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ガラスの靴
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ここはどこだろう…?
必死で目を凝らしても、広がる光景は蜃気楼の様にゆらゆらと遠くへ逃げていく。それでも不鮮明に浮かぶ情景はどこか懐かしくて、ぶわりと切ない気持ちが込み上げてくる。
そうか、ここは暁斗の部屋だ。キッチンから流れて来る湯気の向こうから、彼がなにやら料理を作っているらしい。彼はカルボナーラが得意だったから、パスタでも茹でているんだろうか。ぼんやりとした思考のままふと彼を見ると、湯気で表情はよく見えないけれど、何か栞に向かって話し掛けているようだった。それなのに、何故か彼の声が全く聞こえない。
焦って彼の名を呼ぼうとするけれど、自分の喉からも小さな音すら発することが出来ない。無音の世界の中で、以前と変わらぬ優しい笑顔で手を差し伸べられ、その手を掴もうと必死で腕を伸ばすのにどうしても届かない。触れられない。
なんで。どうして。
(ああ、そうか。これは夢なんだ)
微睡む意識の中、夢に沈んでいた事を自覚してしまった瞬間、ふわふわとした幸せな気分は遠退いて絶望に追い付かれてしまった。現実の世界でだるさの残る身体へと戻ってきた栞は、うっすらと瞼を開いてまわりの様子を伺った。部屋の空気はまだ真夜中だった。まるで思考が追い付かない中、今日の自分の予定を思い出そうと頭のエンジンを動かし始めた時、恐らく自室の洗面所から水の流れる音が聞こえてきた。
栞は一瞬ギクリと固まり、恐怖からかスッと体温が下がった気がしたが、急いで身体を起こした途端、ベタつく肌の違和感から数時間前の記憶が甦った。そして、今この世で最も嫌いな男の顔をどこかへ吹き消す様にため息をついた。
(結局、私はいつもあの男の思うままにされてしまう…)
栞は暁斗のことを今も変わらず大切に思っているし、彼以外の男との未来など考えたこともなかった。それにも関わらず、浩介に強引に迫られる度にいつもなし崩しに身体を許してしまう。
金銭的に多額の援助を受けているという負い目もあるけれど、それだけではないことも栞は心の片隅でうっすらと自覚していた。
浩介に押し倒されたあの日の朝、それ以前からずっと、栞は精神的にも体力的にも参っていた。
愛する恋人からプロポーズされるはずの幸せは絶望に変わり、それから栞の胸の中はずっと陰気な暗闇だった。彼の回復を信じよう、それまで頑張ろうと思えば思うほど自分を追い詰めてしまい、本当はもうこの世界から消えてしまいたいと思っていた。それでも万が一彼が目覚めた時、その世界に自分がいなければ彼は絶望してしまうだろうか。
あと一年がんばろう。
あと半年待てるだろうか。
あと1ヶ月だけ。
そんなことをぐるぐると考えながら、答えは出ぬまま日々を消化していた。
そんな身も心もボロボロの栞を、浩介は更に打ちのめした。栞を凌辱して、暁斗への想いだけでかろうじて息をしていた心を黒く塗り潰し、毒の様に蝕んだ。
結果的に暁斗を裏切る形になってしまい、浩介のことが殺したい程憎くて仕方がなかった。それなのに、久しぶりの激しいセックスは何もかもを忘れさせた。
プロポーズの夜のこと、幸せな思い出、事故のこと、治療費のこと、変わり果てた暁斗の姿も。
浩介に抱かれている間だけは、誰とも関係ない何者でもなくただひとりぼっちの女だった。
栞はこの数ヶ月の間、じわじわと解放される瞬間を欲する様になっていた。
ぼんやりと自己嫌悪に浸っていると、ガチャリとドアの開く音がして、部屋を支配する暗闇に一筋の人工的な光が差し込んだ。
※※※
「あれ、起こしちゃった?」
洗面所から下着姿で出てきた男は、まるで恋人の様な馴れ馴れしさで栞のベッドに腰掛けた。
「…トイレ、使わないでって言ったのに」
「え、あれ冗談でしょ?ていうか俺は綺麗に使える派だから安心して」
「はぁ…。まあいいです。用が済んだならさっさと帰って下さい」
「冷たいなあ…。それより聞きたいこと、あったんじゃないの?」
「え…?」
「犯人の名前、知ってるよ」
薄暗いオレンジの常夜灯の下、浩介の表情はよく見えない。いつものように人を喰った様に笑っているのか、もしくは社会の中でその他大勢の人間に見せつける誠実な若旦那の顔なのか。
声音からも感情の起伏は感じられず、浩介の心情を読み取ることが出来ない。一瞬いつものようにからかわれているのかと思い沈黙したが、それならばなぜこの男が犯人が捕まったことを知っているのか。
「…なんであなたが犯人を知ってるんですか?」
「まあ、詳しくは言えないけど俺も色々ツテがあるからね。ちょっと小耳に挟んだの」
「知ってるなら教えて下さい、犯人の名前。お願いします」
自分の頬が濡れているのを感じた。何故涙が溢れるのか分からない。事故のことを思うだけで一番深い場所の琴線に触れてしまう程、心が病んでしまっているのだろうか。どうにか涙を止めようと深呼吸をしても、どうにも嗚咽を堪えることが出来ない。
ふと、かさついた肌の感触が栞の顎にしたたる滴を拭った。涙を止めようと思えば思うほどに鼻の奥が痛くて視界が滲む。ぐっと目を凝らせば思っていたよりも近くに浩介の顔があった。
ふわりと鼻腔をくすぐったのは男の汗と混ざった少し苦い香水の香りだった。
「栞ちゃんは、犯人のことを知ったらどうするの?」
「…どうって、そんなの分かりません」
「うん、じゃあなんで知りたいの?」
「…どうしても、彼をあんな目に合わせた奴は許せないから。話は出来なくても、せめてどんな奴なのか知りたい」
「…そっか。わかったよ」
浩介はベッドから降り部屋の電気をつけると、床に置かれていたカバンからメモ張を取り出し、一枚破って栞に渡した。
そこには『谷口雅』という名前が書いてあり、住所も記されていた。
栞は呆然とした様子でその名前をじっと食い入る様に見つめていた。そして一瞬の後我に返ったのか、枕元のスマホを勢いよく掴むと、紙に書かれた住所の場所を検索し始めた。
浩介は自分のことなどもう眼中にない栞に声を掛けることはなく、脱ぎ捨てられて少しシワになってしまったシャツや上着を身に付けると、そのまま部屋をあとにした。
今はどんな言葉を掛けても無駄だと思ったからだ。きっと数時間前までは浩介の下で艶かしく喘いでいたことなどすっかり忘れてしまって、ただ犯人のことしか頭にないのだろう。
寮のキイキイと軋む階段を少し気を付けて降りながら、浩介は栞の肌の感触を忘れたくなくて、一度だけ部屋を振り返った。
※※※
季節が冬を迎える頃、栞は病院の近くの喫茶店で女と会う約束をしていた。店内に入るとコーヒー豆の良い薫りに歓迎された。
入口から見える席を選びブレンドを注文して一息つくと、周りをサッと見渡した。病院が近いだけあって、少し離れた斜め向かいの席で顔だけは知っている医者が背を丸めてドリアかグラタンを食べていた。
ふっと息を吐き、時間を確認しようとスマホを取り出した時、ドアから冷たい風と共に一人の女が入って来た。近付いた店員に何やら断りを入れているその女は誰かを探す素振りを見せた。栞は立ち上がり、その女に向けて小さく会釈をすると、相手も栞を認めた様子で少し強張った面持ちでベージュのハイヒールを鳴らした。
※※※
藤村暁斗が死んだらしい。
らしいと言うのはもともと俺は暁斗の顔も知らないし、彼が入院していた病院関係者の上客様からこっそりと彼や栞ちゃんの様子などを教えて頂いていただけなので、詳しいことは本当に分からない。事故により脳死の状態だということは知っていたが、やっとひき逃げの犯人が逮捕されたというのに。思わず同情してしまうくらい悲しい男だな。
