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裏の世界

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ここに来てからどれくらい経ったのだろうか。
寒い苦しいしんどいそう思わない日はない。

「お前はもうここから出られないんだ。
次出る時はもう命が無くなる日だよ」

目の前のいやらしい目で見てくる男がそう言うから、おそらく私は殺されるのだろう。
アリク様…、なぜ?
それすらも聞くことは出来ない。

「なあ、ひとつ駆け引きをしよう」

厭らしく笑う男はひとつ提案をしてくる。
それはここに来た日から同じ言葉だ。

「お前の体を俺に寄越せ。
そしたら、少しは自由を与えてやる」

この言葉の意味が分からないほど、初心うぶではない。
この言葉の意味が分からないほど、頭も悪くない。
なにより、こんなことを言える人がこの国のために働いているようには思えず、目を疑った。

何を思って、そんなことを言っているのだろうか?
いや、そう考えるのは愚問だろう。

「貴方に渡す体も心も一欠片すらないわ」

今日もいつも通り、目の前の男に答える。
いつもはそういうとニヤリとまた笑って消えていくのに、今日はいつもと違った。

「もし、お前に会いたいという人が現れたら、どうする?」

いつも通りにやりとすることなく、この男にしては珍しく真面目な表情で私を見てくる。

私に会いたいと願う者がいる…?
それは誰だろうか。
願ってしまうのはあの方のお姿。
いや、そんなことはないだろう。
あるとしても、私の罪を認めないであろう家族たち。
お父様もお母様もさすがに私がそんなことしてると思っていないと信じたい。

「そりゃ、会いたいですわ…
貴方が会わせてくれるとは思ってはいませんが…」

すぐその男の姿が見たくなくて、そっぽを向きつつ、話す。
どうせ、男の言葉は嘘だ。
私を少しでも喜ばせて落としたいのだ。

「こっちを見ろ。
俺はもし、そういうやつがいるのならと真剣に聞いている」

男の声がやけに頭の中に入ってきた。
カチッて何かが嵌るようにずっと心の中に入ってく。
見るな、この男を見るのは危険だという私の心の叫びが聞こえてくるのに、私の体は男をみてしまう。

この男の目はルビーのように紅く綺麗だったのか…
それすらも気づけないくらいこの男のことを見てなかったようだ。
そして、思った以上に綺麗なお顔をしている。
貴族と聞いても、納得できるような顔だ。
いや、何を考えているの?私。
頭の思考を更新したいのに、しようと思えば思うほど頭がぼーっとしてしまう。

「なあ、お前はどう思う?
ほかの者に会いたいか?
それとも、俺とここでふたりでずっと過ごすか?」

目の前の綺麗な男は何を言っているのだろうか。
私が貴方と一緒に過ごすことなどないわ。
そう言おうと口を開いたはずなのに、

「貴方と過ごすのも楽しそうね…」

私の口から出たのは真反対の言葉。
その瞬間、私は私の意志を失った。
目の前の男の操り人形となった。
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