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まさ(GPB)

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幼馴染(同い年)・新実優香

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 新実にいみ優香ゆか。同い年の幼馴染である大野おおの拓哉たくやが気になる16歳。
 彼と同じ高校に二人で行き、クラスは違うものの昼休みには共に食事を取る。そんな関係をずっと続けているが、それではただの幼馴染止まりであり、そろそろこの関係も進展させたい……と彼女は考えていた。
 ――はぁ、今日もいつも通りだったなぁ……何かいい感じになるきっかけがあれば……。
「ただいまー」
「おかえり、優香」
「お姉ちゃんおかえりー……」
 優香が学校から帰ってリビングに入ると母と妹の返事が返ってきた。のだが、二人の様子に彼女は首を傾げる。
 後ろ姿から推測すると、どうやら妹が母に膝枕をされている、というのは認識出来た。そのまま二人を脅かさないように近付いていく。
「何してんの?」
「耳かきよ。花奈はながしてって言うもんだから」
 母は手を止めずに答える。
 耳かき。その言葉と母の膝の上でとろけた表情を見せる妹――花奈に、優香は一目で「これだ!」と感じた。
 ――拓哉に耳かきすればいい感じになれるんじゃない!? 例えそんな感じになれなくても、少しは意識されるかもしれないし!
 自分の部屋に行くと伝えた優香はそんな事を考えながら、一人決意するのだった。耳かきで彼を落としてみせる、と……。


     ◇


 そして翌日。休日という事もあり、彼女の行動は早かった。
 拓哉の部屋の前で深呼吸を一つ。
「よし、行くよ……!」
 気合を入れた優香は、いつものように扉をノックする。

 × × ×

 拓哉が部屋でくつろいでいると、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「おーい拓哉ー、可愛い幼馴染が遊びに来たぞー」
 ドアの向こうからは聞き馴染みがある優香の声。
 拓哉がそれに答えるより先に彼女によって扉が開かれる。
「あ、いたいた。やっほー♪」
「やっほー、じゃない。何しに来たんだ? 優香」
「遊びに来たって言ったじゃん」
「遊びにってお前なぁ……」
 ニッと笑った彼女はそのままベッドの方まで向かうと、それがまるで自分の物であるかのように遠慮なく腰を下ろす。これはいつもの事なので拓哉も特には気に留めないが。
「いいじゃん、幼馴染なんだし!」
 ――なんだその理屈。
「俺、勉強してるんだけど?」
「今はしてないじゃん」
「……今は休憩中だ」
「ふーん」
 ニヤニヤしながら拓哉を見る優香。
 ――いったい何を企んでいるのやら……。
「んで? 何するんだ?」
「あれ、乗ってくれるんだ」
 ――よし、これで耳かき出来る!
 優香は心の中でガッツポーズをする。
「どうせ、無視したらちょっかい掛けてくるんだろ?」
 ――それで好きにさせて邪魔されるのも癪だしな。
「分かってるじゃん♪」
 ――わぁいい笑顔。
「それで、やりたい事があるんだけど」
「なんだ?」
「耳かき……させてくれない? ここで」
 彼女は自身の太ももをポンポンと軽く叩く。
「……は?」
 拓哉は何を言われたか分からなかった。

「ほらほら、早く♪」
 彼は優香に言われた事にしばらく呆気に取られていると、いつの間にか拓哉のベッドの上で正座していた彼女が綿棒を取り出して準備を終えていた。さらにその近くには梵天が付いた耳かき棒まで用意されている。
「いや、早くって言われてもな……」
「さっきは乗ってくれるって言ったじゃん。だから、早く私の膝枕に頭を乗せなさーい♪」
 そう言う彼女はニコニコと笑う。しかし、その内心はと言えば――
 ――あぁぁぁ! 分かってたけど今から膝枕するって思うとめちゃくちゃドキドキするー!
 と動揺をしていた。だが、なんとかそれを表情に出さないようにする。
「俺は乗るとは言ってないし、さっきの流れは話に乗るって意味でだな――」
「はいはい、さっさと始めるよ!」
「ちょ、おい!?」
 優香に手を引かれる拓哉。そのままベッドの上で、彼女に膝枕をされてしまった。
 ――膝枕してる膝枕してる膝枕してる!!!!
「おま、何して……っ!」
「何って、耳かきするんだから膝枕するでしょ?」
 優香は動揺を表に出さないどころか、何言ってんの? と逆にそれが当然であるかのようにきょとんとした顔で言う。
「だからってお前、んな簡単に膝枕とかしていいのかよっ!?」
「幼馴染だし別にいいじゃん。それとも何、膝枕されるのが恥ずかしいの~?」
 ――やってる自分が恥ずかしいけど!!
「ばっ! ちげぇし!」
 拓哉は反論する為に体を起こそうとしたが――
「動くと危ないよ?」
 にひひ、と笑いながら手にしている綿棒を見せる優香に彼も大人しくなる。
「それじゃあ、始めるよ~?」
「お、おう……」
 耳を覗き込もうと顔を近付けてくる彼女の気配に、拓哉はドキリとする。
「おっ、結構あるんじゃない?」
 嬉しそうに優香は言う。
 ――これなら早く終わる事はないはず……!
「そりゃ耳かきなんてあんましねぇし……」
「じゃあ今度から定期的にしてあげよっか?」
「なんでそうなるんだよ」
「拓哉は耳かきをあんまりしない。私は耳かきがしたい。だったら私が定期手に耳かきしても問題ないよね!」
 ――どんな理屈だ。
 優香の言い分に拓哉が呆れていると、耳に綿棒が触れる感触があった。
「まずは耳の穴の周りからやってくからね」