栞ちゃんはあれから特に変わった様子もなく出勤している。コミュニケーションも取って注意深く観察してはいるけれど、彼女の気持ちは本当に分からない。
もともと彼女自身がポーカーフェイスというかミステリアスというか、掴みどころがないタイプではあったし、そういうところに惹かれたんだけれど。
それでも彼女がどれほど暁斗を好きだったかは理解していたつもりだし、それを承知で無理矢理抱いていた。どうせもう暁斗は目覚めないだろうし、多少強引でも金にモノを言わせてやろうなんて下衆なことをずっと思っていたんだ。
暁斗が死んだって、彼女に対する自分のスタンスは変えないつもりだった。ああいう真面目で純粋なタイプの子は放っておくとどんどんと自分を追い込むだろう。嫌われようが構わない。
俺が救ってやりたいんだ。
※※※
「すごい景色!こんなの初めて見ました」
その夜、栞は 珍しく華奢で美しいヒールを履いていた。
紺色のプリーツスカートを翻しながら、宝石箱の様な一面の夜景へと駆け寄って行く栞はあまりにも無邪気で愛らしかった。少し前に初めて栞の方から「今度ごはん連れて行って下さい」なんて上目遣いで誘われた浩介は、思わず体温が上がり表情が緩みそうになるのを何とか堪えながら了承した。その嬉しさといえば、仕事中でなければ理性を捨ててガッツポーズをして叫んでしまいそうな程だった。
そしてすぐさま彼女好みの塩味の効いた美味しいフレンチの店と、煌めく街の夜景を一望出来るホテルのスイートルームを予約した。
暁斗が死んでから2ヶ月が過ぎ、もう季節は春だった。今回栞から声を掛けられたのは、やはり暁斗のことかあるいは犯人の女のことを話したいのだろうかと身構えていた。
浩介は栞がうっとりとした声で夜景に向き合っている間に酒を用意してやった。レストランでも栞の話を聞こうとしたけれど、特に彼女の方からはプライベートな話を始めることはなかった。それどころか、今まではまるで興味がない様子だった浩介の私生活や趣味の話などを聞きたがった。そして良いタイミングで鈴を転がす様な声で笑い、潤んだ瞳でこちらを見つめながら浩介を褒め称えた。それはいつも好意を寄せてくれた女性達のやり口と似ていて、少し前の憎しみと侮蔑にまみれた栞の視線とはあまりにもかけ離れていた。
食事中は彼女の真意はついぞ理解できなかったが、きっと何か目的があるに違いない。
慰めて甘やかして欲しいならそうしてやりたいし、暁斗が亡くなった今、これまで金で脅して肉体関係を迫ったことを謝れというなら土下座も仕方ないと思っていた。浩介はそのどちらでも無さそうな栞の様子に困惑していた。それでも彼女の表情や会話からは浩介に対してこれまでの様な嫌悪感は感じられないし、むしろ逆だった。
これならば、彼女からのお誘いに受かれて予約してしまったスイートルームまで二人で行けるかもしれない。彼女が大金を必要としなくなった今、デートの内容しだいでは一人で泊まることになると思っていたが、今回はそういうことは無さそうだった。
そしていつもの様につい軽薄な様を装ってホテルへと誘えば、彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、その細い腕を深く絡ませてきたのだった。
※※※
ヒールを脱いだ彼女の脚の爪は、まるで熟れた柘榴の実の様だった。
あれからしつこく窓に食らいつく彼女の手を引いてソファーへと誘い、口当たりの良い軽めの酒を渡してやった。彼女は今までにないくらいニコニコと嬉しそうにそれを受け取った。
「今日別人みたいにご機嫌だね」
「そうですか?私、いつも笑顔を心掛けているつもりですけど」
「そりゃ皆の前ではね。俺といる時はいつも死んだ魚みたいな目してたじゃん」
「あははっ!そうでしたっけ?」
何が楽しいのか、栞はいつもよりも高めの声で笑っている。会話を流されていると感じた浩介が少し憮然とした顔をすると、彼女はまた小さく笑いながら隣に座る浩介の太ももへと手を置いた。浩介は驚いて思わず身を引いて彼女を見た。もちろんセックスはしたかったが、まずは落ち着いて最近の栞の話を聞こうとしていたが、どうやら栞は目の前の男に何も話す気はないらしく、身体を離した浩介にまたにじりよった。
「今まで散々好き勝手に抱いておいて、その態度はひどいんじゃないですか?」
「…俺は、栞ちゃんのこと本当に好きだよ。無理矢理抱いて脅した奴に好かれても嬉しくないだろうけど…」
「あの時はそうでしたね。でも今は私の気持ちは変わりましたから。私、浩介さんに抱いて欲しくてホテルまで着いて来たんですよ」
「本当にそうなら嬉しいよ。でもまず話そうよ。彼氏さんのこととか。一人で抱え込まないで、苦しいなら聞くよ?」
「…そんなのもういいから。ねえ、焦らさないで」
耳元で呟くと、栞はソファーから降りて浩介の太ももの間に入り込み、その中心をゆるりと撫でた。挑発するような視線とかち合い、浩介は諦めた様に天井を仰ぐと、愛しい女性の柔らかい髪をくしゃりと乱した。それを肯定と受け取り満足したのか、栞は慣れない手付きで男のベルトを外すと、ボクサーパンツから既に少しだけ反応しているぺニスへと口付けた。浩介の身体がピクリと大げさに跳ねた。栞からフェラチオを受けるのは初めてではなかったが、いつも無理矢理舐めさせていたようなものだったので、今回の様に栞の方から熱心に愛されてしまえば隠そうにも嬉しさで興奮が抑えられなかった。栞は自らの唾液とぺニスから溢れる先走りを使ってぐちゅぐちゅと音をたてて顔を上下させた。小さな口に入りきらない根元は柔らかな手で扱き、たまに裏筋も刺激される。先端の敏感な場所を舌で弄くるのが楽しいのか、栞はニヤニヤと感じている浩介の表情を伺いながらぐにぐにと強めに擦ってくる。
「っは、ああ、っ、栞ちゃんっ、何か今日すごいえろいね…」
「んっ、ちゅっ、んむっ、はあっ、はっ、ほんとですか?気持ちいい?」
「っ気持ちいいよ、やばい、イッちゃうかも…」
「はむっ、んっ、だしてぇっ」
滅多に見られない浩介の乱れた様子に、栞の体温も上がっていく。美しい顔を体液で汚しながら、射精を我慢させるものかと必死で舌を動かし顔を上下させた。男のプライドなのか、何とか耐えようと薄く笑いながら何か話すべく口を開いた浩介をちらりと見て、舌を尖らせて敏感だという先端を強くほじってやった。浩介はビクッと身体を強張らせると小さく唸り射精した。栞の口の中いっぱいに何とも言えない青臭い様なしょっぱい様な味が広がった。こうして口の中に出させてやるのは初めてだった。浩介は驚いた顔で栞を見つめると、彼女はかつてないほど満足げな表情で舌を出し白濁を見せつけると、ごくんと喉を晒して飲んだ。
その雌猫の様な挑発的な目線に当てられて、浩介が栞の腕をぐいっと引けば、彼女の軽い身体はいとも簡単に胸へと飛び込んで来た。そのまま彼女を荷物の様に雑に抱き抱えると、広いベッドへと放り投げた。栞は少し怒った様な声で非難めいた声を上げたが、起き上がろうとした身体にのし掛かり、そのまま深く口付けて生意気そうな唇を塞いでやった。
「んっ、んむっ…はぁっ、あっ」
「栞ちゃん、ちゃんと息してね。久しぶりだしがっついちゃうかも」
「っあ、はぁ、大丈夫、私もむちゃくちゃにして欲しいの。いっぱいして」
「…今日すごく煽るね。なんか別人みたいだな」
「もうめんどくさいこと言わないで…。早く触って」
栞にせっつかれて、またキスを深くしながら彼女の白いブラウスに手をかけた。後ろのチャックを下ろして頭から抜き取ってやれば、彼女の美しい曲線を描いた白い素肌に目が眩んだ。下着も浩介と約束のある日はベージュなどの無地で地味な物ばかりだったのに、今日はボルドーと黒の派手な生地にレースが透けていて、男とセックスするために選んだ物だと感じた。もともと彼女は色白で胸もFカップはあるらしく、ベージュよりも派手な色の方が似合うとずっと思っていたのだ。その劣情を誘う下着は、彼女の目鼻立ちのくっきりとした清楚な顔立ちとのコントラストが映えてたまらなかった。
