7 / 11
3
飛んで火に入る夏の虫
しおりを挟む
すぐに「言い過ぎた」とメッセージを送ったけれど、既読は付いたのの、待てど暮らせど返事が来ることはなかった。
既読無視かよ!とカッと怒りが湧いたが、無視されている以上こちらからはどうすることも出来ず。
ふと目覚めると、カーテンの隙間からは既に薄っすらと明るい光が差し込んでいて、どうやらいつの間にか眠っていたらしい。酒のせいか頭が割れるように痛い。指一本も動かすことが出来ずにぼんやりと天井を眺めた。
もう一度謝った方がいいだろうか。もちろん俺はドタキャンされた上に嘘まで付かれたので、どちらかといえば朝田の方から謝罪があって欲しいと思っているけれど、
恐らくあいつはそんなことしない。
朝田は、俺とはもう関わりたくないと思っているのかもしれない。
いつもいつもこちらから食事に誘うばかりで、彼女から好意を示されたことなど一度もない。どれだけ身体を繋げても、明確な関係性を築くことなんてずっと出来なかった。本当は何度も正式に付き合うことを提案しようとしたけれど、断られることが怖くてずっと足踏みばかりしていた。
情けない自分にため息を投げて、スマホを確認してもやはり彼女からの連絡はない。仕方がない。ここはこちらが折れようと親指を動かした。
「昨日は悪かった」
これ以上長くすると余計な恨み言まで送ってしまいそうだと思い、シンプルな謝罪文を送信した。朝田はもともと返信が遅いタイプなので、しばらくは俺のメッセージなんて気付きもしないだろう。スマホを部屋着のポケットに突っ込み、喉の渇きと空腹を満たすため、重い身体を引き摺ってあまり期待せずに冷蔵庫を目指した。
予想通りというか、やはり冷蔵庫には碌な食材が入っておらず、我が物顔でそこにいたミネラルウォーターを引っ掴んでリビングへと戻った。空腹ではあるけれど外に出る気分でも無く、出前を頼む事にする。適当にピザで良いかと画面をスクロールしていると、ふいに手の中でスマホが震えた。
朝田も一晩経って怒りが収まったのだろうかと、予想よりも随分と早い返信にホっとして、メッセージを確認した。
「私こそごめんなさい。ちなみに今は家にいますか?」
「いるけど。何?」
脈絡のない質問に首を傾げていると、部屋のインターホンが鳴った。こんな朝っぱらから誰だろうか。荷物が届く予定はないし、ピザだってまだ頼んでいない。僅かに不審に思いながらも一応玄関へと向かい、招かねざる客だろうと大まかに当たりを付けながらドアスコープを覗いてみた。
「…はあ?」
ガチャガチャと急いでドアを開けると、そこには朝田が立っていた。最近俺に対する態度があまりよろしく無かった彼女が、肩を窄めて小さく縮こまり、心底申し訳無さそうに、視線を下に落としたまま。
「…え、朝田?何してんの?」
「お、おはようございます。突然来てしまって本当にすいません」
「まあ、連絡はしろよとは思うけどさ。そもそも何で俺の家知ってんの?」
「…広田さんが、前に皆で来たことあるって教えてくれました」
そういえば、入社したての頃に一度だけ同期の奴らを招いたことがあったな、と思い出した。
「まあ別にいいや。散らかってるけど、どうぞ」
「えっ!いや、良いんです。佐崎さんに渡したいものがあって、それだけですぐ帰るので…。え?!ちょっと!」
「ハイハイ。うるさいし近所迷惑だからとっとと入れ!」
何やら紙袋を振り回して喚く朝田の背中を室内へと押し込んで、今日こそ逃さぬよう、しっかりとドアの鍵を閉めた。
既読無視かよ!とカッと怒りが湧いたが、無視されている以上こちらからはどうすることも出来ず。
ふと目覚めると、カーテンの隙間からは既に薄っすらと明るい光が差し込んでいて、どうやらいつの間にか眠っていたらしい。酒のせいか頭が割れるように痛い。指一本も動かすことが出来ずにぼんやりと天井を眺めた。
もう一度謝った方がいいだろうか。もちろん俺はドタキャンされた上に嘘まで付かれたので、どちらかといえば朝田の方から謝罪があって欲しいと思っているけれど、
恐らくあいつはそんなことしない。
朝田は、俺とはもう関わりたくないと思っているのかもしれない。
いつもいつもこちらから食事に誘うばかりで、彼女から好意を示されたことなど一度もない。どれだけ身体を繋げても、明確な関係性を築くことなんてずっと出来なかった。本当は何度も正式に付き合うことを提案しようとしたけれど、断られることが怖くてずっと足踏みばかりしていた。
情けない自分にため息を投げて、スマホを確認してもやはり彼女からの連絡はない。仕方がない。ここはこちらが折れようと親指を動かした。
「昨日は悪かった」
これ以上長くすると余計な恨み言まで送ってしまいそうだと思い、シンプルな謝罪文を送信した。朝田はもともと返信が遅いタイプなので、しばらくは俺のメッセージなんて気付きもしないだろう。スマホを部屋着のポケットに突っ込み、喉の渇きと空腹を満たすため、重い身体を引き摺ってあまり期待せずに冷蔵庫を目指した。
予想通りというか、やはり冷蔵庫には碌な食材が入っておらず、我が物顔でそこにいたミネラルウォーターを引っ掴んでリビングへと戻った。空腹ではあるけれど外に出る気分でも無く、出前を頼む事にする。適当にピザで良いかと画面をスクロールしていると、ふいに手の中でスマホが震えた。
朝田も一晩経って怒りが収まったのだろうかと、予想よりも随分と早い返信にホっとして、メッセージを確認した。
「私こそごめんなさい。ちなみに今は家にいますか?」
「いるけど。何?」
脈絡のない質問に首を傾げていると、部屋のインターホンが鳴った。こんな朝っぱらから誰だろうか。荷物が届く予定はないし、ピザだってまだ頼んでいない。僅かに不審に思いながらも一応玄関へと向かい、招かねざる客だろうと大まかに当たりを付けながらドアスコープを覗いてみた。
「…はあ?」
ガチャガチャと急いでドアを開けると、そこには朝田が立っていた。最近俺に対する態度があまりよろしく無かった彼女が、肩を窄めて小さく縮こまり、心底申し訳無さそうに、視線を下に落としたまま。
「…え、朝田?何してんの?」
「お、おはようございます。突然来てしまって本当にすいません」
「まあ、連絡はしろよとは思うけどさ。そもそも何で俺の家知ってんの?」
「…広田さんが、前に皆で来たことあるって教えてくれました」
そういえば、入社したての頃に一度だけ同期の奴らを招いたことがあったな、と思い出した。
「まあ別にいいや。散らかってるけど、どうぞ」
「えっ!いや、良いんです。佐崎さんに渡したいものがあって、それだけですぐ帰るので…。え?!ちょっと!」
「ハイハイ。うるさいし近所迷惑だからとっとと入れ!」
何やら紙袋を振り回して喚く朝田の背中を室内へと押し込んで、今日こそ逃さぬよう、しっかりとドアの鍵を閉めた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

練習なのに、とろけてしまいました
あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。
「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく
※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる