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緑電車乗車
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「何はともあれ、3つ目の電車クリアだな。」
男性は、遠くに去っていく黄色い電車を見つめながら、胸を撫で下ろした。
しかし、最後の言葉はいったいどういう意味なのだろうか。
“あなたと私達は似た境遇”と言われたが…。
「なあ、モトクマ。今まで乗ってきた電車の車掌さん達って、どういう人達なの?」
振り返ってモトクマの方を見ると、モトクマはギンにほっぺを極限まで伸ばされていた。
ギンは怒った様子でモトクマに話している。
「お前、どういうつもりだよ!山の神様に喧嘩売るつもりか?ネズミ達は目をつぶってくれたけどよ。オコゼ達はそんなに甘くないぞ?」
「わがっでぇるよぉ~。」
ほっぺをビヨビヨされながらモトクマが答えた。
「あのー、お取り込み中すみません。オコゼ達とは誰ですか?」
手を上げて質問する男性に、ギンは顔だけを向けて、ほっぺからは手を離さずに答えた。
「あ?あぁ、アンタか。オコゼ達はな、山の神様の直属の部下だよ。ネズミ達なんかよりも気難しくて、冗談が効かないんだ。あいつらが電車の監査に来ると、一気にピリつくよ。」
「なるほど、オコゼの部下さん達ですか。けど、オコゼって海の生き物ですよね?どうして山の神様の部下をしておられるんです?」
「なんか、あいつらは人間達が山の神様に捧げた供物らしいぞ?…詳しくは忘れたな。人間絡みの話はオタクに聞いてくれ。」
ギンはモトクマのほっぺから手を離した。
モトクマは、引っ張られすぎて皮がだるんだるんになったほっぺをさすりながらオコゼについて語り出した。
「山ぁの天気はぁ、女心ぉみたぃにすぐ変わぁるから、山の神様は女神様だって昔の人は思ったみたい。だから、マタギが狩をする時に山が荒れたりすると、なだめるためにオコゼを供物に捧げたの。“女神様めっちゃ綺麗ですよ~!世の中にはこんな怖い顔のやつとかいますから~!機嫌直して下さ~い!”って感じで。」
「それ、なんか失礼じゃね?」
ギンが正論を言った。
「まあね。人間ってのは心が大きな原動力になるから、願掛けとか儀式って物が必要だったりするんだよ。きっと。」
「なるほどなー。さすがはオタク!」
ギンは腕を組んでうんうんと頷いた。
男性も同感だ。
今は熊の姿だが、人間である自分より知識量は多い気がする。
「神様に直で捧げられたやつらだから、神様が運営しているユメノ鉄道の正社員って訳か。」
「そういう事!」
人間の知識を披露できたモトクマは、とても嬉しそうだった。
もっと話したくてうずうずしている。
そのタイミングで、男性が浮かんだ疑問をひとつ投げかけた。
「て事は、電車を運転しているネズミさん達もお供物って事?」
「それが分かんないんだよねー!ネズミさん達教えてくれないんだよー。」
モトクマは口を尖らせて言った。
「ただね、一つ気になる昔話があるんだ…。」
モトクマは周りをキョロキョロ見回した後、2人に、もっと近づくようにと手招きをし、小声で話し始めた。
「これは七不思議石よりもさらにマイナーな昔話だし、似たような話が何個かあってどれが本当か分からないんだけど…。」
急に声のトーンを落としたモトクマの雰囲気に呑まれ、男性とギンは真面目モードになった。
「昔々吹雪のある日に、2チームのマタギ達が別々の山小屋で夜を過ごしたんだって。すると、一つ目のチームの小屋に、扉をノックする音が聞こえたの。扉の向こうからは、中に入れて欲しいと言う女性の声がしたんだって。一つ目のチームは、吹雪の山の真夜中に女性がいるのはおかしいと思って、扉を開けなかったんだって。でも、別の山小屋にいた二つ目のチームは…。」
「開けちゃったの?」
男性は思わずモトクマに聞いた。
モトクマは男性の目を見て、ゆっくりと頷く。
「そう、開けちゃったの。翌朝、二つ目のチームはみんな死んじゃったんだって。…それでね。昔話って地域が少しずれると、内容も少し変わってたりするもんなんだけど、このお話には別パターンの結末もあるの。それはね、二つ目のチームが全員死んじゃったってエンディングじゃなくて、全員ネズミになっちゃったって話なの。全部で7匹。」
男性とギンは顔を見合わせた。
「おいそれって、ネズミの車掌達の事か?ユメノ鉄道の普通車って7つあるだろ。」
ギンの後に、たまらず男性も疑問を投げかける。
「雪の中の女性って、山の女神様って事?神様が七人を天国に連れていったの?女神様が殺したの?それからずっと、鉄道会社で労働を強いられているとか??」
男性の顔色が、だんだん青ざめていく。
不意に車掌が言った“あなたと私達は似た境遇”という言葉を思い出した。
あれは、自分達も昔は人間だったという事なのか?
明日は我が身という事か?