「今日はいつにも増してキレイだね」
「浩介さんが好きそうな物を選んだのよ。素敵な夜にしたかったから。興奮してくれてる?」
「うん。すごく興奮する。なんでもしてやりたくなるよ」
栞の美しい鎖骨から白い首筋までを舐め上げながら白い乳房を優しく揉んでやると、小鳥の様に可愛らしい喘ぎ声が漏れる。更にいつもはつけていない香水に感情を揺さぶられ、我慢出来ずに右手を下半身へと滑らせた。触れた場所はまだ前戯もそこそこだというのに既に音を確認出来る程に濡れていた。「あっ」と小さく声を上げながら恥ずかしそうに顔を逸らす仕草に嗜虐心を煽られ、一度身体を起こしその細い脚を思い切り開かせ、その中心に顔を埋めてやった。以前から栞はクンニをされるのが苦手らしく本気で嫌がられて顔を蹴られた事があったが、今日なら思う存分させて貰える気がした。
「っあ、ちょっと!やだぁ」
「…ダメ?」
「恥ずかしいの。あっ、や、舐めないでってば!」
太ももを閉じようと一瞬力が入ったが、浩介もそれに対して強めに抵抗すると彼女は諦めた様に力を抜いてくれた。浩介は少しホッとすると、彼女の気が変わらないうちに陥落させることにした。 舌を尖らせて彼女の蜜園へと抜き差ししながら、敏感なクリトリスたまにチロリと舐めてやる。その度に彼女はビクッと身体を震わせ、儚げに喘いだ。
「んぅ、はぁっ、あっ、あっ、だめっ、ああっ」
「ふ、まだちょっとしかしてないのにぐちょぐちょだね。実はクンニ好き?」
「やぁっ、ああっ、恥ずかしいのっ、見ないで」
「クリ好きだよね。いっぱいしてあげるよ」
「…っ、だめっ、すぐイっちゃうからぁっ」
大きな瞳を潤ませながら懇願されれば、浩介の表情もますます剣呑な野獣染みてくる。一度顔を離すと、ぬかるんだ秘部へと男の太い指を二本ずぶりと埋めてやった。かわいそうな獲物は「うぅっ」と悲痛な声をあげて顎を反らした。ぐちゅぐちゅと卑猥な水音をたてながら中を拡げる様に掻き回してやる。そうしながらも左手でクリトリスの皮の引っ張り赤く腫れたそこを根元から舌で丁寧に舐めしゃぶれば、栞は身も世もなく泣き喘いだ。
「あーーっ!いやあっ!いやーっ!…っ!イくっ!イくぅっ!」
「はーっ、かわいい…」
「もうやめてぇっ!イったんだってばぁっ!んっ、うんっ、クリやだ!」
「ちょっと、わかったから!ごめんって」
浩介はやっと栞を解放すると、濡れていない方の手ですすり泣く彼女の頭を撫でてやった。そうしてまた深く舌を絡ませながら、少し様子が落ち着いたと見れば戯れに乳首に指を這わせた。弾力のあるそれをコリコリと捏ねたり、乳頭の先端に軽く爪で引っ掻いてやればまた耳心地の良い声ですすり泣いてくれる。そうしながら浩介は己の反り勃ったペニスを何度か擦り上げ、避妊具が入れておいたベッドサイドの引き出しへと手を伸ばした。
その時、その手を栞の白魚の様な腕に阻まれた。
「今日はゴムはいりません」
「いや…、え?さすがにそれはまずいよ」
「安全日なんです。あと、気分が乗ってるんで生でシても良いかなって。私、断られると傷ついちゃうからもう一生浩介さんとはシないかも」
「えー…、マジで?」
「本気よ」
「…う、ん。わかった、栞ちゃん愛してる」
女の目は本気だった。その黒く濡れた瞳は、浩介が栞の甘い毒の様な提案を無視して避妊具を付けたなら、そのまま服を着て部屋を出ていってやると言っていた。実際は彼女を孕ませてしまうのではないかと不安だが、仕方ない。こんな状況で彼女を抱かずに帰すなんて出来る訳がなかった。
満足そうに微笑む栞は女神の様に美しかった。今まであれほど嫌われていた筈の想い人が自分を求めているのだ。その意に沿うしかないと覚悟を決めて、彼女の中に剥き出しの身を沈めた。
※※※
「うっ、はあ、ああっ、そこっ、だめ、あーっ」
「どこだよ、ここ?」
「そこっ!ダメなのっ、あぁっ!」
「ひ、あっ、イくっ、イくぅっ!」
「おらっ、さっさとイけっ!」
「イく、イくイく、あーっ!は、あ、やぁっ」
「…っはあ、締まる、う、ぐ」
交わり合ってから既に1時間が過ぎ、最初こそ懸命に自ら腰を振ったり挑発的な言葉を投げ掛けていた栞だったが、今はただ全身を投げ出して浩介から与えられる快感を享受しているだけだった。
その細腰を痕がつきそうなくらい強く捕まれ、脳が揺れる程に腰を打ち付けられていた。
浩介のセックスはいつも激しくて長くて苦しくて、気持ちが良い。
栞はいつもいつも、気が狂う寸前だった。
もう何度イかされたのか分からないが、浩介の方は二度目の射精だった。ゆるゆるとしつこく腰を振り、栞の中で白濁を塗りたくっている。かなり奥の方で出されたので、もしかしたら本当に…。
栞は思わず口の端に笑みが溢れた。と、栞の表情を興奮した様子で見つめていた浩介と目があってしまった。
「…なんだ、もう限界みたいなこと言っておきながらまだまだ余裕ありそうだね」
「…え?あっ、違うの、もう本当に無理」
「まあまあ、楽しもうよ」
ニヤリと悪魔の様に笑った男は、力の入らない栞を簡単にうつ伏せにさせると、いつの間にか回復していたぺニスを今抜いたばかりの場所へとまた埋め込んだ。所謂寝バックの体制になり、既にぐったりとしている彼女の背中に自らの大きな身体を密着させ、潰さない程度にのし掛かった。そうされてしまえば、栞は少しの抵抗さえも出来なくなってしまった。観念して肌触りの良いシーツをグッと握り締めれば、耳元で「くくっ」と笑う声がした。そうしてまたゆるゆると腰を使われていく。さっきまでと角度が変わったせいなのか、また中を探る様に腰をぐりぐりと押し付けられて回される。なるべく感じる場所を悟られない様に唇を噛み締めていると、背後から伸びてきた両手に乳房を揉まれて思わず仰け反った。マシュマロの様に柔らかなそれを形が変わる程に乱暴に揉み抜かれ、乳首を強く転がされると声が思わず力無く首を振り声を漏らしてしまった。瞬間を待っていたかのように激しく蜜園を突き上げられれば堪らなかった。
「あっ、はうっ、あっ、あっ、もう死ぬっ、はぁんっ!」
「セックスで死ぬかよ!お前は毎回それだな」
「死にますっ、ホントに、助けてっ!ああっ、いやぁっ、気持ち良いのもういやぁっ、あーっ!」
「はぁっ、やべー、栞ちゃんマジでセックスの時はドMだよね、最高だわ」
「ちがっ!ひうっ、ダメなとこ突いちゃいやぁっ!そこ、イくイくイくイくっ!」
「何回でもイけよ!まだまだ終わらせないからな、締めろおらっ!もっかいイけっ!」
「はーっ、はーっ、あぅっ、ひぃっ」
支配欲に溺れた男は、目の色を変えて涙して震える獲物を犯し続けた。気絶しそうになればその寸前で少し動きを緩めて息を整えさせてやり、また追い詰めた。泣き叫びながらセックスに感じ入っている姿に、脳の血管が切れてしまいそうな程興奮していた。
思い切り腰を振り続け三度目の限界が近付いた頃、まだ浩介の方は体力も精力も余裕があったが、栞の方はとっくに限界だろう。彼女にとってのこの時間が天国か地獄かは分からないが、そろそろ解放してやることにした。
栞の背にピタリと張り付いていて汗に濡れた身体を起こし、繋がったまま彼女の身体を横向きにしてその脚をぐいっと持ち上げた。
「ひぃっ、助けっ、ふかいっ、そんなとこもうやだっ」
「おっ、すげー奥まで入るなこれ」
「ううっ、そこいちばんやだっ!やだあっ!壊れちゃうよぉっ」
「うっせーよ、最後、一番奥に出すから子宮で飲めよ」
「はうっ、ああっ、入っちゃだめぇっ」
