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四、

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「ねえ、太一聞いてよ。絶対おかしいよ、この町の人」

 初めの週からの怒涛の出来事に、さやかさんは旦那さんに愚痴を吐いた。

「ええ? 田舎なんてそんなもんだろ。うちの田舎の方だって、鍵かけないし、家の中に勝手に近所の人たち入ってきてたし。都会とは人との距離感が違うんだって。それは理解した上だったろ?」

 地方出身の太一さんは、都会出身のさやかさんの不安に全く耳を貸さなかったそうだ。

 そして翌日。本当にまた光希ちゃんたちはやってきた。今度は女の子だけでなく、男の子もいた。玄関に並ぶ総勢六人の子どもたちを前に、さやかさんは困った。

「あ、赤ちゃん触る前に手を洗わないとだよね! お邪魔しまーす!」

「え、あ。ちょっと!」

「おばさん、これうちの母さんからお土産」

「俺も持ってけって言われた、はい、これ」

 押し付けるように野菜を渡され、さやかさんが返答に困っている間に、子どもたちはバタバタと中へ入っていく。

「ちょっと、待って、待ってってば」

 ものを受け取ってしまった手前、邪険にすることもできず、結局さやかさんは子どもたちの応対に追われたそうだ。

  ◇◇◇

「それは、なかなかすごいですね……」

「おかしいですよね? 人との距離が近いとか、お互い持ちつ持たれつ、とか、そういう関係が田舎にはあるっていうのは理解しているんです。でもそれが度を超えているっていうか。でも旦那はそこのところの異常さを理解してくれなくて」

 自分は部屋の中にいて、実際に家の中で彼らと対面していないからだと、ここぞとばかりにさやかさんは少々ヒステリック気味に夫への文句をぶちまけた。

「で、その後はどうなったんですか」

「それが、やってくる子どもの数がどんどん増えてきて。しかもあの子達、初めてきた子も含めて、うちの間取りを把握しているような気がするんです。勝手にお菓子の収納場所を開けて取り出していたり、溢れた飲み物を拭くためにタオルを出してきたり、冷蔵庫から勝手にものを取り出していたり。うちの家、かなり大きいんです。◾️◾️◾️の中で、地主の家の次に大きいんです。それなのに、あんな勝手知ったる雰囲気で歩き回れるのは、どう考えてもおかしい感じがして」

「それは、ちょっとこわいですね。今も続いているんですか?」

「はい、毎週平日に何回かやってきます。しかも最近は物やお金がなくなるんです。盗っているところを見たわけじゃないので、彼らがやっているとは言い切れないんですけど。でも他の人間は考えられないし」

「大人の方はいらっしゃらないんですか? ご近所の方は」

「初めにやってきた地主の山田さん以外、やってくるのは子どもだけです。しかも、小学生の子ばかり。近くの駐在所に相談に行ったこともあるんですけど。『まあ、子どものやることですから』って相手にしてくれなくて」

 さやかさんは随分参っているようだった。

「でもそこまでになると、さすがに旦那さんも気にしたりしませんか? 仕事中子どもたちの足音とか、気になるでしょう?」

「最近は少し気になるようになったみたいで。それで、平日に有休をとってもらうことにしたんです。金曜にやってくることが多いので、金曜に。一度男の人からガツンと言って貰えば、子どもたちも来るのをやめるんじゃないかと思って」

 猫の鳴き声のような声が、さやかさんのマイクに入った。

「あ、すみません……子どもが起きちゃったみたいで。最近夜泣きはほとんどなかったんですけど……すみません。続きは今度でもいいでしょうか」

「ええ、もちろん。ちなみに旦那様が子どもたちと対峙するのはいつの金曜ですか?」

「明後日です。そのときあったことも含めて、後日お話します。すみません、では」

「ありがとうございました。リスナーの皆さん、さやかさんの会については、彼女との調整後、僕のSNS上で開催日を告知します。では、次のスピーカーの方をお呼びすることにしましょう」

 僕は話を切り替えたが、長年実話怪談を聞いていた故の勘みたいなもので、とても嫌な予感がしていた。
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