俺様系イケメンに挑む地味女子の負け戦!

水戸春季

文字の大きさ
上 下
3 / 11
3

嘘つきめ

しおりを挟む
 何度スマホを確認しても、当該からの連絡はない。 
「既読無視とは何様だふざけんな!」と腹の中が煮える気持ちで奥歯を噛み締めても、想い届かず。きっと意外と頑固な朝田は謝って来ないだろう。流行病以上に拗らせてしまった喧嘩の理由は些細なことだった。あいつが俺に内緒で他の男とサシ飯に行った事がそもそもの原因だ。とはいえ、俺は過去に付き合った女には基本束縛なんてした事がないし、そもそも朝田とは正式に付き合っていない。

 そんな自由主義の俺が男と飯を食べたぐらいで何故ブチ切れたかと言うと、嘘を吐かれたから。
 正直に言ってくれたら絶対こんな面倒なことにはならなかっただろと一週間経った今でも思うし、この件に置いて俺は悪くないと思っている。

「確かに付き合っては無いけどさあ…」

 前髪を両手でぐしゃぐしゃと乱して柔らかくもないベッドへと背中を投げ出した。
 素直に「ごめん、言い過ぎた」と言える性格ではないことを自分が一番理解している。
 八方塞がりの夜に、同じくらい素直ではない後輩のことばかり考えて、酒のせいで重い瞼をゆっくりと閉じた。



***



 事の発端は先週の金曜日の昼休憩中、「今日飲みに行こうぜ」と朝田に声を掛ければ、いつも通りの塩対応ではあったけれど、あいつは確かに了承したのだ。丸い頬をモニョモニョと不服そうに動かしながら、それでも柔らかそうな髪に隠した耳をほのかに赤く染めて。「この前行ったお店美味しかったから、あそこなら、別に行っても良いですけど」なんて。
 朝田の相変わらずのツンデレ具合に思わず笑いそうになったけれど、そこでからかってしまえば可愛い後輩は機嫌を損ねて「やっぱり行かない!」などと拗ねてしまうに違いないので、「じゃあ終わったら連絡して」と約束を取り付け、その場のやり取りを終えた。
 
 問題はその後だった。定時で仕事を上がった俺は、朝田がまだフロアにいるのを確認して、『近くの本屋で時間潰してるから』と連絡を入れてブラブラしながら彼女を待っていた。雑誌を立ち読みしたり、好きな作家の新刊を買ったりして、ふと時間を確認すれば退勤してから既に1時間以上が過ぎていた。
 入社して間もない頃の朝田は、仕事を一人で抱え込みがちで残業も少なくなかったが、最近は順調に定時で仕事を終えているはずだった。朝田は大人しいタイプだと思ったけれど、ちゃんと向き合えば意外と人懐っこくてよく笑う。俺の知らないところで、同じ課の人間とも少しずつ打ち解けているようだった。同期の広田に「 朝田のこと気に掛けてやって」なんて柄にもなく頼んだりしたけれど、「朝田さん、最近は皆とも上手くコミュニケーション取れてるし、気遣いなんて必要ないわよ」と呆れ顔で返された。
 とにかくも朝田は俺との約束がある日にわざわざ残業することは、まあ、無いだろう。何かトラブルでもあったのかと再度連絡を入れようとすると、タイミング良くスマホが震えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

溺愛婚〜スパダリな彼との甘い夫婦生活〜

鳴宮鶉子
恋愛
頭脳明晰で才徳兼備な眉目秀麗な彼から告白されスピード結婚します。彼を狙ってた子達から嫌がらせされても助けてくれる彼が好き

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?

春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。 しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。 美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……? 2021.08.13

処理中です...