余程怖いのか、最後の力を振り絞り暴れる栞を押さえ付けて腰を進めた。子宮口だと思われるコリコリとした場所にゴッゴッと思い切り腰を打ち付けてやれば、栞は断末魔の様な悲鳴を上げて泣いた。
「っうあーっ!ああ、もうやだぁ、またイくっ、あぐっ、ぐぅっ、うんっ、ひうっ、ううっ、最後っ、イくっイくっ!」
「もうだめーーっ!イってください!お願いします」
「はんっ、あ、あ、あぁっ!あんっ、イっちゃう!」
「…っ、…ぅっ、はぅっ、ぁっ、ぁっ、イくっ」
栞はもう目を白黒させながら意識も朦朧としながらひたすら肉袋の如く喘いでいる。その腰はカクンっと勝手にヒクついていて彼女の意思では止まらない様だった。
「…はあっ。栞、そろそろ出すよ。溢したらもっかいヤるからな。全部子宮で飲めよ」
「…っ、はいっ、あぅっ、イくっ、ずっとイってるっ、死んじゃうっ」
「イけ、最後にイけっ!締めろ、出してやるおらっ!」
「ぁうっ、いやぁっ!イくぅっ!」
「くっ、出るっ!」
浩介は跡形もない程に散らされた蜜園の奥の奥まで入り込み、射精した。その最中もしつこく腰を振り続けてやれば、彼女は小さく浩介の名を呼びながら意識を落としていった。
※※※
「浩介さんは、暁斗をひき逃げした女性をご存知でしたよね」
「ん?ああ、名前だけね。もう逮捕されたんだよね?」
「まあそうですね…。えっと、じゃあなぜ彼女が暁斗を殺そうとしたのか理由は知らないんですか?」
「…殺そうとした?それってどういうこと?」
不穏な響きの言葉に思わず眉を寄せた。栞は一瞬苦いものを噛む様な顔をすると、すぐに口の端を上げて軽薄に笑った。そのまま浩介の腕の内側をするりと撫で上げ、人差し指でくるくると浩介の汗ばんだ肌を弄んだ。
「彼女も私も被害者なんですよ」
「…被害者?」
「谷口雅さんのお姉さんに会ったんです」
「…谷口雅って、確か犯人の名前だよな?その姉さんってこと?」
「そうです。私、浩介さんに谷口さんの名前を聞いてから、一人で色々と調べてたんです。犯人の家の近所とか会社の周りをうろついて話を聞こうとしたり。怒りに任せて、犯人はどんな奴なんだろうとか思って。そうしたら話し掛けたのがたまたま友人だという方だったから。その流れでお姉さんに連絡を取って頂いて、お話する機会を得たんです」
「…大丈夫だったのか?一人でそんな。相談してくれたら、代わりに行ってやったのに」
被害者の恋人と加害者の姉。そんな二人が顔を合わせて話すなんて、修羅場だっただろう。それ以上に、何故栞はそんなにも執拗に犯人の身辺について調べていたのだろうか。犯人は既に逮捕され、為すべき刑に処される事が確定しているというのに。
栞は殊更強く浩介に抱きついた。決して自分を離すなとでも言うように。
「浩介さんが想像しているような状況じゃなかったですよ。私、確認したかったんです」
「確認って?」
「…暁斗の奴、結婚詐欺をしてたの」
「…は?」
「谷口さんは暁斗の被害者。500万程渡してたんですって。ご両親は亡くなっていて、その遺産を暁斗に頼まれるまま貢いでしまったらしいです」
「はあ?なんだそれ!じゃあその子は金を取られた復讐の為に暁斗を轢いたのか?!」
「…取られたのがお金だけなら、まだ許したかも知れないって言っていたそうです」
「え?」
「谷口さんは妊娠していて、暁斗にそれを告げると堕胎を強要されたそうです。認知なんて絶対にしないって。お金もないし、仕方なく彼女はそれに従ってしまい、辛くて辛くてどうしようもなくなったらしくて」
「…なんだそれ。クズだな、暁斗って男は」
「ふふっ、無理矢理私をレイプしたあなただって、地獄行きのクズだけどね」
「…あのときは、本当にごめん」
栞はクスクスと笑いながら浩介にキスをねだった。栞の感情がまるで読めず、恐る恐るそれに応えた。小さな舌が積極的に動き回り、歯列を舐め上げてくる。これはもう一戦のお誘いなのか、それともただの戯れなのか、それすら読めない。栞という女は、出会った頃からずっと掴めない雲の用な存在だった。どれだけ激しく抱いても、いっそ遠のくばかりに思えた。
「っん、ちゅっ、あなたのキスもセックスも大好き。悩みも怒りも全部吹っ飛ぶくらい気持ち良いから」
「…そっか。それは良かった。栞ちゃんも暁斗にお金とか貢いでたの?」
「ううん。私はお金は渡してなかった。これから谷口さんの代わりになる予定だったのかもね」
「もう死んだとはいえ、ぶん殴りてぇな。暁斗の母親も、まさか息子がそうだとは思わなかっただろうに」
「…ああ、あの人も大概よ。私が暁斗の治療費として渡してたお金、実は充分過ぎる程余っていたらしいのだけれど、まったく返そうともしなかったから。着服してたのよ。仲良くなった病院の人がこっそり教えてくれたの。騙されてるかもってね」
「…はあ?なんだそれ!親子揃ってふざけんな!」
「あははっ、あれはあなたとセックスして貰ったお金だし私はもう良いのよ。まあ元が浩介さんのお金だから返して欲しいって言うなら好きにしてくれていいけど」
「…はあ。いや、俺はそんな金なんて今更要らんけど。栞ちゃんの好意を踏みにじりやがって、その母親も絶対に許さねえ」
「だーかーらー、レイプ犯が言わないでよ」
「本当にごめん。そのことについては一生許して貰えるとは思ってない」
栞は丸い目をぱちくりと瞬かせると、浩介の胸にぎゅっと抱きついて見上げてきた。
「ふふっ、一生側にいてくれるんですね?」
責める様な口調から打って変わり、少女の様にはにかんだ表情で小首をかしげる栞に、浩介は思わず息を飲んだ。まさか、栞からそんなプロポーズめいた事を言われる日が来るとは夢にも思わなかった。
「…何で急に俺にそんなこと言うの?」
「あれ、迷惑だった?」
「そんなわけないけど…。色んなことがあったし、栞ちゃんの精神的な部分が心配なんだ。その、鬱病とか本人は気付いてない場合も多いらしいし」
「確かに、本当の事を知った時はもう死のうと思いましたけどね。でも気付いたんです。私の周りの人たちはみんな自分勝手なことばかりして私を追い込むの。暁斗は最低な奴だったし、その母親も息子の回復が見込めないから自分の老後の為のお金を貯めたかったなんて言うし。貴方は自分の性欲の為に私をむちゃくちゃにしたし。だから、私にだって自分の幸せだけを追いかける権利はあるんじゃないかって」
「もちろん!どこにも幸せを望まない奴なんていないんだ。俺は栞ちゃんには誰よりも幸せになって欲しいよ」
「ふふ、嬉しい。だからね、浩介さん。貴方が私を幸せに欲しいの」
最後の言葉に、浩介の表情が一瞬強張ったのを栞は見逃さなかった。
最近旅館では浩介の母親である女将が、小さな声でお見合いだの顔合わせだのと電話で話しているの聞いた。それ故に栞は今日、浩介を誘った。この男が栞に好意を抱いているのは確かだと思うが、母親に歯向かってまで情を優先するのかは未知数だったからだ。浩介はきっと、栞の今までの態度からして自分との未来などまったく望んでいないと踏んでいたのだろう。栞も最初はそうだったが、今は状況が変わったのだ。せっかく目の前に美味しい餌がぶら下がっているのに、みすみす逃してやるつもりはもう無かった。
(もう一人で苦しむのは嫌。貴方の都合なんてどうだっていい。私を好きなら幸せにしてよ)
きっと浩介は悩んでいるのだろう。
栞への確かな恋慕と罪悪感、旅館の跡継ぎとして大切に育ててくれた母親への反抗を成し遂げられるか否か、それともやはり栞を上手く言いくるめられるかどうか。
いつものしつこい程の口説き文句はどこに行ったのか、言葉を詰まらせている浩介に、栞はいつも彼がするようにニヤリと笑うと最後のダメ押しを決行した。 彼の左胸の辺りをくるくると撫で上げ、仕上げに人差し指で強めに突いてやった。浩介は栞に見つめられ青くなったり赤くなったり表情も忙しない。
反対に栞の顔はまるで血など通っていないように白く、無表情だった。
「もし裏切るなら、あんたも殺すわよ」
必死で目を凝らしても、広がる光景は蜃気楼の様にゆらゆらと遠くへ逃げていく。それでも不鮮明に浮かぶ情景はどこか懐かしくて、ぶわりと切ない気持ちが込み上げてくる。
そうか、ここは暁斗の部屋だ。キッチンから流れて来る湯気の向こうから、彼がなにやら料理を作っているらしい。彼はカルボナーラが得意だったから、パスタでも茹でているんだろうか。ぼんやりとした思考のままふと彼を見ると、湯気で表情はよく見えないけれど、何か栞に向かって話し掛けているようだった。それなのに、何故か彼の声が全く聞こえない。
焦って彼の名を呼ぼうとするけれど、自分の喉からも小さな音すら発することが出来ない。無音の世界の中で、以前と変わらぬ優しい笑顔で手を差し伸べられ、その手を掴もうと必死で腕を伸ばすのにどうしても届かない。触れられない。
なんで。どうして。
(ああ、そうか。これは夢なんだ)
微睡む意識の中、夢に沈んでいた事を自覚してしまった瞬間、ふわふわとした幸せな気分は遠退いて絶望に追い付かれてしまった。現実の世界でだるさの残る身体へと戻ってきた栞は、うっすらと瞼を開いてまわりの様子を伺った。部屋の空気はまだ真夜中だった。まるで思考が追い付かない中、今日の自分の予定を思い出そうと頭のエンジンを動かし始めた時、恐らく自室の洗面所から水の流れる音が聞こえてきた。
栞は一瞬ギクリと固まり、恐怖からかスッと体温が下がった気がしたが、急いで身体を起こした途端、ベタつく肌の違和感から数時間前の記憶が甦った。そして、今この世で最も嫌いな男の顔をどこかへ吹き消す様にため息をついた。
(結局、私はいつもあの男の思うままにされてしまう…)
栞は暁斗のことを今も変わらず大切に思っているし、彼以外の男との未来など考えたこともなかった。それにも関わらず、浩介に強引に迫られる度にいつもなし崩しに身体を許してしまう。
金銭的に多額の援助を受けているという負い目もあるけれど、それだけではないことも栞は心の片隅でうっすらと自覚していた。
浩介に押し倒されたあの日の朝、それ以前からずっと、栞は精神的にも体力的にも参っていた。
愛する恋人からプロポーズされるはずの幸せは絶望に変わり、それから栞の胸の中はずっと陰気な暗闇だった。彼の回復を信じよう、それまで頑張ろうと思えば思うほど自分を追い詰めてしまい、本当はもうこの世界から消えてしまいたいと思っていた。それでも万が一彼が目覚めた時、その世界に自分がいなければ彼は絶望してしまうだろうか。
あと一年がんばろう。
あと半年待てるだろうか。
あと1ヶ月だけ。
そんなことをぐるぐると考えながら、答えは出ぬまま日々を消化していた。
そんな身も心もボロボロの栞を、浩介は更に打ちのめした。栞を凌辱して、暁斗への想いだけでかろうじて息をしていた心を黒く塗り潰し、毒の様に蝕んだ。
結果的に暁斗を裏切る形になってしまい、浩介のことが殺したい程憎くて仕方がなかった。それなのに、久しぶりの激しいセックスは何もかもを忘れさせた。
プロポーズの夜のこと、幸せな思い出、事故のこと、治療費のこと、変わり果てた暁斗の姿も。
浩介に抱かれている間だけは、誰とも関係ない何者でもなくただひとりぼっちの女だった。
栞はこの数ヶ月の間、じわじわと解放される瞬間を欲する様になっていた。
ぼんやりと自己嫌悪に浸っていると、ガチャリとドアの開く音がして、部屋を支配する暗闇に一筋の人工的な光が差し込んだ。
※※※
「あれ、起こしちゃった?」
洗面所から下着姿で出てきた男は、まるで恋人の様な馴れ馴れしさで栞のベッドに腰掛けた。
「…トイレ、使わないでって言ったのに」
「え、あれ冗談でしょ?ていうか俺は綺麗に使える派だから安心して」
「はぁ…。まあいいです。用が済んだならさっさと帰って下さい」
「冷たいなあ…。それより聞きたいこと、あったんじゃないの?」
「え…?」
「犯人の名前、知ってるよ」
薄暗いオレンジの常夜灯の下、浩介の表情はよく見えない。いつものように人を喰った様に笑っているのか、もしくは社会の中でその他大勢の人間に見せつける誠実な若旦那の顔なのか。
声音からも感情の起伏は感じられず、浩介の心情を読み取ることが出来ない。一瞬いつものようにからかわれているのかと思い沈黙したが、それならばなぜこの男が犯人が捕まったことを知っているのか。
「…なんであなたが犯人を知ってるんですか?」
「まあ、詳しくは言えないけど俺も色々ツテがあるからね。ちょっと小耳に挟んだの」
「知ってるなら教えて下さい、犯人の名前。お願いします」
自分の頬が濡れているのを感じた。何故涙が溢れるのか分からない。事故のことを思うだけで一番深い場所の琴線に触れてしまう程、心が病んでしまっているのだろうか。どうにか涙を止めようと深呼吸をしても、どうにも嗚咽を堪えることが出来ない。
ふと、かさついた肌の感触が栞の顎にしたたる滴を拭った。涙を止めようと思えば思うほどに鼻の奥が痛くて視界が滲む。ぐっと目を凝らせば思っていたよりも近くに浩介の顔があった。
ふわりと鼻腔をくすぐったのは男の汗と混ざった少し苦い香水の香りだった。
「栞ちゃんは、犯人のことを知ったらどうするの?」
「…どうって、そんなの分かりません」
「うん、じゃあなんで知りたいの?」
「…どうしても、彼をあんな目に合わせた奴は許せないから。話は出来なくても、せめてどんな奴なのか知りたい」
「…そっか。わかったよ」
浩介はベッドから降り部屋の電気をつけると、床に置かれていたカバンからメモ張を取り出し、一枚破って栞に渡した。
そこには『谷口雅』という名前が書いてあり、住所も記されていた。
栞は呆然とした様子でその名前をじっと食い入る様に見つめていた。そして一瞬の後我に返ったのか、枕元のスマホを勢いよく掴むと、紙に書かれた住所の場所を検索し始めた。
浩介は自分のことなどもう眼中にない栞に声を掛けることはなく、脱ぎ捨てられて少しシワになってしまったシャツや上着を身に付けると、そのまま部屋をあとにした。
今はどんな言葉を掛けても無駄だと思ったからだ。きっと数時間前までは浩介の下で艶かしく喘いでいたことなどすっかり忘れてしまって、ただ犯人のことしか頭にないのだろう。
寮のキイキイと軋む階段を少し気を付けて降りながら、浩介は栞の肌の感触を忘れたくなくて、一度だけ部屋を振り返った。
※※※
季節が冬を迎える頃、栞は病院の近くの喫茶店で女と会う約束をしていた。店内に入るとコーヒー豆の良い薫りに歓迎された。
入口から見える席を選びブレンドを注文して一息つくと、周りをサッと見渡した。病院が近いだけあって、少し離れた斜め向かいの席で顔だけは知っている医者が背を丸めてドリアかグラタンを食べていた。
ふっと息を吐き、時間を確認しようとスマホを取り出した時、ドアから冷たい風と共に一人の女が入って来た。近付いた店員に何やら断りを入れているその女は誰かを探す素振りを見せた。栞は立ち上がり、その女に向けて小さく会釈をすると、相手も栞を認めた様子で少し強張った面持ちでベージュのハイヒールを鳴らした。
※※※
藤村暁斗が死んだらしい。
らしいと言うのはもともと俺は暁斗の顔も知らないし、彼が入院していた病院関係者の上客様からこっそりと彼や栞ちゃんの様子などを教えて頂いていただけなので、詳しいことは本当に分からない。事故により脳死の状態だということは知っていたが、やっとひき逃げの犯人が逮捕されたというのに。思わず同情してしまうくらい悲しい男だな。
栞ちゃんはあれから特に変わった様子もなく出勤している。コミュニケーションも取って注意深く観察してはいるけれど、彼女の気持ちは本当に分からない。