「落ち着いて兄ちゃん!まだネズミさん達が同一人物かは分からないし、雪の中の女性が女神様と決まったわけでも無いよ!ただの幽霊かもしれないし、雪女とかの妖怪かもしれない。もしくは、妖怪に襲われた魂を、女神様がスカウトしたのかもしれないよ?ネズミの車掌さん達、仕事楽しそうだったでしょ!?」
確かに、みんな楽しそうにした優しい人達だった。
少し考えすぎかもしれない。
「でもよー、可能性は無いとも言い切れないぞ?」
男性の気分がまた落ち込んだ。
ギンの顔を見ると、難しい顔をしている。
からかって意地悪を言っているのでは無く、真剣に考えてくれているのだ。
「自然ってのは皆んなに平等に厳しいからな。お前らも目つけられると、どんな判決が下るか分かんねぇぞ?」
「判決……。」
男性の頭の中に、牢屋に入れられた自分の姿が突如として浮かんで来た。
人間界に戻りたいんだと叫んでも、誰も聞いてくれない。
牢屋から伸ばした手は、何にも届かない。
1日で変わってしまった毛むくじゃらの手。
元々は少し白い、30代の手。
事故に遭うまでは指輪をしていた、君が大好きな手……。
「ダメだ!ネガティブ禁止!」
「そうだよ兄ちゃん!2人でやれば、何とかなるよ!」
そうだ、後ろ向きな事を考え続けても、何も始まらない。
ネガティブなくだりはもう、旅の初めにやったじゃないか。
もういいだろう。
一歩ずつ前に進むしかないのだ。
男性とモトクマはグータッチをし、改めて気合いを入れた。
「ちょっと待て!2人じゃなくて、3人だろ?」
強引にグータッチへ参加してきたギンに対して、モトクマが少し慌てて反対した。
「は?何でギンが出てくんのさ!」
「親友がピンチなんだから、協力するのは当たり前だろ?」
「いいよ!僕達でやるから!遊びじゃないんだよ?1人の人間の人生がかかっているんだから!」
「1人の人生?2人だろうが!下手すればお前の方が
「ああーー!兄ちゃん!次の電車が来たよーー!行こうー!」
モトクマはギンの会話をさえぎって、ホームに入ってきた緑電車まで男性を引っ張って行った。
「おい!俺を置いていくなよ!」
ギンはムスッとしながら、歩いて2人の後を追った。
「下手すればお前の方が、リスクが高いだろうが。“1人の人間の人生がかかっている”だと?“1人の人間の人生をかけている”の間違いだろうが!」
男性は、遠くに去っていく黄色い電車を見つめながら、胸を撫で下ろした。
しかし、最後の言葉はいったいどういう意味なのだろうか。
“あなたと私達は似た境遇”と言われたが…。
「なあ、モトクマ。今まで乗ってきた電車の車掌さん達って、どういう人達なの?」
振り返ってモトクマの方を見ると、モトクマはギンにほっぺを極限まで伸ばされていた。
ギンは怒った様子でモトクマに話している。
「お前、どういうつもりだよ!山の神様に喧嘩売るつもりか?ネズミ達は目をつぶってくれたけどよ。オコゼ達はそんなに甘くないぞ?」
「わがっでぇるよぉ~。」
ほっぺをビヨビヨされながらモトクマが答えた。
「あのー、お取り込み中すみません。オコゼ達とは誰ですか?」
手を上げて質問する男性に、ギンは顔だけを向けて、ほっぺからは手を離さずに答えた。
「あ?あぁ、アンタか。オコゼ達はな、山の神様の直属の部下だよ。ネズミ達なんかよりも気難しくて、冗談が効かないんだ。あいつらが電車の監査に来ると、一気にピリつくよ。」
「なるほど、オコゼの部下さん達ですか。けど、オコゼって海の生き物ですよね?どうして山の神様の部下をしておられるんです?」
「なんか、あいつらは人間達が山の神様に捧げた供物らしいぞ?…詳しくは忘れたな。人間絡みの話はオタクに聞いてくれ。」
ギンはモトクマのほっぺから手を離した。
モトクマは、引っ張られすぎて皮がだるんだるんになったほっぺをさすりながらオコゼについて語り出した。
「山ぁの天気はぁ、女心ぉみたぃにすぐ変わぁるから、山の神様は女神様だって昔の人は思ったみたい。だから、マタギが狩をする時に山が荒れたりすると、なだめるためにオコゼを供物に捧げたの。“女神様めっちゃ綺麗ですよ~!世の中にはこんな怖い顔のやつとかいますから~!機嫌直して下さ~い!”って感じで。」
「それ、なんか失礼じゃね?」
ギンが正論を言った。
「まあね。人間ってのは心が大きな原動力になるから、願掛けとか儀式って物が必要だったりするんだよ。きっと。」
「なるほどなー。さすがはオタク!」
ギンは腕を組んでうんうんと頷いた。
男性も同感だ。
今は熊の姿だが、人間である自分より知識量は多い気がする。
「神様に直で捧げられたやつらだから、神様が運営しているユメノ鉄道の正社員って訳か。」
「そういう事!」
