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違和感
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「15番……」
「101番……」
「33番……」
「あ。24番」
頭の中のデータが、目の前の人物たちと合わさる。変装していたり、髭をはやしていたり、いろいろ工夫はしているようだけど。脳内の画像と並べてみれば、すぐに本人だとわかる。
私が声を上げるたびに、もう一人の門番に指示を出していたスーさんだったが。途中で顰めっ面を私に向けた。
「お前、本当か? それ本当に確信持って言えるのか?」
「はい、自信あります。どの人も顔写真付きだったので」
「お前の頭、一度割って見てみたい」
「え、いやですよ」
「冗談に決まってるだろうが。ミゲル、どうだった?」
「恐ろしいことに、今確認できている番号については、全員指名手配犯本人であると確認ができました。そしてセイラが話した情報と、指名手配犯リストに記載された情報、ピッタリと一致しています」
スーさんが、化け物を見るような目でこちらを見た。
そんな顔で見られると、ちょっと傷つくんですけど。
「そういえばあの後、玉ねぎ夫人とどうやって話を納めたんですか?」
スーさんは「だから、そういう例えをするもんじゃない」とコワモテ顔で私に注意するが、口元が笑っている。
「仕方がないので、また別の縁談話を受けることにした。叔母上はお前もくるようにとのことだったが。絶対に来るなよ。話がまたややこしくなる」
「行きませんよ。あ、結婚式には呼んでくださいね。豪華なご飯は食べたいので」
「お前なあ。縁談話を受けるだけだ。また適当な対応をして、潰すつもりでいる」
「ほどほどにしないと、本当に結婚したくなった時にできなくなりますよ?」
後方から笑い声が聞こえて振り返る。声の主はスーさんがいつも呼ぶ補佐官の人。バサバサのしたまつ毛をしている特徴から、私は心の中で「マツゲ」と呼んでいる。
「お二人は本当に仲がいいですねえ。門番長がそんなふうに女性と楽しそうに話しているところ、あんまり見ませんし」
「ええ~、この仏頂面で楽しそうなんですか?」
「この野郎」
私たちのやりとりに、またマツゲが吹き出す。笑われるのが癪だったのか、スーさんは居住まいを正し、書類仕事をしているふりを始めた。
「門番長って、初めから見合いに後ろ向きだったわけじゃないんですよ。この通りお堅い方で、顔も怖いので。お相手の令嬢を何度も何度も泣かせてしまい。結果、半ばヤケクソになっておられるんです」
「黙れミゲル」
「へえええ~」
「でも門番長はとても人間のできたいい方ですから。僕はいつか、素敵な人と巡り会えるんじゃないかと思っていますけどね」
「どうですかねえ~」
「セイラ、お前そろそろぶん殴るぞ」
「はいはーい」
「こいつ……!」
ニヤニヤしながら視線を門の方に向ければ、また、発見した。
「スーさん! いました。383番です!」
「コリンが近いな。ミゲル、指示を」
383番の欄の記載内容をパラパラと頭の中で捲る。すると、これまで点と点だった違和感が、一つの線となって浮かび上がった。
「スーさん」
「どうした、またいたか」
「なんか、あの」
「なんだ、はっきり言え」
私の話し方は、どうやら彼の癇に障るらしい。そんなに怖い顔を向けられると、話せるものも話せなくなってしまうのでやめて欲しいのだが。
「多くありません……? そんなに指名手配犯って見つかるものですか? ていうか、そもそも手配犯のリスト、結構な厚みがあったんですけど。それもちょっと疑問で」
勝手な印象だが、指名手配ってポンポン出されるものっていうイメージがないし、首都にここまで多くの手配犯が出入りするのもなんだか異様だ。初めはデータに照合する人物が見つかることが面白くて、楽しく仕事をしていたのだが。あまりに見つかるので途中から不安になってきたのだ。
いつまで経っても返答が来ないので、スーさんの顔を覗き見ると、ずいぶんと真剣な顔になっていた。怖い、もともと怖い顔がさらに怖い。なんかまずいことを言ったのだろうか。
「それに、指名手配犯のほとんどが……」
「セイラ、ちょっと早いが、今日は上がっていいぞ。疲れただろ」
私の言葉を遮るように発されたスーさんの言葉に動揺する。
「えっ、あの」
「ありがとうございます、だろうが」
「あ、ありがとうございます」
答えてもらえなかった質問が、モヤモヤと頭に残ったままだったが。
「閉門間近で、門も騒がしくなってたし。聞こえなかったのかもな」
とりあえず仕事は終わりだ。疑問はまた明日聞けばいい。
門を出て、門番小屋に向かう途中、ふと背後を振り返る。
すでに日が落ち始め、夕陽を受けた石造りの城門もピンク色に染まっていた。
「101番……」
「33番……」
「あ。24番」
頭の中のデータが、目の前の人物たちと合わさる。変装していたり、髭をはやしていたり、いろいろ工夫はしているようだけど。脳内の画像と並べてみれば、すぐに本人だとわかる。
私が声を上げるたびに、もう一人の門番に指示を出していたスーさんだったが。途中で顰めっ面を私に向けた。
「お前、本当か? それ本当に確信持って言えるのか?」
「はい、自信あります。どの人も顔写真付きだったので」
「お前の頭、一度割って見てみたい」
「え、いやですよ」
「冗談に決まってるだろうが。ミゲル、どうだった?」
「恐ろしいことに、今確認できている番号については、全員指名手配犯本人であると確認ができました。そしてセイラが話した情報と、指名手配犯リストに記載された情報、ピッタリと一致しています」
スーさんが、化け物を見るような目でこちらを見た。
そんな顔で見られると、ちょっと傷つくんですけど。
「そういえばあの後、玉ねぎ夫人とどうやって話を納めたんですか?」
スーさんは「だから、そういう例えをするもんじゃない」とコワモテ顔で私に注意するが、口元が笑っている。
「仕方がないので、また別の縁談話を受けることにした。叔母上はお前もくるようにとのことだったが。絶対に来るなよ。話がまたややこしくなる」
「行きませんよ。あ、結婚式には呼んでくださいね。豪華なご飯は食べたいので」
「お前なあ。縁談話を受けるだけだ。また適当な対応をして、潰すつもりでいる」
「ほどほどにしないと、本当に結婚したくなった時にできなくなりますよ?」
後方から笑い声が聞こえて振り返る。声の主はスーさんがいつも呼ぶ補佐官の人。バサバサのしたまつ毛をしている特徴から、私は心の中で「マツゲ」と呼んでいる。
「お二人は本当に仲がいいですねえ。門番長がそんなふうに女性と楽しそうに話しているところ、あんまり見ませんし」
「ええ~、この仏頂面で楽しそうなんですか?」
「この野郎」
私たちのやりとりに、またマツゲが吹き出す。笑われるのが癪だったのか、スーさんは居住まいを正し、書類仕事をしているふりを始めた。
「門番長って、初めから見合いに後ろ向きだったわけじゃないんですよ。この通りお堅い方で、顔も怖いので。お相手の令嬢を何度も何度も泣かせてしまい。結果、半ばヤケクソになっておられるんです」
「黙れミゲル」
「へえええ~」
「でも門番長はとても人間のできたいい方ですから。僕はいつか、素敵な人と巡り会えるんじゃないかと思っていますけどね」
「どうですかねえ~」
「セイラ、お前そろそろぶん殴るぞ」
「はいはーい」
「こいつ……!」
ニヤニヤしながら視線を門の方に向ければ、また、発見した。
「スーさん! いました。383番です!」
「コリンが近いな。ミゲル、指示を」
383番の欄の記載内容をパラパラと頭の中で捲る。すると、これまで点と点だった違和感が、一つの線となって浮かび上がった。
「スーさん」
「どうした、またいたか」
「なんか、あの」
「なんだ、はっきり言え」
私の話し方は、どうやら彼の癇に障るらしい。そんなに怖い顔を向けられると、話せるものも話せなくなってしまうのでやめて欲しいのだが。
「多くありません……? そんなに指名手配犯って見つかるものですか? ていうか、そもそも手配犯のリスト、結構な厚みがあったんですけど。それもちょっと疑問で」
勝手な印象だが、指名手配ってポンポン出されるものっていうイメージがないし、首都にここまで多くの手配犯が出入りするのもなんだか異様だ。初めはデータに照合する人物が見つかることが面白くて、楽しく仕事をしていたのだが。あまりに見つかるので途中から不安になってきたのだ。
いつまで経っても返答が来ないので、スーさんの顔を覗き見ると、ずいぶんと真剣な顔になっていた。怖い、もともと怖い顔がさらに怖い。なんかまずいことを言ったのだろうか。
「それに、指名手配犯のほとんどが……」
「セイラ、ちょっと早いが、今日は上がっていいぞ。疲れただろ」
私の言葉を遮るように発されたスーさんの言葉に動揺する。
「えっ、あの」
「ありがとうございます、だろうが」
「あ、ありがとうございます」
答えてもらえなかった質問が、モヤモヤと頭に残ったままだったが。
「閉門間近で、門も騒がしくなってたし。聞こえなかったのかもな」
とりあえず仕事は終わりだ。疑問はまた明日聞けばいい。
門を出て、門番小屋に向かう途中、ふと背後を振り返る。
すでに日が落ち始め、夕陽を受けた石造りの城門もピンク色に染まっていた。
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