もともと彼女自身がポーカーフェイスというかミステリアスというか、掴みどころがないタイプではあったし、そういうところに惹かれたんだけれど。
それでも彼女がどれほど暁斗を好きだったかは理解していたつもりだし、それを承知で無理矢理抱いていた。どうせもう暁斗は目覚めないだろうし、多少強引でも金にモノを言わせてやろうなんて下衆なことをずっと思っていたんだ。
暁斗が死んだって、彼女に対する自分のスタンスは変えないつもりだった。ああいう真面目で純粋なタイプの子は放っておくとどんどんと自分を追い込むだろう。嫌われようが構わない。
俺が救ってやりたいんだ。
※※※
「すごい景色!こんなの初めて見ました」
その夜、栞は 珍しく華奢で美しいヒールを履いていた。
紺色のプリーツスカートを翻しながら、宝石箱の様な一面の夜景へと駆け寄って行く栞はあまりにも無邪気で愛らしかった。少し前に初めて栞の方から「今度ごはん連れて行って下さい」なんて上目遣いで誘われた浩介は、思わず体温が上がり表情が緩みそうになるのを何とか堪えながら了承した。その嬉しさといえば、仕事中でなければ理性を捨ててガッツポーズをして叫んでしまいそうな程だった。
そしてすぐさま彼女好みの塩味の効いた美味しいフレンチの店と、煌めく街の夜景を一望出来るホテルのスイートルームを予約した。
暁斗が死んでから2ヶ月が過ぎ、もう季節は春だった。今回栞から声を掛けられたのは、やはり暁斗のことかあるいは犯人の女のことを話したいのだろうかと身構えていた。
浩介は栞がうっとりとした声で夜景に向き合っている間に酒を用意してやった。レストランでも栞の話を聞こうとしたけれど、特に彼女の方からはプライベートな話を始めることはなかった。それどころか、今まではまるで興味がない様子だった浩介の私生活や趣味の話などを聞きたがった。そして良いタイミングで鈴を転がす様な声で笑い、潤んだ瞳でこちらを見つめながら浩介を褒め称えた。それはいつも好意を寄せてくれた女性達のやり口と似ていて、少し前の憎しみと侮蔑にまみれた栞の視線とはあまりにもかけ離れていた。
食事中は彼女の真意はついぞ理解できなかったが、きっと何か目的があるに違いない。
慰めて甘やかして欲しいならそうしてやりたいし、暁斗が亡くなった今、これまで金で脅して肉体関係を迫ったことを謝れというなら土下座も仕方ないと思っていた。浩介はそのどちらでも無さそうな栞の様子に困惑していた。それでも彼女の表情や会話からは浩介に対してこれまでの様な嫌悪感は感じられないし、むしろ逆だった。
これならば、彼女からのお誘いに受かれて予約してしまったスイートルームまで二人で行けるかもしれない。彼女が大金を必要としなくなった今、デートの内容しだいでは一人で泊まることになると思っていたが、今回はそういうことは無さそうだった。
そしていつもの様につい軽薄な様を装ってホテルへと誘えば、彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、その細い腕を深く絡ませてきたのだった。
※※※
ヒールを脱いだ彼女の脚の爪は、まるで熟れた柘榴の実の様だった。
あれからしつこく窓に食らいつく彼女の手を引いてソファーへと誘い、口当たりの良い軽めの酒を渡してやった。彼女は今までにないくらいニコニコと嬉しそうにそれを受け取った。
「今日別人みたいにご機嫌だね」
「そうですか?私、いつも笑顔を心掛けているつもりですけど」
「そりゃ皆の前ではね。俺といる時はいつも死んだ魚みたいな目してたじゃん」
「あははっ!そうでしたっけ?」
何が楽しいのか、栞はいつもよりも高めの声で笑っている。会話を流されていると感じた浩介が少し憮然とした顔をすると、彼女はまた小さく笑いながら隣に座る浩介の太ももへと手を置いた。浩介は驚いて思わず身を引いて彼女を見た。もちろんセックスはしたかったが、まずは落ち着いて最近の栞の話を聞こうとしていたが、どうやら栞は目の前の男に何も話す気はないらしく、身体を離した浩介にまたにじりよった。
「今まで散々好き勝手に抱いておいて、その態度はひどいんじゃないですか?」
「…俺は、栞ちゃんのこと本当に好きだよ。無理矢理抱いて脅した奴に好かれても嬉しくないだろうけど…」
「あの時はそうでしたね。でも今は私の気持ちは変わりましたから。私、浩介さんに抱いて欲しくてホテルまで着いて来たんですよ」
「本当にそうなら嬉しいよ。でもまず話そうよ。彼氏さんのこととか。一人で抱え込まないで、苦しいなら聞くよ?」
「…そんなのもういいから。ねえ、焦らさないで」
耳元で呟くと、栞はソファーから降りて浩介の太ももの間に入り込み、その中心をゆるりと撫でた。挑発するような視線とかち合い、浩介は諦めた様に天井を仰ぐと、愛しい女性の柔らかい髪をくしゃりと乱した。それを肯定と受け取り満足したのか、栞は慣れない手付きで男のベルトを外すと、ボクサーパンツから既に少しだけ反応しているぺニスへと口付けた。浩介の身体がピクリと大げさに跳ねた。栞からフェラチオを受けるのは初めてではなかったが、いつも無理矢理舐めさせていたようなものだったので、今回の様に栞の方から熱心に愛されてしまえば隠そうにも嬉しさで興奮が抑えられなかった。栞は自らの唾液とぺニスから溢れる先走りを使ってぐちゅぐちゅと音をたてて顔を上下させた。小さな口に入りきらない根元は柔らかな手で扱き、たまに裏筋も刺激される。先端の敏感な場所を舌で弄くるのが楽しいのか、栞はニヤニヤと感じている浩介の表情を伺いながらぐにぐにと強めに擦ってくる。
「っは、ああ、っ、栞ちゃんっ、何か今日すごいえろいね…」
「んっ、ちゅっ、んむっ、はあっ、はっ、ほんとですか?気持ちいい?」
「っ気持ちいいよ、やばい、イッちゃうかも…」
「はむっ、んっ、だしてぇっ」
滅多に見られない浩介の乱れた様子に、栞の体温も上がっていく。美しい顔を体液で汚しながら、射精を我慢させるものかと必死で舌を動かし顔を上下させた。男のプライドなのか、何とか耐えようと薄く笑いながら何か話すべく口を開いた浩介をちらりと見て、舌を尖らせて敏感だという先端を強くほじってやった。浩介はビクッと身体を強張らせると小さく唸り射精した。栞の口の中いっぱいに何とも言えない青臭い様なしょっぱい様な味が広がった。こうして口の中に出させてやるのは初めてだった。浩介は驚いた顔で栞を見つめると、彼女はかつてないほど満足げな表情で舌を出し白濁を見せつけると、ごくんと喉を晒して飲んだ。
その雌猫の様な挑発的な目線に当てられて、浩介が栞の腕をぐいっと引けば、彼女の軽い身体はいとも簡単に胸へと飛び込んで来た。そのまま彼女を荷物の様に雑に抱き抱えると、広いベッドへと放り投げた。栞は少し怒った様な声で非難めいた声を上げたが、起き上がろうとした身体にのし掛かり、そのまま深く口付けて生意気そうな唇を塞いでやった。
「んっ、んむっ…はぁっ、あっ」
「栞ちゃん、ちゃんと息してね。久しぶりだしがっついちゃうかも」
「っあ、はぁ、大丈夫、私もむちゃくちゃにして欲しいの。いっぱいして」
「…今日すごく煽るね。なんか別人みたいだな」
「もうめんどくさいこと言わないで…。早く触って」
栞にせっつかれて、またキスを深くしながら彼女の白いブラウスに手をかけた。後ろのチャックを下ろして頭から抜き取ってやれば、彼女の美しい曲線を描いた白い素肌に目が眩んだ。下着も浩介と約束のある日はベージュなどの無地で地味な物ばかりだったのに、今日はボルドーと黒の派手な生地にレースが透けていて、男とセックスするために選んだ物だと感じた。もともと彼女は色白で胸もFカップはあるらしく、ベージュよりも派手な色の方が似合うとずっと思っていたのだ。その劣情を誘う下着は、彼女の目鼻立ちのくっきりとした清楚な顔立ちとのコントラストが映えてたまらなかった。
