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彼女のワンピース

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「ちょっと、やめてください!嫌だ!」

 狭いソファーの上で、朝田が全身を使って暴れているけれど、それは思わず笑ってしまう程にか弱い抵抗だった。口の中でひっそりほくそ笑んでいたのがバレたのか、朝田は顔中を真っ赤に染めて喚き出した。

「何笑ってるの?!本当に最低なんですけど!退けてよ!!」
「やだ。ていうかお前から家に来たくせに、何を今更」
「私はそんなつもりじゃ…!!あぁっ…、も、やめて!」

 そうだ、そもそもこいつからネギを背負ってのこのこと家までやって来たくせに、ナニも無いことはないだろう。止まない抵抗に少しだけイラッとしたけれど、無視して服を脱がせに掛かったところで少しの違和感に気付いた。

「ワンピースなんて珍しい服着てるな」
「…は?!な、何、急に」
「あー、ていうか会う時はいつも仕事終わりとかだからか。何かいつもとイメージ違ったから」
「それ、今言います?服、脱がされ掛けてるんですけど」
「アハハッ、いや、ごめん。急に来たからさ、焦ってて全然ちゃんと見てなかった」
「…じゃあもう一回着せて下さい」
「まあまあ、それはまた後で見せてもらうから。とりあえず裸にしていい?」
「…この最低男!!」

 少なからず朝田からの好意を確信して、顔がニヤけてしまうのを抑える事が出来ない。確か、以前2人で話した時に「私服は動きやすい服しか持ってません。ワンピースなんて着た事ない」と言っていたのを思い出していた。俺にプレゼントを渡す為に、わざわざ着慣れないワンピースを着てくれたのかと思うと、今ならどんな悪態を突かれても許せてしまいそうだった。
 気付けば腕の中の女は、無抵抗な子羊の様に大人しくなって、薄っすらと目を閉じて食べられるのを待っている。その様子に更に愛しさが込み上げて、優しく唇を重ねた。そこは普段は少しだけカサついている筈なのに、今日は可憐なピンクのグロスで濡れていた。必死に閉じている目元も、いつもはまるで飾り気などないのに、キラキラと上品な薄いピンクで輝いている。

「…可愛いな」

 つい転がり出てしまった本音に、急いでバッと口元を押さえたけれど遅かった。可愛いだなんて、皮肉の様なカタチでしか伝えたことは無かったのに。それに対して朝田が怒ったり拗ねたりしているのが常だったけれど、今見下ろしている彼女は、出会ってから初めて見る表情で。
 そのニヤけた様な、恥ずかしそうな、困った様な。嬉しさを隠そうとしてキュッと引き結んだ唇に、「好きだよ」と伝えてガブリと噛みついた。
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