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10. なんだかハッピーな気持ちだべな。ハッピーエンドだべ
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人気BLゲーム【侯爵家の秘め事】の様々なバッドエンドルートを回避した春男に柔らかな春風のような幸せが舞い込んでくる。
ついにゲーム内の進行はハッピーエンドに向かって動き出していた。
「マール。今日は君が戻ってきた記念のパーティーが盛大に開催される。君を心配していた近隣の貴族達も皆来てくれるそうだ」
「そうなんすか。そりゃあ美味いもんも盛り沢山なんだべか?」
「勿論食べ放題だ」
アーヴァインの食べ放題という言葉に嬉々とした表情を浮かべ春男はガッツポーズする。
「マールこれ以上肥えちまったら俺は自制出来なくなっちまうぜ」
困惑の表情を浮かべるカッツアに春男は苦笑する。
「……豚さん、ボク嫌いじゃないよ」
ボソッと呟くリバースに向けて春男は笑顔で言う。
「大丈夫っすよ。そんな一晩で肥えねぇっすから。んじゃ腹すかす為にちょっとお散歩してくるっす」
春男は腹をポンポンッと叩くとその場から立ち上がる。
「気を付けるんだぞ」
「うっす」
アーヴァインの声かけに春男は頷くと、お屋敷の外に出る。春男がこの世界にやってくる前に液晶画面で見たアーヴァイン家のお屋敷を、振り返り改めてまじまじと見つめる。
あちこちに飛び出した煙突、玄関の入り口から庭を挟んで正門まで伸びる橋。優雅に佇む女神の像。
春男は自分が住んでいた家賃19800円風呂なしアパートとは偉い違いだと痛感する。
春男はふと、違和感を感じる。自分がこの世界で過ごした時間や起こった出来事の数々を懐かしいと感じ始めてる事に気づく。
「なんだかハッピーな気持ちだべな。ハッピーエンドが近いっちゅう事だべか?」
モトグリフ一家が幸せそうにしていると春男も同じ様に幸せだと感じる。
モトグリフ一家の幸せは春男の幸せと直結している。春男はそうゆう性格だ、人が笑えば自分も笑いたくなる。
「こんなの本当の家族みたいだべ……」
全く知らない異世界で出会った眉目麗しいモトグリフ一家。モトグリフ一家と生活を共にしていく中で春男はモトグリフ一家に対して特別な感情が芽生えていた。
元々情が深い春男ではあるが、気づいたらモトグリフ一家は家族同然の存在に変わっていた。
嬉しい涙なのか、寂しい涙なのか解らないが、春男の頬を伝う涙はとても温かい。春男はいつか来るであろうモトグリフ一家との別れを想像し胸を締め付けられるような思いになる。
「でも、そろそろ帰らねぇと実家のかあちゃんが心配するべ」
春男は瓶底メガネを持ち上げて指先で目元を拭うと、モトグリフ一家が暮らすお屋敷に向かって歩を進めたのであった。
☆
「それでは我が愛する息子マール・モトグリフの帰館を祝して乾杯!」
乾杯! とダンスホールに歓声が響き渡る。
「バーバラさん良かったわねマールちゃんがご無事で」
「ワタクシ達夜も眠れないほど心配していたのよ」
「ご心配をお掛けしましたわ」
バーバラが頭を深々と下げご臨席された貴族マダムのお相手をする。
そこにハミルトンも駆けつけ
「心配をお掛けしましたね、シルヴェンさんにスターレンさん」
と貴族マダムに声をかける。ハミルトンが現れた事で小さな悲鳴を上げ二人は手を取り合う。
その様子に嫉妬した様子のバーバラがハミルトンに耳打ちする。
「あなた、無駄話は厳禁ですからね。ただでさえ人気があるんですから」
「はははっ、解ってるよ」
困ったような笑みを浮かべるハミルトンを見てバーバラは思う。
(この笑顔に結局何でも許してしまうのよね)
バーバラは一人頷きながら苦笑すると、愛息達に目を向ける。
机に並べられた豪華な食事にひたすらがっつく春男の姿を捉える。その周りにアーヴァイン、カッツア、リバースが腰を掛けている。どの愛息もバーバラにとってはかけがえのない宝物だ。
(いつまでも仲良しでいてね)
何やら4人は楽しそうに会話している。不穏だった家族に訪れた幸福な時間がいつまでも続くようにバーバラは心の中でお祈りする。
☆
「マールよマリーも来てくれたぞ」
骨付き肉を頬張りながら春男が振り返ると、悪役令嬢マリーが恥ずかしそうに頬を赤めながら
「マール君、無事お戻りになられた様で安心しましたわ」
心ここにあらずと言った感じで春男に言う。マリーは春男の顔はほとんど見ずに常にアーヴァインを見ている。
「マール、私はご臨席の方々に挨拶回りに行ってくるから食事を楽しんでいなさい」
「ア、アーヴァイン様ワタクシも付き添いますわ」
踵を返すアーヴァインを駆け足でマリーが追う。
「マリーの奴ほんっと兄貴のストーカーみたいだぜ」
冷ややかな視線を送るカッツアにリバースが続く。
「……マリーさんはアーヴァイン兄さんがホモだって知ってるのかな?」
「そりゃあ知らないだろ。兄貴、外じゃほとんど感情を出さないし、まさか……」
カッツアが春男に視線を向ける。まさかこんな食べてばかりいるぽっちゃり四男の事を溺愛しているとは世間は知らないだろう。
嬉々としてアーヴァインに寄り添って歩きながら笑顔で挨拶をするマリーの恋が実る事は残念ながらあり得ない。
だが、健気に振る舞うその姿を肉を口に放り込みながら春男は微笑ましい気持ちで見守る。
(あの、おパンツ好きな女の人にはこんな一面があるんだべな)
春男が一通り食事を終えるとダンスホールにムーディーな音楽が流れ始める。
「皆さんダンスタイムと相成りました。ペアになって自由に踊って下さい」
ハミルトンがダンディーな声でそう言うと、バーバラの手をとる。恥ずかしそうにバーバラがハミルトンの手を握り返す。
「あの、アーヴァイン様……ワタクシと」
「すまないマリー」
「ア、アーヴァイン様……」
マリーの差し出した手を握る事なく踵を返すと、アーヴァインは春男の元へと戻る。
「マールよ私と踊ってくれぬか?」
「もぐもぐ、ん、俺っすか?」
差し出された白くて美しいアーヴァインの手を、肉汁がベッタリとついた手で春男は握る。肉汁の事等気にする様子もなくアーヴァインは華麗な動きで春男をダンスに誘う。
春男は四股を踏む様な独特な足取りでアーヴァインとダンスをする。
優雅に踊るアーヴァインの邪魔をしている様にも見える動きの春男は意外にも嬉しそうだ。
お屋敷の外で盛大に花火が上がる。ダンスをしていた貴族達は動きを止めて花火に見とれる。
――無事ハッピーエンドを迎えました。侯爵家シリーズは次回作に向けて鋭意制作中ですお楽しみに!
場違いな機械音声がダンスホールに響き渡ると辺りが眩い光に包まれる。
「なんだっちゃべ!」
眩い光に目を細め驚く春男に向けて機械音声が告げる。
――無事ハッピーエンドを迎えたあなたに素晴らしいプレゼントを用意しております。お楽しみに!
ついにゲーム内の進行はハッピーエンドに向かって動き出していた。
「マール。今日は君が戻ってきた記念のパーティーが盛大に開催される。君を心配していた近隣の貴族達も皆来てくれるそうだ」
「そうなんすか。そりゃあ美味いもんも盛り沢山なんだべか?」
「勿論食べ放題だ」
アーヴァインの食べ放題という言葉に嬉々とした表情を浮かべ春男はガッツポーズする。
「マールこれ以上肥えちまったら俺は自制出来なくなっちまうぜ」
困惑の表情を浮かべるカッツアに春男は苦笑する。
「……豚さん、ボク嫌いじゃないよ」
ボソッと呟くリバースに向けて春男は笑顔で言う。
「大丈夫っすよ。そんな一晩で肥えねぇっすから。んじゃ腹すかす為にちょっとお散歩してくるっす」
春男は腹をポンポンッと叩くとその場から立ち上がる。
「気を付けるんだぞ」
「うっす」
アーヴァインの声かけに春男は頷くと、お屋敷の外に出る。春男がこの世界にやってくる前に液晶画面で見たアーヴァイン家のお屋敷を、振り返り改めてまじまじと見つめる。
あちこちに飛び出した煙突、玄関の入り口から庭を挟んで正門まで伸びる橋。優雅に佇む女神の像。
春男は自分が住んでいた家賃19800円風呂なしアパートとは偉い違いだと痛感する。
春男はふと、違和感を感じる。自分がこの世界で過ごした時間や起こった出来事の数々を懐かしいと感じ始めてる事に気づく。
「なんだかハッピーな気持ちだべな。ハッピーエンドが近いっちゅう事だべか?」
モトグリフ一家が幸せそうにしていると春男も同じ様に幸せだと感じる。
モトグリフ一家の幸せは春男の幸せと直結している。春男はそうゆう性格だ、人が笑えば自分も笑いたくなる。
「こんなの本当の家族みたいだべ……」
全く知らない異世界で出会った眉目麗しいモトグリフ一家。モトグリフ一家と生活を共にしていく中で春男はモトグリフ一家に対して特別な感情が芽生えていた。
元々情が深い春男ではあるが、気づいたらモトグリフ一家は家族同然の存在に変わっていた。
