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嘘つきめ
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何度スマホを確認しても、当該からの連絡はない。
「既読無視とは何様だふざけんな!」と腹の中が煮える気持ちで奥歯を噛み締めても、想い届かず。きっと意外と頑固な朝田は謝って来ないだろう。流行病以上に拗らせてしまった喧嘩の理由は些細なことだった。あいつが俺に内緒で他の男とサシ飯に行った事がそもそもの原因だ。とはいえ、俺は過去に付き合った女には基本束縛なんてした事がないし、そもそも朝田とは正式に付き合っていない。
そんな自由主義の俺が男と飯を食べたぐらいで何故ブチ切れたかと言うと、嘘を吐かれたから。
正直に言ってくれたら絶対こんな面倒なことにはならなかっただろと一週間経った今でも思うし、この件に置いて俺は悪くないと思っている。
「確かに付き合っては無いけどさあ…」
前髪を両手でぐしゃぐしゃと乱して柔らかくもないベッドへと背中を投げ出した。
素直に「ごめん、言い過ぎた」と言える性格ではないことを自分が一番理解している。
八方塞がりの夜に、同じくらい素直ではない後輩のことばかり考えて、酒のせいで重い瞼をゆっくりと閉じた。
***
事の発端は先週の金曜日の昼休憩中、「今日飲みに行こうぜ」と朝田に声を掛ければ、いつも通りの塩対応ではあったけれど、あいつは確かに了承したのだ。丸い頬をモニョモニョと不服そうに動かしながら、それでも柔らかそうな髪に隠した耳をほのかに赤く染めて。「この前行ったお店美味しかったから、あそこなら、別に行っても良いですけど」なんて。
朝田の相変わらずのツンデレ具合に思わず笑いそうになったけれど、そこでからかってしまえば可愛い後輩は機嫌を損ねて「やっぱり行かない!」などと拗ねてしまうに違いないので、「じゃあ終わったら連絡して」と約束を取り付け、その場のやり取りを終えた。
問題はその後だった。定時で仕事を上がった俺は、朝田がまだフロアにいるのを確認して、『近くの本屋で時間潰してるから』と連絡を入れてブラブラしながら彼女を待っていた。雑誌を立ち読みしたり、好きな作家の新刊を買ったりして、ふと時間を確認すれば退勤してから既に1時間以上が過ぎていた。
入社して間もない頃の朝田は、仕事を一人で抱え込みがちで残業も少なくなかったが、最近は順調に定時で仕事を終えているはずだった。朝田は大人しいタイプだと思ったけれど、ちゃんと向き合えば意外と人懐っこくてよく笑う。俺の知らないところで、同じ課の人間とも少しずつ打ち解けているようだった。同期の広田に「 朝田のこと気に掛けてやって」なんて柄にもなく頼んだりしたけれど、「朝田さん、最近は皆とも上手くコミュニケーション取れてるし、気遣いなんて必要ないわよ」と呆れ顔で返された。
とにかくも朝田は俺との約束がある日にわざわざ残業することは、まあ、無いだろう。何かトラブルでもあったのかと再度連絡を入れようとすると、タイミング良くスマホが震えた。
「既読無視とは何様だふざけんな!」と腹の中が煮える気持ちで奥歯を噛み締めても、想い届かず。きっと意外と頑固な朝田は謝って来ないだろう。流行病以上に拗らせてしまった喧嘩の理由は些細なことだった。あいつが俺に内緒で他の男とサシ飯に行った事がそもそもの原因だ。とはいえ、俺は過去に付き合った女には基本束縛なんてした事がないし、そもそも朝田とは正式に付き合っていない。
そんな自由主義の俺が男と飯を食べたぐらいで何故ブチ切れたかと言うと、嘘を吐かれたから。
正直に言ってくれたら絶対こんな面倒なことにはならなかっただろと一週間経った今でも思うし、この件に置いて俺は悪くないと思っている。
「確かに付き合っては無いけどさあ…」
前髪を両手でぐしゃぐしゃと乱して柔らかくもないベッドへと背中を投げ出した。
素直に「ごめん、言い過ぎた」と言える性格ではないことを自分が一番理解している。
八方塞がりの夜に、同じくらい素直ではない後輩のことばかり考えて、酒のせいで重い瞼をゆっくりと閉じた。
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事の発端は先週の金曜日の昼休憩中、「今日飲みに行こうぜ」と朝田に声を掛ければ、いつも通りの塩対応ではあったけれど、あいつは確かに了承したのだ。丸い頬をモニョモニョと不服そうに動かしながら、それでも柔らかそうな髪に隠した耳をほのかに赤く染めて。「この前行ったお店美味しかったから、あそこなら、別に行っても良いですけど」なんて。
朝田の相変わらずのツンデレ具合に思わず笑いそうになったけれど、そこでからかってしまえば可愛い後輩は機嫌を損ねて「やっぱり行かない!」などと拗ねてしまうに違いないので、「じゃあ終わったら連絡して」と約束を取り付け、その場のやり取りを終えた。
問題はその後だった。定時で仕事を上がった俺は、朝田がまだフロアにいるのを確認して、『近くの本屋で時間潰してるから』と連絡を入れてブラブラしながら彼女を待っていた。雑誌を立ち読みしたり、好きな作家の新刊を買ったりして、ふと時間を確認すれば退勤してから既に1時間以上が過ぎていた。
入社して間もない頃の朝田は、仕事を一人で抱え込みがちで残業も少なくなかったが、最近は順調に定時で仕事を終えているはずだった。朝田は大人しいタイプだと思ったけれど、ちゃんと向き合えば意外と人懐っこくてよく笑う。俺の知らないところで、同じ課の人間とも少しずつ打ち解けているようだった。同期の広田に「 朝田のこと気に掛けてやって」なんて柄にもなく頼んだりしたけれど、「朝田さん、最近は皆とも上手くコミュニケーション取れてるし、気遣いなんて必要ないわよ」と呆れ顔で返された。
とにかくも朝田は俺との約束がある日にわざわざ残業することは、まあ、無いだろう。何かトラブルでもあったのかと再度連絡を入れようとすると、タイミング良くスマホが震えた。
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