「今日はいつにも増してキレイだね」
「浩介さんが好きそうな物を選んだのよ。素敵な夜にしたかったから。興奮してくれてる?」
「うん。すごく興奮する。なんでもしてやりたくなるよ」
栞の美しい鎖骨から白い首筋までを舐め上げながら白い乳房を優しく揉んでやると、小鳥の様に可愛らしい喘ぎ声が漏れる。更にいつもはつけていない香水に感情を揺さぶられ、我慢出来ずに右手を下半身へと滑らせた。触れた場所はまだ前戯もそこそこだというのに既に音を確認出来る程に濡れていた。「あっ」と小さく声を上げながら恥ずかしそうに顔を逸らす仕草に嗜虐心を煽られ、一度身体を起こしその細い脚を思い切り開かせ、その中心に顔を埋めてやった。以前から栞はクンニをされるのが苦手らしく本気で嫌がられて顔を蹴られた事があったが、今日なら思う存分させて貰える気がした。
「っあ、ちょっと!やだぁ」
「…ダメ?」
「恥ずかしいの。あっ、や、舐めないでってば!」
太ももを閉じようと一瞬力が入ったが、浩介もそれに対して強めに抵抗すると彼女は諦めた様に力を抜いてくれた。浩介は少しホッとすると、彼女の気が変わらないうちに陥落させることにした。 舌を尖らせて彼女の蜜園へと抜き差ししながら、敏感なクリトリスたまにチロリと舐めてやる。その度に彼女はビクッと身体を震わせ、儚げに喘いだ。
「んぅ、はぁっ、あっ、あっ、だめっ、ああっ」
「ふ、まだちょっとしかしてないのにぐちょぐちょだね。実はクンニ好き?」
「やぁっ、ああっ、恥ずかしいのっ、見ないで」
「クリ好きだよね。いっぱいしてあげるよ」
「…っ、だめっ、すぐイっちゃうからぁっ」
大きな瞳を潤ませながら懇願されれば、浩介の表情もますます剣呑な野獣染みてくる。一度顔を離すと、ぬかるんだ秘部へと男の太い指を二本ずぶりと埋めてやった。かわいそうな獲物は「うぅっ」と悲痛な声をあげて顎を反らした。ぐちゅぐちゅと卑猥な水音をたてながら中を拡げる様に掻き回してやる。そうしながらも左手でクリトリスの皮の引っ張り赤く腫れたそこを根元から舌で丁寧に舐めしゃぶれば、栞は身も世もなく泣き喘いだ。
「あーーっ!いやあっ!いやーっ!…っ!イくっ!イくぅっ!」
「はーっ、かわいい…」
「もうやめてぇっ!イったんだってばぁっ!んっ、うんっ、クリやだ!」
「ちょっと、わかったから!ごめんって」
浩介はやっと栞を解放すると、濡れていない方の手ですすり泣く彼女の頭を撫でてやった。そうしてまた深く舌を絡ませながら、少し様子が落ち着いたと見れば戯れに乳首に指を這わせた。弾力のあるそれをコリコリと捏ねたり、乳頭の先端に軽く爪で引っ掻いてやればまた耳心地の良い声ですすり泣いてくれる。そうしながら浩介は己の反り勃ったペニスを何度か擦り上げ、避妊具が入れておいたベッドサイドの引き出しへと手を伸ばした。
その時、その手を栞の白魚の様な腕に阻まれた。
「今日はゴムはいりません」
「いや…、え?さすがにそれはまずいよ」
「安全日なんです。あと、気分が乗ってるんで生でシても良いかなって。私、断られると傷ついちゃうからもう一生浩介さんとはシないかも」
「えー…、マジで?」
「本気よ」
「…う、ん。わかった、栞ちゃん愛してる」
女の目は本気だった。その黒く濡れた瞳は、浩介が栞の甘い毒の様な提案を無視して避妊具を付けたなら、そのまま服を着て部屋を出ていってやると言っていた。実際は彼女を孕ませてしまうのではないかと不安だが、仕方ない。こんな状況で彼女を抱かずに帰すなんて出来る訳がなかった。
満足そうに微笑む栞は女神の様に美しかった。今まであれほど嫌われていた筈の想い人が自分を求めているのだ。その意に沿うしかないと覚悟を決めて、彼女の中に剥き出しの身を沈めた。
※※※
「うっ、はあ、ああっ、そこっ、だめ、あーっ」
「どこだよ、ここ?」
「そこっ!ダメなのっ、あぁっ!」
「ひ、あっ、イくっ、イくぅっ!」
「おらっ、さっさとイけっ!」
「イく、イくイく、あーっ!は、あ、やぁっ」
「…っはあ、締まる、う、ぐ」
交わり合ってから既に1時間が過ぎ、最初こそ懸命に自ら腰を振ったり挑発的な言葉を投げ掛けていた栞だったが、今はただ全身を投げ出して浩介から与えられる快感を享受しているだけだった。
その細腰を痕がつきそうなくらい強く捕まれ、脳が揺れる程に腰を打ち付けられていた。
浩介のセックスはいつも激しくて長くて苦しくて、気持ちが良い。
栞はいつもいつも、気が狂う寸前だった。
もう何度イかされたのか分からないが、浩介の方は二度目の射精だった。ゆるゆるとしつこく腰を振り、栞の中で白濁を塗りたくっている。かなり奥の方で出されたので、もしかしたら本当に…。
栞は思わず口の端に笑みが溢れた。と、栞の表情を興奮した様子で見つめていた浩介と目があってしまった。
「…なんだ、もう限界みたいなこと言っておきながらまだまだ余裕ありそうだね」
「…え?あっ、違うの、もう本当に無理」
「まあまあ、楽しもうよ」
ニヤリと悪魔の様に笑った男は、力の入らない栞を簡単にうつ伏せにさせると、いつの間にか回復していたぺニスを今抜いたばかりの場所へとまた埋め込んだ。所謂寝バックの体制になり、既にぐったりとしている彼女の背中に自らの大きな身体を密着させ、潰さない程度にのし掛かった。そうされてしまえば、栞は少しの抵抗さえも出来なくなってしまった。観念して肌触りの良いシーツをグッと握り締めれば、耳元で「くくっ」と笑う声がした。そうしてまたゆるゆると腰を使われていく。さっきまでと角度が変わったせいなのか、また中を探る様に腰をぐりぐりと押し付けられて回される。なるべく感じる場所を悟られない様に唇を噛み締めていると、背後から伸びてきた両手に乳房を揉まれて思わず仰け反った。マシュマロの様に柔らかなそれを形が変わる程に乱暴に揉み抜かれ、乳首を強く転がされると声が思わず力無く首を振り声を漏らしてしまった。瞬間を待っていたかのように激しく蜜園を突き上げられれば堪らなかった。
「あっ、はうっ、あっ、あっ、もう死ぬっ、はぁんっ!」
「セックスで死ぬかよ!お前は毎回それだな」
「死にますっ、ホントに、助けてっ!ああっ、いやぁっ、気持ち良いのもういやぁっ、あーっ!」
「はぁっ、やべー、栞ちゃんマジでセックスの時はドMだよね、最高だわ」
「ちがっ!ひうっ、ダメなとこ突いちゃいやぁっ!そこ、イくイくイくイくっ!」
「何回でもイけよ!まだまだ終わらせないからな、締めろおらっ!もっかいイけっ!」
「はーっ、はーっ、あぅっ、ひぃっ」
支配欲に溺れた男は、目の色を変えて涙して震える獲物を犯し続けた。気絶しそうになればその寸前で少し動きを緩めて息を整えさせてやり、また追い詰めた。泣き叫びながらセックスに感じ入っている姿に、脳の血管が切れてしまいそうな程興奮していた。
思い切り腰を振り続け三度目の限界が近付いた頃、まだ浩介の方は体力も精力も余裕があったが、栞の方はとっくに限界だろう。彼女にとってのこの時間が天国か地獄かは分からないが、そろそろ解放してやることにした。
栞の背にピタリと張り付いていて汗に濡れた身体を起こし、繋がったまま彼女の身体を横向きにしてその脚をぐいっと持ち上げた。
「ひぃっ、助けっ、ふかいっ、そんなとこもうやだっ」
「おっ、すげー奥まで入るなこれ」
「ううっ、そこいちばんやだっ!やだあっ!壊れちゃうよぉっ」
「うっせーよ、最後、一番奥に出すから子宮で飲めよ」
「はうっ、ああっ、入っちゃだめぇっ」
余程怖いのか、最後の力を振り絞り暴れる栞を押さえ付けて腰を進めた。子宮口だと思われるコリコリとした場所にゴッゴッと思い切り腰を打ち付けてやれば、栞は断末魔の様な悲鳴を上げて泣いた。
「っうあーっ!ああ、もうやだぁ、またイくっ、あぐっ、ぐぅっ、うんっ、ひうっ、ううっ、最後っ、イくっイくっ!」
