息抜き庭キャンプ

KUROGANE Tairo

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第3話_決戦!妖怪長老ヒノキ!!

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『お前らいつ庭キャンプするんだ?』

 はい、そのツッコミはごもっとも。

 しかしながら、場所が準備できなければ、それも叶わず。焚火しようと思えば十分できるんだけど、最初に一通り整えてからやったほうが、庭キャンプをどこまでエンジョイできるかも分かり易いわけで・・・・・・。

 だが、いよいよ・・・・・あとは例のヒノキを残すのみ。今日こそはやつと決着をつける。

「で?策はあるの?」

 決戦の地(庭)でともにヒノキを見上げるニケが言う。

 策は・・・・・・気合と筋肉。

「それは策とは言わない。」

 まあ、落ち着け。今回はスペシャルゲストを持ってきた。

 オレは通販で買った斧を掲げて高らかに叫んだ。

 【COLD STEELのトレンチホーク、90PTH(ブラック)】だ!

「ソンビ映画で、ソンビの頭叩いて無双してそうな斧もってきたわね。」

 トレンチの名が示す通り、斧の反対側はツルハシになっているので、硬い地面の穴掘りにも使える。柄の長さも片手、両手どちらでも扱えるバランスのいいサイズだ。COLD STEELの名に恥じぬ、使いやすく頑丈な斧だ。値段も性能からすればかなりリーズナブル。

 けっして剣鉈で予算がなくなって、有名職人製の両手斧を諦めたわけではない。見た目と頑丈さを兼ね備えた斧が、漢のロマンとして欲しかったのだ。

「※彼女はアイドルです。」

 ただ、欠点は(ニケの定番のツッコミはスルー)・・・これは大型の斧全般に言えるかもだけど、握力が弱い人には向かない。叩いたときの反動で手が滑ってしまうらしい。

 らしい・・・・・・と言ったのは、レビュー欄にそういう欠点の報告が多かったからだ。

 オレが使う分にはまったく滑る感じははない。むしろ最高のフィット感だ。『キミたちが貧弱なんじゃないのかね?』言いたい。ニケが試しにべつの木で検証したところ、滑って怖いと言うところみると、この説が有力だ。ただ、反動はしっかり帰ってくるので、手袋をつけずに調子にのってガンガン叩いていたら、マメができた。これを使うときは、手袋をしよう・・・・・・。

 さて、問題のヒノキを切り倒す作戦だが、斧だけで切り倒すのは時間がかかる。切り倒す方向の調整は斧には頼らない。斧はあくまでも木を均等に細く削っていくことに集中する。

 倒れる方向は木の重さが偏っているのを利用する。ちょうど開けた方向に太い枝が集中している。オレの読みが正しければ、下の方で下手に重心調整しなければ、思っている方向に倒れるだろう。

 ひたすら己の筋肉を信じ、時々打ち込む方向を考えながら斧を打ち込んでいく。

 余計なことは考えない。今はただ・・・打ち込むのみ!

「調子にのっていると変な方向にベギッってやるぞ。」

 筋肉的トランス状態だったオレは、ニケの一言で我に返った。

 1/3くらいは全体的に削ったかな・・・・・・実際はガッタガタな形で均等に細くはなってないけど、この辺りで止めて置かないと、予測不可能な方向に倒してしまう。とにかく、ノコギリで攻め込める形状になればいい。

 もちろんノコギリでも切断は厳しいだろう。これでいいのだ。

 切断する必要はない。

 これだけデカイ木なら、切断に至らなくてもあとは、重量でどーんと倒れるだろう。最悪、ノコギリで切れるとこまでやっても無理なら、楔をうちこめばいい。専用の楔はもってないが、倉庫にある死んだじーちゃんの薪割り用楔を代用する。錆びとり作業を投げ出すレベルの錆びっぷりだが、ダメ押しの一撃として十分なはずだ。

 ・・・・・・あれ?オレ、一撃(ノコギリの商品名)どこ置いたっけ?

「そもそも持って来てないじゃない。」

 声が離れていると思ったら・・・・・・倒れてくる予定の木を警戒して、危険範囲外からニケは逃げていた。

 どうやら記憶が持って来ていたもの・・・・・・となっていたようだ。

 大丈夫、まだ慌てる時間じゃない。

 ここは庭キャンプ場、家はそこ。つまり、すぐに取りにいける。事実上忘れ物などない!これが庭キャンプ最大のメリットだ!!

 ついでに歯ブラシもとってこよう。(※歯磨き用ではない。それとは別に余っている歯ブラシを専用にとっている。使い終わったノコギリから、切り屑を落とすのに使う。)

 さあ、妖怪長老ヒノキ、引導を渡してやろう。

 流石に途中で休憩を挟みながらだったけどな。なんというか、最初より細くはなったけど、ノコギリが重い。年齢を重ねた木だからなのか、中心に行くほど硬い物を切っているような感覚だ。

 ということは、中心を超えればかなり脆くなるはず。

 気のせいか・・・・・・中心を超えそうな辺りで、切り進んだ跡が倒す予定の方向に少しずつ開いてきているような・・・。

 いやいや、確実に開いてるぞこれ。ノコギリの感覚が軽くなっている。

 メキ・・・メキ・・・と微かだな音が聞こえてきた。いけるぜ!ヒャッハー!!

 メキメキメキメキ・・・・・・。

 あ・・・この音・・・・・・初めて聞く音だけど、本能がマジでヤバイっていってる。

 オレは倒れそうな方向が予想通りなのを確認すると、倒れるぞー!!と叫んだ。

 ニケはとっくに逃げているけど、一応言っておいた。

 ゆっくりな倒れ方だったので、想像してたような轟音はしなかったが、重量感は伝わってきた。

 ついに・・・・・・ラスボスに勝ったのだ!!ヒノキも『これが人類のサガか。』と言っているだろう。

「チェーンソーじゃなくて、ノコギリだけどね。」

 いいんだよ!!モーター式のチェーンソー買ってたけど、ヒノキの枝を切っていたら、ヒノキの脂分が中に入ってきて、モーターを焼いてしまったことを思い出すじゃないか!!買って2回目の使用で壊したんだよ!!どうせあの太さは無理だったけど・・・・・・。

 でももうこれで、オレの庭キャンプを邪魔するヤツはいない。

 よい子のみんな!人生本当に困ったときは、頭を使うよりも筋肉だ!最後は筋肉が解決する!!オレはそれを実証してやったぞ!!

 そう言いながら、勝ち誇った笑顔で倒れたヒノキの上に片足をのせていた。

「いや・・・・・それどうするの?」

 退避していたニケが近くに戻ってきて指さしたのは、オレが片足で踏んでいたヒノキだった。

「私にそのまま、片づけろと?」

 デスヨネー。オレでもこの重さ持ち上げるの無理。

 ・・・・・・まだ戦いは終わっていなかった。

 オレとニケはこのあと、(作業できた日数のみで計算して)1週間程かけて切り倒したラスボスのヒノキの切断作業と片付けを行うのだった。
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