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赤い電車
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七不思議石を選んで少し待っていると、汽笛をならせた赤い電車がホームに入ってきた。
一両だけのかわいい電車には、「ワンマン」と書かれている。
男性は、車両の後ろ側のドアボタンを押して中に入った。
中の様子は、男性が人間界で利用したローカル線の車両とほとんど変わらない。
椅子は、対面した座席のボックスシートがほとんどである。
「兄ちゃん、整理券取って。」
モトクマが近くにある機械を指さした。
男性は機械の前まで行き、言われた通りに整理券を取る。
「ん?何これ、すんごい小さい字で、何か書かれているんだけど。」
ギリ、読めそうな気もしないでも無いかも。
男性は整理券を顔に近づけた。
目を細めて観察していると、券を持っている手がプルプル震える。
「って、あれ?」
男性は、震えているのは自分の手では無い事に気がついた。
この整理券自体が震えているのだ。
震えは段々と大きくなっていき、そして…。
ポン!
整理券は、A4サイズへと巨大化した。
「どぁー!?」
驚いた男性は、手を離した。
モトクマは、電車の床に落ちた紙を拾いながらケタケタ笑う。
「新人はみんな同じリアクションするんだよ。」
「言えよでかくなる事!」
モトクマが拾った紙を受け取りながら、男性が少し強めに言った。
紙をあらためて見ると、一番上に“夢解読報告書”とある。
記入者氏名や夢の詳細を書く欄があった。
「兄ちゃん、とりあえずどっかに座ろー。」
モトクマが男性の足元を見ながら肩をポンポンとたたく。
視線の先に目をやると、茶色い毛のかわいいうさぎがいた。
通路のど真ん中につっ立っている男性の下を、邪魔そうにくぐっているところだった。
「あ、すみません。」
男性は片足を上げてうさぎを通した。
「あら、ごめんなさいね。」
声からするに、お年寄りのうさぎのようだ。
「いえ、こちらこそ。」
謝っていると、また後ろに動物が近づいてくる気配がしたので、男性は急いで近くのボックスシートへ座った。
「それで、この紙どうしたらいいんだ?」
男性が、報告書を眺める。
「まずは、願いの中身を見るところから始めなきゃね。」
そう言ってモトクマは七不思議石を、窓辺に取り付けられた小さいテーブルへ置いた。
「あれ?それ、俺がもってたはず…。」
「兄ちゃんが紙にびっくりした時に、落としたんだよ?もう、大事な物なんだから!」
「ごめん。」
とりあえず謝ったが、整理券が巨大化する事を黙っていたモトクマにも半分責任がある気がする。
「とりあえず、今度から石は僕が持つね!ほら、こうすれば落とさない。」
そう言って、男性とモトクマを繋ぐモトクマの尻尾みたいな部分で、石をぐるぐる巻にしてみせた。
まあ、確かにこれだけぐるぐる巻にすれば落ちないかもしれない。
例え落ちてもモトクマが気づくだろう。
モトクマと出会ってこの部分を引っこ抜こうとした時に、モトクマはすごい痛がっていた。
きっとこの部分にも手足の様に感覚があるのだろう。
だったら、落とせばすぐに分かるはずである。
「分かった、お願いするよ。」
モトクマは、まかせなさーい!と言いながらほどいて、石を窓辺に戻した。
「電車が動き出すと、神様のエネルギーが車内を巡るの。そんで、その力に石が反応して、この窓ガラスに夢の内容が映し出されるのー。どう?面白いでしょ!」
「確かに。仕組みはよく分からないけど、なんかもう、ちょっと楽しそうw」
男性は今、人間としての人生が終わるかどうかという瀬戸際にいる事を、すっかり忘れていた。
「という事は、電車が止まっている今は、まだ解読ができないんだね?」
「そういう事。」
「そして、次の駅に着いて停車すると、映像もストップするって事?」
「そういう事!制限時間内でどれだけ人間の心情や、望みをくみ取ってレポートできるかが、収入アップのカギだね!」
制限時間があると聞くと、一気に緊張感が出てくる。
プシュー。
ガタン…………………ゴトン………………………。
電車がゆっくりと動き出した。
ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン…。
男性の胸の高鳴りと共に、電車の音も早くなってゆく。
するとさっきまで見えていた風景がスッと変わり、山に囲まれた古い家と、数頭の馬が映し出された。
「一つ目の昔話は“駒爪石”だよ!」
早速人間の生活が分かりそうな題材が来た。
内容は知らない男性だったが、これなら人間知りたがりのモトクマを満足させられそうな気がする。
(よし、気合い入れていくぞ!)
