手下を引き連れ根城へと帰っていった。

「くそ!テメェのせいで散々だ!」

残された男は少女を蹴りつけ悪態をつき、近くの崖から少女を投げ捨て頭領達の後を追った。









(ここはどこ?私はどうなったの?)

少女は真っ暗な闇の中に立っていた。

辺りを見回しても何も見えず、ただただ漆黒の闇が広がっているだけだった。

(誰かいないの?ねぇ、誰か)

自分の発する声以外、無音で少女は恐ろしくなってきた。

(お願い……誰か、返事してよ)

その場に膝をつき、ついに少女はポロポロと涙を流し出した。

何も見えず、何も音が無く、何もわからない。

恐怖だけが少女を包み、闇に沈むかのような感覚がする。

チリーン。

そんな時、どこからか鈴の音がした。

(鈴?誰かいるの?)

辺りを見回しても何も見えない、しかし鈴の音は聞こえる。

チリーン、チリーン。

鈴の音は徐々に大きくなり、何かの気配が近づいてくるのがわかった。

(誰?誰なの?)

姿は見えず鈴の音だけは聞こえ、少女は恐怖に身を震わせ眼を固く閉じた。

チリーン。

先ほどより一際大きな鈴の音が少女の目の前で鳴った。

ビクッと身体を強張らせ、少女は恐る恐る眼を開けた。

(誰も、いない?)

確かに誰かの気配があったのに誰もいない、少女が周囲を見渡そうとしたその時いきなり誰かが目隠しをしてきた。

「だ~れだ?」

耳元で囁くように声が聞こえ、少女は驚き小さな悲鳴のような声を上げた。

「ムッ……悲鳴なんて、失礼な子ね」

声の主は少女が小さな悲鳴を上げた事に不快感を覚えたようで、非難するな声音だった。

(ご、ごめんなさい)

少女は咄嗟に謝った。

「クス、素直ね~……ねぇ、質問いいかしら?」

素直に謝罪した少女を褒めた声の主は、少女に質問していいかと聞いてきた。

(え?はぃ、いいですよ)

「じゃあ幾つか聞くわね、まず最初に……貴女、死んだ事わかってるかしら?」

死んだ?少女はその言葉に驚き、振り返ろうとしたが目隠しされた手がガッチリと少女を掴んでいて身動きができなかった。

「あ~やっぱりわかってないか……見なさい」

声の主がそう言うと、闇しか見えなかった少女の視界にいきなりカラフルな映像が映った。

そして、少女は信じがたいモノを見た。

胸に短剣が突き刺さり、崖から投げ捨てられた時に身体中が打撲や擦り傷ができボロボロの自分の姿に少女は声を失った。

「ちょっとショッキングだけど、間違いなく貴女でしょ?」

声の主はもっと見る?と聞いてきたが、少女は答える事ができずにいた。

少女が返答しないのを否定と受けた声の主は映像を消した。
「どう?貴女が死んだ事は理解できた?」

(嘘、嘘嘘!私は、今ここにいるよ)

少女は否定しながらも、薄っすらと死の間際の記憶がふつふつと湧いてきていた。

「覚えてるはずよ?貴女は死んだの、殺されたのよ」

声の主は優しくもハッキリした口調で少女に死を認めさせようとする。

(嫌、死にたくない……死にたくないよぉ)

少女は死の恐怖で気持ちがグチャグチャになり、ボロボロと大粒の涙を流し泣き出した。

「……痛かったわね、怖かったわね、辛いわよね」

声の主は少女を宥めあやすように優しく背中から抱きしめるように身体を密着させた。

(ひっく……ぅう、死にたくないよぉ)

泣く少女を優しく撫で、声の主は次の質問をした。

「生きたい?」

(助けて、くれるの?)

その問いに少女は恐る恐る答えた。

「助けるのは無理だけど、新しい命を使って新しい人生をあげることはできるわよ」

(新しい人生?)

「そう、新しい命新しい人生をあげることはできるわ。欲しい?」

声の主は優しくそう言い放つと、少女に欲しいかを聞いた。

少女は藁にも縋る思いですぐに欲しいと答えた。

「わかったわ、じゃあ最後の質問をするわね」

いい子ね、と声の主は少女を撫で最後の質問を始めた。

「貴女は経験済みかしら?」

(え?何がですか?)

少女は質問の意味が解らず、鳩が豆鉄砲を食らったようになった。

「ん~、産毛ね。なら、分かりやすく聞くわね、貴女は処女?」

質問を理解した少女は赤面し、小さな声で答えた。

(……です)

しかし、少女の声は小さ過ぎて肝心な部分が聞こえず声の主は聞こえないわよ、と言った。

(うぅ……処女、です)

少女は更に真っ赤に赤面し、今度はハッキリと答えた。

「オッケーオッケー、とりあえず細かい事は後から説明してあげる、じゃあ新しい人生を貴女にプレゼントしてあげる」

目隠ししていた手が離され、漆黒の闇が一瞬で晴れ真っ白な世界が広がり少女の目の前に九つの尾を持つ女性が現れた。

「さぁ、契約しましょ。えーと、名前は……」

九つの尾を持つ女性は、名前聞いてなかったわねー、と言いながら少女に名前は?と聞いた。

(柚木原、柚木原麻里奈です)

「オッケー、柚木原麻里奈ね」

(あの、お姉さんのお名前は?)

麻里奈は光に包まれてながら、九つの尾を持つ女性の名前を聞いた。

女性はニッと笑いながら。

「私は紅愛、九尾の狐よ……そして貴女は私のモノ」


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