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#11 声
しおりを挟む血の臭いが鼻をつく。受けた傷の痛みに耐えながら、ヨウは来た道をひた走った。
道々の影には悪意や怨嗟が異形を伴いとぐろを巻いている。
木犀剣の輝きに魅入られたように襲ってくるものもあれば、逃げ出すものもあった。走りながら切っ先が届くものは全て切り伏せた。
日は西に傾いていたが、月の出まではまだ時間があった。
なんで、こんなことに──
うぬ、気づいておらんのか
ヨウの心に語りかける者があった。その声はどことなく愉しげだ。
あの巫女は気づいているぞ──
「…………」
苛立ちに似たものがじんわりと胸に広がった。
気づかなかったわけじゃない。気づきたくなかったのだ。
俺のせいだというのか……?
そうよ
と、声が応えた。
我の力は、うぬごときに抑えきれるものではないわ
漏れ出た我の力を食うて、ここらのあやかしどもは力づいたのよ
うぬさえここへ来なんだら、あの巫女もこの先も永らえただろうに──
巫女さまを連れてこの島を出る……
ヨウの決意を声が嘲笑った。
それができると思うてか
うぬ、あれの正体に気づいておらぬげな──
「俺に力を貸せ……!」
ヨウが小さく叫んだ。
うぬにはすでに貸しがある。まだ返してもろうてないぞ
「まとめて返してやる、俺を食うがいい」
荒い息を継ぎながら、なおもヨウは言った。
「だから今一度、俺に力を──」
今ならきっと、まだ間に合う
あの時とは違う──
声は応えない。
ただ、笑ったようだ。
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