不安が薄れ、自信が出てきた男性であった。
「あ、そうだ。兄ちゃんに言い忘れてた。」
「何?」
「これね、3Dなの。」
「へー、3D?すごいな。飛び出すんだ。」
「ううん、違うよ。飛び出すんじゃないよ。
飛び込むんだよ。」
「……。は?」
モトクマは窓ガラスに少し触れる。
すると体が急に引っ張られる感覚がした。
「それじゃ、秋田の昔話“駒爪石”へ、レッツゴー!」
二人は窓ガラスへ吸い込まれていった。
自信が薄れ、不安が出てきた男性であった。
一両だけのかわいい電車には、「ワンマン」と書かれている。
男性は、車両の後ろ側のドアボタンを押して中に入った。
中の様子は、男性が人間界で利用したローカル線の車両とほとんど変わらない。
椅子は、対面した座席のボックスシートがほとんどである。
「兄ちゃん、整理券取って。」
モトクマが近くにある機械を指さした。
男性は機械の前まで行き、言われた通りに整理券を取る。
「ん?何これ、すんごい小さい字で、何か書かれているんだけど。」
ギリ、読めそうな気もしないでも無いかも。
男性は整理券を顔に近づけた。
目を細めて観察していると、券を持っている手がプルプル震える。
「って、あれ?」
男性は、震えているのは自分の手では無い事に気がついた。
この整理券自体が震えているのだ。
震えは段々と大きくなっていき、そして…。
ポン!
整理券は、A4サイズへと巨大化した。
「どぁー!?」
驚いた男性は、手を離した。
モトクマは、電車の床に落ちた紙を拾いながらケタケタ笑う。
「新人はみんな同じリアクションするんだよ。」
「言えよでかくなる事!」
モトクマが拾った紙を受け取りながら、男性が少し強めに言った。
紙をあらためて見ると、一番上に“夢解読報告書”とある。
記入者氏名や夢の詳細を書く欄があった。
「兄ちゃん、とりあえずどっかに座ろー。」
モトクマが男性の足元を見ながら肩をポンポンとたたく。
視線の先に目をやると、茶色い毛のかわいいうさぎがいた。
通路のど真ん中につっ立っている男性の下を、邪魔そうにくぐっているところだった。
「あ、すみません。」
男性は片足を上げてうさぎを通した。
「あら、ごめんなさいね。」
声からするに、お年寄りのうさぎのようだ。
「いえ、こちらこそ。」
謝っていると、また後ろに動物が近づいてくる気配がしたので、男性は急いで近くのボックスシートへ座った。
「それで、この紙どうしたらいいんだ?」
男性が、報告書を眺める。
「まずは、願いの中身を見るところから始めなきゃね。」
そう言ってモトクマは七不思議石を、窓辺に取り付けられた小さいテーブルへ置いた。
「あれ?それ、俺がもってたはず…。」
「兄ちゃんが紙にびっくりした時に、落としたんだよ?もう、大事な物なんだから!」
「ごめん。」
とりあえず謝ったが、整理券が巨大化する事を黙っていたモトクマにも半分責任がある気がする。
「とりあえず、今度から石は僕が持つね!ほら、こうすれば落とさない。」
そう言って、男性とモトクマを繋ぐモトクマの尻尾みたいな部分で、石をぐるぐる巻にしてみせた。
まあ、確かにこれだけぐるぐる巻にすれば落ちないかもしれない。
例え落ちてもモトクマが気づくだろう。
モトクマと出会ってこの部分を引っこ抜こうとした時に、モトクマはすごい痛がっていた。
きっとこの部分にも手足の様に感覚があるのだろう。
だったら、落とせばすぐに分かるはずである。
「分かった、お願いするよ。」
モトクマは、まかせなさーい!と言いながらほどいて、石を窓辺に戻した。
「電車が動き出すと、神様のエネルギーが車内を巡るの。そんで、その力に石が反応して、この窓ガラスに夢の内容が映し出されるのー。どう?面白いでしょ!」
「確かに。仕組みはよく分からないけど、なんかもう、ちょっと楽しそうw」
男性は今、人間としての人生が終わるかどうかという瀬戸際にいる事を、すっかり忘れていた。
「という事は、電車が止まっている今は、まだ解読ができないんだね?」
「そういう事。」
「そして、次の駅に着いて停車すると、映像もストップするって事?」
「そういう事!制限時間内でどれだけ人間の心情や、望みをくみ取ってレポートできるかが、収入アップのカギだね!」
制限時間があると聞くと、一気に緊張感が出てくる。
プシュー。
ガタン…………………ゴトン………………………。
電車がゆっくりと動き出した。
ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン…。
男性の胸の高鳴りと共に、電車の音も早くなってゆく。
するとさっきまで見えていた風景がスッと変わり、山に囲まれた古い家と、数頭の馬が映し出された。
「一つ目の昔話は“駒爪石”だよ!」
早速人間の生活が分かりそうな題材が来た。
内容は知らない男性だったが、これなら人間知りたがりのモトクマを満足させられそうな気がする。
(よし、気合い入れていくぞ!)
不安が薄れ、自信が出てきた男性であった。
「あ、そうだ。兄ちゃんに言い忘れてた。」
「何?」
「これね、3Dなの。」
「へー、3D?すごいな。飛び出すんだ。」
「ううん、違うよ。飛び出すんじゃないよ。
飛び込むんだよ。」
「……。は?」
モトクマは窓ガラスに少し触れる。
すると体が急に引っ張られる感覚がした。
「それじゃ、秋田の昔話“駒爪石”へ、レッツゴー!」
二人は窓ガラスへ吸い込まれていった。
自信が薄れ、不安が出てきた男性であった。
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