 すりすり、すりすりすり。

 綿棒が優しく耳の外側を擦る。
「ここだけでも気持ちいいでしょ?」
 聞きながらも優香は手を止めない。
「ま、まぁな……」
「もうちょっとだけ外側やるからね」

 すり、すり。すりすり……さっ、さっ。

 一通りやって外側に耳垢が残っていないかを確認する。
「ん、取れたみたいだね。じゃあ次は――」
 そのまま綿棒を耳の穴に近付けていく。
「入り口の辺りからゆっくりと……」

 すり、すりすり……ずり。

「痛くない?」
「あ、あぁ……」
 ――コイツこんな奴だったか!?
 耳かきをされる心地良さもあるのだが、それよりも耳かきを始めてから、彼女の雰囲気がいつもと違う事に拓哉は驚きを隠せなかった。
「じゃあ続けるね」
 そんな彼の心境を知らない優香は、そのまま綿棒を動かす。

 すり、すりすり。ずり、すっ、すり。

 耳垢を奥に落とさないように取っていく。
 ――最初は恥ずかしさでどうなるかと思ったけど、今こうして耳かきするの結構楽しいかも……。
「……ふふっ」
「っ!?」
 ――今の、優香が笑ったのか!?
 先程から拓哉は優香の変わり様に驚きっぱなしだ。
 ただでさえ普段より静かなのに加えて、いつもなら子供のように笑うのに、今みたいに落ち着いた大人の笑い方はこれまで聞いた事がなかった。
 ――なんでさっきからドキドキさせられっぱなしなんだよ! 相手は優香だぞ!?
「どうかした?」
「な、なんでもない」
「そう?」
 そんな彼の様子は特に気にしていないのか、優香はそのまま耳かきを続ける。

 すりずり、ずり……ずり……。すっ。

 耳から綿棒を抜いて中を覗き込む。
「んー、入り口はもういいかな」
 取った耳垢を一度ティッシュに捨ててから再び耳に綿棒を入れていく。
「次はもうちょっと奥に入れるからね」

 すり、すり、すり……ず、ずり。

 ゆっくりと綿棒を動かして耳垢を取る。
「痒い所とか、痛かったりしたら遠慮しないで言っていいからね」
 またもこんな気遣いを見せる彼女に、拓哉は夢でも見てるのではないかと一瞬でも考えてしまう程だった。
 ――まぁさっきから味わってるこの膝枕とか耳かきの感触から、これが夢じゃないって分かるんだけど……。

 すり……ずり、すりずり、ずり。

「あ、そこ……」
 綿棒で気持ちいい場所を擦られ、思わず彼は声を出してしまった。
「痛かった?」
「あっ、いや、その……気持ち良かったから……」
 ――あぁくそっ、なんで恥ずかしがってんだ、俺!
 顔を赤くしながら言う拓哉の様子を見て、優香はクスリと笑う。
「なんか今の拓哉、可愛い♪」
「うっせ……」
 一瞬見せたそれはいつもの笑顔であったが、すぐにまた彼女の雰囲気が戻る。
「この辺りね。いいよ、もう少しやってあげる」