人間の知識を披露できたモトクマは、とても嬉しそうだった。
もっと話したくてうずうずしている。
そのタイミングで、男性が浮かんだ疑問をひとつ投げかけた。
「て事は、電車を運転しているネズミさん達もお供物って事?」
「それが分かんないんだよねー!ネズミさん達教えてくれないんだよー。」
モトクマは口を尖らせて言った。
「ただね、一つ気になる昔話があるんだ…。」
モトクマは周りをキョロキョロ見回した後、2人に、もっと近づくようにと手招きをし、小声で話し始めた。
「これは七不思議石よりもさらにマイナーな昔話だし、似たような話が何個かあってどれが本当か分からないんだけど…。」
急に声のトーンを落としたモトクマの雰囲気に呑まれ、男性とギンは真面目モードになった。
「昔々吹雪のある日に、2チームのマタギ達が別々の山小屋で夜を過ごしたんだって。すると、一つ目のチームの小屋に、扉をノックする音が聞こえたの。扉の向こうからは、中に入れて欲しいと言う女性の声がしたんだって。一つ目のチームは、吹雪の山の真夜中に女性がいるのはおかしいと思って、扉を開けなかったんだって。でも、別の山小屋にいた二つ目のチームは…。」
「開けちゃったの?」
男性は思わずモトクマに聞いた。
モトクマは男性の目を見て、ゆっくりと頷く。
「そう、開けちゃったの。翌朝、二つ目のチームはみんな死んじゃったんだって。…それでね。昔話って地域が少しずれると、内容も少し変わってたりするもんなんだけど、このお話には別パターンの結末もあるの。それはね、二つ目のチームが全員死んじゃったってエンディングじゃなくて、全員ネズミになっちゃったって話なの。全部で7匹。」
男性とギンは顔を見合わせた。
「おいそれって、ネズミの車掌達の事か?ユメノ鉄道の普通車って7つあるだろ。」
ギンの後に、たまらず男性も疑問を投げかける。
「雪の中の女性って、山の女神様って事?神様が七人を天国に連れていったの?女神様が殺したの?それからずっと、鉄道会社で労働を強いられているとか??」
男性の顔色が、だんだん青ざめていく。
不意に車掌が言った“あなたと私達は似た境遇”という言葉を思い出した。
あれは、自分達も昔は人間だったという事なのか?
明日は我が身という事か?
「落ち着いて兄ちゃん!まだネズミさん達が同一人物かは分からないし、雪の中の女性が女神様と決まったわけでも無いよ!ただの幽霊かもしれないし、雪女とかの妖怪かもしれない。もしくは、妖怪に襲われた魂を、女神様がスカウトしたのかもしれないよ?ネズミの車掌さん達、仕事楽しそうだったでしょ!?」
確かに、みんな楽しそうにした優しい人達だった。
少し考えすぎかもしれない。
「でもよー、可能性は無いとも言い切れないぞ?」
男性の気分がまた落ち込んだ。
ギンの顔を見ると、難しい顔をしている。
からかって意地悪を言っているのでは無く、真剣に考えてくれているのだ。
「自然ってのは皆んなに平等に厳しいからな。お前らも目つけられると、どんな判決が下るか分かんねぇぞ?」
「判決……。」
男性の頭の中に、牢屋に入れられた自分の姿が突如として浮かんで来た。
人間界に戻りたいんだと叫んでも、誰も聞いてくれない。
牢屋から伸ばした手は、何にも届かない。
1日で変わってしまった毛むくじゃらの手。
元々は少し白い、30代の手。
事故に遭うまでは指輪をしていた、君が大好きな手……。
「ダメだ!ネガティブ禁止!」
「そうだよ兄ちゃん!2人でやれば、何とかなるよ!」
そうだ、後ろ向きな事を考え続けても、何も始まらない。
ネガティブなくだりはもう、旅の初めにやったじゃないか。
もういいだろう。
一歩ずつ前に進むしかないのだ。
男性とモトクマはグータッチをし、改めて気合いを入れた。
「ちょっと待て!2人じゃなくて、3人だろ?」
強引にグータッチへ参加してきたギンに対して、モトクマが少し慌てて反対した。
「は?何でギンが出てくんのさ!」
「親友がピンチなんだから、協力するのは当たり前だろ?」
「いいよ!僕達でやるから!遊びじゃないんだよ?1人の人間の人生がかかっているんだから!」
「1人の人生?2人だろうが!下手すればお前の方が
「ああーー!兄ちゃん!次の電車が来たよーー!行こうー!」
モトクマはギンの会話をさえぎって、ホームに入ってきた緑電車まで男性を引っ張って行った。
「おい!俺を置いていくなよ!」
ギンはムスッとしながら、歩いて2人の後を追った。
「下手すればお前の方が、リスクが高いだろうが。“1人の人間の人生がかかっている”だと?“1人の人間の人生をかけている”の間違いだろうが!」
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