乗り鉄けもニキ

鷹尾(たかお)

文字の大きさ
上 下
14 / 41

黄色電車乗車

しおりを挟む
オレンジ電車を降りる時には、男性の鎖骨あたりにモトクマが張り付いていた。
男性は現在ツキノワグマの体をしているので、白いモトクマが鎖骨に張り付くと模様と同化して見える。

「モトクマ何してんだよ。変な事してると子ダヌキに指さされて笑われるぞ?」

男性は後ろをチラッと振り返り、降りたばかりの車内を見た。
ちょうど狸の親子が、運賃を支払う所の様だ。

「ご乗車ありがとうございます。お一人で6文ですので、2名様で12文になります。」

「あらまー。子供料金でお安くなったりはしないのかしら。」

「大変申し訳ございません。生前の年齢と死後の魂年齢は一致しませんので、皆さま一律で、6頂いております。」

「あら、そうなのね!ごめんなさい。はいこれ、12文。電車の旅楽しかったわ。」

「ありがとうございます。またのご利用をお待ちしております。」

乗客を降ろしたオレンジ電車はゆっくりと動き出し、美しい世界の奥へと消えていった。

「なあ、モトクマ。」

「何?兄ちゃん。」

モトクマは、まだ鎖骨で模様のふりをしている。

「1人6文なんだって。知ってた?」

「そ、そうなの?シラナカッタナー」

鎖骨から離れたモトクマが、手を後ろに組んで下手な口笛を吹き始めた。

「お前…神様公式の電車で無賃乗車するなよ!こえーよ、もう。」

男性のまゆげが、今日1番のハの字になった。

「だってぇー、報告書の報酬が足りなかったんだもん。こうでもしなきゃ運賃不足で次の駅に行けないよ?元の駅に戻されちゃうよ?」

「ダメだったらまたやり直せばいいじゃないか。」

「ローカル線を舐めないでよ兄ちゃん!次の電車が来るまでめちゃめちゃ時間掛かることもあるんだから!」

「じゃあ、待ってる間はゆっくり対策を練れるじゃないか。」

「そんなゆっくりしている暇は、兄ちゃんには無いんだよ!」

モトクマは自分の尻尾に手を突っ込み、一枚の紙を出して男性に見せた。

「何これ、切符?」

普通の切符より少し大きめサイズのそれには、赤いハンコが押されていた。
書かれている文字は、相変わらず読めない。

「これはね、7つ目の駅で乗る予定の、人間界行き電車の切符なの。これ一枚で一両するの。つまり、4000文するの。」

「よんっ…せん??」

男性は少しよろめいた。

「さらにここ見て!ハンコが押されてるでしょ?僕が人間界行き電車に乗った時に押されたの。この切符、使用中なの。そして使用期限が今日中なの。」

「えっと、つまり?」

男性は嫌な予感がした。

「今日の終電に間に合わなかったら、兄ちゃんは4000文貯めるしかないの。でも、狭間の世界に長い事いると、ここの世界の人になっちゃうの。兄ちゃん死んじゃうの。」

「オーマイゴット!!」

男性はよろめいて後退りをし、ペタンと地べたに座った。
そして少し空を見つめた後、あぐらをかいたまま“考える人”のポーズをし、そのまましばらく動かなくなった。

「あの…兄ちゃん?」

モトクマがそっと声をかけてみた。
ショックだっただろうか。
やはりこの事は黙っておくべきだったかもしれないと、モトクマは後悔し始めた。

「モトクマ…。」

「あ、はい!」

声がやけに落ち着いている。
怒られるのだろうかと、モトクマは身構えた。

「悪かったな、お前には何もメリットが無いのに。天罰まで受ける覚悟をさせて。」

「え、えと。僕こそごめんね。兄ちゃんの命がかかってるから…。」

「ふっwモトクマのくせに、いっちょまえに気を使ってるんじゃねーよw」

男性はモトクマの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。

「よし、決めた!7つ目の駅に着くまでにいっぱい稼いで、ユメノ鉄道に借金返すぞ!サポートしてくれるか?」

男性は拳を前に出した。

「もちろんだよ兄ちゃん!」

グータッチでそれに答えるモトクマ。

ファーン!

仲がいっそう良くなった2人の後ろから、まるで祝福するかの様に汽笛を鳴らして黄色い電車がやって来た。

ホームに停まった電車のドアボタンを押そうと、モトクマが手を伸ばす。
だが、それより素早く男性はボタンを押し、意地悪そうにモトクマへ笑ってみせた。

「……。」

ガブッ!!

「いてててて!」

モトクマは一呼吸置いた後に、男性の手に噛みついた。

「おいバカ!放せよ!」

手をぶんぶん振り回しながら電車に乗り込む男性は、嫌がりながらもどこか嬉しそうだ。

「んー。青春じゃのう。」

コイジイが頷きながら、後に続いて乗車した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界、肺だけ生活

魔万寿
ファンタジー
ある夏の日、 手術で摘出された肺だけが異世界転生!? 見えない。 話せない。 動けない。 何も出来ない。 そんな肺と、 生まれたての女神が繰り広げる異世界生活は チュートリアルから!? チュートリアルを過去最短記録でクリアし、 本番環境でも最短で魔王に挑むことに…… パズルのように切り離された大地に、 それぞれ魔王が降臨していることを知る。 本番環境から数々の出会いを経て、 現実世界の俺とも協力し、 女の子も、異世界も救うことができるのか…… 第1ピース目で肺は夢を叶えられるのか…… 現実世界では植物人間の女の子…… 時と血の呪縛に苦しむ女の子…… 家族が魔王に操られている女の子…… あなたの肺なら誰を助けますか……

平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について

楠乃小玉
ファンタジー
上司から意地悪されて、会社の交流会の飲み会でグチグチ嫌味言われながらも、 就職氷河期にやっと見つけた職場を退職できないオレ。 それでも毎日真面目に仕事し続けてきた。 ある時、コンビニの横でオタクが不良に集団暴行されていた。 道行く人はみんな無視していたが、何の気なしに、「やめろよ」って 注意してしまった。 不良たちの怒りはオレに向く。 バットだの鉄パイプだので滅多打ちにされる。 誰も助けてくれない。 ただただ真面目に、コツコツと誰にも迷惑をかけずに生きてきたのに、こんな不条理ってあるか?  ゴキッとイヤな音がして意識が跳んだ。  目が覚めると、目の前に女神様がいた。  「はいはい、次の人、まったく最近は猫も杓子も異世界転生ね、で、あんたは何になりたいの?」  女神様はオレの顔を覗き込んで、そう尋ねた。 「……異世界転生かよ」

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

処理中です...