嬉しい涙なのか、寂しい涙なのか解らないが、春男の頬を伝う涙はとても温かい。春男はいつか来るであろうモトグリフ一家との別れを想像し胸を締め付けられるような思いになる。
「でも、そろそろ帰らねぇと実家のかあちゃんが心配するべ」
春男は瓶底メガネを持ち上げて指先で目元を拭うと、モトグリフ一家が暮らすお屋敷に向かって歩を進めたのであった。
☆
「それでは我が愛する息子マール・モトグリフの帰館を祝して乾杯!」
乾杯! とダンスホールに歓声が響き渡る。
「バーバラさん良かったわねマールちゃんがご無事で」
「ワタクシ達夜も眠れないほど心配していたのよ」
「ご心配をお掛けしましたわ」
バーバラが頭を深々と下げご臨席された貴族マダムのお相手をする。
そこにハミルトンも駆けつけ
「心配をお掛けしましたね、シルヴェンさんにスターレンさん」
と貴族マダムに声をかける。ハミルトンが現れた事で小さな悲鳴を上げ二人は手を取り合う。
その様子に嫉妬した様子のバーバラがハミルトンに耳打ちする。
「あなた、無駄話は厳禁ですからね。ただでさえ人気があるんですから」
「はははっ、解ってるよ」
困ったような笑みを浮かべるハミルトンを見てバーバラは思う。
(この笑顔に結局何でも許してしまうのよね)
バーバラは一人頷きながら苦笑すると、愛息達に目を向ける。
机に並べられた豪華な食事にひたすらがっつく春男の姿を捉える。その周りにアーヴァイン、カッツア、リバースが腰を掛けている。どの愛息もバーバラにとってはかけがえのない宝物だ。
(いつまでも仲良しでいてね)
何やら4人は楽しそうに会話している。不穏だった家族に訪れた幸福な時間がいつまでも続くようにバーバラは心の中でお祈りする。
☆
「マールよマリーも来てくれたぞ」
骨付き肉を頬張りながら春男が振り返ると、悪役令嬢マリーが恥ずかしそうに頬を赤めながら
「マール君、無事お戻りになられた様で安心しましたわ」
心ここにあらずと言った感じで春男に言う。マリーは春男の顔はほとんど見ずに常にアーヴァインを見ている。
「マール、私はご臨席の方々に挨拶回りに行ってくるから食事を楽しんでいなさい」
「ア、アーヴァイン様ワタクシも付き添いますわ」
踵を返すアーヴァインを駆け足でマリーが追う。
「マリーの奴ほんっと兄貴のストーカーみたいだぜ」
冷ややかな視線を送るカッツアにリバースが続く。
「……マリーさんはアーヴァイン兄さんがホモだって知ってるのかな?」
「そりゃあ知らないだろ。兄貴、外じゃほとんど感情を出さないし、まさか……」
カッツアが春男に視線を向ける。まさかこんな食べてばかりいるぽっちゃり四男の事を溺愛しているとは世間は知らないだろう。
嬉々としてアーヴァインに寄り添って歩きながら笑顔で挨拶をするマリーの恋が実る事は残念ながらあり得ない。
だが、健気に振る舞うその姿を肉を口に放り込みながら春男は微笑ましい気持ちで見守る。
(あの、おパンツ好きな女の人にはこんな一面があるんだべな)
春男が一通り食事を終えるとダンスホールにムーディーな音楽が流れ始める。
「皆さんダンスタイムと相成りました。ペアになって自由に踊って下さい」
ハミルトンがダンディーな声でそう言うと、バーバラの手をとる。恥ずかしそうにバーバラがハミルトンの手を握り返す。
「あの、アーヴァイン様……ワタクシと」
「すまないマリー」
「ア、アーヴァイン様……」
マリーの差し出した手を握る事なく踵を返すと、アーヴァインは春男の元へと戻る。
「マールよ私と踊ってくれぬか?」
「もぐもぐ、ん、俺っすか?」
差し出された白くて美しいアーヴァインの手を、肉汁がベッタリとついた手で春男は握る。肉汁の事等気にする様子もなくアーヴァインは華麗な動きで春男をダンスに誘う。
春男は四股を踏む様な独特な足取りでアーヴァインとダンスをする。
優雅に踊るアーヴァインの邪魔をしている様にも見える動きの春男は意外にも嬉しそうだ。
お屋敷の外で盛大に花火が上がる。ダンスをしていた貴族達は動きを止めて花火に見とれる。
――無事ハッピーエンドを迎えました。侯爵家シリーズは次回作に向けて鋭意制作中ですお楽しみに!
場違いな機械音声がダンスホールに響き渡ると辺りが眩い光に包まれる。
「なんだっちゃべ!」
眩い光に目を細め驚く春男に向けて機械音声が告げる。
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