「もうだめーーっ!イってください!お願いします」
「はんっ、あ、あ、あぁっ!あんっ、イっちゃう!」
「…っ、…ぅっ、はぅっ、ぁっ、ぁっ、イくっ」
栞はもう目を白黒させながら意識も朦朧としながらひたすら肉袋の如く喘いでいる。その腰はカクンっと勝手にヒクついていて彼女の意思では止まらない様だった。
「…はあっ。栞、そろそろ出すよ。溢したらもっかいヤるからな。全部子宮で飲めよ」
「…っ、はいっ、あぅっ、イくっ、ずっとイってるっ、死んじゃうっ」
「イけ、最後にイけっ!締めろ、出してやるおらっ!」
「ぁうっ、いやぁっ!イくぅっ!」
「くっ、出るっ!」
浩介は跡形もない程に散らされた蜜園の奥の奥まで入り込み、射精した。その最中もしつこく腰を振り続けてやれば、彼女は小さく浩介の名を呼びながら意識を落としていった。
※※※
「浩介さんは、暁斗をひき逃げした女性をご存知でしたよね」
「ん?ああ、名前だけね。もう逮捕されたんだよね?」
「まあそうですね…。えっと、じゃあなぜ彼女が暁斗を殺そうとしたのか理由は知らないんですか?」
「…殺そうとした?それってどういうこと?」
不穏な響きの言葉に思わず眉を寄せた。栞は一瞬苦いものを噛む様な顔をすると、すぐに口の端を上げて軽薄に笑った。そのまま浩介の腕の内側をするりと撫で上げ、人差し指でくるくると浩介の汗ばんだ肌を弄んだ。
「彼女も私も被害者なんですよ」
「…被害者?」
「谷口雅さんのお姉さんに会ったんです」
「…谷口雅って、確か犯人の名前だよな?その姉さんってこと?」
「そうです。私、浩介さんに谷口さんの名前を聞いてから、一人で色々と調べてたんです。犯人の家の近所とか会社の周りをうろついて話を聞こうとしたり。怒りに任せて、犯人はどんな奴なんだろうとか思って。そうしたら話し掛けたのがたまたま友人だという方だったから。その流れでお姉さんに連絡を取って頂いて、お話する機会を得たんです」
「…大丈夫だったのか?一人でそんな。相談してくれたら、代わりに行ってやったのに」
被害者の恋人と加害者の姉。そんな二人が顔を合わせて話すなんて、修羅場だっただろう。それ以上に、何故栞はそんなにも執拗に犯人の身辺について調べていたのだろうか。犯人は既に逮捕され、為すべき刑に処される事が確定しているというのに。
栞は殊更強く浩介に抱きついた。決して自分を離すなとでも言うように。
「浩介さんが想像しているような状況じゃなかったですよ。私、確認したかったんです」
「確認って?」
「…暁斗の奴、結婚詐欺をしてたの」
「…は?」
「谷口さんは暁斗の被害者。500万程渡してたんですって。ご両親は亡くなっていて、その遺産を暁斗に頼まれるまま貢いでしまったらしいです」
「はあ?なんだそれ!じゃあその子は金を取られた復讐の為に暁斗を轢いたのか?!」
「…取られたのがお金だけなら、まだ許したかも知れないって言っていたそうです」
「え?」
「谷口さんは妊娠していて、暁斗にそれを告げると堕胎を強要されたそうです。認知なんて絶対にしないって。お金もないし、仕方なく彼女はそれに従ってしまい、辛くて辛くてどうしようもなくなったらしくて」
「…なんだそれ。クズだな、暁斗って男は」
「ふふっ、無理矢理私をレイプしたあなただって、地獄行きのクズだけどね」
「…あのときは、本当にごめん」
栞はクスクスと笑いながら浩介にキスをねだった。栞の感情がまるで読めず、恐る恐るそれに応えた。小さな舌が積極的に動き回り、歯列を舐め上げてくる。これはもう一戦のお誘いなのか、それともただの戯れなのか、それすら読めない。栞という女は、出会った頃からずっと掴めない雲の用な存在だった。どれだけ激しく抱いても、いっそ遠のくばかりに思えた。
「っん、ちゅっ、あなたのキスもセックスも大好き。悩みも怒りも全部吹っ飛ぶくらい気持ち良いから」
「…そっか。それは良かった。栞ちゃんも暁斗にお金とか貢いでたの?」
「ううん。私はお金は渡してなかった。これから谷口さんの代わりになる予定だったのかもね」
「もう死んだとはいえ、ぶん殴りてぇな。暁斗の母親も、まさか息子がそうだとは思わなかっただろうに」
「…ああ、あの人も大概よ。私が暁斗の治療費として渡してたお金、実は充分過ぎる程余っていたらしいのだけれど、まったく返そうともしなかったから。着服してたのよ。仲良くなった病院の人がこっそり教えてくれたの。騙されてるかもってね」
「…はあ?なんだそれ!親子揃ってふざけんな!」
「あははっ、あれはあなたとセックスして貰ったお金だし私はもう良いのよ。まあ元が浩介さんのお金だから返して欲しいって言うなら好きにしてくれていいけど」
「…はあ。いや、俺はそんな金なんて今更要らんけど。栞ちゃんの好意を踏みにじりやがって、その母親も絶対に許さねえ」
「だーかーらー、レイプ犯が言わないでよ」
「本当にごめん。そのことについては一生許して貰えるとは思ってない」
栞は丸い目をぱちくりと瞬かせると、浩介の胸にぎゅっと抱きついて見上げてきた。
「ふふっ、一生側にいてくれるんですね?」
責める様な口調から打って変わり、少女の様にはにかんだ表情で小首をかしげる栞に、浩介は思わず息を飲んだ。まさか、栞からそんなプロポーズめいた事を言われる日が来るとは夢にも思わなかった。
「…何で急に俺にそんなこと言うの?」
「あれ、迷惑だった?」
「そんなわけないけど…。色んなことがあったし、栞ちゃんの精神的な部分が心配なんだ。その、鬱病とか本人は気付いてない場合も多いらしいし」
「確かに、本当の事を知った時はもう死のうと思いましたけどね。でも気付いたんです。私の周りの人たちはみんな自分勝手なことばかりして私を追い込むの。暁斗は最低な奴だったし、その母親も息子の回復が見込めないから自分の老後の為のお金を貯めたかったなんて言うし。貴方は自分の性欲の為に私をむちゃくちゃにしたし。だから、私にだって自分の幸せだけを追いかける権利はあるんじゃないかって」
「もちろん!どこにも幸せを望まない奴なんていないんだ。俺は栞ちゃんには誰よりも幸せになって欲しいよ」
「ふふ、嬉しい。だからね、浩介さん。貴方が私を幸せに欲しいの」
最後の言葉に、浩介の表情が一瞬強張ったのを栞は見逃さなかった。
最近旅館では浩介の母親である女将が、小さな声でお見合いだの顔合わせだのと電話で話しているの聞いた。それ故に栞は今日、浩介を誘った。この男が栞に好意を抱いているのは確かだと思うが、母親に歯向かってまで情を優先するのかは未知数だったからだ。浩介はきっと、栞の今までの態度からして自分との未来などまったく望んでいないと踏んでいたのだろう。栞も最初はそうだったが、今は状況が変わったのだ。せっかく目の前に美味しい餌がぶら下がっているのに、みすみす逃してやるつもりはもう無かった。
(もう一人で苦しむのは嫌。貴方の都合なんてどうだっていい。私を好きなら幸せにしてよ)
きっと浩介は悩んでいるのだろう。
栞への確かな恋慕と罪悪感、旅館の跡継ぎとして大切に育ててくれた母親への反抗を成し遂げられるか否か、それともやはり栞を上手く言いくるめられるかどうか。
いつものしつこい程の口説き文句はどこに行ったのか、言葉を詰まらせている浩介に、栞はいつも彼がするようにニヤリと笑うと最後のダメ押しを決行した。 彼の左胸の辺りをくるくると撫で上げ、仕上げに人差し指で強めに突いてやった。浩介は栞に見つめられ青くなったり赤くなったり表情も忙しない。
反対に栞の顔はまるで血など通っていないように白く、無表情だった。
「もし裏切るなら、あんたも殺すわよ」
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