 すす、ずり、ずり、ずり……。すりすりすり。

 優しく、ゆっくりと気持ちいい部分を擦られる。このまま眠ってしまってもいいとすら思える感覚。
「眠たくなったら寝てもいいよ」
 まるで彼の心を読んだかのようなタイミングだが、その彼女の声に、拓哉の意識は段々と沈んでいった。
「――って、拓哉?」
「すぅ……」
 優香は一度手を止めて声をかけたが、返ってきたのは彼の寝息だけだ。
「……ふふっ、そんなすぐに寝ちゃうくらい気持ち良かったんだ」
 ――なんかすっごく嬉しいなぁ。
「って、まだ全然途中なんだけど……しょうがないなぁ。今日はこっちだけにして、反対側はまた今度ね」
 彼女はそう言ってまた手を動かし始める。
「あんまり同じところとか長くやるのも耳に良くないから……」

 すっ、ずり。すり……さっ、さっ、さっ。

 まだやっていない場所の耳垢を取ってから綿棒を抜く。
「……うん、大体取れたかな?」
 耳垢が残っていないか耳の中を確認した優香は綿棒をティッシュの上に置いて、今度は梵天付きの耳かき棒を手にした。
「梵天をされる拓哉の反応も見たかったけど」
 ――それともくすぐったくて起きちゃうかな? まぁそれはそれで、耳かきの続きが出来るからいいんだけどね。
 そんな事を考えながら、彼女は耳かき棒を指で数回デコピンして弾く。
「それじゃあ梵天、行くよ~」

 ふわふわ。ふわ、ふわふわふわ。さっ。さっ。

「んっ……」
 拓哉は耳かきによって寝ているものの、耳に当たる梵天の感触に反応して声を出す。
 ――起きちゃったかな?
 気になって彼の顔を覗き込むも変わらず寝息が聞こえてくる。
「ふふん、今度やる時に起きてたら梵天でくすぐってやろっと♪」
 耳をくすぐられる拓哉の反応を想像して、悪戯を企む子供のように笑う優香。
 何度か梵天で耳の中を擦った後、綺麗になったかを覗いて確かめる。
「……よし、綺麗になった。最後に――」

 ふっ、ふっ……ふーっ。

 拓哉の耳に息を吹きかける。
「これで終わり、っと」
「すぅ……すぅ……」
「ホント、気持ち良さそうに寝ちゃってまぁ……」
 眠る彼の頬をツンツンと指先で突く。
「あ、このままだと風邪引いちゃうかな?」
 拓哉を起こさないように気を付けながら、タオルケットを引っ張ってそのまま彼に掛ける。
 ――これなら寒くならないよね?
「……ふふ、こんな可愛い幼馴染の膝枕で耳かきされて寝ちゃうなんて、男の子からしたら天国なんじゃないの~?」
 そう言って笑った彼女は拓哉の頭を撫でた。
「ん、んん……」
「おぉ?」
 寝ていた拓哉が動いたかと思えば、目をわずかに開けて優香の方に視線を向けていた。
「ゆ、か……?」
 この状況を夢だと思っているのか、はたまた単純に寝惚けているだけなのか、彼はまどろんだ声で彼女の名前を呼ぶ。そんな拓哉に、優香も頭を撫でたままで答える。
「まだ眠いならそのまま寝てていいよ? ちゃんとあとで起こしてあげるから」
「あぁ……」
「優しくポンポンしてあげよっか?」
「そこまで……子供じゃ……な、ぃ……」
 そうして再び拓哉は眠りに落ちた。
 ――頭撫でてるのはいいのかな。ま、普段じゃこんなの出来ないから私も堪能させてもらうけど。
「そうだ、勝手に耳かきしないように言っておかないとね。まだ反対が残ってるし」
 少し硬い彼の髪質をその掌で味わいながら、優香は次の機会に心を躍らせる。
 ――でも、こうしてるとなんだか拓哉の彼女になったみたい……。
 優香がこの耳かきを始めたきっかけは拓哉との関係を進展させたかったから。
 最初に膝枕をした時は、恥ずかしさを表に出さないように必死だった。しかしいざ耳かきを始めてみると、そんな恥ずかしさや恋人になりたいという考えは不思議と出て来なかった。
 むしろ耳かきで気持ち良さそうにする彼の反応、表情を見るのは嬉しかったし、彼女自身も楽しかったとすら感じている。
「私、こういう事するのが好きなのかも……?」
 ――って言っても、こんな事するのは大好きな幼馴染のアンタだけなんだからね。
 今はまだ面と向かって好きと言えないけれど。
「私が彼女になったらもっといっぱいしてあげるんだよ?」
 すやすやと寝ている彼の耳元で囁く。
「絶対にこれで虜にしてやるんだから……ねっ♪」
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